【イスラム金融の基礎知識】第598回 パキスタン、女性従業員の服装をめぐる議論

第598回 パキスタン、女性従業員の服装をめぐる議論

Q: パキスタンのイスラム銀行の女性従業員の服装をめぐる議論があるようですが?

A: パキスタンの上院委員会において、イスラム銀行の女性従業員の服装とその規定をめぐる議論が行われた。ムスリム女性のファッションのあり方は、国によって異なっており、その一端を表す事例とみることができる。

議論は7月29日の上院財政歳入常任委員会で行われた。ザルカ・スハルワルディ・タイムール上院議員によれば、イスラム銀行では「女性従業員は(生地が厚く透けないアラブ風の)アバヤの着用を強制されているが、男性従業員は服装を自由に選ぶことができる」と指摘した。シェリー・レーマン上院議員も、「いかなる従業員も特定の服装を強制されるべきではない」と主張した。また同議員は、故ベンナジール・ブット元首相も愛用したシャルワール・カミーズという薄手の布で紙の露出をある程度許容する伝統的民族スタイルで十分だとしており、アバヤの着用義務規定に異議を唱えた。これに対してパキスタン中央銀行のジャミール・アハメド総裁は、中央銀行は市中銀行に対して特定の服装を強制したことはなく、控えめな服装(モデスト・ファッション)の順守だけを求めた既存のガイドラインを周知徹底すると答えた。

働くムスリム女性のファッションをめぐっては、法律や世論、イスラム法の解釈などを背景として、イスラム諸国の間でも隔たりがある。特に企業における接客担当のスタッフの制服の場合は、マレーシアでもかつて外資系のホテルや百貨店でのトゥドゥンの着用が論争の的になったことがある。とりわけ髪をすべて隠すベールの着用は、本人の信仰が優先されるか、あるいは企業や国が強制できるのか、また、最近のマレーシアでのユニクロの商品をめぐる議論のように、イスラムの観点からみた正しいファッションとは何かという点での見解の違いもあるので、論争は複雑化する傾向にある。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

【イスラム金融の基礎知識】第597回 フィリピンの政府系イスラム銀行、会長兼CEOに元予算管理相が就任

第597回 フィリピンの政府系イスラム銀行、会長兼CEOに元予算管理相が就任

Q: フィリピンの政府系イスラム銀行の会長兼CEOに就任した人物は?

A: フィリピン唯一の政府系イスラム銀行であるアル・アマナ・イスラム投資銀行では、7月に新しい会長兼CEOが就任した。中銀副頭取や経済閣僚を経験したムスリムである彼女の就任を歓迎する声がある一方、前職を不明瞭な形で辞任したことに対して疑義が呈されている。

同銀行の会長兼CEOに就任したアメナ・パンガンダマン氏は、ミンダナオ島南ラナオ州出身の48歳のムスリムで、マラナオ族の王族の血筋をひく。2021年にフィリピン中央銀行の副頭取に就任、2022年からはマルコス政権の予算管理相に転身しておよそ3年半務めた。就任に際して彼女はインタビューで「取り残されてきた人びと(同国南部を中心に暮らすフィリピノ・ムスリムたち)に機会を提供する、より強力な組織の構築に貢献する」と抱負を語った。

彼女の会長兼CEO就任に対しては、国内ムスリム・コミュニティから歓迎する声が上がっている。例えば、スールー州知事のアブドゥサクル・タン知事は、インタビューに対して、彼女のキャリアを通じて「イスラム金融セクターを導くために必要な、的確な財政感覚と金融に関する洞察力」が培われているだろうと期待を示している。

一方で、彼女の就任に対する疑問の声も上がっている。予算管理相時代において、洪水対策予算を一部の企業に集中させたことが問題視され、2025年11月には同職を辞した。この件について訴追等を受けることがなく疑惑が晴れていない中、わずか8ヶ月後の今回、再び政府系ポストに復帰したことで、一部で批判を集めている。これに対して大統領府は、「問題なし」との声明を発表した。

イスラム金融市場を民間に開放して間もないフィリピンにとって、政府系イスラム銀行の強化は市場拡大に重要な点であるが、新しい経営者の手腕に期待にかかることは確かであろう。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第596回 マレーシアと比較したトルコのイスラム銀行の特徴

第596回 マレーシアと比較したトルコのイスラム銀行の特徴

Q: マレーシアと比較した場合のトルコのイスラム銀行の特徴は?

A: 1983年にイスラム銀行制度が始まったマレーシアとトルコだが、現在の普及の程度は大きく異なる。この違いはどこから生じたのか、トルコ側から分析を試みた論文が2025年に発表された。トルコ・セルジューク大学経済学部のスクル博士とアフメッド博士の共同論文「マレーシアとトルコのイスラム銀行の比較」で、トルコの合わせ鏡としてのマレーシアの姿をみてみたい。

論文では、2006年から2023年までの両国のイスラム銀行の主要データの比較を行っている。中でも2003年の支店数と従業員数は、マレーシアの方がトルコよりも1.5倍多い。総人口やムスリム人口比率ではトルコが高いにもかかわらず、両数値はマレーシアが高い数値を示していることから、筆者たちは注目すべき点だと強調している。またこれらは堅調に増加している一方、2016年にはともに減少した。ただし理由は異なるとしており、トルコでは業務停止したイスラム銀行があったのに対して、マレーシアではオンラインの普及や合理化で店舗統合が進んだ結果だとしており、金融機関の発展段階にも差があるとみている。

マレーシアの普及はシェア率の高さにも表れている。両国ともイスラム銀行と従来型銀行が併存しているため、銀行部門に占めるイスラム銀行のシェア率で普及の度合いを測れる。論文によれば、2023年の総資産・融資残高・預金残高それぞれに占めるイスラム銀行の割合は、マレーシアでは36~45%だが、トルコでは7~10%にとどまっている。トルコがマレーシアほどのシェア率に至っていない理由として筆者たちは、トルコ経済の不安定化や政府・中央銀行による金融引き締め政策の実施などを挙げている。ただ、両国のイスラム銀行ともコロナ禍からの影響は少なかったとしており、イスラム銀行の経済危機への底堅さがあるとしている。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第595回 イスラム銀行利用のカギは周囲からの影響と宗教性

第595回 イスラム銀行利用のカギは周囲からの影響と宗教性

Q: イスラム銀行を利用するようになった要因は?

A: なぜイスラム銀行を利用するようになったのか。利用者のきっかけをめぐり、これまで多くの研究が行われており、本連載でも度々取り上げてきた。今回はパレスチナ・アハリア大学のアムジャド博士らの研究チームが2024年に発表した論文「顧客のイスラム銀行への動機付けに影響を与える社会的要因」の議論を取り上げてみたい。

パレスチナのイスラム銀行の歴史は30年ほどで、利用率は2020年現在で17.6%にとどまっている。そこで調査研究チームは、220名を対象としたアンケート調査を行った。分析の結果、利用のきっかけとして大きな要因には、友人・親戚・同僚など周囲の人びとからの影響(ピア効果)と宗教的動機の二つがあると指摘している。周囲からの影響とは、周りがイスラム銀行に好印象をもって利用していると、本人もその影響を受け利用するに至ることを指す。パレスチナ社会には、社会的関係の中で暮らすうちに集団主義的な意志決定を個人が行う傾向が強いとも指摘しており、この傾向が他国で生じるとは限らないとしている。

他方、宗教的動機とは、銀行のサービス内容などの点でイスラムに対しての印象のことで、銀行の利用者は従来型銀行とイスラム銀行の違いを理解した上で、その宗教的特徴を重んじてイスラム銀行を選択しているとしている。また逆に、これらの違いを理解していない消費者ほど、「イスラム銀行が本当にイスラムに準拠しているのか信じられない」として、イスラム銀行の選択は消極的であるとしている。

研究チームによれば、この研究結果のうち特に周囲からの影響の強さは、パレスチナ社会の特徴であり、とりわけ特定のイスラム団体や政党の言説の影響を受けてイスラム銀行を利用する人が増えている一方、それゆえにこうした勢力への反発の結果として利用率が17%にとどまっていると分析している。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第594回 エルドアン大統領「利子があるところに恩恵なし」

第594回 エルドアン大統領「利子があるところに恩恵なし」

Q: トルコのエルドアン大統領はイスラム銀行をどのようにみていますか?

A: 6月3日から6日にかけて、トルコのイスタンブールでアル・バラカ・グループ主催の「第3回世界イスラム経済サミット」が開催された。マレーシア中銀のアブドル・ラシード総裁をはじめ、各国のイスラム金融関係者が参加する大規模なサミットだが、この中でエルドアン大統領がスピーチを行った。大統領は「利子があるところに恩恵なし」として、イスラムが経済と社会に貢献することを強調した。

イスラム政策を進めるエルドアン大統領であるが、彼の考え方はこのスピーチによく表れている。スピーチによれば、経済や国際関係は、欧米発祥の単一のシステムに縛られるものではないとしている。イスラム金融は正義、倫理、リスク分担、持続可能性、社会福祉といった価値観に基づいて運営されており、欧米社会の価値観とは異なるもう一つの選択肢となる。また、イスラム金融はムスリムだけのものでなく、全世界にとってより 公平で安全なモデルであるとしている。

ただ、現在トルコの金融市場に占めるイスラム銀行の割合は9.5%にとどまっている。長らくトルコの銀行市場を従来型金融が占めていることに対して、大統領は長年の不満を込めて「利子があるところに恩恵はない」と批判した。続けて大統領は、政府系イスラム銀行4行のうちジラート・カトゥルム銀行、ヴァルフ・カトゥルム銀行、ハルク・カトゥルム銀行の合併、および残る一つのエムラク・カトゥルム銀行のIPOを実施することを明らかにした。具体的な時期や方法については言及しなかったものの、これらの動きが重大な相乗効果を生むと強調した。

トルコでは、イスラム式の銀行は「参加銀行」(カティリム・バンカシ)と呼ばれる。イスラム銀行を推進するエルドアン政権下にあっても、「イスラム」の名称を冠することがない独自の政治と宗教のバランスがあるのがトルコの現状を表しているといえよう。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第593回 東南アジアのイスラム金融市場、1兆米ドル超え

第593回 東南アジアのイスラム金融市場、1兆米ドル超え

Q: 東南アジアの2026年第1四半期のイスラム金融市場の状況は?

A: 世界的な金融格付機関であるフィッチ・レーティングスが5月に発表したレポートによると、東南アジアのイスラム金融市場は26年第1四半期に1兆米ドルを超えた。

フィッチ・レーティングスが明らかにしたところによると、東南アジアのイスラム金融市場はマレーシア、インドネシア、ブルネイの3カ国が牽引している。これらの国々は、①ムスリム人口が多い、②政府が積極的にイスラム金融産業を振興している、③ハラル食品やムスリム向け観光などハラル経済が成長している、④デジタル化が進んでいる、などの理由で市場の成長に繋がっているとしている。

市場の構成のうち、イスラム銀行の総資産が過半数を占める一方、スクークが41%でこれに続く。他にはイスラム式で運用されているファンドが8%、タカフル保険会社の資産が2%などとなっている。スクークに着目すると、世界全体のスクークのほぼ半数が、東南アジアで起債された。国別にみるとマレーシアが世界1位、インドネシアが3位であり、両国とも現地通貨建てで起債されている。これらは、過去4年間で債務不履行が発生した例はないとしている。ただ4月以降、ヒッチ・レーティングスはインドネシア自体の評価を下げたため、これに応じて評価を下げたスクークもあるとしている。

他の東南アジア諸国の動向をみてみると、国によって発展の段階が不均衡な状況にあるとみなしている。シンガポールは、米ドル建てスクークの上場先としては世界で6番目に大きい市場になっている。フィリピンは、25年末時点でイスラム銀行資産は4,400万米ドルにとどまっているが、23年に10億米ドルのスクーク発行の経験があり、またタカフル保険事業者が5社存在するなど、着実に成長しているとみている。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第592回 イスラム銀行利用における宗教と立地

第592回 イスラム銀行利用における宗教と立地

Q: イスラム銀行利用者にとって宗教と立地は重要ですか?

A: われわれがどの銀行を利用するか選ぶ際は、様々な要因を考慮する。家や職場に近いか、金利が高いか安いか、サービスが良いか悪いか。人により何を重視するか違いはあるにせよ、各要因が銀行選択を左右する。ムスリムが銀行を選ぶ際には、これらの要因以外にも、自身の信仰の熱心さやイスラム銀行が宗教的な点をどのように強調しているかも、選択に影響を与える可能性がある。こうした各要因のうち、宗教と立地がどの程度重視されるかを調査した論文が発表されている。

西ジャカルタ市のメルク・ブアナ大学のユディ・ヘルリアンシャ博士らの研究グループが2020年に発表した論文「中小企業の起業家がイスラム銀行の利用者になる決定要因:宗教・信仰・立地」では、同市の中小企業家125名に対するアンケート調査が行われた。質問項目としては、中小企業がイスラム銀行を利用するにあたって、①起業家自身の宗教性、②イスラム銀行の宗教性、③イスラム銀行の立地、の3点がどの程度重要かを尋ねた。回答に統計処理をほどこし明らかになったことは、自身の宗教性とイスラム銀行の宗教性が銀行選択において有意に影響を与える一方で、立地は有意な影響がみられなかった。すなわち、自身がムスリムであり宗教性を強調するイスラム銀行が存在するならば、職場・店舗から距離があっても取引で積極的に利用するという行動が見て取れたとしている。

もちろんこの調査は、西ジャカルタ市という都市部の人口密集地域で起業した者が対象であり、同国の地方部や他国でも同じ結果が得られるとは限らないだろう。他方で研究チームは、イスラム銀行がムスリムの多い地域のモスクなどでプロモーションを行いつつ、ATM網を拡大したりデジタル銀行をオンライン上で展開すれば、さらなる顧客獲得が望めると研究結果が示唆している、と強調した。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第591回 ウズベキスタンでイスラム銀行制度を導入

第591回 ウズベキスタンでイスラム銀行制度を導入

Q: ウズベキスタンでイスラム銀行に関する法律が施行されましたが、狙いは?

A: さる3月、ウズベキスタンのミルジヨエフ大統領はイスラム銀行に関する法案に署名した。これにより、年内にも一部の従来型銀行でイスラム窓口が開設される見通しだ。同国がイスラム銀行制度・市場を導入する狙いはどこにあるのか。

中央アジアのウズベキスタンは、マレーシアとほぼ同様の人口規模であるが、GDPは20%程度である。国民のムスリム人口比率は90%以上を誇っているが、これまでイスラム銀行は認められていなかった。そこでイスラム銀行のための法律が施行されたのである。

ウズベキスタンがイスラム銀行を導入する理由として、現地メディアは四点あげている。一つ目は国内資本の動員で、従来型銀行の利子を避けるため銀行口座を持たないムスリム個人が保有する資金をイスラム銀行が引き受けることで、経済の循環に位置づけられるようになる。同じく二つ目も宗教上の理由で融資を避けてきた中小企業がイスラム銀行からの融資を受け入れやすくなり、中小企業の振興に役立つ。三つ目は湾岸諸国からの投資の誘致強化で、制度の整備は投資に直結すると考えられる。そして四つ目は競争力の強化である。中央アジア諸国のうち、カザフスタンとキルギスはすでにイスラム銀行が操業、ロシアでも実験的な取り組みを行っている。地域競争で後れを取らないためにも、早い制度確立が必要だ。

イスラム銀行法の施行に合わせて税制も改正される。利益分配型預金の配当(従来型銀行の預金金利に相当)への課税免除や、売買取引を介在させる融資にかかわる付加価値税の二重課税防止が定められた。また、中央銀行に5名の専門家によるイスラム金融評議会の設置も決定した。イスラム銀行に関する法律の導入は、単なる象徴的なセレモニーではなく、実際に市場を形成・運用するための実務的なものであると、地元メディアは紹介している。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

【イスラム金融の基礎知識】第590回 パキスタンの湾岸資本のイスラム銀行の現状

第590回 パキスタンの湾岸資本のイスラム銀行の現状

Q: パキスタンのアル・バラカ銀行の現状は?

A: 湾岸諸国に本社があるパキスタンのイスラム銀行のトップが、パキスタンでの現状について地元メディアに語った。

インタビューに応じたのは、パキスタン・アル・バラカ銀行のムハンマド・アティフ・ハニーフCEOだ。アル・バラカ銀行は、バハレーンに本社を構えるグローバルなイスラム銀行グループで、パキスタンには1991年に進出し、現在は国内に200近い支店を構えている。2022年にCEOに就任したムハンマド氏は、まずは社内改革として従業員の福利厚生に力を入れた。中でも、従業員の家族がタカフル保険に加入できるようにした結果、従業員のやる気が高まり、このことが顧客や株主との良好な関係構築に繋がったとしている。

同銀行は、国と国民が置かれている経済状況に基づいてビジネスを展開している。例えば輸出業者に対し、オンライン・セミナーを実施するなどして関心をもらうことで、貿易の拡大に繋げようとしている。また、パキスタン初となるハラール産業会議を主催したり、ロンドンで開催されたハラール産業イベントでは国内輸出業者の支援を行うなど、この分野の発展と貿易金融の業務拡大を目指している。

個人向けについても、ハッジの民間事業者向けのプラットフォームを構築したことで、市場のシェアを2年間で18%から60%に拡大した。またUAEへの出稼ぎ・移住者が増加している状況を踏まえて、デジタル・バンキングや海外送金に力を入れている。

世界銀行の2024年の統計によれば、パキスタンの人口およそ2.5億人のうち、成人の銀行口座保有率は27%にとどまっており、国内にはおよそ1億人の非保有者がいることになる。CEOによれば、これは潜在的な市場拡大の余地であるとしており、この層にどう届くかが今後の発展のカギとなりそうだ。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第589回 損益共有型融資が成長のカギ

第589回 損益共有型融資が成長のカギ

Q: マレーシアのイスラム銀行で用いられている融資形態は?

A: マレーシアのイスラム銀行は債務型融資が中心であるため、損益共有型融資の拡大がカギとなる。バンク・ムアーマラート・マレーシアのチーフ・エコノミストは、メディアのインタビューでこう指摘した。

マレーシアのイスラム銀行でもっとも用いられている融資形態はタワッルク融資で、2025年12月時点で融資残高1兆0,207億リンギのうち64.8%を占めた。これは、イスラム銀行と借り手との間で物品を売買し分割払いを行う、いわば債務型融資である。他方、イスラム銀行と借り手の間の共同ビジネスの体裁で利益や損失を分配する損益共有型融資もある。このうちムシャーラカ融資の割合は8.3%、同型のムダーラバ融資に至ってはわずか2,028万リンギに過ぎない。融資額プラス利子で固定された金額の返済ではなく、ビジネスの利益や損失を借り手とイスラム銀行が分配しあうムダーラバ融資とムシャーラカ融資は、より大きなビジネスを目指す起業家精神を涵養する。

マレーシアで損益共有型融資が普及しない理由として、モハマド氏は3点を指摘している。一つ目は、イスラム銀行から融資の原資は預金であり、元本保証など安定的な運用を望む預金者は、借り手とイスラム銀行がリスクを共有する手法を好まない。二つ目は、借り手がビジネスを適切に行い、利益を正しくイスラム銀行に報告しているか、記録管理やガバナンスに対してイスラム銀行に膨大な負担がかかる。そして三つ目は、イスラム銀行のスタッフはそのような情報管理を得意としておらず、適切に行える人材が慢性的に不足している。

そのためマレーシアのイスラム銀行市場が拡大するための伸び代は、この損益共有型融資が拡大することであり、イスラム銀行側にスキルアップが必要だとモハマド氏は指摘した。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。