【総点検・マレーシア経済】第530回 8月の輸出は前年同期比1.9%増、駆け込み輸出終了か

第530回:8月の輸出は前年同期比1.9%増、駆け込み輸出終了か

9月19日、統計局はマレーシアの8月の輸出を前年同期比1.9%増の1316億リンギと発表しました。2024年後半から、マレーシアの輸出にはトランプ関税導入前の駆け込み輸出的な動きが現れ始めましたが、2025年7月31日にマレーシアについて19%の相互関税率が発表されたことで、駆け込み輸出は終了したものとみられます。

図1はマレーシアの輸出先上位3カ国であるシンガポール、米国、中国について月次の輸出額の推移をみたものです。第2次トランプ政権が現実味を帯びてきた2024年半ばから、マレーシアの米国向け輸出は大幅に増加してきました。2024年通年の米国向け輸出額は2008年以来16年ぶりに中国を上回り、2025年4月2日の相互関税率発表を控えた3月には前年同月比50.8%増と大規模な駆け込み輸出が見られました。

 

相互関税は基本税率である10%を除いて一旦延期され、8月から再び新たな相互関税が課されることになっていましたが、それを控えた7月には、米国向け輸出は3.8%増とそれほど増加しなかったのに対し、シンガポール向けの輸出が22.2%増と大幅に増加しました。

 

マレーシアの8月の輸出額を国別に見ると、シンガポール向けが1位で2.7%増、中国向けが2位で10.4%増であったのに対し、米国向けは16.7%減となり、2024年9月以来11カ月ぶりに輸出額が中国を下回りました。

 

マレーシアにとって気がかりなのは、半導体に対する高率の関税をトランプ大統領が繰り返しほのめかしていることです。最近では8月6日に、米国に輸入される半導体のほぼすべてに100%の関税を課すと発言し、8月15日には半導体関税を200%または300%にすると述べています。米国に工場を建設することをコミットした企業について関税を免除すると述べており、マレーシアから米国への半導体輸出の3分の2程度は関税免除になるものと思われますが、当然影響はゼロではありません。

図2は半導体を含む電子・電機製品の輸出額の推移を過去3年間についてみたものです。2024年12月頃から輸出の増加が見られ始め、2025年3〜4月、さらに7月には駆け込み輸出とみられる大幅な増加がありました。しかし、8月には一旦落ち着いています。

 

今後も、半導体に対する高率の関税、さらに40%の関税が課されることになっている積み替え輸出(Transshipment)に関する米国の規制次第では、再び大規模な駆け込み輸出が発生する可能性は残っています。ただし、7月31日に相互関税率が正式に発表されたことで、駆け込み輸出は一旦は収まったものと考えられます。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

【従業員の勤労意欲を高めるために】第908回:中小企業の両利き経営(11)財政的制約と経営の専門知識

第908回:中小企業の両利き経営(11)財政的制約と経営の専門知識

前回は、デジタル化により高度人材の日常業務の負担が軽減されることで、新しいアイデアの生成やイノベーションが刺激される可能性があることを述べました。

関連して、302社のオンライン小売業者を対象とした研究では、人工知能(AI)によるデジタル従業員の導入が、探索的および深化的なグリーン・イノベーションの双方にプラスの影響を与え、その結果として将来の持続可能なイノベーション・パフォーマンスを高めることが示されました。AI技術の急速な進歩に伴い、関連技術に精通したデジタル従業員は、イノベーション・プロセスの変革や、組織内外でのネットワーク構築において、ますます重要な役割を果たすようになると考えられます。

このように、デジタルインフラのような多用途で費用対効果の高いリソースを活用する能力は、一般的に資源制約に直面している中小企業にとって特に重要です。しかし、中小企業はしばしば財務的制約に直面しており、そのような障害は革新的な活動への投資に深刻な課題をもたらします。特に、限られた資金調達はデジタル化の実施における主要な障壁のひとつです。このことは、中小企業において資金調達の責任を担う人材の必要性を浮き彫りにしています。

財務資源を確保することで、企業は競争優位を構築するために必要なイノベーションに戦略的に投資することが可能になります。具体的には、財務の専門知識を持つ経営トップチームメンバーの任命、ソーシャルネットワークを通じた金融機関との関係構築、これにより資金アクセスを拡大し財務的制約を緩和する、といった戦略が不可欠です。中国の上場製造業中小企業1,303社を対象とした調査では、デジタル化は漸進的イノベーションよりも急進的イノベーションを強く促進し、さらに高度な教育を受けた従業員の存在や経営トップチームメンバーの財務的専門知識がこの関係を強化することが示されました。

 

Kokubun, K. (2025). Ambidextrous SMEs for a sustainable society. A narrative review considering digitalization, open innovation, human resources and green innovation. Next Research, 100839. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S3050475925007067

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

バティックエア、コタキナバル―仁川直行便を就航

【クアラルンプール】 バティック・エアは13日、コタキナバル国際空港(KKIA)と韓国ソウル・インチョン(仁川)を結ぶ直行便を就航した。

週3便の運航でKKIA発が水・金・日、インチョン発が月・木・土となっている。機材はボーイングB733-800型機を使用。スケジュールは往路の「OD822」便はKKIA発が午後11時10分、インチョン着が翌日の午前5時20分。復路の「OD823」便はインチョン発が午前6時20分、KKIA着が午前10時45分となっている。

バティック・エアの就航により、ソウル―コタキナバル間の便数は週25便から28便に増加した。

サバ州を訪問した韓国の観光客は今年1―7月に約10万3,060人を記録し、サバ州にとり韓国は最大かつ最も急速な成長市場となっている。昨年、サバ州を訪問した韓国人観光客は19万2,059人だった。
(ザ・サン、フリー・マレーシア・トゥデー、ボルネオポスト、ラクヤットポスト、9月13日)

第2四半期の国内観光客数、21年以降最多の7千万人超=統計局

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 統計局は18日、2025年第2四半期の国内観光に関する調査を発表。国内観光客数は7,375万人となり、2021年以降で最多を記録した。

観光客数は前年同期(6,844万人)から7.8%、前期(6,968万人)から5.8%それぞれ増加した。うち宿泊を伴った観光客は2,740万人で、前年同期比4.2%、前期比8.7%ともに増となった。

観光客の支出額は292億リンギで、前年同期(281億リンギ)から3.8%増、前期(294億リンギ)からは0.6%減となった。

観光関連産業の指標では、国内空港到着者数が前年同期から14.3%、前期から11.6%共にアップ。宿泊も前年同期比14.1%、前期比2.9%と共にプラスとなった。自動車用燃料販売は前年同期比5.5%、前期比2.8%それぞれ上昇した。一方、テーマパークは前年同期比で1.2%マイナス、前期比では3.6%のプラスだった。

QRコードによる出入国審査を22日から試験運用、陸路国境から

【クアラルンプール】 外国人を対象に含めたQRコードによる出入国審査の試験運用が22日から開始される。政府が整備を進めている「国家統合出入国管理システム(NIISe)」に基づくもので、シンガポールとの陸路国境から導入され、来年2月28日までの試験運用期間中にクアラルンプール新国際空港(KLIA)など国内の主要5国際空港でも順次拡大される見通しだ。

22日から試験運用が始まるのは、シンガポールとを結ぶ第1連絡橋(コーズウエイ)と第2リンクにある2カ所の国境検問所。両検問所では昨年から、マレーシア人のバスとオートバイ利用者に限り、「Myボーダーパス」というアプリを利用したQRコードによる審査がすでに行われており、対象を広げる形になる。

ただし、「Myボーダーパス」は試験運用期間中は使用可能だが、今後は新アプリ「MyNIISe」に移行。新アプリの大きな特徴として、1つのQRコードで複数人をまとめての入国審査が可能で、高速輸送システム(RTS)などでも利用が予定されている。審査手続きの大幅な迅速化や検問所の混雑緩和が期待されている。特に外国人はMyNIISeが推奨され、審査時にパスポートを見せる必要がなくなる。当面は、シンガポールや日本を含む63の国・地域の旅行者が対象になる見込み。

マレーシア政府は従来の出入国システム(MyIMMs)に代わる新システムの構築を2021年ごろから進めてきた。国家登録局や警察など関連機関のデータを統合し、人工知能(AI)や生体認証なども組み合わせ効率向上を図るもの。将来的にはビザ申請なども「MyNIISe」から可能になる予定だ。
(ニュー・ストレーツ・タイムズ、9月17日、マレー・メイル、9月18日)