【総点検・マレーシア経済】第536回 米マレーシア貿易協定解説(3)

第536回 米マレーシア貿易協定解説(3)

10月26日、ASEAN首脳会議に合わせてマレーシアを訪問したトランプ大統領とアンワル首相の間で「米国・マレーシア相互貿易協定(Agreement between the United States of America and Malaysia on Reciprocal Trade)」が締結されました。

この協定の中で批判の矛先となっている米国の経済安全保障へのマレーシア側の協力義務の中で目を引くのは、第5.3条3項に書かれている内容です。マレーシアが「米国の本質的利益を危うくする」相手国と新たな自由貿易協定または優遇経済協定を締結した場合、米国側は本協定を打ち切り、かつ米国が定めた相互関税を課す権利を持つというものです。

例えば、マレーシアがイランとFTAを締結しようとした場合、米国がイランを「米国の本質的利益を危うくする」相手と判断すれば、米馬貿易協定は打ち切りにできることを意味します。これは、マレーシアが自由貿易協定を結べる相手国を米国が実質的に制限できることを意味します。

ただ、この条文にもマレーシア側が交渉過程で書き込んだと思われる単語があります。「もしマレーシアが、米国の本質的利益を危うくする国と、新たな二国間の自由貿易協定または優遇的経済協定を締結した場合(If Malaysia enters into a new bilateral free trade agreement or preferential economic agreement with a country that jeopardises essential U.S. interests)」とありますが、「自由貿易協定」の前に「新たな二国間の(new and bilateral)」という限定がついているのです。これにより、既存のFTAの更新(newではない)や多国間協定(bilateralではない)は米国の干渉の対象にならないことになります。

実際、この協定が結ばれた直後の10月28日、クアラルンプールで「ASEAN・中国FTA3.0」への署名が行われました。この協定は既存かつ多国間の協定であるため、この条文の対象外となります。

ザフルル大臣は、米馬貿易協定についての様々な批判に対して、当初の草案は「さらに悪かった(worse)」と明かしています。マレーシア側が交渉過程で条文に細かな制約を付けて精一杯抵抗したと筆者は想像します。ただし、こうした条文上の努力が実施に問題となった際にトランプ政権に通用するかは疑問が残ります。

 

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

 

 

【イスラム金融の基礎知識】第582回 バンク・イスラム、サラワク州にザカートを寄付

第582回 バンク・イスラム、サラワク州にザカートを寄付

Q: バンク・イスラムがサラワク州のイスラム団体に寄付したそうですが?

A: マレーシアの現地報道によれば、バンク・イスラム(BIMB)は11月、同社幹部がサラバク州のザカート管理団体であるタブン・バイトゥルマール・サラワクを訪れ、2024年分のザカートとして91.5万リンギを寄付したことを明らかにした。贈呈式には州首相も来場し、小切手型を模した大きなボードが手渡された。

BIMBの2024年の年次報告書によると、2024年の業務によって生じた利益や保有資産などに基づいて算出された同行負担のザカートは1,140万リンギであった。このうち今回サラワク州に寄付された91.5万リンギは、ザカード全体の8.3%に相当する。各州のザカート管理団体にそれぞれいくらずつ寄付したか、詳細は必ずしも毎回詳らかにされていないため、今回の報道は詳細の一端が明らかになったといえる。割合で言えば、BIMBが有する135支店のうち、サラワク州には6支店しか存在せず、全体の4.4%に過ぎない。ここから、ザカートに占めるサラワク州への割合は、支店の同割合よりも高かったことになる。

サラワク州は、人口およそ250万人であるが、ムスリムはほぼ3分の1にとどまっている。他方、最大多数派は人口の半分を占めるのはキリスト教徒で、これはマレーシア全体とは異なる宗教別人口比率となっている。ただ、他の州と同様、宗教委員会などイスラムを管轄する組織・団体は州政府内にあり、ザカート徴収団体であるタブン・バイトゥルマール・サラワクもその一つである。2024年は、企業や個人等から1億4,300万リンギのザカートを徴収、うち1億1,200万リンギを貧困層への分配に用いた。

今回受け付けたBIMBの寄付金について、サラワク州側は同州のムスリム・コミュニティの社会経済的発展を支援するために用いるとしている。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

V3D Asia、KLで3Dプリンター建築による共同開発実施

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 3D建設プリンターおよび関連材料の開発・提供、3D建設サービスを手掛けるV3D Asia(本社・東京都千代田区)は、マレーシア子会社を設立し、クアラルンプール(KL)近郊チェラス地区で3Dプリンター建築による共同開発プロジェクトを実施すると発表した。

敷地面積1.16エーカー(約5,000平方メートル)に3Dプリンターで建設された住宅や共用施設を備えた「ゲーテッドコミュニティ」を開発するというもので、タウンハウス・バンガロー(大型邸宅)計16棟(タウンハウス10棟、バンガロー6棟)やクラブハウス、プール、セキュリティゲートなどの共用施設などを建設する。東南アジアにおける商業ベースの3Dプリンター住宅開発としては最大級の事例となる見込みだという。

マレーシアでの不動産開発事業推進の拠点として現地子会社Nuvahを設立する。今回のプロジェクトは実証実験ではなく、実際に居住・販売可能な「商業ベース」での大規模な3Dプリンター住宅開発となる。これを機にマレーシア国内および東南アジア全域における3Dプリント建築の普及を加速させる。

V3D Asia独自開発の3D建設プリンターと特殊添加剤技術を用い、現地の安価なコンクリート材料に添加剤を配合することで低コストかつ短工期な建築ソリューションを提供する。

マツキヨのマレーシア1号店がJBに開業、アジア進出加速へ

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 マツキヨココカラ&カンパニー(本社・東京都文京区)は11日、ジョホール州ジョホールバル(JB)の大型商業施設「トッペン・ショッピングセンター」に、ドラッグストア「マツモトキヨシ」のマレーシア1号店を開設した。

新店はモールのレベル1に位置し、店舗面積は332平方メートル。トレードマークの黒色と黄色の配色が目立つ店舗展開になっている。日本で人気の化粧品や市販薬、プライベートブランド(PB)商品などを取り揃える。営業時間は10―22時。

同社の海外出店は6カ国・地域目。「東南アジアにおける経済・文化の要衝であるマレーシアへの出店は、ブランドの認知度を飛躍的に高める極めて重要な戦略的意義を持つ」と位置づけている。2015年のタイ出店以来9月末現在で、海外では88店舗を展開している。

同社は今年5月に発表した中期経営計画で、海外事業を強化し、2031年3月期に海外売上高1,000億円という目標を掲げている。今後、シンガポールなどへの出店も計画しており、「アジアNo.1」を目指し、アジア圏を中心としたグローバル戦略を加速させていくという。

Uモバイル、屋内5Gネットワーク強化でIGBと提携

【クアラルンプール】 通信事業者のUモバイルは10日、不動産開発のIGBと屋内通信網(IBC)に関するパートナーシップの締結を発表。IGBが展開するショッピングモールなど20施設で、次世代高速通信規格「5G」のネットワークを整備し、シームレスで高速なモバイル接続を図る。

対象施設は、クアラルンプール(KL)のミッドバレー・メガモール、ザ・ガーデンズ・モール、ジョホール州ジョホールバル(JB)のミッドバレー・サウスキー、「セント・ジャイルズ」系列のホテル、オフィスビルなど20施設。

5Gは高速通信が可能な一方、障害物に弱く、屋内では速度低下や接続の不安定化が起こりやすいという課題がある。今回の提携はこれを解消するためのもので、Uモバイルだけでなく、他の通信事業者も利用可能な設備を導入する。

Uモバイルのケネス・チャン副最高経営責任者(CEO)は「他の通信事業者にも5G屋内カバレッジを提供し、今後数カ月の間にパートナーシップをさらに推進していく」と述べた。
(ベルナマ通信、12月10日、Uモバイル発表資料)

補助金なし「RON95」を2.64リンギに引き下げ、12月11日から

【クアラルンプール】 財務省は11日、2025年12月11日から12月17日までの1週間の燃料小売価格を発表。レギュラーガソリン「RON95」の補助金なし価格を、1リットル当たり2.66リンギから2セン引き下げ2.64リンギにすると明らかにした。

新燃料補助金制度「ブディ・マダニRON95(BUDI95)」適用外のハイオクガソリン「RON97」の価格も同様に3.29リンギから2セン引き下げ、3.27リンギとする。一方「BUDI95」適用価格は1.99リンギで据え置く。

ディーゼルの小売価格については、「ユーロ5 B10」および「B20」は1リットルあたり3.08リンギから3.06リンギに引き下げる。また「ユーロ5 B7」ディーゼルも3.26リンギに引き下げる。サバ州、サラワク州、ラブアンにおけるディーゼル燃料の小売価格は2.15リンギで据え置く。
(ポールタン、フリー・マレーシア・トゥデー、12月11日)

オタフクソース、ネグリセンビラン州で新工場の開設式を実施

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 オタフクソース(本社・広島市西区)は10日、マレーシア現地法人、オタフクソースマレーシアがネグリ・センビラン州に新設した社屋と工場のオープニングセレモニーを実施した。

同社の11日の発表によると、セレモニーには四方敬之 駐マレーシア日本大使をはじめ、取引先など約140人が出席。工場はマレーシア・イスラム開発局(JAKIM)のハラル(イスラムの戒律に則った)認証を取得しており、セレモニーでは新たに導入された半自動充填設備などの見学や、ハラル認証調味料を使った調理実演が行われた。

新工場の面積は9,066平方メートルで、2023年11月に着工。年産能力は6,000キロリットルで、従来のセランゴール州にあった工場の8倍に拡張された。5,000万リンギを投資し、2025年7月1日より稼働開始している。40%は自社ブランド製品、60%はODM(相手先ブランド製造)になる。

オタフクソースマレーシアは、スシ・キング・ホールディングスとの合弁として2016年に設立された。現在、約100アイテムを製造しており、業務用商品が9割を占める。また、売上高の8割はマレーシア市場によるものという。2017年から日本へも輸出しているほか、今後は中東や欧州などへの事業拡大を目指していく。

ペナン州、高さ76メートルの建築制限見直しを検討

【ジョージタウン】 ペナン州は、長期基本計画「ペナン州構造計画2040(RSNPP2040)」において建築物の高さ制限の見直しや環境敏感地域の調整などいくつかの改善点を新たに導入する方向で検討しており、広く一般からの意見を求めている。

州地方自治体・都市計画委員会のフン・モイリー議長(国政の閣僚に相当)は、見直し対象となる主要な要素の一つは、建築物の高さ76メートル制限方針だと言明。州が直面している制約、特に限られた土地利用と複数の環境敏感地域の存在を考慮していると述べた。

高さ76メートルを超える開発については以前は自動的に却下されていたが、技術的な意見に基づき同規定の再検討を行っている。例えば高さ80メートル前後の建築に適していると考えられる平坦な地域がいくつもあるという。

フン氏は「地域の状況を踏まえ、より適切な高さ制限を決定することを目指している。例えばパハン州キャメロンハイランドでは150メートルを超える開発が許可されており、ペナン州は適性に応じて制限を見直す必要があることを示している」と述べた。

RSNPP2040は来年第3四半期に官報に掲載される予定。12月23日までの広報期間中に寄せられた一般からのフィードバックは技術委員会によって詳細に評価され、公聴会を経てから報告書が最終決定される。
(マレー・メイル、ベルナマ通信、12月9日)

KLIA第2ターミナルで16項目の施設改修を実施=MAHB

【セパン】 空港運営のマレーシア・エアポート・ホールディングス(MAHB)は、マレーシア観光年2026(VM2026)に向けて、クアラルンプール新国際空港(KLIA)第2ターミナルで合計16項目の施設改修を実施した。約1年かけて実施したもので、旅客の流れ、快適性、業務効率の向上が狙い。

第2ターミナルのオペレーション・ゼネラルマネージャー、シャールニザム・アブドル・ジャミル氏は最新の改修と新サービスを紹介するメディア向け見学会で、「特にピーク時や祝祭期間における旅客数の増加に対応するため、チェックイン、搭乗、手荷物処理など、主要な旅客手続きに重点を置いた改修を実施した」と言明。「チェックインカウンター付近の設備改善、セルフサービス式手荷物預かり所の導入、手荷物チェックインポイントの増設を実施した。これにより長い列ができなくなり、乗客の流れがスムーズになる」と述べた。

シャールニザム氏によると、改修はソーシャルメディアで寄せられたコメントを含む乗客からのフィードバックとデータ分析に基づいて実施。トイレの5つ星基準へのアップグレード、祈祷室の改良、傾斜地での安全性を高めるために新設計された荷物用カート、車椅子とベビーカーの増設、乗り継ぎ時間が長い旅客向けの映画ラウンジ導入――などが行われた。
(フリー・マレーシア・トゥデー、ベルナマ通信、12月9日)

トヨタの水素車「ミライ」に首相が試乗、科技革新省から移管で

【クアラルンプール】 首相府は9日、トヨタ製の水素燃料電池自動車(FCV)「ミライ」を科学技術革新省(MOSTI)から受領した。引き渡しに立ち会ったアンワル・イブラヒム首相が、試乗した写真とともにフェイスブックに投稿した。

MOSTIは今年5月、実証実験の一環として移動式水素ステーション(MHRS)とともに「ミライ」3台を、UMWトヨタ・モーター(UMWT)から提供されていた。今回、低炭素技術とグリーンモビリティに向けた取り組み強化の象徴として首相府に1台が移管された。

アンワル首相は投稿で「次世代のために、よりクリーンで安全、持続可能なモビリティ環境の構築をリードしていく」と述べた。さらに国境を越えた協力を促進し、東南アジア全域における自動車技術革新を推進すると付け加えた。
(ベルナマ通信、ポールタン、12月9日)