【イスラム金融の基礎知識】第560回 クウェート・ファイナンス・ハウス、マレーシア撤退へ

第560回 クウェート・ファイナンス・ハウス、マレーシア撤退へ

Q: クウェート・ファイナンス・ハウスがマレーシア撤退の意向のようですが?

A: クウェートに本社があるイスラム銀行のクウェート・ファイナンス・ハウス(KFH)が、マレーシア市場から撤退することを2024年7月に公表した。現有資産や店舗をどのようにするのか、売却先に関して様々な憶測が報じられている。

マレーシアでは2005年に当時のイスラム銀行法を改正、外国イスラム銀行という枠組みを導入した。これを活用して、中東資本のイスラム銀行3行がマレーシアに進出したが、KFHはその一つであった。以来およそ20年間にわたりマレーシアでイスラム銀行業を営み、最盛期には主要都市やKLセントラル駅内にも支店網を拡大した。会社幹部によれば、営業成績の悪化ではなく、あくまでも本社のグローバル展開の再編にともなう動きであるとしている。実際KFHは、東南アジアでは唯一マレーシアに進出し、ここをアジア太平洋地域本部と位置づけている。

マレーシア市場撤退にあたっては、保有の金融資産だけでなく支店や従業員などを一括して引き受けてくれる売却先を、KFHは求めているとされる。ただ支店数が7店舗など比較的小規模であるため、国内大手金融機関よりもむしろ、規模を拡大したい中小金融機関か、マレーシア進出を目論む外国金融機関が関心を示すだろうとみられている、一部報道では、国内3銀行と海外2銀行が関心を示していると言われている。このうちシンガポールのある金融機関は、マレーシアに未進出であることと、イスラム金融をてがけたいという理由で、買収するのではないかとの憶測も出ている。

2005年のイスラム銀行法改正によりマレーシア進出をはたした外国イスラム銀行のうち、AFB銀行はイスラム銀行の資格取得を望んでいたMBSB銀行に買収された。KFHの撤退・買収が進めば、残るはサウジ資本のアル=ラージヒ銀行1行のみとなる。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第559回 ヨルダン政府、イスラム銀行を通じて再生エネルギー普及に注力

第559回 ヨルダン政府、イスラム銀行を通じて再生エネルギー普及に注力

Q: ヨルダン政府の再生エネルギー普及政策でイスラム銀行の役割は?

A: 住宅用ソーラーパネルと太陽熱温水器の普及に力を入れているヨルダン政府は11月、補助金を支給することを発表した。これらを購入する家庭に対して、指定の従来型銀行かイスラム銀行を通じて分割払いを行う場合、30%の補助金を支給する。年内に最大で4千台のソーラーパネルと5千台の太陽熱温水器の設置を目指しており、補助金の総額はそれぞれ850万ヨルダン・ディナール(約1,200万米ドル)と300万ヨルダン・ディナール(約400万米ドル)になるとしている。

現地の報道等によると、このプログラムに参加する銀行は、従来型銀行がカイロ・アンマン銀行、イスラム銀行がヨルダン・イスラム銀行で、補助金はエネルギー鉱物資源省の「再生可能エネルギー・エネルギー効率化基金」が拠出する。エネルギー鉱物資源省と両銀行による調印式で、サーレフ・ハラブシェ担当大臣は「ヨルダン全土に再生可能エネルギーが普及するために両銀行が貢献してくれる」と称賛した。

ヨルダンは、国土が日本の4分の1、人口は日本の10分の1ほどの小国であるが、中東にあって石油が採れない非産油国であるため、エネルギー問題が常に課題となっている国である。そのため、太陽光発電など再生可能エネルギーに早くから注目している国でもある。資料などによれば、国内発電に占める再生可能エネルギーの割合は2014年では2.9%であるが、2030年までに14%に高める目標を、政府は掲げている。この目標のために、過去9年間にわたって基金が1億ヨルダン・ディナール(約1.4億米ドル)を投じており、2017年にはシリア難民キャンプに当時としては世界最大規模の太陽光発電施設を設置した。

大臣によれば、再生可能エネルギーの利用を促進しつつ電気料金を削減することを目指しており、今回はその取り組みの一環だとしている。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第558回 フィリピンのイスラム銀行業、CIMBなどが参入検討

第558回 フィリピンのイスラム銀行業、CIMBなどが参入検討

Q: フィリピンのイスラム銀行業の現状は?

A: フィリピンでは今年、イスラム銀行業のライセンスを取得した二つの銀行が、相次いでビジネスを開始したが、これに続く動きがあることが今月になり明らかとなった。

フィリピン中央銀行は12月3日にイスラム金融に関するセミナーを開催、その中でアリファ・アラ副総裁が、二つの銀行がイスラム銀行業のライセンス取得に関心を示していることを明らかにした。正式な申請書が提出されていないため銀行名を明言することはできないとしながらも、一つは国内で業務を行う銀行で、もう一つは海外から新規に参入を検討している銀行だとしている。

副総裁の発言を受けて、マレーシア資本のCIMBバンク・フィリピンのビジェイ・マノラハンCEOがメディアのインタビューに応じ、同銀行が前者の「すでにフィリピンに進出している銀行」であることを明かした。CIMBは従来型銀行やイスラム銀行を傘下にもつ総合金融グループで、東南アジアで積極的にビジネスを展開している。フィリピン国内では、デジタル銀行として従来型銀行業務を行っている。

CEOによれば、ライセンス取得のための書類申請はまだ行っておらず、中央銀行と予備的な協議を行う一方、イスラム銀行ビジネスの可能性について現地調査を実施していることを明らかにした。CEOによれば、フィリピン進出に際しては従来型銀行業を優先している。ただ、ムスリムが多く暮らす南部のミンダナオ島地域にも利用者がいるとしている。CEOは、スマートフォンを通じてサービスにアクセスできるため、南部地域でも顧客が獲得できていることを強調した。

中央銀行側としても、バンサモロ自治地域における銀行口座保有率は8%ほどにとどまっており、この地域を含めフィリピン全体で口座保有率を70%に高めるためにも、ムスリムにとって親和性が高いイスラム銀行ビジネスの普及に期待を寄せた。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第557回 グリーンピースからみたイスラム金融

第557回 グリーンピースからみたイスラム金融

Q: グリーンピースはイスラム金融をどう評価していますか?

A: グリーンピースといえば、国際的な環境保護団体であり、特定の宗教・宗派、イデオロギーに依拠せず環境保全の活動を行うNGOとして、世界的に知られている。そのグリーンピースは、イスラム金融についてどのような考え方をもっているのだろうか。11月に更新された同団体のウェブサイトに、イスラム金融についての認識を示す興味深いエッセーが掲載された。

「イスラム金融:気候変動対策のための強力な解決策」と題するエッセーでは、まずイスラム諸国における環境問題、特に水に関する問題を指摘する。すなわち、パキスタンにおける洪水、インドネシアにおける海面上昇による沿岸部の村落水没、中東・北アフリカでの干ばつ・水不足である。また、気候変動は食の安全保障の問題を生み出し、宗教実践をゆがめている。例えばソマリアでは、食糧不足がラマダン月の断食の適切な実践を妨げているとしている。

これらの課題に取り組むことができる存在として、グリーンピースはイスラム金融を挙げた。イスラム金融には、公正さ、社会的責任、環境保護を推進するイスラムの教義があり、これに基づいて金融ビジネスを展開している。その成功例の一つが、マレーシアにおけるグリーン・スクーク・インシアティブ(環境保護に取り組む企業を優先して社債を発行する取り組み)だとしている。また、2027年には世界のイスラム金融の資産残高が6.7兆米ドルに達するため、そのうち5%でも振り向けることができれば、2030年までに4,000億米ドルを環境問題への解決に向けて費やすことができるだろうと期待を寄せている。

グリーンピースは、イスラム金融を倫理的原則と地域社会への責任に根ざしている存在だととらえた上で、その独自の活動を通じて環境問題に成果を出すことに期待しているといえよう。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

【イスラム金融の基礎知識】第556回 マレーシアの2025年国家予算

第556回 マレーシアの2025年国家予算

Q: アンワル首相兼財務相が2025年予算を発表しましたが、イスラム金融は?

A: マレーシアのアンワル首相兼財務相は10月18日、2025年の国家予算を議会に提出した。2024年比で3.3%増の4,210億リンギ(約14.7兆円)の規模となった。議会での演説では、予算の意図や使用目的・金額などを示したが、この中にはイスラム金融やハラール産業などイスラム経済に関する事柄も言及された。演説の要点をみていきたい。

まず冒頭でコーラン2章22節と、13-14世紀に活躍したスンニ派シャーフィイー学派のコーラン注釈家カーディ・バイダーウィの解釈を引用し、豊かな自然の恵みを公平・公正に管理し持続可能なエコシステムを育成するためにも、政治が重要であると説いた。

イスラムに導かれる政治と経済というアンワルらしい演説は、さらに米の調査会社ディナール・スタンダード社によるイスラム経済指標で、マレーシアが10年連続で1位になったと指摘した。ただ宗教・生命・知性・家族と子孫・財産の保護というイスラム法が目指すマカーシド・シャリーアの原則に立てば、イスラム金融にはまだ改善の余地があるとした。そこで具体的な方策として、①イスラム金融機関・個人投資家と借り手企業を取り結ぶマッチング・ファンドに1億リンギ、②低所得の零細企業家を支援するi-Tekadに2,000万リンギ、③P2Pによる資金調達を可能にするクラウド・ファンディングなどに4,000万リンギ、などに予算を割り当てることを明らかにした。

またハラール産業振興のため、ハラール認証を行うJAKIMの審査官を100名増員することや、政府系金融機関のSME銀行とマレーシア開発銀行による中小企業向け融資を6億リンギ強化することも打ち出した。イスラム金融とハラール産業というイスラムに強いマレーシア経済をさらに後押しするための予算編成と言えよう。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第555回「マレーシアのイスラム金融の父」が死去

「マレーシアのイスラム金融の父」が死去

Q: アブドゥル・ハリム・イスマイル氏の業績は?

A: マレーシアの主要メディアが報じたところによると10月26日にバンク・イスラム・マレーシアの元社長(MD)のアブドゥル・ハリム・イスマイル氏が亡くなった。85歳だった。一部のメディアでは「マレーシアのイスラム金融の父・開拓者」と呼んでその業績を称え、その死を悼んである。

バンク・イスラムやゆかりの財団によると、アブドゥル・ハリム氏は1939年にケダ州で生まれた。1965年にマラヤ大学で経済学の学士号を取得、イギリスのオックスフォード大学では博士号を取得した。マレーシア国民大学(UKM)で教鞭をとった後、ブミプトラ銀行(後のCIMB銀行)チーフ・エコノミストに転身した。そして1983年、新設されたマレーシア最初のイスラム銀行であるバンク・イスラムの初代社長に就任した。イスラム銀行業の実務経験はなかったものの、彼がマラヤ大学で学んでいた時期は、タブン・ハッジの理論提唱者であるウンク・アブドゥル・アジズ氏が副学長に就く前(1968年就任)であり、在学時に彼からイスラム金融の薫陶を受けていただろうと推察される。

バンク・イスラムの社長に就任すると、同銀行を通じてイスラム銀行業だけでなく、イスラム式の保険会社や証券会社なども創業した。彼は、グループを通じてイスラム銀行産業からイスラム金融産業へと業務を拡大し、国内に根付かせることに尽力した。創業から市場開放までの10年間、バンク・イスラムが市場の先鞭をつける役割を果たし、1992年に社長職を辞した。

こうした業績が認められ、アブドゥル・ハリム氏は、マレーシアにおける金融やイスラムに関する様々な賞を受賞した。彼の死去に伴いバンク・イスラムの現CEOは「晩年まで、私たちへのアドバイスをとても熱心に語ってくれた」との思い出をメディアに語った。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第554回メイバンク、比でイスラム銀行業務拡大を目指す

メイバンク、比でイスラム銀行業務拡大を目指す

Q: フィリピンで業務を開始したメイバンクのイスラム銀行部門の現状は?

A: 前回は、マレーシア資本のメインバンクが8月にフィリピンでイスラム銀行業務を開始したことを紹介したが、その後の状況と今後の計画が同国のメディアを通じて明らかになった。

メインバンクは今年7月、フィリピンでイスラム銀行部門(IBU)を設置して預金や融資などイスラム金融商品を取り扱えるライセンスを、中央銀行から取得した。これを受けて8月にザンボアンガの支店内に初のイスラム窓口を設けた。このことからおよそ2カ月が経過したが、同銀行幹部がフィリピンのメディアに語ったところによると、開設以来すでにおよそ2,000万ペソ(約5,000万円)の預金を集めた。これは、同銀行が掲げていた2024年末の預金残高1,500万ペソという当初の目標を、すでに上回っていることを意味しているという。

また、このザンボアンガでの経験をふまえて、さらにイスラム窓口を増やす計画を明らかにした。それによると、まず今年中にイスラム窓口を持つ支店を7カ所に増やす計画を立てており、特にセブ、ダバオ、マニラ首都圏にある各支店がその対象だとしている。そして最終的には、現在国内60ほどの支店網をさらに拡大して、全ての州(81州)にイスラム窓口を設けたいとしている。

幹部によれば、この目標を達成するにはシステム上の問題だけではなく、従業員教育が重要だとしている。現在、イスラム銀行商品の販売やサービス方法についての知識の向上のための教育を、従業員に対して行っているところであるとしている。

イスラム銀行業務について、幹部によればイスラム銀行部門の売上は、2025年の収益予測に織り込むには時期尚早としていたが、現在の状況では銀行の収益への貢献が早まるだろうという期待を示した。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第553回メイバンク・イスラミック、フィリピンでイスラム銀行業務を開始

メイバンク・イスラミック、フィリピンでイスラム銀行業務を開始

Q: メイバンク・イスラミックがフィリピンでイスラム銀行業務を開始しましたが?

A: マレーシア資本のメイバンクは8月、フィリピンのザンボアンガ支店にイスラム窓口を(イスラミック・ウィンドウ)設置した。同国にとって外国銀行によるイスラム銀行業への参入は初の事例となる。

本連載でもこれまで触れてきたように、フィリピンでは2019年にイスラム銀行法が施行され、市場が民間に解放された。これを受けて今年1月にローカル資本のCARD銀行が、初のイスラム銀行業専業支店を設けた(第535回)。また中央銀行関係者からは、CARD銀行の後に続く銀行が複数存在し、そのうちの一つがマレーシア資本のメイバンクであると示されていた(第543回)。

中央銀行やメインバンクの関係者の話によれば、今年7月にメイバンクが、イスラム銀行業を営めるイスラム銀行部門の設立許可を取得、翌8月にはザンボアンガ支店内にイスラム窓口を設置した。業務は、当面の間は普通預金と当座預金の預金業務のみとし、十分な資金が確保できたところで融資業務を行うとしている。同銀行は、ムスリムと非ムスリムの双方が利用できるとしており、支店に両者が足を運べるような形となっている。ザンボアンガ支店は、ミンダナオ島最西部のザンボアンガ空港からほど近い場所に位置する。首都マニラよりもスールー諸島やボルネオ島の方がはるかに近く、またCARD銀行のコタバト支店とは200kmほどの距離にある。

開設式でメイバンク・フィリピンのアビゲイル社長兼CEOは、「フィリピンへの進出は単に自社の利益拡大だけでなく、公明性、透明性、地域社会の福祉に対するコミットメントを示すものである」とし、ムスリムが多く住む地域でイスラム窓口が設置することの社会的意義を強調した。中央銀行は他にも市場に参入する銀行があることを明らかにしており、今後の動向にますます注目が集まるだろう。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第552回:イスラム開発銀行総裁、東南アジアを歴訪

イスラム開発銀行総裁、東南アジアを歴訪

Q: イスラム開発銀行の総裁がブルネイとインドネシアを訪問しましたが、目的は?

A: イスラム協力機構(OIC)傘下の国際開発金融機関であるイスラム開発銀行(IsDB)の総裁が8月、東南アジアのブルネイとインドネシアを歴訪した。これまでの融資の成果を確認するとともに、各国との関係強化を図ることが目的であった。

IsDBのウェブサイトなどによると、ムハンマド・アル=ジャーセル総裁(元サウジ経済企画相)は8月28日から31日にかけて東南アジア歴訪としてブルネイとインドネシアを訪問した。まずブルネイでは、ハサヌル・ボルキア国王や経済閣僚らと会談を行い、両者間のパートナーシップに関する覚書に調印した。これは、ブルネイが掲げる国家ビジョン「ワワサン2035」に対してIsDBが協力するもので、具体的な内容としてはイスラム金融の促進、中小企業エコシステムの支援、能力開発、地域経済化協力の統合、気候変動の緩和と適用といった分野で両者が協力することが含まれている。また総裁は、IsDBが主導するイスラムの連帯とOIC加盟国の福祉・教育・医療・社会保護に重点を置く慈善活動についての説明を行った。

次にインドネシアを訪問した総裁は、IsDBの融資によって建てられた東ジャカルタ市の二つの病院の開所式に出席した。IsDBは、2020年にインドネシアの三つの保健プロジェクトに対して14億米ドルの融資を行なったが、この病院はその一環として建てられたものである。総裁は、小児病棟と母子病棟をもつこれらの病院がインドネシアの家族に対して世界のトップレベルの医療を提供することになると、スピーチで強調した。また、ジョコ・ウィドド大統領と会談、インドネシアがヌサンタラに新首都を建設することに関連して、公平な開発、気候変動への取り組み、ゼロ・カーボンの開発、SDGsの達成などの各分野でIsDBが協力することを表明した。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第551回:マレーシアのムスリムの投資傾向

第551回:マレーシアのムスリムの投資傾向

Q: マレーシアのムスリムはどのような投資傾向がありますか?

A: マレーシアのムスリムの約半数が投資を行っており、政府系の投資信託など比較的安全性の高い投資商品を好むことが、マレーシアのイスラム銀行の調査で明らかとなった。

調査を行ったのはホンリョン・イスラム銀行で、18歳から77歳までのマレーシア人ムスリム690名を調査対象とした。対象者のほとんどが月収1万リンギ以下で、マレーシアの月収の中央値に近かった。

調査結果によると、投資を行っているムスリムは47%で、投資対象の内訳は政府系の投資信託であるASBファンド、メッカ巡礼資金を運用するタブン・ハッジ、そして金への投資が中心となっており、これに続くのが株式投資と高額貯蓄口座であった。イスラム金融商品に対してはローリスク・ローリターンという認識が高く、実際に株式投資のような投機性の高い商品よりも投資信託といったものがムスリムから好まれる傾向が示された。

さらにムスリムの65%は、イスラム金融商品のみを選択している。これは、従来型金融商品のみ、あるいは従来型とイスラム式の両方を選択するムスリムは3分の1にとどまっていると示唆している。他方で、回答者の84%は豊かになりたいと思ってはいるものの、ファイナンシャル・プランを立てて文書化しているムスリムは23%にすぎないことも、同調査で明らかとなった。

この調査は学術調査ではないため、非ムスリムとの有意な違いを明らかにすることは目的にしていないものの、マーケティング調査として同銀行のイスラム金融商品のあるべき方向性は示している。同銀行の幹部は調査記録を踏まえた上で、イスラム金融商品がリターンを高めることで従来型銀行の商品と同じような競争力を持つ必要があることと、個人資産の運用についてのより適切な知識をムスリムにいかに提供できるかが重要であるとの認識を示した。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。