【イスラム金融の基礎知識】第592回 イスラム銀行利用における宗教と立地

第592回 イスラム銀行利用における宗教と立地

Q: イスラム銀行利用者にとって宗教と立地は重要ですか?

A: われわれがどの銀行を利用するか選ぶ際は、様々な要因を考慮する。家や職場に近いか、金利が高いか安いか、サービスが良いか悪いか。人により何を重視するか違いはあるにせよ、各要因が銀行選択を左右する。ムスリムが銀行を選ぶ際には、これらの要因以外にも、自身の信仰の熱心さやイスラム銀行が宗教的な点をどのように強調しているかも、選択に影響を与える可能性がある。こうした各要因のうち、宗教と立地がどの程度重視されるかを調査した論文が発表されている。

西ジャカルタ市のメルク・ブアナ大学のユディ・ヘルリアンシャ博士らの研究グループが2020年に発表した論文「中小企業の起業家がイスラム銀行の利用者になる決定要因:宗教・信仰・立地」では、同市の中小企業家125名に対するアンケート調査が行われた。質問項目としては、中小企業がイスラム銀行を利用するにあたって、①起業家自身の宗教性、②イスラム銀行の宗教性、③イスラム銀行の立地、の3点がどの程度重要かを尋ねた。回答に統計処理をほどこし明らかになったことは、自身の宗教性とイスラム銀行の宗教性が銀行選択において有意に影響を与える一方で、立地は有意な影響がみられなかった。すなわち、自身がムスリムであり宗教性を強調するイスラム銀行が存在するならば、職場・店舗から距離があっても取引で積極的に利用するという行動が見て取れたとしている。

もちろんこの調査は、西ジャカルタ市という都市部の人口密集地域で起業した者が対象であり、同国の地方部や他国でも同じ結果が得られるとは限らないだろう。他方で研究チームは、イスラム銀行がムスリムの多い地域のモスクなどでプロモーションを行いつつ、ATM網を拡大したりデジタル銀行をオンライン上で展開すれば、さらなる顧客獲得が望めると研究結果が示唆している、と強調した。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第591回 ウズベキスタンでイスラム銀行制度を導入

第591回 ウズベキスタンでイスラム銀行制度を導入

Q: ウズベキスタンでイスラム銀行に関する法律が施行されましたが、狙いは?

A: さる3月、ウズベキスタンのミルジヨエフ大統領はイスラム銀行に関する法案に署名した。これにより、年内にも一部の従来型銀行でイスラム窓口が開設される見通しだ。同国がイスラム銀行制度・市場を導入する狙いはどこにあるのか。

中央アジアのウズベキスタンは、マレーシアとほぼ同様の人口規模であるが、GDPは20%程度である。国民のムスリム人口比率は90%以上を誇っているが、これまでイスラム銀行は認められていなかった。そこでイスラム銀行のための法律が施行されたのである。

ウズベキスタンがイスラム銀行を導入する理由として、現地メディアは四点あげている。一つ目は国内資本の動員で、従来型銀行の利子を避けるため銀行口座を持たないムスリム個人が保有する資金をイスラム銀行が引き受けることで、経済の循環に位置づけられるようになる。同じく二つ目も宗教上の理由で融資を避けてきた中小企業がイスラム銀行からの融資を受け入れやすくなり、中小企業の振興に役立つ。三つ目は湾岸諸国からの投資の誘致強化で、制度の整備は投資に直結すると考えられる。そして四つ目は競争力の強化である。中央アジア諸国のうち、カザフスタンとキルギスはすでにイスラム銀行が操業、ロシアでも実験的な取り組みを行っている。地域競争で後れを取らないためにも、早い制度確立が必要だ。

イスラム銀行法の施行に合わせて税制も改正される。利益分配型預金の配当(従来型銀行の預金金利に相当)への課税免除や、売買取引を介在させる融資にかかわる付加価値税の二重課税防止が定められた。また、中央銀行に5名の専門家によるイスラム金融評議会の設置も決定した。イスラム銀行に関する法律の導入は、単なる象徴的なセレモニーではなく、実際に市場を形成・運用するための実務的なものであると、地元メディアは紹介している。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

【イスラム金融の基礎知識】第590回 パキスタンの湾岸資本のイスラム銀行の現状

第590回 パキスタンの湾岸資本のイスラム銀行の現状

Q: パキスタンのアル・バラカ銀行の現状は?

A: 湾岸諸国に本社があるパキスタンのイスラム銀行のトップが、パキスタンでの現状について地元メディアに語った。

インタビューに応じたのは、パキスタン・アル・バラカ銀行のムハンマド・アティフ・ハニーフCEOだ。アル・バラカ銀行は、バハレーンに本社を構えるグローバルなイスラム銀行グループで、パキスタンには1991年に進出し、現在は国内に200近い支店を構えている。2022年にCEOに就任したムハンマド氏は、まずは社内改革として従業員の福利厚生に力を入れた。中でも、従業員の家族がタカフル保険に加入できるようにした結果、従業員のやる気が高まり、このことが顧客や株主との良好な関係構築に繋がったとしている。

同銀行は、国と国民が置かれている経済状況に基づいてビジネスを展開している。例えば輸出業者に対し、オンライン・セミナーを実施するなどして関心をもらうことで、貿易の拡大に繋げようとしている。また、パキスタン初となるハラール産業会議を主催したり、ロンドンで開催されたハラール産業イベントでは国内輸出業者の支援を行うなど、この分野の発展と貿易金融の業務拡大を目指している。

個人向けについても、ハッジの民間事業者向けのプラットフォームを構築したことで、市場のシェアを2年間で18%から60%に拡大した。またUAEへの出稼ぎ・移住者が増加している状況を踏まえて、デジタル・バンキングや海外送金に力を入れている。

世界銀行の2024年の統計によれば、パキスタンの人口およそ2.5億人のうち、成人の銀行口座保有率は27%にとどまっており、国内にはおよそ1億人の非保有者がいることになる。CEOによれば、これは潜在的な市場拡大の余地であるとしており、この層にどう届くかが今後の発展のカギとなりそうだ。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第589回 損益共有型融資が成長のカギ

第589回 損益共有型融資が成長のカギ

Q: マレーシアのイスラム銀行で用いられている融資形態は?

A: マレーシアのイスラム銀行は債務型融資が中心であるため、損益共有型融資の拡大がカギとなる。バンク・ムアーマラート・マレーシアのチーフ・エコノミストは、メディアのインタビューでこう指摘した。

マレーシアのイスラム銀行でもっとも用いられている融資形態はタワッルク融資で、2025年12月時点で融資残高1兆0,207億リンギのうち64.8%を占めた。これは、イスラム銀行と借り手との間で物品を売買し分割払いを行う、いわば債務型融資である。他方、イスラム銀行と借り手の間の共同ビジネスの体裁で利益や損失を分配する損益共有型融資もある。このうちムシャーラカ融資の割合は8.3%、同型のムダーラバ融資に至ってはわずか2,028万リンギに過ぎない。融資額プラス利子で固定された金額の返済ではなく、ビジネスの利益や損失を借り手とイスラム銀行が分配しあうムダーラバ融資とムシャーラカ融資は、より大きなビジネスを目指す起業家精神を涵養する。

マレーシアで損益共有型融資が普及しない理由として、モハマド氏は3点を指摘している。一つ目は、イスラム銀行から融資の原資は預金であり、元本保証など安定的な運用を望む預金者は、借り手とイスラム銀行がリスクを共有する手法を好まない。二つ目は、借り手がビジネスを適切に行い、利益を正しくイスラム銀行に報告しているか、記録管理やガバナンスに対してイスラム銀行に膨大な負担がかかる。そして三つ目は、イスラム銀行のスタッフはそのような情報管理を得意としておらず、適切に行える人材が慢性的に不足している。

そのためマレーシアのイスラム銀行市場が拡大するための伸び代は、この損益共有型融資が拡大することであり、イスラム銀行側にスキルアップが必要だとモハマド氏は指摘した。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

【イスラム金融の基礎知識】第588回 イスラム銀行で発生するイスラム法に反する事項(後編)

第588回 イスラム銀行で発生するイスラム法に反する事項(後編)

Q: イスラム銀行ではイスラム法に反する事項は発生しますか?

A: イスラム法(シャリア)に基づいてビジネスを行うイスラム銀行であっても、従来型金融が併存する多民族・多宗教社会のマレーシアにおいては、イスラム法に反する事項が発生することがある。この場合、各イスラム銀行はシャリア・ボードの指導に基づき事案を年次報告書に報告する義務がある。この点に関する研究論文が2023年に発表されたので、その内容を見てみたい。

論文によれば、2015-2020年の6年間に16のイスラム銀行で、合計159件のイスラム法違反が報告された。中でもバンク・イスラム、メイバンク・イスラミック、スタンダード・チャータード・サアデクの3行が20件を超えており、全体の44%を占めた。発生した事項の詳細だが、前回紹介した分類に基づきさらに14種に分類した結果、「取引の不履行」「イスラム法に準拠しない活動を含む契約」「裏付けとなる資産の不在」「アカド(契約が成立するための条件)が満たされていない」が特に多かった。また、融資に関して契約形態別のトラブルを見てみると、タワッルク融資にまつわるものが29件中12件と突出していた。複雑な売買契約の組み合わせで成り立つ融資手法ゆえ、トラブルも多いとみられる。

さらに、イスラム法に反する事項で生じたイスラム銀行の損失は、各行とも年間10件程度であり損失は50万リンギ以内に収まっているが、100万リンギ以上に及んだ事例もあり、トラブルが多発するほど損失もまた大きくなった。

もっとも論文によれば、中央銀行の義務規定の履行が徹底されておらず、報告されるトラブルの内容や報告の仕方が銀行ごとに異なっている。したがってトラブルの発生件数の違いが、そのまま銀行の能力や危機意識の違いを表しているわけではないと指摘している。公正な比較のためには、適切なルール運用が必要と言えよう。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第587回 イスラム銀行で発生するイスラム法に反する事項(前編)

第587回 イスラム銀行で発生するイスラム法に反する事項(前編)

Q: イスラム銀行ではイスラム法に反する事項は発生しますか?

A: イスラム銀行はイスラム法(シャリア)に基づいて銀行業を営むビジネス主体である。ただ、マレーシアのような従来型金融システムが併存する多民族・多宗教社会では、思わぬ形でイスラム法に違反してしまうことがある。

イスラム銀行にとってイスラム法に違反する事項は、大きく三つに分類される。すなわち、①広告やチラシに人為的ミスで「利子」の文言やブタのイラストが挿入されるような案件で、ビジネス契約や個別の融資案件には影響を及ぼさない事項。②イスラム銀行が他の金融機関との取引を通じて利子を受け取ってしまうような案件で、契約に影響を及ぼす可能性がある事項。③融資の対象が酒造業や養豚業であるような案件で、契約そのものが無効となる事項の3種類である。イスラム銀行は、自らのビジネスが適切であるかをイスラムの観点から確認する監査機構であるシャリア・ボードを設置しており、このような事項が発生しないか監視するとともに、発生した場合は年次報告書でその旨を報告する義務を負うと、中央銀行によって定められている。

イスラム銀行ではイスラム法に反する事項がどの程度認識・発生されているかを分析した興味深い研究論文が、2023年に発表された。ヌグリスンビラン州のイスラム科学大学経済学部のマリーナ・モハメド氏とヌルハズリナ・イブラヒム氏による「マレーシアのイスラム銀行によるシャリアを遵守しない出来事の情報開示」と題する論文で、16のイスラム銀行による2015年から2020年まで6年分の年次報告書の分析を行った。これによると、6年間で合計159件のイスラム法違反事例が発生・認識されていた。イスラム銀行ごとに年間数件から20件ほど問題が発生したが、場合によっては100万リンギ以上の損失が生じていたことが明らかになった。【後編に続く】

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

【イスラム金融の基礎知識】第586回 タイとサウジアラビア、イスラム金融など分野で協力に合意

第586回 タイとサウジアラビア、イスラム金融など分野で協力に合意

Q: タイとサウジがイスラム金融の関係強化を図るようですが?

A: 1月にタイとサウジアラビアの経済閣僚が会談し、双方向での投資関係を強化することで一致した。注力する分野の一つとしてイスラム金融が含まれており、今後の発展が期待される。

報道等によれば、1月に世界経済フォーラムの年次総会(いわゆるダボス会議)にあわせて、タイのエクニティ財務相とサウジのハリド・アル=ファリーハ投資相が会談、二国間の資本移動と産業の協力を実行するための「双方向投資回廊」を正式に発足することを明らかにした。タイ政府は、2024年4月にリアドにタイ投資委員会の事務所を設立しており、これまでに11件の産業協定を締結するとともに、多くのビジネスを成立させた実績がある。同回廊発足にあたっては、サウジ政府が「ビジョン2030」として掲げている分野のうちタイに対して優先度が高い分野として、①自動車産業のサプライチェーン、②医療と公衆衛生、③イスラム金融の3分野を取り上げた。

タイのイスラム金融は、2002年にタイ・イスラム銀行が政府によって創設されて以来約20年の歴史があるものの、現在まで同行1行のみの状況だ。市場規模は30億米ドル弱で、同銀行はマレーシアの国境に近くムスリム人口が多い深南部各県に支店が集中している。イスラム金融を通じた二国間の関係強化の具体的な方策は、現時点では詳らかにはなっていない。考えられる方向性としては、一つは貿易金融業務にイスラム銀行が参入することによって輸出入を活性化させることが目的と考えられる。もう一つは、経済発展が遅れている深南部地域の振興のため、イスラム銀行を資金のチャンネルにすることでサウジの資金を活用することが考えられる。同じ東南アジアにおいてムスリムが少数派のフィリピンがイスラム金融に力を入れ始めている中、タイでも同様の動きがみられるといえよう。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

【イスラム金融の基礎知識】第585回 MBSBのCEOがAIBIMの新会長に就任

【イスラム金融の基礎知識】第585回 MBSBのCEOがAIBIMの新会長に就任

Q: AIBIMの会長が交代したそうですが、新会長はどのような人物ですか?

A: マレーシアでイスラム銀行業をてがける銀行が加盟する業界団体であるマレーシア・イスラム銀行金融機関協会(AIBIM)の発表によると、昨年12月に退任したモハメド・ムアッザム・モハメド前会長の後任として、MBSB銀行のラフェ・ハニーフ社長が、1月に新会長に就任した。任期は2026-2028年の3年間。

ウェブサイトの情報によると、新会長はマレーシア国際イスラム大学で世俗法とイスラム法を学んだ後、ハーバード大学の大学院で法学修士を取得した。1999年にロンドンのHSBCに就職してUAEなど中東を担当し、同銀行のイスラム銀行業部門であるHSBCアマーナのCEOを務めた。マレーシアに戻ると、2019年から23年までCIMBの幹部職を歴任、2023年からは独立系イスラム銀行であるMBSB銀行の社長を務めている。

他方、昨年いっぱいで退任したモハメド氏は、同じく独立系イスラム銀行のバンク・イスラムのCEOを務めた人物で、同銀行のCEOを辞すと同時に会長職からも身を引いた恰好となる。なお今回のAIBIMの役員人事について、異動は会長職のみで、他の幹部職(副会長・事務局長・会計)には変更がない。

AIBIMは新会長について、金融のガバナンス、イノベーション、サステイナブルの各分野で優れた実績を有することと、幅広いリーダーシップや深い業界専門知識を持っていると指摘したまた、同協会の2025-27年の3カ年計画において、協会がマレーシアのイスラム金融産業においてリーダーシップを強化すること、業界の仲介を積極的に行うこと、そしてマレーシアが世界的なイスラム金融のハブになることを目指しており、新会長はこの取り組みを進めていくとしている。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第584回 CIMBが手がけたスクークをめぐる訴訟

第584回 CIMBが手がけたスクークをめぐる訴訟

Q: 高速道路建設の遅延をめぐり、CIMBが訴えられたようですが?

A: CIMBが1月、ブルサ・マレーシア(証券取引所)に提出した書類によれば、CIMBの子会社であるCIMB投資銀行が起債を手がけた高速道路運営会社のスクークをめぐり、出資者から利払いや損害賠償等を求めて民事訴訟を起こされたことが明らかになった。高速道路運営会社の社長も、すでに背任やマネーロンダリングなどの罪で起訴されており、問題が拡大している。

報道などによると、高速道路の運営を手掛けるマジュ・ホールディングス社は、プトラジャヤとKLIAを結ぶ高速道路の延伸工事を計画、資金調達のため特別目的会社であるMEX II社を立ち上げた。同社は、額面13.8億リンギ、期間15年、年利6.1%のスクーク・ムラーバハを2016年に発行した。発行に際しては、CIMB投資銀行はプリンシパル・アドバイザーなどの役割を担った。工事は同年に始まり、2019年に完成予定であった。ところが資金不足等で工事が頓挫、2023年の調査段階でも10%以上の未完成部分を残しており、現在も状況は改善されていないとみられている。工事に加え、利払いも2021年以降滞っており、2022年にMEX II社は破産管財人の管理下に入った。さらに2025年9月マジュ社のアブ・サヒド・モハメドCEOが、背任やマネーロンダリングなど複数の罪状で起訴された。

こうした状況を踏まえ、スクークの43%を保有する政府系信託会社や保険会社など14社が原告となり、未払い利息の支払いや損害賠償を求めて、MEX II社、マジュ社、同社CEO、CIMB投資銀行など12の会社・個人を被告とする訴訟を起こすに至った。対象プロジェクトの契約不履行によってスクーク購入者に損害が生じた場合、起債を手がけたイスラム銀行に責任がどう及ぶか、注目の訴訟といえよう。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第583回 中央アジアでのイスラム金融の課題

【イスラム金融の基礎知識】第583回 中央アジアでのイスラム金融の課題

Q: 中央アジアのイスラム金融の現状と課題は?

A: 昨年12月8日から11日まで4日間の日程で、UAEのアブダビで「アブダビ・ファイナンシャル・ウィーク」(ADFW)が開催された。中東湾岸諸国の金融機関や監督官庁、ビル・ゲイツなど欧米の財界人などが登壇する大規模なフォーラムだが、最終日には「イスラム金融サミット」と題する2時間のパネル・セッションが組まれた。会場の様子は2026年1月現在、YouTubeのADFW公式チャンネルで視聴可能だが、注目は「基準化とシャリアの規制」と題するセッションだ。登壇したのは、ユーラシア開発銀行(EDB)、アスタナ国際金融センター(いずれも本部はカザフスタン)、フィリピン中央銀行の担当者である。まさに「イスラム金融市場への本格参入はこれから」という国のイスラム金融担当者が登壇して、30分ほどの意見交換を行った。

この中でEDBのアザマット・チュレウベイ氏は、中央アジアのイスラム金融の現状について、イスラム金融に関する法律やイスラム法の解釈が各国でまちまちなため、国際開発金融機関としてのEDBの国境を超えた取り組みを困難なものにしていると指摘した。そのため、このような分断は関係各所の参加によって統一していく必要があるとした。

これに対して、フィリピン中央銀行のアリファ・A・アラ副総裁は、「ムスリムがマイノリティの国でイスラム金融を実践したことから得られた教訓」として、①ビジネスを実施可能にする法律、②立法だけでなく行政や規制当局、会計の専門家など利害関係者の協力、および③存在意義を国家の課題に結び付けること、という三つの必要性を挙げた。チュレウベイ氏も、EDBが各国の規制当局と基準機関であるAAOIFI、IFSBなどと協力体制を築くことで、中央アジアのイスラム金融は次の段階に進めるだろうと答えた。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。