【総点検・マレーシア経済】第533回 マレーシアの2025年第3四半期GDPの事前予測値は5.2%、予想を大幅に上回る。なぜ?

第533回 マレーシアの2025年第3四半期GDPの事前予測値は5.2%、予想を大幅に上回る。なぜ?

 

10月17日、統計局はマレーシアの2025年第3四半期GDPの事前予測値を5.2%と発表しました。これは、第2四半期の4.4%から大幅な上昇で、ブルームバーグは「最も強気な予想よりも良かった」と伝えました。筆者も第3四半期のGDPは意外に底堅く、4.6%程度までは持ち直す可能性があると考えていましたが、5%を超えるような成長は予想外でした。

筆者が持ち直しを予想していたのは、卸売・小売数量指数が底堅く推移していたのと製造業生産指数も横ばいのなかで、8月の鉱業生産指数が大幅に上昇したために、これによる上振れがあると考えていたためです。ところが、蓋を開けてみると予想していたよりもずっと大幅な上昇になりました。なぜでしょうか。

図はマレーシアの2025年第2四半期と第3四半期の経済成長率を産業別の寄与度に分解したものです。両期間とも、サービス業が3%程度、製造業が1%程度、建設業が0.5%程度の成長を担っています。それに農業を足してみると、第2四半期は4.7%成長、第3四半期は4.6%成長という数字が出てきます。

問題は鉱業で、実は鉱業はマレーシアのGDPのうち今でも5〜6%を占めています。第2四半期は鉱業が5.2%減となったため、GDP全体を0.3%押し下げていました。これが、第3四半期は鉱業が10.9%の上昇に転じたため、計算するとGDP全体を0.6%も押し上げていたのです。つまり、鉱業がマレーシアのGDP全体に与える影響をきちんと計算していれば、今回の5%を超える成長率も予想できたことになります。

それでは、なぜ鉱業のGDPが第2四半期は5.2%減、第3四半期は10.9%増と極端に振れたのでしょうか。バンクネガラの第2四半期のGDPについてのコメントを見ると、鉱業の落ち込みは「計画されたメンテナンス(planned maintenance)」のため、とされています。

調べてみると、ビンツルのLNGプラントが4月30日から5月29日まで計画的なメンテナンスのための操業停止を行っています。実際、これを反映するかたちで5月の鉱業生産指数は前年同月比で10.2%減となっています。第3四半期については、このメンテナンスが終了したため、バックオーダーを解消するために増産を行ったと推測され、その影響でGDPが大幅増になったものと推測します。

ということで、5%台のGDP成長率は(まだ仮ですが)よく調べれば分かったことで、これを誰も予想できなかったということは、自分も含めていかにきちんと数字を見ていないか、ということで反省が必要です。

 

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

【イスラム金融の基礎知識】第579回 イスラム式クラウドファンディングの可能性

第579回 イスラム式クラウドファンディングの可能性

Q: マレーシアでイスラム式クラウドファンディングが普及するためには?

A: 企業や個人が資金調達を行う手段であるクラウドファンディングの普及が進んでいるが、中にはイスラム式を謳うプラットフォームも存在する。イスラム式とは、「モスクの建設費用を集める」など目的がイスラムに適うとともに、調達した資金をイジャーラ(リース)方式で運用して出資者に分配するなど手段がイスラムに則ったものを指す。このようなイスラム式クラウドファンディングは、マレーシアではどのように発展していくかについて、2024年に研究論文が発表された。

トレンガヌ州のスルタン・ザイナル・アビディン大学のムハンマド・シャフルル・イフワート・イシャク准教授らの研究チームは、クラウドファンディングやイスラム銀行等で働く7名の実務家・専門家に対して聞き取り調査を行い、マレーシアにおけるイスラム銀行とクラウドファンドの発展を探った。調査結果から明らかになったことは、調査対象者がイスラム式クラウドファンディングを通じて多くの資金がイスラム金融市場に流入していると認識している、という点だ。また、両者は競合関係になるとはみておらず、むしろ補完関係だとみなしている。

根拠としては、クラウドファンディングを利用するスタートアップ企業や中小企業の中は、イスラム銀行から融資を受けられなかった事例が多いため、クラウドファンディングとイスラム銀行が借り手を奪い合ってはいないとしている。また、クラウドファンディング自体がイスラム銀行を利用していることから、足りないものを互いに補いあっているといえる。

クラウドファンディングの課題は、銀行融資ならば必須の企業へのモニタリングや、イスラム法によるガバナンスが徹底されていない恐れがあるため、この点をどう強化するかが、クラウドファンディングへの信頼に繋がると、専門家らは見ている。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

プロトンが「e.MAS5」を発表、価格は初の10万リンギ以下

【クアラルンプール】 プロトン・ホールディングスは30日、電気自動車(EV)販売子会社、プロトン・ニューエナジー・テクノロジー(プロネット)を通じて同社2車種目となるEV、「e.MAS5」を正式発表した。価格は5万6,800リンギからで、マレーシアで初めて10万リンギを切る廉価EVとなる。

資本関係にある中国・吉利自動車の「星愿」(世界市場での名称はEX2)をベースとしたコンパクトEVで、最初のロットは中国から輸入されるが、今後はペラ州タンジョン・マリムにあるプロトンのEV工場で現地組立(CKD)される予定だ。

バリエーションは「プライム」と「プレミアム」の2種で、公式価格はそれぞれ事前予想を大きく下回る5万6,800リンギ、7万2,800リンギに設定。さらに発売記念として各車3,000リンギの割引を適用する。6年間走行距離無制限の車両保証と、8年間/16万kmの高電圧バッテリーおよびコンポーネント保証が付く。

上位車種の「プレミアム」は40.16kWhのLFPバッテリーと出力85kW、最大トルク150Nmを発生するモーターを搭載。プレミアムモデルは、WLTP基準で325kmの航続距離を実現した。

「プライム」は30.12kWhのLFPバッテリーと出力58kW、最大トルク130Nmを発生するモーターを搭載。バッテリー容量は小さく、航続距離はWLTP基準で225kmにとどまっている。

ボディカラーは、▽マーブルクリーム▽クォーツローズ▽ムーンストーンホワイト▽グラファイトシルバー▽スレートグレー――の5色。マーブルクリームとクォーツローズは「プレミアム」限定で、インテリアはアラバスターホワイトとなる。その他の3色のインテリアカラーはフリントグレーとなる。
(ポールタン、ジグホイールズ、ソヤチンチャウ、10月30日)

富士フイルム、健診センター新拠点をマレーシアなど4カ国に開設へ

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 富士フイルム(本社・東京都港区)は30日、クアラルンプール(KL)、ホーチミン(ベトナム)、バンコク(タイ)、マニラ(フィリピン)の東南アジア4都市にがん検診を中心とした健診センター「NURA(ニューラ)」の新拠点を開設すると発表した。

ベトナム新拠点は11月3日のオープンが決まっており、マレーシア、タイ、フィリピンの新拠点は富士フイルムの直営で、2025年度内の開設を予定している。

ホーチミンの新拠点は、昨年7月に開設したハノイ拠点に続くベトナムにおける2拠点目で、ベトナムで医療機関「T-マツオカ・メディカル・センター」を展開するベトナム・ジャパン・ヘルス・テクノロジー(VJH)が運営する。

富士フイルムは、2021年にインドのベンガルルに健診センター「NURA」を開設し、新興国での健診サービス事業を開始。「NURA」や、「NURA」のノウハウを取り入れた健診センターはその後、モンゴル、ベトナム、アラブ首長国連邦にも開設している。

健診センターでは、富士フイルムが持つCTスキャン・マンモグラフィなどの医療機器や医師の診断を支援するAI技術を活用して、すべての検査と医師による健診結果のフィードバックが、約120分という短時間で完了する点や、フィードバックの際に、医師から健診結果に関する説明を診断画像を見ながら分かりやすく受けられる点などが好評を得ているという。

メイバンクのモバイル銀行アプリが5周年、取引額は4兆リンギ

【クアラルンプール】 国内銀行最大手のマラヤン・バンキング(メイバンク)は29日、モバイルバンキングのアプリ「MAE app」5周年を記念した記者会見で、5年間でマレーシアの国内総生産(GDP)の2倍に当たる4兆リンギ余りの取引があったと発表した。今後もデジタル取引の拡大を国内外で推進する。

MAEのユーザー数は1,070万人、モバイルバンキングの取扱額の48%を占めており、銀行間決済ネットワークのペイネットを通じた取引で、件数、額とも国内首位。

MAEは多様な用途に利用可能で、地域社会金融サービス担当最高経営責任者(CEO)のタウフィク・アルバル氏は「アプリをライフスタイル全般にわたる金融アプリに育て、ユーザーのニーズに対応してきた」と述べた。

ウォレットの残高上限は来年から2万リンギに引き上げる。上限引き上げを求める声に応じたもので、特に旅行先でのアプリ利用が増加していることに対応する。

QR決済の海外展開では、インド、韓国、中国でも利用できるようにする。
(ニュー・ストレーツ・タイムズ電子版、10月29日)

サラワク州大臣、スマート農業推進で日本の先進農場を視察

【クチン】 サラワク州政府のステフェン・ルンディ食品一次産業・地域開発相らはこのほど、イオングループの農業法人イオンアグリ創造(本社・千葉市美浜区)が運営する埼玉県久喜市の農場を視察。日本の先進的なスマート農業技術を参考に、地域の農業変革を強化していく方針だ。

今回の視察は、2030年までに近代的な農業産業を開発するという州の目標に基づく調査ミッションの一環として実施された。久喜農場(3.3ヘクタール)では「プロバイオポニック」という有機水耕栽培法で、トマトを栽培。収穫量年間約990トンという高い生産性を目指した取り組みが行われている。

ルンディ氏は「今日の農業は、伝統だけではなく、データや科学に基づいている。今回の視察は食料安全保障と持続可能性をどのように両立できるかを具体的に示すものだった」と発言。州の熱帯気候に適したバイオベースのイノベーションの促進に向け、日本の機関や企業との協力の可能性を探っていくとした。

イオンアグリ創造は2009年に設立され、日本全国で20以上の農場を展開。新鮮な農産物を全国のイオンスーパーマーケットに直接供給している。
(ボルネオポスト、10月29日)

イオン、シャアラム店をリニューアルオープン

【クアラルンプール】 セランゴール州の「イオンモール・シャアラム」内の総合スーパー、イオン・シャアラム店が28日、リニューアルオープンした。フードコーナーの充実や、モール全体で使えるスマートカートの導入など、利便性の向上と顧客体験の強化を図った。

同店は2016年に開業。今回、デリカデッセンコーナーを拡張し、さらに12の新しいフードコンセプトカウンターを設置した。また、衣類などを含めプライベートブランド「トップバリュ」の商品が拡充された。

スマートカートは、商品のバーコードをスキャンしながら買い物を進めることができ、モール全体で使用可能。合わせて、セルフレジが増設されたほか、店内を歩き回らずに効率的に買い物できる「Grab N Go」コーナーなども導入された。
また同時に、モール内に3店舗が新たにオープンした。
(マレーシアン・リザーブ、10月29日)

豪モナシュ大マレーシア校、TRXに32年に新キャンパスを開校

【クアラルンプール】 豪モナシュ大学マレーシア校は28日、クアラルンプールの国際金融地区「トゥン・ラザク・エクスチェンジ(TRX)」に新キャンパスを建設すると発表した。2032年開校予定で、投資額は28億リンギと見込まれている。

TRXキャンパスは、既存のキャンパスを補完するもので、最大2万2,500人の学生と1,700人の教職員を収容できる規模になる。データサイエンス、人工知能(AI)、エネルギー転換、ヘルスケアに重点を置いた研究センターが設置されるほか、半導体など先端製造や金融など35以上のコースが導入される計画だ。

大学は、TRX開発を手掛けるTRXシティと提携を進めているほか、マレーシア政府およびオーストラリア政府も協力。新キャンパス開発は大学にとって過去最大規模の投資で、さらに今後10年間でマレーシア経済に191億リンギの経済効果をもたらすとしている。今回、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に出席したオーストラリアのアルバニージー首相の来馬に合わせて計画が発表され、アルバニージー首相は「オーストラリアが誇る世界最高水準の高等教育を海外に展開することは、オーストラリアの雇用と投資にとって大きなチャンスだ」とした。

モナシュ大学マレーシア校は1998年、セランゴール州のサンウェイ・カレッジと施設を共有する形で、学生数417人で開校。その後、キャンパスの独立を経て、現在はASEANを中心に80カ国以上から1万1,000人を超える学生が在籍している。世界大学ランキングでトップ40にランクインしている。
(ニュー・ストレーツ・タイムズ、マレー・メイル、エッジ、10月28日)

高市首相の日本人墓地訪問、誤解した一部から批判の声

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に合わせて訪馬した高市早苗首相が26日にクアラルンプール(KL)日本人墓地と国立記念碑の訪問をソーシャルメディアに投稿したことについて、その内容を誤解した一部のマレーシア人から批判の声が上がった。

高市首相はXに「本日、クアラルンプール日本人墓地を訪問し、慰霊碑に献花しました。マレーシアで命を落とした先人を慰霊することができ、感慨深く思います。これに続けて、二度の大戦やマレーシアの独立闘争で亡くなられた兵士と市民の霊を慰める国家記念碑も訪問し、マレーシアの歴史に思いを馳せました」と投稿した。

一部の大手メディア(マレー・メイル、星洲日報、中国報)は高市氏が訪問した事実のみを淡々と伝えており、批判の論調はみられない。しかしソーシャルメディア上では、日本人墓地を「神社」や「日本軍兵士のための墓地」と誤認して、「旧日本軍を賛美している」、「歴史認識が誤っている」などを指摘する書き込みが一部で散見される。代表的なものは「フェンディ氏」名義のXの投稿で、「マレーシア人としてこの投稿に怒るべきだ」と投稿。閲覧数はすでに100万回を超えている。

高市氏の投稿を批判するネット投稿があることについては、主に華字紙が中心になって取り上げており、親中的な論調の「東方日報」は、「高市氏の投稿に日本軍の行為に対する謝罪がなかった」との観点から、「日本が戦時中に犯した残虐行為については全く触れないのか?相変わらず偽善者だ」といった批判投稿を紹介している。

中国のポータル「網易」は、「丹徒生」氏の名義の記事で「高市早苗氏はマレーシアを訪れ、戦争で亡くなった日本兵に厚かましくも追悼の意を表した。本当に腹が立つ」などと事実誤認の内容を投稿し、さらに「マレーシアがこれを容認しているのが腹立たしい」とマレーシア政府まで批判した。

一方、ソーシャルメディア上では「高市氏の投稿はどう読んでも怒る内容ではない」、「高市氏はちゃんと国家記念碑にも訪れているじゃないか」、「過去の日本政府首脳も日本人墓地を訪問している」などと擁護する声も多く上がっており、「フェンディ氏」自身もその後、日本人に向け「怒らないでください。私もマレーシア人も日本も日本人も好き」と釈明のような投稿を行っている。

アスエネ、マレーシアゴム評議会と脱炭素連携で覚書

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 アスエネ(本社・東京都港区)は、17日にクアラルンプールで開催された「第3回アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)閣僚会合」で、同社シンガポール法人のアスエネAPACとマレーシア・ゴム評議会が脱炭素連携に関する覚書(MOU)を締結したと発表した。

企業や自治体を対象にCO2排出量に関する報告を支援するアスエネのクラウドサービス「ASUENE」を使って、マレーシア政府の管轄下にある公的機関と共に、主要輸出産業であるゴム分野のサプライチェーン全体で、CO2排出量の見える化と削減を推進する官民協働に取り組み、マレーシアにおけるゴム関連企業の気候変動対策とサステナブル経営の両立を推進していく。

アスエネは今後も、AZECをはじめとする国際的な枠組みを通じて、アジア各国の政府・企業・団体と連携し、地域全体の脱炭素化に向けた実効性あるビジネス連携モデルを構築していくとしている。