【総点検・マレーシア経済】第541回 マレーシアの自動車市場に波乱の予感

第541回 マレーシアの自動車市場に波乱の予感

マレーシアの自動車市場は、長く第2国民車メーカーのプロドゥアが絶対王者として君臨してきました。2006年にプロトンを追い抜いて以来、実に20年連続(2006〜2025年)でブランド別販売台数トップの座を守り続けています。その快進撃を支えたのが、2005年に登場した大ヒットハッチバック「Myvi」でした。近年はセダンの「Bezza」が看板車種に成長し、「Axia」「Myvi」と合わせたプロドゥア3車種が車種別ランキングの上位を独占する構図が定着していました。

しかし、2026年1月の車種別販売台数データは、この「プロドゥア1強体制」の揺らぎを明確に示すものとなりました。メーカー別の1位はプロドゥア(26,130台)、2位がプロトン(19,833台)となり、その差が縮まっています。

車種別で首位に立ったのはプロトン・サガです。サガは1985年に誕生したマレーシア初の国民車であり、プロドゥアの台頭以前は販売ランキングの常連トップでした。2005年にMyviに王座を明け渡して以来、約20年ぶりの月間首位返り咲きとなります。

2位〜4位にはプロドゥアの主力車種が続きます。注目すべきは5位です。5位に入ったのは、プロトンのEVハッチバック「e.MAS 5」です。エンジン車が圧倒的に強いマレーシアの自動車市場において、EVが月間セールス上位5位に食い込んだのは史上初です。

プロトンは、2000年代から2010年代にかけて長い低迷期を経験しましたが、2017年に中国・吉利汽車(Geely)が49.9%の株式を取得して以降、明確に反転攻勢に転じました。特にEV分野での動きは素早く、2024年末に「e.MAS 7」を投入したのを皮切りに、2025年10月には小型EV「e.MAS 5」を発売しています。さらに2026年2月にはe.MAS 7のPHEVモデルも発売しました。いずれもGeelyのEVプラットフォームを活用しており、中国で培われたEV技術をマレーシア市場へ迅速に展開できるのが強みです。

一方のプロドゥアは、EVで完全に出遅れました。親会社のダイハツにはEVプラットフォームの提供能力がなく、オーストリアのマグナ・シュタイアと共同でゼロから独自開発した「QV-E」を2025年12月1日に発売しました。バッテリーをリース方式にした革新的なモデルですが、中国製部品の品質問題で生産が遅延しています。2026年2月初旬時点での予約台数はわずか205台に留まり、1月の登録台数はゼロでした。

マレーシア市場は、タイやインドネシアと比べてEVの普及率が低い状況です。これは、政府がEVの輸入に一定の規制をかけてきたためです。MITIのフランチャイズAP政策によりRM10万未満のEV完成車の輸入を事実上禁止し、2026年からはさらに新規ブランドのEV完成車輸入条件をRM25万以上に引き上げました。この保護政策もあり、BEVが市場全体に占める比率は2025年は約3.8%に留まりました。ただし2026年1月には、e.MAS 5の好調もあってEVシェアが9.2%へと急伸しており、流れは確実に変わりつつあります。

もしプロトンがタンジュンマリムの新EV工場を稼働させ、国内生産体制を本格的に整えれば、状況はさらに大きく動く可能性があります。プロトンは2026年の販売目標を20万台に設定し、市場シェア30%超を目指すと宣言しました。1月の勢いを見る限り、それは決して夢物語ではありません。マレーシアの自動車市場は、静かに、しかし確実に地殻変動を起こしつつあります。

 

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp