第908回:中小企業の両利き経営(11)財政的制約と経営の専門知識

前回は、デジタル化により高度人材の日常業務の負担が軽減されることで、新しいアイデアの生成やイノベーションが刺激される可能性があることを述べました。

関連して、302社のオンライン小売業者を対象とした研究では、人工知能(AI)によるデジタル従業員の導入が、探索的および深化的なグリーン・イノベーションの双方にプラスの影響を与え、その結果として将来の持続可能なイノベーション・パフォーマンスを高めることが示されました。AI技術の急速な進歩に伴い、関連技術に精通したデジタル従業員は、イノベーション・プロセスの変革や、組織内外でのネットワーク構築において、ますます重要な役割を果たすようになると考えられます。

このように、デジタルインフラのような多用途で費用対効果の高いリソースを活用する能力は、一般的に資源制約に直面している中小企業にとって特に重要です。しかし、中小企業はしばしば財務的制約に直面しており、そのような障害は革新的な活動への投資に深刻な課題をもたらします。特に、限られた資金調達はデジタル化の実施における主要な障壁のひとつです。このことは、中小企業において資金調達の責任を担う人材の必要性を浮き彫りにしています。

財務資源を確保することで、企業は競争優位を構築するために必要なイノベーションに戦略的に投資することが可能になります。具体的には、財務の専門知識を持つ経営トップチームメンバーの任命、ソーシャルネットワークを通じた金融機関との関係構築、これにより資金アクセスを拡大し財務的制約を緩和する、といった戦略が不可欠です。中国の上場製造業中小企業1,303社を対象とした調査では、デジタル化は漸進的イノベーションよりも急進的イノベーションを強く促進し、さらに高度な教育を受けた従業員の存在や経営トップチームメンバーの財務的専門知識がこの関係を強化することが示されました。

 

Kokubun, K. (2025). Ambidextrous SMEs for a sustainable society. A narrative review considering digitalization, open innovation, human resources and green innovation. Next Research, 100839. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S3050475925007067

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)