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【従業員の勤労意欲を高めるために】第900回:中小企業の両利き経営(3)変化の激しい環境では探索が好まれる

第900回:中小企業の両利き経営(3)変化の激しい環境では探索が好まれる

 

前回は、両利きが状況依存的であり、両利きが常に最適な戦略であると主張することはもはや不可能であるというお話でした。大企業と比較すると、中小企業は人的資本や財務資本などの適切な調整メカニズムやリソースを欠いていることが多いといわれています。そのため、両利きのイノベーションが持つ潜在的リスクを考慮し、中小企業はしばしば、深化(或いは漸進的イノベーション)と探索(或いは急進的イノベーション)のどちらかを選択しなければなりません。

深化は、一般的に企業の生産性と効率性を向上させます。しかし、深化の成功は企業が制御できる能力、資産、またはリソースの利用可能性に依存するため、企業が持てる技術力と市場力をすべて使用したとしても、深化の成功には限界があります。一方、探索は、急速に変化するビジネス環境において、企業が長期的な視点で変化に適応するのに役立ちます。これは、新しい市場と技術力を継続的に発見することにつながる探索が、企業が独自の知識ベースの再編成や、新製品の開発、ニッチでの競争優位性の獲得などにおいて非常に効果的であるためです。

探索の深化に対する優位性を示す実証研究には一定の蓄積があります。ドイツのエンジニアリング産業の中規模企業150社を対象とした研究では、生き残りのための競争優位性を獲得するために、新しい知識、製品、サービスを生み出す探索を深化よりも優先する必要があることが示されました。この結果は、激しい競争条件のもとで、活発な研究開発、競争力を維持するためのイノベーションを特徴とするドイツのエンジニアリング産業の状況を反映している可能性があります。関連して、英国の若いBtoBテクノロジー企業180社を対象とした研究では、主要顧客への依存は、製品開発意欲を減退させるなど、企業の存続に大きなマイナスの影響を与えることが示されました。同様に、競争が激しいことで知られるスペインのアグリビジネス中小企業150社を対象とした研究では、探索的イノベーションは深化的イノベーションに比べて市場と財務パフォーマンスにより強い影響を与えることが明らかになりました。

こうした研究は、競争や変化の激しい業界において、深化よりも探索を戦略の中心に据えることの合理性を示すものです。しかし、多くの中小企業はなぜか深化を好みます。次回、その原因を考えてみましょう。

 

Kokubun, K. (2025). Digitalization, Open Innovation, Ambidexterity, and Green Innovation in Small and Medium-Sized Enterprises: A Narrative Review and New Perspectives. Preprints. https://doi.org/10.20944/preprints202504.0009.v1

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)
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