【イスラム金融の基礎知識】第551回:マレーシアのムスリムの投資傾向

第551回:マレーシアのムスリムの投資傾向

Q: マレーシアのムスリムはどのような投資傾向がありますか?

A: マレーシアのムスリムの約半数が投資を行っており、政府系の投資信託など比較的安全性の高い投資商品を好むことが、マレーシアのイスラム銀行の調査で明らかとなった。

調査を行ったのはホンリョン・イスラム銀行で、18歳から77歳までのマレーシア人ムスリム690名を調査対象とした。対象者のほとんどが月収1万リンギ以下で、マレーシアの月収の中央値に近かった。

調査結果によると、投資を行っているムスリムは47%で、投資対象の内訳は政府系の投資信託であるASBファンド、メッカ巡礼資金を運用するタブン・ハッジ、そして金への投資が中心となっており、これに続くのが株式投資と高額貯蓄口座であった。イスラム金融商品に対してはローリスク・ローリターンという認識が高く、実際に株式投資のような投機性の高い商品よりも投資信託といったものがムスリムから好まれる傾向が示された。

さらにムスリムの65%は、イスラム金融商品のみを選択している。これは、従来型金融商品のみ、あるいは従来型とイスラム式の両方を選択するムスリムは3分の1にとどまっていると示唆している。他方で、回答者の84%は豊かになりたいと思ってはいるものの、ファイナンシャル・プランを立てて文書化しているムスリムは23%にすぎないことも、同調査で明らかとなった。

この調査は学術調査ではないため、非ムスリムとの有意な違いを明らかにすることは目的にしていないものの、マーケティング調査として同銀行のイスラム金融商品のあるべき方向性は示している。同銀行の幹部は調査記録を踏まえた上で、イスラム金融商品がリターンを高めることで従来型銀行の商品と同じような競争力を持つ必要があることと、個人資産の運用についてのより適切な知識をムスリムにいかに提供できるかが重要であるとの認識を示した。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第550回:イギリスの三タイプのイスラム式住宅ローン

第550回:イギリスの三タイプのイスラム式住宅ローン

Q: イギリスのイスラム式住宅ローンで人気のタイプは?

A: イギリスでは、マレーシアと同様に銀行やノン・バンクからイスラム式で住宅ローンを組める。同国の情報サイトが、住宅購入プラン(HPP)と呼ばれる三つの主要な住宅ローンの特徴と違いを解説している。

イスラム金融機関は、銀行利子に代わり独自の方法を用いる。その際、伝統的な契約形態の名称がそのまま融資の呼び名に採用されている。HPPではムシャーラカ、イジャーラ、ムラーバハの三つの融資が主に用いている。

もっとも多く利用されている手法が、ムシャーラカ契約に基づくHPPだ。これは、まず初めに金融機関と利用者が住宅を共同購入し、その後利用者が金融機関の持分を分割で買い取ることにより、完済後に住宅は利用者のものになる。共同購入時に住宅価格の一部を利用者が負担することで、結果的に頭金として機能するが、住宅価格の5%から20%を利用者が最初に支払うのが標準的とされる。

次に利用されるのがイジャーラ契約に基づくHPPだ。これは、イスラム金融機関が購入した住宅を利用者にリースするもので、利用者からみれば賃貸に相当する。この方法では、利用者は対象住宅を所有できない。ただし、賃貸期間後に中古住宅として利用者が買い取ることも可能である。この方法は、マレーシアではAITABと呼ばれている。

3番目の方法がムラーバハ契約に基づくHPPだ。これは、イスラム金融機関が住宅を購入し、購入原価に金融機関の利益を上乗せした価格で、利用者に割賦販売を行う方法である。イギリスでは、この方式は商業用地・不動産開発に用いられる一方、個人向け住宅で用いられることは多くないという。

イギリスではムシャーラカ融資が主流だが、マレーシアではムラーバハ融資が中心だ。同じ東南アジアでも、インドネシアではどちらかといえばイギリスに近い。国や地域によって、考え方や特性に差があるようだ。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第549回:インドネシアの有力イスラム団体が巨額資金を移動

第549回:インドネシアの有力イスラム団体が巨額資金を移動

Q: ムハマディアの動向がインドネシアのイスラム銀行市場で注目を集めているようですが?

A: インドネシアの有力イスラム団体が1,200億円以上の預金を特定のイスラム銀行から引き上げたことに、注目が集まっている。社会貢献活動を活性化させ、イスラム銀行の買収や新銀行設立も取り沙汰されている。

今回の騒動の中心は、インドネシアで2番目に規模が大きいイスラム団体であるムハマディアだ。ムハマディアは、1912年設立の近代改革派グループで、1926年に設立された最大の保守派団体ナフダトゥル・ウラマーにつぐ勢力である。ムハマディアは、社会活動に力を入れており、数多くの学校や病院を運営していることで知られている。

そのムアマディアが6月、インドネシア最大のイスラム銀行であるバンク・シャリア・インドネシア(BSI)から、約13兆ルピア(約1,265億円)の預金を引き下ろして、他のイスラム銀行に分散させたことが明らかになった。BSIの2024年第1四半期の財務諸表によれば、同行が引き受けていた預金残高は70兆ルピアであることから、実にその18%が引き下ろされた計算になる。

今回の措置の理由についてムハマディア関係者によれば、一つは預金を集中させることで生じるリスクを分散させることと、もう一つは代わりに預金を引き受けた他行が融資を積極的に行うことで、多様な社会貢献が行なえるとしている。またこの措置は、BSIが2021年に合併した当時から検討していたとしている。

インドネシア金融庁(OJK)は7月、ムハマディアがより直接的に銀行業に参画できるよう、銀行買収や新銀行設立を支援することを明らかにした。13兆ルピアは、イスラム銀行の総資産トップ10入りできる規模である。巨大な資金を持つイスラム団体が自ら銀行を運営するという、新しい局面も視野に入りそうだ。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

【イスラム金融の基礎知識】第548回:インドネシア最大のイスラム銀行、ハラル・イベントを開催

第548回:インドネシア最大のイスラム銀行、ハラル・イベントを開催

Q: インドネシアのイスラム銀行が主催するハラル・イベントとは?

A: 6月20日から23日にかけて、ジャカルタ・コンベンション・センターでハラル産業の国際見本市が開催された。主催したのは、2021年に三つの国営イスラム銀行が合併して誕生した、同国最大のイスラム銀行であるバンク・シャリア・インドネシア(BSI)だ。

「BSI国際エキスポ2024」と題した国際見本市は、食品などハラル産業の企業ブース出展やファッションショー、研究者や実務家、政治家らのディスカッションなどから構成されており、マレーシアのMIHASと似通ったイベントだ。

開会式に登壇した国営企業省のカルティカ・ウィルジョアトモジョ副大臣(合併に携わったマンディリ銀行の元社長でもある)は、スピーチの中でBSIが合併後様々な成果を上げていることを強調した。例えば、同社の時価総額が79億米ドルとなり、世界のイスラム銀行トップ10入りしたと明らかにした。また国内の上位5行のうち、イスラム銀行はBSIのみであるとした。2023年の経営状況は、総資産が353兆ルピア、純利益は5.7兆ルピアであった。

同副大臣は、BSIがインドネシア社会へ貢献していることも強調した。例えば2023年にBSIは2,220億ルピアのザカート(制度的喜捨)を提供したが、これは国内最大の拠出者であった。他方、サウジアラビアへの支店開設をすすめており、開業すればメッカ巡礼者に対してよりきめ細やかなサービスを提供できるとしている。また今回のようにハラル産業に属する企業を招いてのイベントを開催することで、インドネシアをハブとするハラル・バリュー・チェーンを世界に広げることができると、今回の見本市の意義を称賛した。

イベントの様子は、BSIの公式YouTubeチャンネルで閲覧することが可能だ。ファッションショーやトークショー、会場内の様子を確認することができる。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第547回:イスラム金融とESG投資の関係性

第547回:イスラム金融とESG投資の関係性

Q: イスラム金融とESG投資はどのように結びついていますか?

A: 民間企業は利潤を追求することを目的とする存在ではあるが、健全な社会の一員としてふさわしい振る舞いが期待される。特に金融機関の場合、融資が様々な企業や産業に与える影響力は大きい。したがって、適切な融資のあり方が社会にとって適切であるかが重要となる。

企業の社会的責任(CSR)に応じた社会的責任投資(SRI)に始まり、特定の価値観や倫理観に基づいた投資信託の誕生、また最近は環境・社会・ガバナンスに重点を置くESG投資に関心がもたれている。この点について、イスラム金融は価値観の相違にどう折り合いをつけているだろうか。

ESG投資とは、「環境や社会に配慮して事業を行っていて、適切なガバナンス(企業統治)がなされている会社に投資」(MUFG公式サイト)することと説明される。したがって、どのような活動が適切な環境・社会への配慮なのかは、その社会がもつ価値観に影響を受ける。多民族・多宗教社会であるマレーシアは民族間の融和が国是であるため、調和のある社会作りを目指す活動にコミットすることが、適切なESG投資となるだろう。

他方でイスラム金融は、イスラム法(シャリア)に基づいてビジネスが行われる。そのためマレーシアのイスラム銀行とはいえ、宗教の調和を唱えてキリスト教の教会や仏教の寺院の建設費用に対する融資を行うのは難しいだろう。ただ、ギャンブル・売春・武器といった社会秩序を乱しかねない企業の活動への融資は行わない。その意味では、より良い社会づくりのあり方のある側面はイスラム法と矛盾しないと言えよう。

マレーシアでは、証券員会を中心にサステナビリティ・レポーティング・フレームワークを5月に導入するなど、ESG投資に関心を向けている。イスラム金融機関もこれら基準をイスラム法と矛盾しない範囲で適応していく必要があるだろう。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第546回:イオン銀行(M)、マレーシアでデジタル・イスラム銀行業として開業

第546回:イオン銀行(M)、マレーシアでデジタル・イスラム銀行業として開業

Q: マレーシアのデジタル・イスラム銀行とは?

A: イオン・グループ傘下でイオン銀行のマレーシア現地法人(以下、イオン銀行(M))が、同国初のデジタル・イスラム銀行として5月に開業した。日系の金融機関がイスラム諸国でデジタル・イスラム銀行を手掛ける貴重な事例といえる。

マレーシア中銀は、金融サービス法とイスラム金融サービス法に基づき、実在の店舗を持たずすべてオンライン上で手続きが完結するデジタル銀行の導入に向けて、2010年代から慎重に手続きを進めていた。この第1弾として2021年にライセンス取得を希望する金融機関を募集したところ、29件の申請があった。審査の結果、三つの従来型式デジタル銀行と二つのイスラム式デジタル銀行のライセンス発行が2022年4月に認めた。このうち、イスラム・デジタル銀行の資格を取得した金融機関の一つがイオン銀行(M)を中心とするコンソーシアムだ。なお、もう一つのデジタル・イスラム銀行の資格を取得したKAF投資銀行は、現在開業に向けて縦鼻中である。

イオン銀行(M)側も、業務開始に向けて慎重な手順を踏んでいった。まず、2022年12月付でラジャ・テー・マイムナ氏を最高経営責任者(CEO)に迎えた。彼女は、AM銀行や公務員年金基金(KWAP)などでイスラム銀行業務を手掛けた経験の持ち主だ。また、開業にあたり1,800人以上が参加したベータテストを12週間にわたって実施し、システムなどの開発・改善に努めたようだ。開業当初は個人向けの預金や送金などから始め、2025年には企業向け融資を開始する予定であるという。

イオン銀行(M)は、マレーシアのイスラム金融の業界団体であるマレーシア・イスラム銀行・金融機関協会に名を連ねている。なおCEOによれば、顧客はムスリムだけでなく全てのマレーシア国民に門戸を開くとしており、国内消費者から幅広く受け入れてもらうことを目指す。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第545回:イスラム銀行の普及のカギとなるデジタル銀行

第545回:イスラム銀行の普及のカギとなるデジタル銀行

Q: イスラム式のデジタル銀行の意義は?

A: 前回(544回)は、イスラム銀行の普及に関する若者世代を対象としたアンケートについて取り上げた。その中でイスラム銀行が身近にあるかどうかが重視とされることを指摘したが、重要なのは街の銀行とともに、オンライン銀行やネット銀行、デジタル銀行といったパソコンやスマートフォンで利用できる銀行の存在である。

2024年からマレーシアでイスラム式のデジタル銀行をてがけるイオン・ ファイナンシャル・サービスは、今年1月のニュースリリースの中で「店舗を持たない銀行であり(中略)アプリ等を通じて(中略)一連の工程が完結する金融サービスを提供」する銀行としている。マレーシアでは、五つの従来型銀行とイスラム銀行が順次開業することになっており、銀行の利用率のさらに高まることに期待がかかっている。

他方イギリスでは、何らかの形でインターネットにて利用可能な銀行は、およそ100行は存在するとみられているが、このうちイスラム式のデジタル銀行の有力4銀行が知られている。すなわち、カタール資本のアル・ラヤン銀行とカタール・イスラム銀行、およびクウェート資本のゲートハウス銀行とノモ・バンクである。これらの銀行はデジタル銀行という点で共通しているものの、個人向けに特化した銀行や企業向け融資を行う銀行、預金だけでなく不動産や債券などを対象とする投資型預金を行う銀行、英ポンドだけでなく米ドルやユーロ建で預金ができる銀行、そしてアプリから海外送金ができる銀行など、それぞれの特性に合わせた個性的な銀行となっている。

デジタル銀行が身近になるには、インターネットとデバイスの普及が必須となるが、近年はいずれの国でも大幅に高まっている。様々な金融商品・サービスの提供や、色々な方法でアプローチできるアクセス方法などの多様性が、イスラム銀行の普及につながると言えるだろう。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第544回:Z世代、イスラム銀行に高い関心も課題が浮き彫り

第544回:Z世代、イスラム銀行に高い関心も課題が浮き彫り

Q: Z世代のムスリムはイスラム銀行をどうとらえていますか?

A: Z世代の若いムスリムは、イスラム銀行に高い関心を寄せるも利用方法がわからなかったり、本当にイスラムに準拠しているか疑いの目も向けている。最新のアンケートからこのような姿が浮かび上がった。

アンケートを実施したのはドイツのデジタル金融サービスのマンブー社だ。イギリス・南アフリカ・UAE・インドネシア・マレーシア・サウジアラビアの6カ国の16-40歳のムスリムに対して、イスラム銀行に対する意識調査を行いレポートとして公表した。

これによると、85%のムスリムがイスラム銀行の利用をしたいと考えており、うち20%はいかにアクセスが困難であろうと試してみたいと考えている。他方、39%はどこにイスラム銀行があるかわからず、28%はどうアクセスしていいかわからないと答えている。

これは身近に支店が存在するかという点と、オンラインでの利用が可能かという点がかかわる問題だ。例えばインドネシアでは、マレーシアほど街中の支店数は多くない。他方、イギリスでは、オンラインのデジタル・イスラム銀行が2021年に登場したことで身近とない、従来型銀行を利用するムスリムの31%が、イスラム銀行に切り替えたいとしている。

Z世代は、イスラム銀行がどのようにイスラムに準拠しているのか、という点にも関心を抱いている。このことを証明するためも、回答者の25%がイスラム銀行はより多くの情報提供をすべきと答え、さらに18%は適切に準拠していないのではとの疑いを抱いている。ムスリムの82%は、自分たちの預金がイスラム銀行を通じて世の中に適切な投資に用いられることを望んでおり、宗教的倫理観を高く持っている。だからこそ、イスラム銀行に向けられる懸念を払拭することが、イスラム銀行の課題と言えよう。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第543回:マレーシアの銀行、フィリピンのイスラム銀行市場に関心

第543回:マレーシアの銀行、フィリピンのイスラム銀行市場に関心

Q: メイバンクがフィリピンのイスラム銀行市場に関心を寄せているようですが?

A: フィリピンのイスラム銀行市場の整備・開放が加速しようとしている。フィリピン中央銀行が4月17日(水)に明らかにしたところによると、現在同国内でのイスラム銀行業ライセンスの取得に関心があるとして、マレーシアのメインバンクと、名前は明らかにしなかったもう1行の計2行と交渉を行っていることを明らかにした。

フィリピンのイスラム銀行市場をめぐっては、2019年に施行されたイスラム銀行法によって民間にも市場が解放、これを受けてマイクロ・ファイナンスを手掛ける地元資本の金融機関が、今年2月にカード銀行を創業、イスラム銀行業務を開始したばかりだ。

フィリピン中央銀行でイスラム金融部門を担当するアリファ・A・アラ総裁補佐によれば、多くの金融機関からライセンスに関心を持たれているが、実際に交渉を進めているのはこの2行であるとしている。条件について詳細を詰めている段階で、正式なライセンス取得のための書類はまだ提出されていないものの、おそらく年内には提出される可能性がある、との見通しを示している。

メイバンクは、マレーシア資本の銀行で傘下にメイバンク・イスラミックというイスラム銀行を抱えている。イギリスの金融雑誌「ザ・バンカー」によれば、マレーシア国内のグループ全体のイスラム金融資産は657億米ドル(2022年現在)で同国最大、世界全体でも第5位の資産規模を誇る。アセアン各国に支店網をもつが、フィリピン市場には1997年に地元銀行を買収・改名する形で参入、現在は60支店を国内に構えている。

レモロナ中銀総裁も、この件に関連して「ミンダナオ島のバンサモロ自治区は銀行口座保有率が8%たらずであるため、(信仰に根差した)多くのイスラム銀行が必要である」と強調している。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

【イスラム金融の基礎知識】第542回:イスラム観光貿易博覧会が8月に開催、イスラム金融も参加

第542回:イスラム観光貿易博覧会が8月に開催、イスラム金融も参加

Q: イスラム観光貿易博覧会とは?

A: マレーシアの観光団体が、昨年に引き続いてイスラムに基づく観光と貿易の博覧会開催を発表した。イスラム金融も参加することでマレーシアが標榜するハラル・エコシステムを実体化する象徴的なイベントとなりそうだ。

第2回アジア・イスラム観光貿易博覧会(AITEX)の開催を発表したのは、マレーシア旅行会社協会(MATA。PWTCでMATTA Fairを開催しているマレーシア旅行業協会、MATTAとは別団体)である。世界各国が加盟するハッジやイスラム観光に関する国際機関などと共催で、セランゴール州のサンウェイ・リゾートで8月に開催するとしている。主催者によれば、この博覧会では業界関係者・企業、各国の観光局等がブース出展を行うとともに、観光業界やイスラム金融業界の会合も行なわれるとしている。

イスラムに基づく観光とは、ハッジやウムラといったメッカ巡礼、あるいはインドネシアのワリソンゴ(9名の聖者)の足跡をたどるような聖者廟参詣からなる聖地巡礼とともに、通常の観光ながら礼拝の時間と場所を確保したり、立ち寄るレストランがハラルであるなど、イスラムの教義に違反しないようアレンジされた観光を指す。

ムスリム向け観光を提供する観光業者は、イスラムの名を冠するビジネスを行う以上、従来型銀行ではなくイスラム銀行から融資を受けるべきとみなされる。その分融資の際には、ハラル産業のノウハウを蓄積しているイスラム銀行からアドバイスを受けることも可能だろう。イスラム金融は、単なる資金の出し手ではなく、知識・ノウハウやビジネスマッチングの紐帯としての役割も期待されている。イスラムの教義と信仰実践がビジネスや経済に結びつくハラル・エコシステムは、マレーシア政府が推し進めている経済のあり方だ。この考えを実践するための象徴的イベントといえるのが、この8月の博覧会だろう。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。