【従業員の勤労意欲を高めるために】第903回:中小企業の両利き経営(6)両利きとオープンイノベーション

第903回:中小企業の両利き経営(6)両利きとオープンイノベーション

前回は、両利きであることが一企業の短期的な売上に直接つながらないとしても、国全体、あるいは地球規模で取り組むことが合理的な場合があるというお話でした。今回からは、中小企業が両利きを達成するための条件について検討します。今回は、オープンイノベーションによる両利きについてです。

内部リソースの不足を克服し、両利きになるために、中小企業は外部リソースに依存する必要があります。外部リソースを活用したイノベーションは、オープンイノベーションと呼ばれます。オープンイノベーションの目的は、大企業と中小企業とで異なることが多く、大企業はパートナーの資産や能力を活用するためにオープンイノベーションを採用するのに対し、中小企業は内部資産の不足を補うためにオープンイノベーションに頼る傾向があります。中小企業は通常、財務および人的資本リソース、管理および技術スキル、ノウハウ等の重大な不足に悩まされており、そのため、ネットワーキングを、技術力を拡大する手段と見なしています。外部とのコラボレーションを活用することで、中小企業はイノベーション投資に関連するコストを削減し、イノベーションプロセスをうまく適応および再構成することができます。オープンイノベーションを含む外部組織との協働は、イノベーション活動のポートフォリオを拡大し、知識の補完性を高め、生産性を向上させるための優れたアプローチであり、ひいては中小企業のイノベーション能力にプラスの影響を与えます。オープンイノベーションを導入することで、中小企業は既存の能力、資源、組織構造を活用し、既に信頼されている関係ネットワークを強化し、財務的な利益を得ることができます。

特定の地域に関心を持たず、最適な立地を求めて移動する多国籍企業とは対照的に、中小企業は、歴史的に特定の場所や地元住民と何世代にもわたって結びついていることが多いようです。例えば、世界的なドイツ中小企業の 70% が拠点を置く BW 州、バイエルン州、ノルトライン=ヴェストファーレン州の中小企業は、影響力のある特定の地域のソーシャルキャピタルの文脈に根ざし、周辺のコミュニティ、企業、大学とのつながりを活用して国際市場に効果的に参入しています。このように、中小企業は、地域ネットワークを活用してオープンイノベーションを実施できるという点で有利である可能性があります。例えば、タイの 6 つの地域の中小企業 615 社を対象とした研究では、オープンイノベーションの実施と両利きのイノベーションの実践との間に有意な正の相関関係が見つかり、オープンイノベーションの採用が両利きのイノベーションを強化できることを示唆しています。

しかし、オープンイノベーションはしばしばオーケストレーションを伴います。オープンイノベーションを展開するコストは、特に資金が限られている中小企業にとって重要な考慮事項です。オープンイノベーションは、内部資産の損失リスク、代理店コストと取引コスト、パートナーシップの管理コストを伴います。ヨーロッパの中小企業377社を対象とした調査の結果によると、オープンイノベーションは、少なくとも短期的には中小企業にとってコストがかかることが明らかになっています。

 

Kokubun, K. (2025). Digitalization, Open Innovation, Ambidexterity, and Green Innovation in Small and Medium-Sized Enterprises: A Narrative Review and New Perspectives. Preprints. https://doi.org/10.20944/preprints202504.0009.v1

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

プロトン、供給業者への未払金めぐり法廷闘争に

【クアラルンプール】 プロトン・ホールディングス傘下のプルサハーン・オートモビル・ナショナル(プロトン)は、202万リンギの未払金を巡って長年のサプライヤーであるUCMオートモーティブ・システムズとの間で法廷闘争となっている。経済紙「エッジ」が報じた。

プロトンにエアコン部品とトランスミッションクーラーを供給しているUCMは、2024年7月、プロトンに対し未払い請求書、利息、その他の費用として431万リンギの支払いを求める法定請求書(債務者に一定期間内の支払いを求める正式な文書)を提出した。こうした文書の提出は通常、債務が完済されない場合に債権者が債務者に対する清算を申し立てる前に行われる最初の法的手続きだという。

UCMがプロトンを相手取って裁判所に破産手続の開始を申し立てる構えを示しているのに対し、プロトンは欠陥部品が納品されたことなどを理由にUCMの主張する請求額に異議を唱え、裁判所が実際の債務額を決定するまでの間の清算申立ての差し止めを申し立てた。

係争中にプロトンは一部の支払いを行い、UCMは一定の相殺を認めたため、当初の請求額は約55万リンギに減額されたが、UCMはその後、さらに147万リンギを請求額に追加した。

2025年2月、シャアラム高等裁判所は、プロトンによる清算手続き阻止に向けた申し立てを却下。プロトンが追加分の147万リンギを含め202万リンギの債務を負っていることを認めた上で、UCMに対して遅延支払いに対する年10%の利息を請求する権利を認めた。

両社の紛争は、プロトンとサプライヤー間の緊張が高まる中で発生した。2023年11月、77社で構成されるプロトン・ベンダー協会はプロトンに対して部品製造コストの上昇を訴えた上で、プロトンが部品代金の値上げを拒否していることを批判する書簡を送付。その後、サプライヤーはプロトンが約束よりも少ない部品しか発注しなかったと主張した。
(エッジ、6月27日)

新電気料金体系に基づき請求書の様式を刷新=TNB

【クアラルンプール】 政府系電力会社のテナガ・ナショナル(TNB)は、7月からの新たな電気料金体系に基づいて請求書の様式を刷新する。また、公式サイト「myTNB」で新旧の電気料金を比較できる計算ツールを提供するなど、透明性を高め、ユーザーが電気料金の構成をよりよく理解できるよう図っている。

TNBによると、エネルギー委員会が6月20日に発表した新料金体系に基づき、新たな請求書では電気料金の内訳を、発電料金と電力網利用料金、小売料金の3項目に分けて表示する。発電料金には、電力料金、自動燃料調整(AFA)、容量料金の3つが含まれるという。また電力網利用料金はインフラの保守など電気供給にかかる費用、小売料金は口座管理や請求書発行にかかる費用と説明している。

7月は移行期間として、旧料金体系に基づく6月30日までと、新料金体系に基づく7月1日以降の2つの異なる期間の使用料金を記載した請求書が発行される。myTNBアプリか、公式サイトからユーザー自身で入手可能で、印刷された請求書は検針日から7営業日以内に届けられる。8月以降は完全に新請求書になる。

このほか新料金体系の主要なポイントとしては、「家庭用」と「非家庭用」という2区分と、電圧使用量に基づいて低電圧、中電圧、高電圧の3分類を設定。また「時間帯別料金(ToU)」制度として、料金が割安になるオフピーク時間を、土日の全日と平日午後10時―翌日午後2時(1日当たり計16時間)に拡大したほか、省エネインセンティブ(EEI)なども導入された。
(ビジネス・トゥデー、ベルナマ通信、7月1日)

ぴあがマラヤ大学との連携開始、言語学部の「花火大会」に協力

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 ぴあ(本社・東京都渋谷区)は、グローバルリージョン展開強化の一環としてマラヤ大学言語学部と連携していくことで合意覚書(MOU)を締結したと発表した。

まずは同大学主催イベントに対し、日本コンテンツの提供、出演者ブッキング、協賛営業、イベント運営支援等を通じて、日本文化の交流を行う。将来的には、ぴあが架け橋となり、日本とマレーシアの間での人材・文化交流を拡充していく予定。また、各国政府、文化機関、現地企業との連携なども視野に入れて活動を推進していく。

第1弾の取り組みとして、同大学の公認サークル「ジャパニーズ・クラブ・ユニバーシティ・マラヤ (JCUM)」が主催する学内イベント「花火大会」(6月28日開催)に協力名義で参画した。ぴあが落語協会、ホリプロインターナショナルの協力を得て、出演者をブッキング。落語家の柳家喬之助、林家楽一、歌手・作詞家の大木貢祐が登場し、それぞれ落語、紙切りといった古典芸能や、アニソンライブなど、日本ならではのカルチャーを披露した。

糖尿病重症化予防のセカンドハート、マレーシアで事業を展開

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 糖尿病重症化予防に取り組むセカンドハート(本社・京都府長岡京市)は6月30日、糖尿病による足切断をなくすことを目的とした足ケア管理アプリ「ステップライフ」が総務省の支援事業として採択されたと発表。今後、マレーシア社会保障機構(PERKESO)との連携など海外展開を加速させるという。

2019年創業のセカンドハートは、糖尿病に特化した予防事業を手掛けている。糖尿病の場合、神経障害や血流障害が発生し足にトラブルが出やすくなり、重症化すると切断が必要になる。日本では糖尿病患者約1000万人のうち年間約1万人が切断を余儀なくされている。このため同社は独自にアプリを開発し、足の状況を日々記録し、ケアにつなげている。

今回、このアプリを通じ、総務省の「安全性・信頼性を確保したデジタルインフラの海外展開支援事業」の地方枠に採択された。糖尿病が社会問題化しているマレーシアを皮切りに、官民連携体制を確立。英語やマレー語などアプリの多言語化や、現地の実情や文化的背景などを考慮した改良を図っていく。