
第913回:どのEQがどのCQを伸ばす? 日本人駐在員184名で判明した“感情的知性 → 文化的知性”の関係(後編)
前回からの続きです。分析の結果、次のことが明らかになりました。
- 他人の感情を読み取る力(他者情動評価)が、異文化に関わろうとする意欲(動機づけCQ) と文化に合わせたふるまい(行動CQ) を高める
→ 他人の気持ちに敏感な人ほど、異文化の人とも積極的に関わり、 柔軟に行動を変えられるということです。
- 自分の感情に気づく力(自己情動評価)が、メタ認知CQ(状況を振り返って理解を深める力) を高める
→ 自分の状態に気づける人は、 異文化での経験を振り返りながら改善できるという結果です。
- 感情を前向きに使う力(情動活用)と、感情を整える力(情動調整)が、
動機づけCQ(異文化に向き合う意欲) を高める
→ 落ち込んでも気持ちを立て直せたり、感情を整えたりできる人ほど、 異文化への挑戦を続けられることが示されています。
- EQの力は、性別や海外経験よりも強い予測力を持つ。性別、年齢、海外経験の長さ、 語学力など13項目を統制したうえでも、 EQの側面はCQの側面を有意に説明していました。
→ つまり「異文化で強くなる人」は、 必ずしも海外経験が長い人ではなく、「感情を理解し扱える人」 である可能性が示唆されます。
これらの結果から、赴任前研修で「他者の感情理解」「自己理解」「 感情の調整方法」などを鍛えることが、赴任後の異文化適応(意欲や行動の柔軟性)を高める可能性が高いことが分かります。どのEQを伸ばせば、 どのCQが伸びるのかが初めて明らかになったため、 人材育成や選抜をより効果的に行えるようになると期待されます。
本研究は、 EQの4つの力がCQの4つの力にどのようにつながるのかを初めて統計的に示した研究です。特に「他者の感情理解」「 感情の活用と調整」が、 異文化への意欲と行動に強く影響することが分かりました。 今後は研修や教育の中でEQを効果的に育てることで、 CQを高める新しいアプローチが可能になると考えられます。
Kokubun, K., Nemoto, K., & Yamakawa, Y. (2025).
What kind of emotional intelligence enhances what kind of cultural intelligence: Analysis using emotional and cultural intelligence facets of expatriates. International Journal of Intercultural Relations, Volume 110, 102332.
2026年1月16日まで、 以下のURLで全文をご覧いただけます。https://authors.elsevier.com/a/1mApwXTj0QRRa
| 國分圭介(こくぶん・けいすけ) 京都大学経営管理大学院特定准教授、 |