【総点検・マレーシア経済】第523回  7月1日より売上・サービス税の課税品目拡大、紆余曲折を振り返る

第523回:7月1日より売上・サービス税の課税品目拡大、紆余曲折を振り返る

 

7月1日より売上税(Sales Tax)とサービス税(Service Tax)、いわゆるSSTの課税品目の拡大が行われます。これは、昨年秋の2025年予算の段階で予告されており、また当初5月1日より導入される予定が、業界の反対に実施が延期されていたものです。

 

マレーシアの税制は過去10年間で大きく変遷してきました。2015年4月にナジブ政権がSSTに代わって6%の物品・サービス税(GST)を導入しましたが、これが物価上昇への国民の不満を招きました。2018年、マハティール政権はGST廃止を公約に掲げて勝利し、同年9月にSSTを復活させました。この政策転換により、非課税品目が5,443品目に拡大され、国民負担は軽減されたものの、政府は年間220億リンギという大幅な減収に直面しました。

 

その後、財政再建への要請からGSTを復活させる提言が各所から出され、2024年の予算文書には「SSTよりGSTが優れている」という記事が掲載されたこともありました。しかし、アンワル首相は最低賃金が3000〜4000リンギになるまで、つまり、おそらくはあと10年程度はGSTを復活させることはないと明言しています。

 

そうはいっても財政は苦しいわけで、代替案としてSSTの税率引き上げ・課税対象品目の拡大が行われてきています。2024年にはサービス税が6%から8%に引き上げられました。ただ、飲食や通信、物流サービスなどの税率は6%のままとなっていました。

 

今回のSSTの課税品目拡大は図のようなものです。売上税は一部の「任意購入・非必需品(discretionary and non-essential goods)」について5%、10%の税率で新規に課税が行われ、サービス税については6つの新分野について新たに課税が行われることになりました。

2025年予算を読み返すと、売上税は194億リンギ(24年)→208億リンギ(25年)に、サービス税は215億リンギから260億リンギへの増収が見込まれています。売上税分が14億リンギ、サービス税分が45億リンギの増収見込みなので、サービス税の引き上げの方が3倍程度影響が大きいことが想定されています。

 

こうした方向性は、アンワル首相が就任当初から繰り返している「選択的補助金(Targeted Subsidy)」政策と整合的です。要するに、所得上位階層には補助金を与えず、逆に所得上位階層から税金を取る、ということになります。図にあるように、マレーシアが国として振興している教育サービスや外国人向けの民間医療についても増税となるため、産業政策的にはマイナスになりますが、そうであっても財政再建が重要、というスタンスであると捉えることができます。

 

世界経済が不安定で原油価格も軟調な中、2027年後半には総選挙が見込まれるため、アンワル政権は早いうちに補助金改革と税制改革を済ませたいと考えているはずです。それらが2025年で打ち止めになるのか、26年も続くのかは景気次第ともいえるでしょう。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

【イスラム金融の基礎知識】第570回 アンワル首相、タタールスタン訪問でイスラム金融を議論

第570回 アンワル首相、タタールスタン訪問でイスラム金融を議論

Q: アンワル首相の訪露の目的は?

A: アンワル・イブラヒム首相は、5月に4日間の日程でロシアを訪れた。この間、タタールスタン共和国で開催された国際フォーラムに参加し、イスラム金融やハラル産業などの分野での支援を表明した。

タタールスタンは、ロシア連邦を構成する国の一つで、人口およそ400万人のうち半数がムスリムである。2023年にロシアがイスラム金融制度を試験的に導入した四つの共和国の一つであり、ハラル産業のための16ヘクタールの工業団地「バルタチ」を2019年に建設するなど、この分野に力を入れている。

首都カザンでは、毎年「カザン・フォーラム」と題する展示会・講演会を開催している。これは、ロシアとイスラム諸国の経済連携の強化を目指して開催されるもので、今年で16回目の開催となった。マレーシアは、これまで閣僚級の人物を団長とする使節団が参加しており(本連載第446回参照)、今年はアンワル首相自らが一団を率いて現地入りした。フォーラムで講演を行ったアンワル首相は、この地域のイスラム経済の発展をマレーシアとして支援するという従来の約束を履行すると改めて表明した。

また、これに先だってアンワル首相は同国のルスタム・ミニハノフ首長(大統領)と会談を行った。この中でミニハノフ首長は、タタールスタンはイスラム銀行導入の試験対象地域であり、マレーシアから多くのことを学び最適な実践を採用して行きたいと表明した。対してアンワル首相は、イスラム金融やハラル産業について「議論する準備はできている」と答えた。また、タタールスタンには大きな潜在的な可能性があるので、多くの提案を行い協力して経済を発展させる必要がある点で一致した。

ハラル産業以外にも、今年の秋に両国の10代の若者200名による合同青年キャンプをクアラルンプールで開催する予定であるなど、多様な分野での関係構築を進めている。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

武田薬品など、デング熱の予防と管理の強化に向け地域連携

【クアラルンプール】 国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)と武田薬品工業は12日、デング熱の予防と管理の強化に向けた地域連携「デング熱に対する団結(UAD)」を発足したと発表。15日の「ASEANデング熱デー」に合わせ、啓発キャンペーンを展開するなど、今後取り組みを強化していく。

デング熱は気候変動などの影響もあり、世界的に拡大傾向で、特に患者の7割がアジアで占める。マレーシアだけでもこの約1年で1万4,310件が確認され、16人が亡くなったという。2030年までに死亡者をゼロにするという目標が掲げられている
UADは、▽実際に罹患した人や地域に対する「支援」▽対策に向けた政策提言や医師らとの連携などの「アドボカシー」▽予防に向けた啓発活動などの「教育」――という3つの戦略的柱で展開される。

武田薬品は昨年からマレーシアでデング熱ワクチンを販売しており、インド・東南アジア地域責任者のディオン・ウォーレン氏は「UADを通じ、デング熱の発生をより適切に予測、準備、対応できるよう取り組みを強化していく」とした。

また、紙おむつなどを手掛けるユニ・チャームも、ASEANデング熱デーに合わせ、同社の取り組みを発表。マレーシアでは、蚊を寄せつけない成分を含んだカプセル搭載の紙おむつを販売しているほか、低所得者層1,500人に対するアンチモス紙おむつの寄贈、デング熱を媒介する蚊の繁殖を防ぐために地域清掃活動を実施するなど、今後も同社として引き続き啓発活動に取り組んでいくとしている。
(フリー・マレーシア・トゥデー、6月11日、報道発表資料)

外国への直接投資が認可不要に、適格投資家プログラムを本格導入

【クアラルンプール】 中央銀行バンク・ネガラ(BNM)は12日、居住企業(国内で設立された企業)を対象にした適格居住投資家(QRI)プログラムの全面導入を発表した。外国への投資でマレーシア企業に柔軟性を与え、また国内外為市場の深化を促進する。

7月1日付で施行する。BNMは昨年4月に試験導入しており、既に10億米ドル超の資金がマレーシアに送金される成果を上げた。QRIでは、認定を受けた居住企業は外国への直接投資における手続きが簡素化され、一定の条件を満たせばBNMの事前承認が不要になる。

資格を得るには、企業は外国への投資で上げた収入をマレーシアに送金し、リンギに両替しなければならない。また良好な企業統治とBNM外為政策の順守が必須だ。プログラムの提供は28年6月末まで。

海外収入の送金を促す措置が導入されたのは24年4月で、リンギの下落を阻止するのが狙いだった。
(ビジネス・トゥデー、ザ・スター電子版、エッジ、6月12日)

サンウェイメディカルセンター、ゲノム医療サービスを開始

【クアラルンプール】 セランゴール州サンウェイ・シティのサンウェイ・メディカル・センターは12日、ゲノム医療サービスをスタートさせた。

サービスは、高度な遺伝子検査を通じ、遺伝性疾患や複雑な慢性疾患などに対する早期介入とより効果的なケアプランニングを目指すもの。解析対象を絞った全エクソームシーケンスと呼ばれる方法を導入し、コストや解析時間を抑えつつ、疾患の原因解明に重要な情報が得られるという。遺伝性がんリスクスクリーニングなども行われる。

センターでは「病気を治療するだけでなく、その先を見据え、マレーシアで世界最高水準の精密医療を通じ、患者それぞれのニーズとリスクに合わせた医療を提供していきたい」としている。
(ビジネス・トゥデー、6月12日)

キユーピー、100周年記念のマヨネーズコンテストなど展開

【クアラルンプール】 キユーピー・マレーシアは12日、マヨネーズの日本発売100周年を記念し、マレーシアでもマヨネーズコンテストなどの記念キャンペーンを展開すると発表した。

マヨネーズコンテストはマヨネーズを使った料理の写真や動画をSNSに投稿してもらう方式。期間は5月31日から8月24日までで、優秀作には日本旅行や限定ギフトなどが贈られる。

またシーフードレストランチェーンのフェイフェイクラブ(肥肥蟹海鮮飯店)ではキユーピーマヨネーズを使った限定メニューが提供されるほか、セランゴール州にある私立のセギ大学と連携し、学生が食品業界で実践的な経験を積むことができるようなスキル開発にも取り組むという。

キユーピーは2009年から、マラッカ州にハラル(イスラムの戒律に則った)認証工場を設立し、親しまれてきた。キユーピー・マレーシアの岡田慎平副社長は「食が人々や文化を繋ぐ力を持っていると信じており、100年の歴史を振り返りつつ、マレーシア市場への継続的なコミットメントを再確認する機会」と述べた。
(ニュー・ストレーツ・タイムズ、6月12日、報道発表資料)