第930回:良い会社でも、不満はなくならない
前回は、同じ性格でも、どんな仕事をしているかによって、その意味が変わる可能性について紹介しました。今回は、従業員が会社に抱く「不満」について考えてみます。
従業員の不満が多い会社は、問題のある会社なのでしょうか。
普通はそう考えがちです。給与や待遇への不満が少なく、会社への愛着が強いほど、良い職場だと評価されます。
しかし、働きやすい会社になれば、従業員の不満はなくなるのでしょうか。
この疑問を調べるため、拙稿では中国にある日系製造業の現地法人を対象に、2021年、2023年、2025年の3回にわたって実施した従業員調査を分析しました。回答者は延べ284人です。
この会社では、心理的安全性と組織コミットメントが比較的高い水準にありました。心理的安全性とは、自分の意見を安心して言えること、組織コミットメントとは、会社への愛着や帰属意識のことです。
ところが、従業員の自由記述には、さまざまな不満や要望が書かれていました。
2021年には、給与が物価上昇に追いつかない、昇給が少ない、人手が足りないといった声が目立ちました。
2023年には、待遇面の不満に加え、従業員の提案を経営陣が十分に聞いていない、報奨制度が公平でないといった指摘が見られました。
2025年には、給与や職場環境への要望が続く一方、従業員同士の交流を増やしたい、会社の業績と賞与を連動させたいといった意見も見られました。
つまり、待遇への不満が消えて、別の要望に置き換わったわけではありません。給与や労働条件への不満は残りながら、職場の人間関係、経営への参加、会社の将来など、関心の対象が広がっていたのです。
もちろん、これは一社の事例なので、心理的安全性が高まったから意見が多様化したとは断定できません。
それでも、人材管理について一つの示唆があります。
従業員から不満が出ることは、必ずしも会社が悪くなっていることを意味しません。安心して意見を言えるからこそ、それまで表に出なかった問題が見えてくる可能性もあります。
不満がどれだけあるかだけでなく、何に不満を感じているのか。
従業員の声を評価するときには、その「内容」に目を向けることが大切なのではないでしょうか。
論文情報は以下。末尾のURLから概要をご覧いただけます。
Kokubun, K., Ino, Y., Shibahara, N., & Ishimura, K. (2026). When good organizations still face employee concerns: Psychological safety and the content of employee concerns in a Japanese subsidiary in China. Asia Pacific Business Review.
https://doi.org/10.1080/13602381.2026.2754528
| 國分圭介(こくぶん・けいすけ) 京都大学経営管理大学院特定准教授、 |

