【従業員の勤労意欲を高めるために】第921回:強い職場は「上司」ではなく「同僚」で決まる

第921回:強い職場は「上司」ではなく「同僚」で決まる

前回は、企業の環境対応の話から、現実(深化)と理想(探索)の両利きの大切さを述べました。今回は、同僚間の助け合いについてです

海外子会社の経営において、従業員の組織コミットメントをどう高めるかは長年の課題です。一般には、上司のリーダーシップや待遇への満足度が重視されがちです。しかし実際の現場では、それと同じくらい、あるいはそれ以上に重要なものがあります。それが「同僚同士の支え合い」です。

今回紹介する研究では、中国にある日系製造業子会社20社を対象に、従業員4,439人の組織コミットメントの要因を分析しました。さらに、このデータを328の部門単位に集約し、「個人レベル」と「職場レベル」の両方から検討しました。

分析結果は興味深いものでした。個人レベルでは、上司支援、同僚支援、自律性、研修機会、待遇満足など、多くの要因が組織コミットメントと関連していました。これは従来の研究とも整合的です。

しかし、部門単位で集計した「職場レベル」の分析では、結果が変わりました。統計的に特に強く残ったのは、「同僚支援」と「自律性」の二つだったのです。つまり、個人の意識としては上司の支援も重要ですが、職場全体としての組織コミットメントを左右していたのは、同僚同士が助け合う雰囲気と、仕事の進め方に一定の裁量がある環境でした。

さらに分析を進めると、自律性の高い職場ほど同僚支援も高く、その同僚支援が組織コミットメントを高めるという関係が見られました。言い換えれば、「任せること」が「助け合い」を生み、その助け合いが職場の一体感を強めていた可能性があります。

この結果は、海外子会社のマネジメントにいくつかの示唆を与えます。従業員の意欲を高めようとするとき、上司が個別に動機づけを行うことはもちろん重要ですが、それだけでは十分とは言えません。むしろ、職場の中で自然に相談し合い、互いに支え合える関係をどう育てるかが、組織全体の強さにつながります。また、細かく管理するよりも、一定の裁量を与えたほうが現場の協力関係が生まれやすい可能性もあります。

海外子会社経営を考えるとき、「上司がどう指示するか」だけでなく、「同僚同士がどう支え合えるか」。その視点が、これからますます重要になっていくのではないでしょうか。

調査にご協力くださった方々に、この場を借りて心より感謝申し上げます。
論文情報は以下。2026年4月13日まで、末尾のURLから全文をご覧いただけます。

Kokubun, K., Ino, Y., & Ishimura, K. (2026). Coworker Support and Organizational Commitment in Overseas Subsidiaries: Analyses at the Individual and Workplace Levels. Strategic Business Research, 2(1), 100086.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S3051064326000385?dgcid=author

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

【従業員の勤労意欲を高めるために】第920回:環境対応は企業を強くするのか ―短期利益と地球の未来を両立する「両利き経営」―

第920回:環境対応は企業を強くするのか ―短期利益と地球の未来を両立する「両利き経営」―

前回はボランティア体験の話から、日本企業が抱える経営の問題に話を膨らませました。今回は、企業の環境対応についてです。

「環境対応は大事だとは思う。でも、それで本当に会社は儲かるのだろうか。」

ある中小企業の経営者が、そんな疑問を口にしたことがあります。脱炭素やSDGsが叫ばれる時代、企業にとって環境対応は避けて通れない課題になりました。しかし現場の経営者の本音は、もっと現実的です。環境対策はコストではないのか、利益に結びつくのか――。そうした疑問は決して珍しいものではありません。

近年、「エコ・イノベーション」という言葉が注目されています。これは、省エネルギー技術の導入や資源の再利用、環境負荷の少ない製品設計など、環境に配慮した技術や経営の革新を指します。環境と経済の両立を目指す取り組みとして、世界中で関心が高まっています。

そこで、日本の製造業の中小企業123社を対象とした調査を行ったところ、興味深い結果が見えてきました。エコ・イノベーションに取り組む企業ほど、新しい技術や市場に挑戦する「探索型」のイノベーションを進めていることが分かったのです。つまり、環境対応は企業に新しい挑戦を促す契機になっている可能性があります。

ところが一方で、企業の現在の業績と強く関係していたのは「探索」ではなく、既存技術を改善する「深化」でした。

この結果は、日本の中小企業の構造を考えると理解できます。多くの企業は大企業のサプライチェーンの中で、既存技術を改良しながら品質やコスト競争力を高めることで成長してきました。そのため、短期的な利益は既存技術の改善から生まれやすいのです。

しかし、ここで重要なのは視点の違いです。企業の短期的な利益という視点では、既存技術の改良が合理的かもしれません。けれども長期的に見れば、そして地球全体の視点から見れば、環境問題への対応は避けて通れません。

エコ・イノベーションは、必ずしもすぐに利益を生むとは限りません。しかしそれは、企業の新しい技術やビジネス機会を広げ、持続可能な社会に向けた変化を生み出す可能性を持っています。

では、企業は短期的な利益と長期的な環境対応を、どのように両立させればよいのでしょうか。

既存の強みを磨いて成果を出す「深化」と、新しい可能性を切り開く「探索」。
そして、その探索を支えるエコ・イノベーションを、短期の利益ではなく長期的・地球的視点で考えること。

そうした、いわば現実(深化)と理想(探索)の両利きこそが、これからの時代の経営を読み解く一つの鍵になるのかもしれません。

調査にご協力くださった方々に、この場を借りて心より感謝申し上げます。
論文情報は以下。末尾のURLから概要をご覧いただけます。

Kokubun, K. (2026). Eco‐Innovation as a Predictor of Ambidexterity and Performance in Small‐and Medium‐Sized Enterprises: An Empirical Study and a New Global Perspective. Business Strategy and the Environment, 35(1), 1112–1127.
https://doi.org/10.1002/bse.70227

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

【従業員の勤労意欲を高めるために】第919回:善意を活かせない組織で、優秀な人ほど静かに去っていく ―あるボランティア経験者の体験談から考える、人の意欲を活かすマネジメント―

第919回:善意を活かせない組織で、優秀な人ほど静かに去っていく ―あるボランティア経験者の体験談から考える、人の意欲を活かすマネジメント―

前回は、コロナ禍での若者のキャリア意識の変化についてでした。今回は、あるボランティア活動の体験談から、組織のあり方を考えてみます。

ある自治体の市民マラソン大会で、救護ボランティアに参加した方から印象的な話を聞きました。

事前に説明会があり、それぞれの役割も決まっていました。当日は自分の役割をしっかり果たそうと準備して臨んだそうです。しかし、現場ではボランティアを束ねるスタッフが、事前に決められていた役割を十分に尊重せず、その場の判断で次々と指示を変えていきました。

結果として、自分が本来担当するはずだった仕事はほとんどできず、何となくその場にいるだけで終わってしまったそうです。

「役に立ちたいと思って参加したのに、何もできなかったのが残念だった」

その方は、仕事や家事で忙しい中、時間を縫ってこのボランティアに参加していました。そして帰宅後、「自分を大切にできなくてごめんね」と、自分自身に言いたくなったそうです。

このような出来事は、ボランティアの現場で決して珍しいものではありません。そして、ボランティアの輪が、一部の熱意ある人を超えて広がらない一因になっている可能性があります。

同時に、この話は海外の日系企業の現場でよく聞かれる声とも重なります。

日系企業は一般に、組織への貢献意欲が強い人材が多いと言われます。しかし一方で、「役割が曖昧である」「その場の判断で指示が変わる」「誰が何を決めているのか分からない」といった状況が生じることがあります。

そのような環境では、問題意識を持ち、自分の役割を果たそうとする人ほど違和感を抱きます。そして、声に出して不満を言うのではなく、静かに組織を離れていきます。

重要なのは、人材の意欲そのものではなく、それを活かすための運営です。

役割が明確で、その役割が尊重されているとき、人は自律的に動き、期待以上の力を発揮します。逆に、役割が軽視されると、意欲の高い人ほど「ここでは自分の力は必要とされていない」と感じてしまいます。

人材が定着しない理由は、必ずしも待遇や能力の問題ではありません。善意や意欲を活かせるかどうかは、現場のマネジメントのあり方に大きく左右されます。

海外拠点において人材の力を最大限に引き出すために求められているのは、「優秀な人を採用すること」だけではなく、「その人が役割を果たせる環境を整えること」なのかもしれません。

そして、良い仕事をしたいという気持ちに共感し、それを汲み取るためには、マネジメントの側が外的な評価や金銭的対価ばかりに目を向けるのではなく、「良い仕事をしたい」という内側の動機そのものに向き合い、共感する姿勢が求められます。

ボランティアと企業組織。一見すると別の世界の話ですが、人の意欲を活かすという点では、驚くほど共通しているのです。

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

【従業員の勤労意欲を高めるために】第918回:不安な時代、人はまず何を求めるのか? ――コロナ禍で変わった若者のキャリア意識(後編)――

第918回:不安な時代、人はまず何を求めるのか?
――コロナ禍で変わった若者のキャリア意識(後編)――

前回は、コロナ禍で若者のキャリア意識が変化し、その方向性が都市と地方で異なっていたことをご紹介しました。今回は、その変化がどのように行動や意欲につながっていたのかを見ていきます。

分析の結果、地方大学の学生では、「働く条件」を重視する意識が、「職場の人間関係を大切にしたい」という意識と結びつき、それが地元で働きたいという志向を後押ししていました。

つまり、安心できる条件があり、信頼できる人間関係が想像できるとき、人はその場所にとどまり、関わろうとするということです。

ただし、ここで一つ重要な点があります。人間関係を重視する意識は、それだけでは自己成長や挑戦意欲には直結していませんでした。鍵となっていたのは、「社会からどう評価される仕事か」「誰の役に立つのか」という社会的意義の感覚です。

データが示していたのは、
働く条件人間関係社会的意義自己成長
という順序でした。

この結果は、企業の人材マネジメントにも示唆を与えます。不安定な環境下で、いきなり「挑戦しろ」「成長せよ」と求めても、人は動きません。

まず必要なのは、

・安心して働ける条件
・孤立しない人間関係
・自分の仕事が誰の役に立つのかという意味づけ

です。その土台があって初めて、内発的な意欲や挑戦が立ち上がります。

これは若手社員に限った話ではありません。変化の激しい時代において、勤労意欲を高める鍵は、能力や根性ではなく、順序にあるのかもしれません。

安心のあとに、意欲は生まれる。
その順序を無視しないことが、これからのマネジメントには求められているように思います。

 

調査にご協力くださった方々にこの場を借りて心より感謝申し上げます。

論文情報は以下。末尾のURLから全文をご覧いただけます。

Kokubun, K. (2025). During the COVID-19 Pandemic, the Gap in Career Awareness Between Urban and Rural Students Widened. Psychology International, 7(4), 103.
https://doi.org/10.3390/psycholint7040103

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

【従業員の勤労意欲を高めるために】第917回:不安な時代、人はまず何を求めるのか? ――コロナ禍で変わった若者のキャリア意識(前編)――

第917回:不安な時代、人はまず何を求めるのか? ――コロナ禍で変わった若者のキャリア意識(前編)――

前回は、海外駐在員の適応とパフォーマンスにおける「順序」についてお話ししました。今回は視点を変え、コロナ禍が若者のキャリア意識にどのような変化をもたらしたのかを取り上げます。

拙稿(Kokubun, 2025)では、2020年末から2021年初頭にかけて、日本の大学生516名を対象に、パンデミック前後で「仕事に何を重視するようになったのか」を分析しました。

まず確認されたのは、学生全体が「安定」や「人とのつながり」を、以前よりも重視するようになったという点です。ただし興味深いことに、その現れ方には都市と地方で明確な違いがありました。

地方の大学に通う学生ほど、安定した収入、福利厚生、無理のない働き方、勤務地といった「働く条件」への関心を強めていました。一方、都市部の大学に通う学生では、自己成長ややりがい、自分らしさといった「自己価値(セルフワース)」への関心がより強まっていたのです。

つまり、同じ不安定な環境に直面しながらも、地方の学生は「まず安心できる環境」を、都市の学生は「自分は何者として働くのか」を、それぞれ強く問い直していたといえます。

重要なのは、どちらが正しいかではありません。危機の中で、人はまず自分にとって欠けているものから意識を向けるという点です。

この違いは、企業の中でもしばしば見られます。不確実性が高い局面では、若手社員の中にも「まず安心できる環境」を求める層と、「それでも成長や自己実現を求める層」が同時に生まれ、同じ施策でも響き方が大きく分かれるのです。

では、こうした違いは、働く意欲や行動にどのようにつながっていくのでしょうか。
次回は、人間関係・地元志向・内発的動機づけの関係から、企業や管理職への示唆を考えます。

次回に続きます。

調査にご協力くださった方々にこの場を借りて心より感謝申し上げます。

論文情報は以下。末尾のURLから全文をご覧いただけます。

Kokubun, K. (2025). During the COVID-19 Pandemic, the Gap in Career Awareness Between Urban and Rural Students Widened. Psychology International, 7(4), 103.
https://doi.org/10.3390/psycholint7040103

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

【従業員の勤労意欲を高めるために】第916回:海外で成果を出す人に共通する、たった一つの順序

第916回:海外で成果を出す人に共通する、たった一つの順序

今回は駐在員の知性とパフォーマンスについてです。拙稿(Kokubun et al., 2025)は、日本人駐在員184名を対象に、感情的知能(EQ)と文化的知性(CQ)が、海外適応や仕事の成果にどのように関係するかを分析しました。その結果、駐在員の成長には明確な「段階」があることが明らかになりました。

最初に必要なのは「温かい心」

海外赴任の初期段階で重要なのは、次のような“心のあり方”でした。

  • 異文化に関心を持つ姿勢
  • うまくいかなくても踏み出そうとする意欲
  • 自分の感情を前向きに使う力

研究では特に、「動機づけ型の文化的知性(Motivational CQ)」と、「感情を活用する力(Use of Emotion EQ)」が、現地適応やワークエンゲージメントを強く支えていることが示されました。

つまり、最初に求められるのは「正確さ」や「合理性」ではなく、関わろうとする姿勢そのものでした。

興味深いのは、冷静な判断力や高度な分析力は、この段階ではまだ決定打にならない点です。論文ではこの段階を、「ウォームハート(温かい心)」が必要な時期と表現しています。相手を理解しようとする姿勢、失敗を恐れずに踏み出す勇気――それこそが、グローバル環境での第一歩といえそうです。

成果を分けるのは「冷静さ」だった

では、現地に慣れ、仕事が本格化した後はどうでしょうか。ここで求められる能力は、大きく変化します。研究が示したのは、成果を左右するのは次のような力でした。

  • 感情をコントロールする力(Emotion Regulation EQ)
  • 状況を俯瞰し、適切に判断する力(メタ認知CQ)
  • 相手に応じて行動を調整する柔軟性(行動CQ)

つまり、感情に流されず、冷静に対応できる力が、パフォーマンスと強く結びついていたのです。

論文は、この変化を、次のように表現しています。

Cool head after warm heart
(温かい心のあとに、冷たい頭)

最初は共感と意欲で飛び込み、次第に冷静な判断力で成果を出す。この順序が逆になると、かえってうまくいかない可能性があります。

グローバル人材育成への示唆

この研究は、企業の人材育成に重要な示唆を与えます。

多くの組織では、早い段階から「成果」や「合理性」を求めがちです。しかしそれでは、現地適応が追いつかず、結果としてパフォーマンスも伸びにくい可能性があります。

むしろ必要なのは、

  1. まず関係構築と心理的余白をつくる
  2. 次に判断力・調整力を育てる
  3. その上で成果を求める

という順序です。

海外駐在に限らず、多様な人と働く現代の職場でも同じことが言えるでしょう。

最初に必要なのは、「うまくやる力」ではなく、相手と向き合い、関係を築こうとする力です。そしてその先にこそ、はじめて本当の成果が生まれます。

 

 

調査にご協力くださった方々にこの場を借りて心より感謝申し上げます。
論文情報は以下。末尾のURLから全文をご覧いただけます。

Kokubun, K., Nemoto, K., & Yamakawa, Y. (2025). Cool head after warm heart. Hypothesis and verification of a developmental phase model showing the relationship between emotional and cultural intelligence, intercultural adjustment, work engagement, and performance of expatriates. Personality and Individual Differences, 246, 113288.
https://doi.org/10.1016/j.paid.2025.113288

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

【従業員の勤労意欲を高めるために】第915回:コロナ禍で職場はどう変わったのか?海外拠点3,600人調査で見えた「同僚支援・疲労・コミットメント」(後編)

第915回:コロナ禍で職場はどう変わったのか?海外拠点3,600人調査で見えた「同僚支援・疲労・コミットメント」(後編)

 

前回は、海外拠点3,600人の調査から、コロナ禍で同僚支援と組織コミットメントが高まり、疲労感が低下していたという結果をご紹介しました。今回は、その結果から、海外拠点マネジャーや人事担当者が実務上、何を学べるのかを考えてみたいと思います。

まず重要なのは、変化の単位が「個人」ではなく「部署」だったという点です。同僚支援が増え、疲労が下がった部署ほど、組織への関与が大きく高まっていました。つまり、危機への適応は「優秀な個人」によって起きたのではなく、部署内の関係性がまとめて変化した結果だったのです。

この結果は、海外拠点マネジメントにおいて、次のような示唆を与えます。

・個人向け施策だけでは不十分
→ ストレスチェックや個別面談だけでなく、部署全体の関係性をどう支えるかが重要になります。

・「上司の支援」よりも「同僚の支援」が効いていた
→ トップダウンの統制やメッセージ以上に、横の助け合いが心理的資源として機能していました。

・疲労対策は、業務量調整だけではない
→ 疲労は単なる忙しさではなく、「孤立感」や「意味の喪失」と強く結びついています。
同僚との支援関係が回復することで、疲労も同時に下がっていました。

では、海外拠点で具体的に何ができるのでしょうか。

一つは、部署単位での対話の場を意識的につくることです。業務改善会議だけでなく、「困っていることを共有する」「助け合いの工夫を話す」といった、非公式なやり取りが重要です。

もう一つは、現地マネジャーを調整役として支援することです。指示を出す管理者ではなく、同僚間の協力を促すファシリテーターとしての役割が、危機下では特に効果を持ちます。

本研究の示唆はきわめて実務的です。危機の時代において、海外拠点の底力を決めるのは制度や制度変更の速さではなく、部署内の関係性をどう育ててきたかなのかもしれません。

コロナ禍は例外的な出来事でしたが、地政学リスク、サプライチェーン混乱、急激な市場変化は今後も続きます。その中で、同僚支援を基盤とした部署マネジメントは、海外ビジネスパーソンにとって、再現性の高い武器になると考えられます。

 

Kokubun, K., Ino, Y., & Ishimura, K. (2026). Changes in Workplace Attitudes Before and During COVID-19: A Multilevel Analysis of Employees in Japanese Manufacturing Subsidiaries in China. Thunderbird International Business Review. Early View.
https://doi.org/10.1002/tie.70074

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

 

【従業員の勤労意欲を高めるために】第914回:コロナ禍で職場はどう変わったのか?海外拠点3,600人調査で見えた「同僚支援・疲労・コミットメント」(前編)

第914回:コロナ禍で職場はどう変わったのか?海外拠点3,600人調査で見えた「同僚支援・疲労・コミットメント」(前編)

 

前回は駐在員の「知性」についてでした。今回は筆者が元日に発表した最新論文の内容をご紹介します。本研究では、海外拠点で働く従業員の職場意識が、コロナ前とコロナ禍でどのように変化したのかを分析しました。

調査対象は、日本の製造業多国籍企業が中国に展開する6つの生産拠点で働く従業員3,600人超です。待遇満足、上司・同僚からの支援、仕事の裁量、研修、役割の明確さ、組織コミットメント、疲労感といった8つの側面について、コロナ前後を比較しました。

分析の結果、次のことが明らかになりました。

・同僚からの支援は、コロナ禍で有意に高まっていた
→ 困難な状況ほど、現場レベルの助け合いや情報共有が強まったと考えられます。

・疲労感は、意外にも低下していた
→ 単純な業務量ではなく、「心理的な余裕」や「意味づけ」が変化した可能性が示唆されます。

・組織コミットメントは、個人レベルでも部署レベルでも上昇していた
→ 特に、同僚支援が増え、疲労が減った部署ほど、組織への帰属意識が大きく高まっていました。

重要なのは、これらの変化が個人の性格や偶然ではなく、「部署」という単位でまとまって起きていた点です。現場で日常的に顔を合わせ、協力し合う関係性が、危機への適応を左右していました。

この結果は、特定の国に限った話というより、海外拠点や現場型組織に共通する示唆を含んでいます。危機の時代において、従業員の勤労意欲や組織への関与を支えるのは、制度やトップのメッセージだけではありません。日々の同僚関係や、部署内の支援のあり方こそが、組織の底力を形づくっていることが、データから確認されました。

次回に続きます。

 

Kokubun, K., Ino, Y., & Ishimura, K. (2026). Changes in Workplace Attitudes Before and During COVID-19: A Multilevel Analysis of Employees in Japanese Manufacturing Subsidiaries in China. Thunderbird International Business Review. Early View.
https://doi.org/10.1002/tie.70074

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

 

【従業員の勤労意欲を高めるために】第913回:どのEQがどのCQを伸ばす? 日本人駐在員184名で判明した“感情的知性 → 文化的知性”の関係(後編)

第913回:どのEQがどのCQを伸ばす? 日本人駐在員184名で判明した“感情的知性 → 文化的知性”の関係(後編)

前回からの続きです。分析の結果、次のことが明らかになりました。

  1. 他人の感情を読み取る力(他者情動評価)が、異文化に関わろうとする意欲(動機づけCQ) と文化に合わせたふるまい(行動CQ) を高める

→ 他人の気持ちに敏感な人ほど、異文化の人とも積極的に関わり、 柔軟に行動を変えられるということです。

  1. 自分の感情に気づく力(自己情動評価)が、メタ認知CQ(状況を振り返って理解を深める力) を高める

→ 自分の状態に気づける人は、 異文化での経験を振り返りながら改善できるという結果です。

  1. 感情を前向きに使う力(情動活用)と、感情を整える力(情動調整)が、

動機づけCQ(異文化に向き合う意欲) を高める

→ 落ち込んでも気持ちを立て直せたり、感情を整えたりできる人ほど、 異文化への挑戦を続けられることが示されています。

  1. EQの力は、性別や海外経験よりも強い予測力を持つ。性別、年齢、海外経験の長さ、 語学力など13項目を統制したうえでも、 EQの側面はCQの側面を有意に説明していました。

→ つまり「異文化で強くなる人」は、 必ずしも海外経験が長い人ではなく、「感情を理解し扱える人」 である可能性が示唆されます。

これらの結果から、赴任前研修で「他者の感情理解」「自己理解」「 感情の調整方法」などを鍛えることが、赴任後の異文化適応(意欲や行動の柔軟性)を高める可能性が高いことが分かります。どのEQを伸ばせば、 どのCQが伸びるのかが初めて明らかになったため、 人材育成や選抜をより効果的に行えるようになると期待されます。

本研究は、 EQの4つの力がCQの4つの力にどのようにつながるのかを初めて統計的に示した研究です。特に「他者の感情理解」「 感情の活用と調整」が、 異文化への意欲と行動に強く影響することが分かりました。 今後は研修や教育の中でEQを効果的に育てることで、 CQを高める新しいアプローチが可能になると考えられます。

 

Kokubun, K., Nemoto, K., & Yamakawa, Y. (2025).
What kind of emotional intelligence enhances what kind of cultural intelligence: Analysis using emotional and cultural intelligence facets of expatriates. International Journal of Intercultural Relations, Volume 110, 102332.
2026年1月16日まで、 以下のURLで全文をご覧いただけます。https://authors.elsevier.com/a/1mApwXTj0QRRa

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

【従業員の勤労意欲を高めるために】第912回:どのEQがどのCQを伸ばす? 日本人駐在員184名で判明した“感情的知性 → 文化的知性”の関係(前編)

第912回:どのEQがどのCQを伸ばす? 日本人駐在員184名で判明した“感情的知性 → 文化的知性”の関係(前編)

前回までは、中小企業の両利きやグリーンイノベーションについてお話しました。中小企業は、持続可能性のための理想の追求と、自社の能力に合わせた現実の追求との間で、両手利きを活用して慎重にバランスを取る必要があります。

さて、今回からは、筆者が発表する論文の内容を順番に紹介したいと思います。今回は、駐在員の「文化的知性(CQ)」 と「感情的知性(EQ)」についてです。

現代の企業では海外赴任や国際的な仕事が増えており、 異文化の中でも上手く働くために必要なCQ と、人の感情を理解してうまく扱うEQ が注目されています。しかし、「どのようなEQの力が、 どのCQの力を高めるのか」 という具体的な関係はこれまでほとんど分かっていません。そこで、 米国およびカや東アジアで働く日本人駐在員184名を対象に調査を行 い、EQとCQのそれぞれの“側面”に着目して、 両者がどのようにつながっているのかを詳しく分析しました。

EQには、主に次の4つの力があります。

  • 自分の感情に気づく力(自己情動評価)
  • 他人の感情を読み取る力(他者情動評価)
  • 感情を前向きに活かす力(情動活用)
  • 感情をうまくコントロールする力(情動調整)

一方、CQにも4つの力があります。

  • 状況を振り返って気づきを得る力(メタ認知CQ)
  • 異文化に関する知識(認知CQ)
  • 異文化で学びたい・関わりたいという意欲(動機づけCQ)
  • 文化に合わせて行動を変える力(行動CQ)

次回に続きます。

 

☆調査概要

WEBアンケートが2023年10月24日から2024年3月2 5日にかけて行われました。東西8カ国・地域(中国、インドネシア、マレーシア、 シンガポール、台湾、タイ、アメリカ、ベトナム)に駐在する23歳から76歳までの女性12 人、男性172人の計184人が参加し、全員のデータが有効回答とされました。調査にご協力くださった方々にこの場を借りて心より感謝申し上げます。

 

Kokubun, K., Nemoto, K., & Yamakawa, Y. (2025).
What kind of emotional intelligence enhances what kind of cultural intelligence: Analysis using emotional and cultural intelligence facets of expatriates. International Journal of Intercultural Relations, Volume 110, 102332.
2026年1月16日まで、 以下のURLで全文をご覧いただけます。https://authors.elsevier.com/a/1mApwXTj0QRRa

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)