第909回:中小企業の両利き経営(11)グリーン・イノベーションとオープン・イノベーション

前回は、財務資源を確保することで、企業は競争優位を構築するために必要なイノベーションに戦略的に投資することが可能になるというお話でした。今回は、グリーン・イノベーション(地球に優しい技術に関するイノベーション)とオープン・イノベーション(様々な主体との協力によるイノベーション)の関係についてです。

グリーン・イノベーションは、オープン・イノベーションを促進する可能性があります。なぜなら、環境に配慮したビジネス戦略を追求するには、中小企業がそうした活動に関心と知識を持つステークホルダーと連携する必要があるからです。例えば、エクアドルの中小企業543社を対象とした調査では、自然、気候変動、汚染、生物多様性、原材料・水・エネルギーの無駄の削減といった環境保護への取り組みは、外部の情報源(顧客、研究機関、ネットワーク、大学など)からの知識獲得、従業員の研究開発への参加、特許やロイヤリティの活用、競合他社との相乗効果やパートナーシップの形成といったオープン・イノベーション活動を促進し、イノベーションのパフォーマンスを高めることがわかりました。

一方、インドネシアの中小企業を対象とした調査では、オープン・イノベーションは多様なステークホルダーとの連携を促進することで、グリーン・イノベーションにプラスの影響を与える可能性があることが示されました。関連して、マレーシアの中小企業345社を対象とした調査の結果は、中小企業がオーケストレーションを通じて持続可能性と競争力のトレードオフに対処できる可能性を示唆しています。さらに、290人の中国企業幹部を対象とした調査に基づく研究では、社内の情報共有と社外との連携を強化することが環境イノベーションの促進に不可欠であると結論付けられています。

グリーン・イノベーションとオープン・イノベーションが相互に強化し合う正のフィードバック・ループを形成することで、企業の両利き能力や持続可能性が高まることが期待できます。

 

本連載記事に関係する論文が、以下のURLから全文無料でアクセス可能です(2025 年 11 月 13 日まで)。

https://kwnsfk27.r.eu-west-1.awstrack.me/L0/https:%2F%2Fauthors.elsevier.com%2Fa%2F1lqFZArcH5v%257EhR/1/010201997bdd92dc-2f55d85f-3f6a-4e09-a50f-d2029cba34fb-000000/-j2abMH3tXcKZD4AoMaphgExEJk=445

Kokubun, K. (2025). Ambidextrous SMEs for a sustainable society. A narrative review considering digitalization, open innovation, human resources and green innovation. Next Research, 100839. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S3050475925007067

 

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)