【従業員の勤労意欲を高めるために】第919回:善意を活かせない組織で、優秀な人ほど静かに去っていく ―あるボランティア経験者の体験談から考える、人の意欲を活かすマネジメント―

第919回:善意を活かせない組織で、優秀な人ほど静かに去っていく ―あるボランティア経験者の体験談から考える、人の意欲を活かすマネジメント―

前回は、コロナ禍での若者のキャリア意識の変化についてでした。今回は、あるボランティア活動の体験談から、組織のあり方を考えてみます。

ある自治体の市民マラソン大会で、救護ボランティアに参加した方から印象的な話を聞きました。

事前に説明会があり、それぞれの役割も決まっていました。当日は自分の役割をしっかり果たそうと準備して臨んだそうです。しかし、現場ではボランティアを束ねるスタッフが、事前に決められていた役割を十分に尊重せず、その場の判断で次々と指示を変えていきました。

結果として、自分が本来担当するはずだった仕事はほとんどできず、何となくその場にいるだけで終わってしまったそうです。

「役に立ちたいと思って参加したのに、何もできなかったのが残念だった」

その方は、仕事や家事で忙しい中、時間を縫ってこのボランティアに参加していました。そして帰宅後、「自分を大切にできなくてごめんね」と、自分自身に言いたくなったそうです。

このような出来事は、ボランティアの現場で決して珍しいものではありません。そして、ボランティアの輪が、一部の熱意ある人を超えて広がらない一因になっている可能性があります。

同時に、この話は海外の日系企業の現場でよく聞かれる声とも重なります。

日系企業は一般に、組織への貢献意欲が強い人材が多いと言われます。しかし一方で、「役割が曖昧である」「その場の判断で指示が変わる」「誰が何を決めているのか分からない」といった状況が生じることがあります。

そのような環境では、問題意識を持ち、自分の役割を果たそうとする人ほど違和感を抱きます。そして、声に出して不満を言うのではなく、静かに組織を離れていきます。

重要なのは、人材の意欲そのものではなく、それを活かすための運営です。

役割が明確で、その役割が尊重されているとき、人は自律的に動き、期待以上の力を発揮します。逆に、役割が軽視されると、意欲の高い人ほど「ここでは自分の力は必要とされていない」と感じてしまいます。

人材が定着しない理由は、必ずしも待遇や能力の問題ではありません。善意や意欲を活かせるかどうかは、現場のマネジメントのあり方に大きく左右されます。

海外拠点において人材の力を最大限に引き出すために求められているのは、「優秀な人を採用すること」だけではなく、「その人が役割を果たせる環境を整えること」なのかもしれません。

そして、良い仕事をしたいという気持ちに共感し、それを汲み取るためには、マネジメントの側が外的な評価や金銭的対価ばかりに目を向けるのではなく、「良い仕事をしたい」という内側の動機そのものに向き合い、共感する姿勢が求められます。

ボランティアと企業組織。一見すると別の世界の話ですが、人の意欲を活かすという点では、驚くほど共通しているのです。

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

【総点検・マレーシア経済】第540回 2025年12月の米国向け輸出激増の要因を探る

第540回 2025年12月の米国向け輸出激増の要因を探る

2025年12月のマレーシアの米国向けの輸出額は、前年同月比48.8%増の282億リンギとなりました。これは2024年11月の203億リンギを上回り、単月としての過去最高を大幅に更新しました。

この米国向けの輸出額の急増は何が要因になっているのでしょうか。表は2025年12月のマレーシアの米国向けの輸出について、輸出額上位10品目を示したものです。マレーシアの米国向け輸出で首位の常連であるIC(プロセッサ)を抑えて、HSコード847180「GPUカード」が首位に立っています。前年同月からの変化率はなんと59倍で、この品目だけで12月のマレーシアの米国向け輸出増加分の4割以上を占めています。その他も、上位品目は軒並み半導体・PC関連で、大きく輸出額が増加しています。

これはAIブームの一環であると言えますが、同時に米国の半導体についての通商拡大法232条の問題が関係しています。米国商務省は2025年4月から、半導体が米国の安全保障に与える影響について調査しており、270日以内にその結果が出ることになっていました。その期限が2025年12月下旬です。

実際、2026年1月14日、米国は商務省の報告に基づき、NVIDIA H200やAMD MI325Xなどの先端AI向け演算チップについて、米国内での使用をほぼ除外したかたちで、25%の関税を課すことを発表し、翌日から発効しました。これは、高性能AI半導体の中国向けの再輸出に対する事実上の課徴金という性格を持っています。

米国側の2025年12月の貿易データが発表されていないため、マレーシアから輸出されたGPUカードが米国内で使用するためのものだったのか、それとも中国への再輸出を念頭に置いたものだったかは明らかではありません。しかし、半導体に対して何らかの関税が導入されることは確実でしたから、それを避けるために駆け込みでGPUカードが大量に輸出されたというのが、2025年12月のマレーシアから米国への輸出急増の主な要因であると言えるでしょう。

 

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

 

【イスラム金融の基礎知識】第586回 タイとサウジアラビア、イスラム金融など分野で協力に合意

第586回 タイとサウジアラビア、イスラム金融など分野で協力に合意

Q: タイとサウジがイスラム金融の関係強化を図るようですが?

A: 1月にタイとサウジアラビアの経済閣僚が会談し、双方向での投資関係を強化することで一致した。注力する分野の一つとしてイスラム金融が含まれており、今後の発展が期待される。

報道等によれば、1月に世界経済フォーラムの年次総会(いわゆるダボス会議)にあわせて、タイのエクニティ財務相とサウジのハリド・アル=ファリーハ投資相が会談、二国間の資本移動と産業の協力を実行するための「双方向投資回廊」を正式に発足することを明らかにした。タイ政府は、2024年4月にリアドにタイ投資委員会の事務所を設立しており、これまでに11件の産業協定を締結するとともに、多くのビジネスを成立させた実績がある。同回廊発足にあたっては、サウジ政府が「ビジョン2030」として掲げている分野のうちタイに対して優先度が高い分野として、①自動車産業のサプライチェーン、②医療と公衆衛生、③イスラム金融の3分野を取り上げた。

タイのイスラム金融は、2002年にタイ・イスラム銀行が政府によって創設されて以来約20年の歴史があるものの、現在まで同行1行のみの状況だ。市場規模は30億米ドル弱で、同銀行はマレーシアの国境に近くムスリム人口が多い深南部各県に支店が集中している。イスラム金融を通じた二国間の関係強化の具体的な方策は、現時点では詳らかにはなっていない。考えられる方向性としては、一つは貿易金融業務にイスラム銀行が参入することによって輸出入を活性化させることが目的と考えられる。もう一つは、経済発展が遅れている深南部地域の振興のため、イスラム銀行を資金のチャンネルにすることでサウジの資金を活用することが考えられる。同じ東南アジアにおいてムスリムが少数派のフィリピンがイスラム金融に力を入れ始めている中、タイでも同様の動きがみられるといえよう。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

ラマダン入りは18日か19日の見込み、17日から月観測

【クアラルンプール】 今年のラマダン(断食月)入りについて、2月17日から月の観測が開始される。王室機関の統治者会議が12日、発表した。

ラマダンは、新月(月が見えない状態)が観測された翌日から実施される。天文計算(ヒサブ)に加え、全国29地点での目視(ルキヤ)の観測に基づき最終判断され、正式にラマダン入りが宣言される。

マラッカ州は先月、ラマダン初日になる可能性が高い19日を公務員の特別祝日にするとすでに発表。今年は18、19日のいずれかがラマダン初日となる見込みだ。
(ビジネス・トゥデー、ベルナマ通信、2月12日)

QRコード決済、インドと相互乗り入れ

【クアラルンプール】 銀行間決済システムのペイメンツ・ネットワーク・マレーシア(ペイネット)とインドのNPCIインターナショナル・ペイメンツは、QRコード決済の相互乗り入れで合意した。インドを訪問する旅行者は近々、QRコードを利用した支払いが可能になる。

第1段階ではマレーシアを訪問するインド人旅行者は、マレーシアの標準コードであるドゥイットナウQRを採用している店舗において、統合決済インターフェース(UPI)を利用した支払いが可能になる。UPIはスマホで支払い、送金ができる小口決済インフラ。NPCIインターナショナルの親会社で、決済システムを運営するナショナル・ペイメンツ・コーポレーションが開発した。

第2段階ではインドを訪問するマレーシア人は、商店などに備え付けてあるUPIのQRコードをスマホで読み取ることで、銀行アプリやeウォレットで支払いを済ますことができる。第1、2段階とも開始時期は明らかにされていない。
(エッジ、ザ・スター電子版、ベルナマ通信、ニュー・ストレーツ・タイムズ電子版、2月12日)

「経済や安全保障など二国間の関係を強化」=四方大使

【クアラルンプール】 四方敬之 駐マレーシア日本大使は11日、日本の「建国記念の日」に合わせたメディアブリーフィングを実施。経済や安全保障など二国間の関係を強化していく方針を明らかにした。

四方大使は、両国の貿易額は年間約1,500億リンギ程度で推移しており、過去5年間の累計額は8,000億リンギに達したと説明した。電気・電子製品に加え、特にエネルギー分野の重要性を強調。日本にとってマレーシアはオーストラリアに次ぐ液化天然ガス(LNG)の供給国であり、二酸化炭素回収・貯留(CCS)などの分野でも協力を推進していくとした。

また、高市早苗首相率いる自民党が総選挙で圧勝したことを踏まえながら、マレーシアをはじめとする東南アジア諸国連合(ASEAN)を重視する政府の方針を補足。地政学的観点から、マレーシアとの防衛協力を拡大すると言明した。

民間レベルでは、マレーシア国内の日本食レストランは現在約2,200店で、2年間で16%増加したと紹介。日本人留学生も急増しているとした。3月31日に「新日馬産業協力セミナー」を開催し、産業連携を支援していく。
(ニュー・ストレーツ・タイムズ、ベルナマ通信、2月11日)

パナソニック空質空調社、マレーシア拠点に太陽光発電を導入

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 パナソニックグループのパナソニック空質空調社は、工場のCO2排出量実質ゼロ化に向けた取り組みの一環として、マレーシアのパナソニックAPエアコンマレーシア(PAPAMY)で太陽光発電システムを大幅増強したと発表した。

今回の増強により、PAPAMY拠点全体の合計発電容量はパナソニックグループの自社拠点として最大級の9.2メガワット(MW)規模となった。今回の全面稼働により、年間発電量は合計で約1万338MWh(予測)、CO2削減量は年間で計約6,703トン(予測)に達し、拠点全体の全使用電力の約18%を太陽光発電で賄う見込みだ。

PAPAMYにはルームエアコン、業務用空調機器、ヒートポンプ式温水給湯暖房機(A2W)の生産工場と空調用コンプレッサーの生産工場があり、2024年11月に、エアコン工場で5.2MWのシステムを稼働させたのに続き、2025年6月よりコンプレッサー工場への追加導入に着手。2026年1月26日、新たに約4.0メガワット(MW)の発電システムによる電力供給を開始した。

パナソニックグループは、2030年までに全事業会社で自社拠点におけるCO2排出量の実質ゼロ化を目指しており、パナソニック空質空調社では、生産工程における消費エネルギー削減とエネルギーコスト合理化を推進している。

RON95ガソリン補助金、今年25億リンギの節減見込む

【クアラルンプール】 昨年9月に開始した「RON95」レギュラーガソリンを対象とした補助金合理化プログラムにより、今年は少なくとも25億リンギの補助金支出の節減を見込んでいる。アンワル・イブラヒム首相(兼財務相)が下院議会答弁で明らかにした。

新たな補助金制度「Budi95」下では、1日平均最大310万件、月間約9,600万件の「RON95」取引が行われている。同制度では補助金対象となるガソリンの毎月の上限が300リットルとなっているが、利用者の90%が月平均200リットル未満しか消費していないという。

アンワル首相は、従来の一括補助金は受給資格のない人々に利益をもたらすことが多かったと指摘し、長年にわたる財政漏洩を削減するため、補助金の段階的な対象化を実施してきたと強調。インフレを加速させ中流階級の生活費を押し上げる恐れがあったことから、貧困層への現金給付のみで燃料価格を全面的に自由化するという世界銀行の提言を採用しなかったと説明した。

「Budi95」によって浮いた財源は、貧困層向け生活費支援給付制度、「スンバンガン・アサス・ラフマ―(SARA=基礎的慈悲の寄付)」などの国民生活の支援に充てられる。
(ビジネス・トゥデー、マレーシアン・リザーブ、エッジ、ベルナマ通信、2月11日)

補助金なし「RON95」を2.54リンギで据え置き、2月12日から

【クアラルンプール】 財務省は11日、12―18日までの1週間の燃料小売価格を発表。レギュラーガソリン「RON95」の補助金なし価格は1リットル当たり2.54リンギで、前週の価格を据え置いた。

新燃料補助金制度「ブディ・マダニRON95(BUDI95)」適用外のハイオクガソリン「RON97」の価格も据え置き、3.10リンギとした。「BUDI95」適用価格も1.99リンギで据え置く。

一方、ディーゼルの小売価格については、「ユーロ5 B10」および「B20」は1リットルあたり2.96リンギから3セン引き上げ、2.99リンギとする。また「ユーロ5 B7」ディーゼルも3.19リンギとする。サバ州、サラワク州、ラブアンにおけるディーゼル燃料の小売価格は2.15リンギで据え置く。
(ニュー・ストレーツ・タイムズ、ザ・スター、ポールタン、2月11日)

米国のマレーシアに対する相互関税、交渉を継続中

【クアラルンプール】 米国のマレーシアに対する相互関税について、モハマド・ハサン外相は10日の下院審議で、米国と交わした覚書の具体的内容について、投資貿易産業省が米側と交渉を持っていると明らかにした。

モハマド・ハサン氏は「覚書は締結したが、特定の条件に関する交渉はなかった。条件について合意に至れば、批准手続きに進む」と語った。

米国はマレーシアに対する追加関税(相互関税)を当初の25%から19%へと6ポイント引き下げ、25年8月以降、実施している。モハマド・ハサン氏はまた、インドの外相から「米国との交渉は非常に厳しい」とのアドバイスを受けたことも明らかにした。

米国が60余りの鉱物を重要鉱物に指定し、重大な関心を表明していることについてモハマド・ハサン氏は「米国は最新テクノロジーに重要鉱物が必要であることに気付いた。技術面である国に後れを取っているため、重要鉱物をコントロールし在庫を積み上げるための同盟の構築を望んでおり、わが国に提案してきた」と説明した。
(ザ・サン電子版、エッジ、ザ・スター電子版、2月10日)