【従業員の勤労意欲を高めるために】第915回:コロナ禍で職場はどう変わったのか?海外拠点3,600人調査で見えた「同僚支援・疲労・コミットメント」(後編)

第915回:コロナ禍で職場はどう変わったのか?海外拠点3,600人調査で見えた「同僚支援・疲労・コミットメント」(後編)

 

前回は、海外拠点3,600人の調査から、コロナ禍で同僚支援と組織コミットメントが高まり、疲労感が低下していたという結果をご紹介しました。今回は、その結果から、海外拠点マネジャーや人事担当者が実務上、何を学べるのかを考えてみたいと思います。

まず重要なのは、変化の単位が「個人」ではなく「部署」だったという点です。同僚支援が増え、疲労が下がった部署ほど、組織への関与が大きく高まっていました。つまり、危機への適応は「優秀な個人」によって起きたのではなく、部署内の関係性がまとめて変化した結果だったのです。

この結果は、海外拠点マネジメントにおいて、次のような示唆を与えます。

・個人向け施策だけでは不十分
→ ストレスチェックや個別面談だけでなく、部署全体の関係性をどう支えるかが重要になります。

・「上司の支援」よりも「同僚の支援」が効いていた
→ トップダウンの統制やメッセージ以上に、横の助け合いが心理的資源として機能していました。

・疲労対策は、業務量調整だけではない
→ 疲労は単なる忙しさではなく、「孤立感」や「意味の喪失」と強く結びついています。
同僚との支援関係が回復することで、疲労も同時に下がっていました。

では、海外拠点で具体的に何ができるのでしょうか。

一つは、部署単位での対話の場を意識的につくることです。業務改善会議だけでなく、「困っていることを共有する」「助け合いの工夫を話す」といった、非公式なやり取りが重要です。

もう一つは、現地マネジャーを調整役として支援することです。指示を出す管理者ではなく、同僚間の協力を促すファシリテーターとしての役割が、危機下では特に効果を持ちます。

本研究の示唆はきわめて実務的です。危機の時代において、海外拠点の底力を決めるのは制度や制度変更の速さではなく、部署内の関係性をどう育ててきたかなのかもしれません。

コロナ禍は例外的な出来事でしたが、地政学リスク、サプライチェーン混乱、急激な市場変化は今後も続きます。その中で、同僚支援を基盤とした部署マネジメントは、海外ビジネスパーソンにとって、再現性の高い武器になると考えられます。

 

Kokubun, K., Ino, Y., & Ishimura, K. (2026). Changes in Workplace Attitudes Before and During COVID-19: A Multilevel Analysis of Employees in Japanese Manufacturing Subsidiaries in China. Thunderbird International Business Review. Early View.
https://doi.org/10.1002/tie.70074

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

 

【従業員の勤労意欲を高めるために】第914回:コロナ禍で職場はどう変わったのか?海外拠点3,600人調査で見えた「同僚支援・疲労・コミットメント」(前編)

第914回:コロナ禍で職場はどう変わったのか?海外拠点3,600人調査で見えた「同僚支援・疲労・コミットメント」(前編)

 

前回は駐在員の「知性」についてでした。今回は筆者が元日に発表した最新論文の内容をご紹介します。本研究では、海外拠点で働く従業員の職場意識が、コロナ前とコロナ禍でどのように変化したのかを分析しました。

調査対象は、日本の製造業多国籍企業が中国に展開する6つの生産拠点で働く従業員3,600人超です。待遇満足、上司・同僚からの支援、仕事の裁量、研修、役割の明確さ、組織コミットメント、疲労感といった8つの側面について、コロナ前後を比較しました。

分析の結果、次のことが明らかになりました。

・同僚からの支援は、コロナ禍で有意に高まっていた
→ 困難な状況ほど、現場レベルの助け合いや情報共有が強まったと考えられます。

・疲労感は、意外にも低下していた
→ 単純な業務量ではなく、「心理的な余裕」や「意味づけ」が変化した可能性が示唆されます。

・組織コミットメントは、個人レベルでも部署レベルでも上昇していた
→ 特に、同僚支援が増え、疲労が減った部署ほど、組織への帰属意識が大きく高まっていました。

重要なのは、これらの変化が個人の性格や偶然ではなく、「部署」という単位でまとまって起きていた点です。現場で日常的に顔を合わせ、協力し合う関係性が、危機への適応を左右していました。

この結果は、特定の国に限った話というより、海外拠点や現場型組織に共通する示唆を含んでいます。危機の時代において、従業員の勤労意欲や組織への関与を支えるのは、制度やトップのメッセージだけではありません。日々の同僚関係や、部署内の支援のあり方こそが、組織の底力を形づくっていることが、データから確認されました。

次回に続きます。

 

Kokubun, K., Ino, Y., & Ishimura, K. (2026). Changes in Workplace Attitudes Before and During COVID-19: A Multilevel Analysis of Employees in Japanese Manufacturing Subsidiaries in China. Thunderbird International Business Review. Early View.
https://doi.org/10.1002/tie.70074

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

 

【従業員の勤労意欲を高めるために】第913回:どのEQがどのCQを伸ばす? 日本人駐在員184名で判明した“感情的知性 → 文化的知性”の関係(後編)

第913回:どのEQがどのCQを伸ばす? 日本人駐在員184名で判明した“感情的知性 → 文化的知性”の関係(後編)

前回からの続きです。分析の結果、次のことが明らかになりました。

  1. 他人の感情を読み取る力(他者情動評価)が、異文化に関わろうとする意欲(動機づけCQ) と文化に合わせたふるまい(行動CQ) を高める

→ 他人の気持ちに敏感な人ほど、異文化の人とも積極的に関わり、 柔軟に行動を変えられるということです。

  1. 自分の感情に気づく力(自己情動評価)が、メタ認知CQ(状況を振り返って理解を深める力) を高める

→ 自分の状態に気づける人は、 異文化での経験を振り返りながら改善できるという結果です。

  1. 感情を前向きに使う力(情動活用)と、感情を整える力(情動調整)が、

動機づけCQ(異文化に向き合う意欲) を高める

→ 落ち込んでも気持ちを立て直せたり、感情を整えたりできる人ほど、 異文化への挑戦を続けられることが示されています。

  1. EQの力は、性別や海外経験よりも強い予測力を持つ。性別、年齢、海外経験の長さ、 語学力など13項目を統制したうえでも、 EQの側面はCQの側面を有意に説明していました。

→ つまり「異文化で強くなる人」は、 必ずしも海外経験が長い人ではなく、「感情を理解し扱える人」 である可能性が示唆されます。

これらの結果から、赴任前研修で「他者の感情理解」「自己理解」「 感情の調整方法」などを鍛えることが、赴任後の異文化適応(意欲や行動の柔軟性)を高める可能性が高いことが分かります。どのEQを伸ばせば、 どのCQが伸びるのかが初めて明らかになったため、 人材育成や選抜をより効果的に行えるようになると期待されます。

本研究は、 EQの4つの力がCQの4つの力にどのようにつながるのかを初めて統計的に示した研究です。特に「他者の感情理解」「 感情の活用と調整」が、 異文化への意欲と行動に強く影響することが分かりました。 今後は研修や教育の中でEQを効果的に育てることで、 CQを高める新しいアプローチが可能になると考えられます。

 

Kokubun, K., Nemoto, K., & Yamakawa, Y. (2025).
What kind of emotional intelligence enhances what kind of cultural intelligence: Analysis using emotional and cultural intelligence facets of expatriates. International Journal of Intercultural Relations, Volume 110, 102332.
2026年1月16日まで、 以下のURLで全文をご覧いただけます。https://authors.elsevier.com/a/1mApwXTj0QRRa

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

【従業員の勤労意欲を高めるために】第912回:どのEQがどのCQを伸ばす? 日本人駐在員184名で判明した“感情的知性 → 文化的知性”の関係(前編)

第912回:どのEQがどのCQを伸ばす? 日本人駐在員184名で判明した“感情的知性 → 文化的知性”の関係(前編)

前回までは、中小企業の両利きやグリーンイノベーションについてお話しました。中小企業は、持続可能性のための理想の追求と、自社の能力に合わせた現実の追求との間で、両手利きを活用して慎重にバランスを取る必要があります。

さて、今回からは、筆者が発表する論文の内容を順番に紹介したいと思います。今回は、駐在員の「文化的知性(CQ)」 と「感情的知性(EQ)」についてです。

現代の企業では海外赴任や国際的な仕事が増えており、 異文化の中でも上手く働くために必要なCQ と、人の感情を理解してうまく扱うEQ が注目されています。しかし、「どのようなEQの力が、 どのCQの力を高めるのか」 という具体的な関係はこれまでほとんど分かっていません。そこで、 米国およびカや東アジアで働く日本人駐在員184名を対象に調査を行 い、EQとCQのそれぞれの“側面”に着目して、 両者がどのようにつながっているのかを詳しく分析しました。

EQには、主に次の4つの力があります。

  • 自分の感情に気づく力(自己情動評価)
  • 他人の感情を読み取る力(他者情動評価)
  • 感情を前向きに活かす力(情動活用)
  • 感情をうまくコントロールする力(情動調整)

一方、CQにも4つの力があります。

  • 状況を振り返って気づきを得る力(メタ認知CQ)
  • 異文化に関する知識(認知CQ)
  • 異文化で学びたい・関わりたいという意欲(動機づけCQ)
  • 文化に合わせて行動を変える力(行動CQ)

次回に続きます。

 

☆調査概要

WEBアンケートが2023年10月24日から2024年3月2 5日にかけて行われました。東西8カ国・地域(中国、インドネシア、マレーシア、 シンガポール、台湾、タイ、アメリカ、ベトナム)に駐在する23歳から76歳までの女性12 人、男性172人の計184人が参加し、全員のデータが有効回答とされました。調査にご協力くださった方々にこの場を借りて心より感謝申し上げます。

 

Kokubun, K., Nemoto, K., & Yamakawa, Y. (2025).
What kind of emotional intelligence enhances what kind of cultural intelligence: Analysis using emotional and cultural intelligence facets of expatriates. International Journal of Intercultural Relations, Volume 110, 102332.
2026年1月16日まで、 以下のURLで全文をご覧いただけます。https://authors.elsevier.com/a/1mApwXTj0QRRa

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

【従業員の勤労意欲を高めるために】第911回:中小企業の両利き経営(14)中小企業へのアドバイス

第911回:中小企業の両利き経営(14)中小企業へのアドバイス

前回は、中小企業におけるデジタル化の導入意義とその時期についてでした。デジタル化は企業間や大学などとの連携を強化し、オープン・イノベーションの成果を高める可能性があります。

さて、これまで見たように、中小企業は、財政的制約に直面しながらも、既存の技術を活用し続けることで短期的な業績を維持すると同時に、限られた資源が許す範囲で、世界的な課題であるグリーンイノベーションに向けた探求力を強化することが求められています。そのために、中小企業はデジタル化、オープン・イノベーション、人材を組み合わせた戦略を採用する必要があります。

例えば、デジタル技術の導入に伴うコスト増加によるマイナス効果は、高度なスキルを持つ人材が日常業務から解放され、専門知識を必要とする業務により多くの時間を割くことができるようになるというプラスの効果によって相殺される可能性があります。同様に、オープン・イノベーションの実施に伴うオーケストレーションコストの上昇による悪影響は、グリーンサプライチェーンの整備による潜在的なビジネスパートナーの拡大によるプラスの効果によって相殺される可能性があります。さらに、AI テクノロジーの進化と普及は、社内外のネットワークとコラボレーションを再構築することで、組み合わせ戦略を根本的に変革する可能性があります。各戦略の有効性を個別に評価するのではなく、戦略の複合的な有効性を評価することで、費用対効果の閾値が低くなり、中小企業は深化戦略への過度の依存から、動的なエコシステムを活用した探索戦略により積極的に移行できるようになります。

多くの中小企業は、ビジネスパートナーや消費者を含むステークホルダーの期待に応えるために、グリーンイノベーションを受動的に導入する傾向があります。しかし、これが探索モードへの転換を誘発し、同時に高い企業業績につながるかどうかは、まだ実証研究がほとんど確認されていません。したがって、グリーンイノベーションを性急に導入すると、探索戦略に過度に焦点を合わせて過剰投資が発生し、失敗の罠につながる可能性があります。したがって、中小企業は、グリーンイノベーションによる持続可能性の理想的な追求と、既存のテクノロジーを自社の能力に合わせた方法で活用する段階的なイノベーションの現実的な追求との間で、両手利きを活用して慎重にバランスを取る必要があります。

 

Kokubun, K. (2025). Ambidextrous SMEs for a sustainable society. A narrative review considering digitalization, open innovation, human resources and green innovation. Next Research, 100839. https://kwnsfk27.r.eu-west-1.awstrack.me/L0/https:%2F%2Fauthors.elsevier.com%2Fa%2F1lqFZArcH5v%257EhR/1/010201997bdd92dc-2f55d85f-3f6a-4e09-a50f-d2029cba34fb-000000/-j2abMH3tXcKZD4AoMaphgExEJk=445

 

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

【従業員の勤労意欲を高めるために】第910回:中小企業の両利き経営(13)デジタル化はいつ導入すべきか?

第910回:中小企業の両利き経営(13)デジタル化はいつ導入すべきか?

前回は、グリーン・イノベーションとオープン・イノベーションの関係についてでした。両者が相互に強化し合う正のフィードバック・ループを形成することで、企業の両利き能力や持続可能性が高まることが期待できます。

今回は、中小企業におけるデジタル化の導入意義とその時期についてです。両利き経営は、中小企業の環境負荷低減を目的としたグリーン・イノベーションやサステナビリティへの取り組みと関連し、特に長期的視点からその重要性が高まります。資源に制約のある中小企業は、オープン・イノベーションを通じて両利き経営を実現できますが、コストが高いため、デジタル化によって低コスト化を図る必要があります。また、そのためには人材や資金ネットワークの支援が欠かせません。

中小企業は依然としてデジタル技術の導入に慎重であり、投資不足や不確実性が障壁となっています。しかし、デジタル・プラットフォームの能力を高めることで、成長を促す可能性があります。特にデジタル化とオープン・イノベーションを統合し、両利き経営を促進できれば、グリーン・イノベーションと企業業績の向上を同時に実現でき可能性があります。日本では多くの中小企業が脱炭素化に取り組んでいますが、人材や知見の不足、排出量の可視化の困難さなどが障害となっています。デジタル化はこれらの課題を解決し、内部資源の効率化や外部資源の活用を通じてグリーン・イノベーションを推進する有効な手段になり得ます。

また、デジタル化は企業間や大学などとの連携を強化し、オープン・イノベーションの成果を高める可能性があります。そのためにはAIなどのデジタル技術に精通した人材の確保が必要であり、政策的支援も重要です。両利き経営はすべての企業に適するわけではありませんが、将来志向的な戦略として有効であり、国家や社会全体の持続可能性に貢献する可能性があります。

 

Kokubun, K. (2025). Ambidextrous SMEs for a sustainable society. A narrative review considering digitalization, open innovation, human resources and green innovation. Next Research, 100839. https://kwnsfk27.r.eu-west-1.awstrack.me/L0/https:%2F%2Fauthors.elsevier.com%2Fa%2F1lqFZArcH5v%257EhR/1/010201997bdd92dc-2f55d85f-3f6a-4e09-a50f-d2029cba34fb-000000/-j2abMH3tXcKZD4AoMaphgExEJk=445

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

【従業員の勤労意欲を高めるために】第909回:中小企業の両利き経営(12)グリーン・イノベーションとオープン・イノベーション

第909回:中小企業の両利き経営(12)グリーン・イノベーションとオープン・イノベーション

前回は、財務資源を確保することで、企業は競争優位を構築するために必要なイノベーションに戦略的に投資することが可能になるというお話でした。今回は、グリーン・イノベーション(地球に優しい技術に関するイノベーション)とオープン・イノベーション(様々な主体との協力によるイノベーション)の関係についてです。

グリーン・イノベーションは、オープン・イノベーションを促進する可能性があります。なぜなら、環境に配慮したビジネス戦略を追求するには、中小企業がそうした活動に関心と知識を持つステークホルダーと連携する必要があるからです。例えば、エクアドルの中小企業543社を対象とした調査では、自然、気候変動、汚染、生物多様性、原材料・水・エネルギーの無駄の削減といった環境保護への取り組みは、外部の情報源(顧客、研究機関、ネットワーク、大学など)からの知識獲得、従業員の研究開発への参加、特許やロイヤリティの活用、競合他社との相乗効果やパートナーシップの形成といったオープン・イノベーション活動を促進し、イノベーションのパフォーマンスを高めることがわかりました。

一方、インドネシアの中小企業を対象とした調査では、オープン・イノベーションは多様なステークホルダーとの連携を促進することで、グリーン・イノベーションにプラスの影響を与える可能性があることが示されました。関連して、マレーシアの中小企業345社を対象とした調査の結果は、中小企業がオーケストレーションを通じて持続可能性と競争力のトレードオフに対処できる可能性を示唆しています。さらに、290人の中国企業幹部を対象とした調査に基づく研究では、社内の情報共有と社外との連携を強化することが環境イノベーションの促進に不可欠であると結論付けられています。

グリーン・イノベーションとオープン・イノベーションが相互に強化し合う正のフィードバック・ループを形成することで、企業の両利き能力や持続可能性が高まることが期待できます。

本連載記事に関係する論文が、以下のURLから全文無料でアクセス可能です(2025 年 11 月 13 日まで)。

https://kwnsfk27.r.eu-west-1.awstrack.me/L0/https:%2F%2Fauthors.elsevier.com%2Fa%2F1lqFZArcH5v%257EhR/1/010201997bdd92dc-2f55d85f-3f6a-4e09-a50f-d2029cba34fb-000000/-j2abMH3tXcKZD4AoMaphgExEJk=445

Kokubun, K. (2025). Ambidextrous SMEs for a sustainable society. A narrative review considering digitalization, open innovation, human resources and green innovation. Next Research, 100839. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S3050475925007067

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

【従業員の勤労意欲を高めるために】第908回:中小企業の両利き経営(11)財政的制約と経営の専門知識

第908回:中小企業の両利き経営(11)財政的制約と経営の専門知識

前回は、デジタル化により高度人材の日常業務の負担が軽減されることで、新しいアイデアの生成やイノベーションが刺激される可能性があることを述べました。

関連して、302社のオンライン小売業者を対象とした研究では、人工知能(AI)によるデジタル従業員の導入が、探索的および深化的なグリーン・イノベーションの双方にプラスの影響を与え、その結果として将来の持続可能なイノベーション・パフォーマンスを高めることが示されました。AI技術の急速な進歩に伴い、関連技術に精通したデジタル従業員は、イノベーション・プロセスの変革や、組織内外でのネットワーク構築において、ますます重要な役割を果たすようになると考えられます。

このように、デジタルインフラのような多用途で費用対効果の高いリソースを活用する能力は、一般的に資源制約に直面している中小企業にとって特に重要です。しかし、中小企業はしばしば財務的制約に直面しており、そのような障害は革新的な活動への投資に深刻な課題をもたらします。特に、限られた資金調達はデジタル化の実施における主要な障壁のひとつです。このことは、中小企業において資金調達の責任を担う人材の必要性を浮き彫りにしています。

財務資源を確保することで、企業は競争優位を構築するために必要なイノベーションに戦略的に投資することが可能になります。具体的には、財務の専門知識を持つ経営トップチームメンバーの任命、ソーシャルネットワークを通じた金融機関との関係構築、これにより資金アクセスを拡大し財務的制約を緩和する、といった戦略が不可欠です。中国の上場製造業中小企業1,303社を対象とした調査では、デジタル化は漸進的イノベーションよりも急進的イノベーションを強く促進し、さらに高度な教育を受けた従業員の存在や経営トップチームメンバーの財務的専門知識がこの関係を強化することが示されました。

 

Kokubun, K. (2025). Ambidextrous SMEs for a sustainable society. A narrative review considering digitalization, open innovation, human resources and green innovation. Next Research, 100839. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S3050475925007067

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

【従業員の勤労意欲を高めるために】第907回:中小企業の両利き経営(10)デジタル化と高度人材

第907回:中小企業の両利き経営(10)デジタル化と高度人材

前回は、ステークホルダーからの圧力や、環境意識の向上を求める消費者の需要の高まりに後押しされて、中小企業はグリーンイノベーションに取り組むことが多いこと、しかしながら、中小企業は、グリーンイノベーションに必要なデジタルプラットフォームの導入のために必要なリソース、スキル、コミットメントが不足するなど、特有の課題に直面していることを述べました。

そのため、デジタル技術に明るい高度人材の採用は、急進的なイノベーションを補完する可能性があります。高度人材は、高度な論理的思考力と意思決定能力を持つとともに、中小企業の短期的および中期的な業績よりも、長期的な発展に関心を持つ傾向があります。加えて、急速な変化に早く適応でき、デジタル化を通じて得られた外部知識を吸収し、社内のイノベーションプロセスに統合することができます。したがって、デジタル化の重要なポジションに彼らを配置することで、デジタル技術に関連する新しい知識を理解して統合し、新しい製品、プロセス、またはその他の形態のイノベーションを開発するための変革が可能になります。

ギリシャの製造業企業(主に中小企業)1,014社を対象とした調査では、人的資源を含む吸収能力がデジタル能力とイノベーションパフォーマンスを仲介することが示されました。さらに、デジタル化により社内外のコミュニケーションが改善され、より多くの教育を受けた従業員がイノベーションに必要な新しい知識やリソースにアクセスできるようになることで、効率と生産性が向上し、イノベーションにより多くの時間を割くことができるようになることが示されました。デジタル化により日常業務の負担が軽減されることで、高度人材はより多くの非日常業務を引き受けながら、新しいアイデアの生成が刺激され、発散的な思考を増やし、イノベーションに貢献する可能性があります。

 

Kokubun, K. (2025). Ambidextrous SMEs for a Sustainable Society: A Narrative Review Considering Digitalization, Open Innovation and Green Innovation. Preprints. https://www.preprints.org/manuscript/202504.0009/v2

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

【従業員の勤労意欲を高めるために】第906回:中小企業の両利き経営(9)デジタル化、 グリーンイノベーションと持続可能性

第906回:中小企業の両利き経営(9)デジタル化、 グリーンイノベーションと持続可能性

前回は、デジタル化が、時間、資金、人材といったリソースが少ない中小企業が外部知識を獲得し、知識基盤を強化するのに役立つというお話でした。経営者と従業員がデジタル化に向けた意思統一をすることが、その後の両利き経営やデジタル能力の向上、さらにはイノベーションのために不可欠といえます。

さらに、デジタル技術の活用は企業の持続可能性を向上させる可能性があります。中小企業は世界の産業汚染の60~70%を占めているにもかかわらず、大企業に比べて環境意識が低く、環境技術や法律に関する知識が不足しているとされています。しかしながら、ステークホルダーからの圧力や、環境意識の向上を求める消費者の需要の高まりに後押しされて、中小企業はグリーンイノベーションに取り組むことが多いようです。この時、企業は、デジタルツールを使用することで、資源の使用状況をリアルタイムで監視し、プロセスを最適化し、廃棄物を削減し、環境効率を向上させることができます。例えば、ブロックチェーンはリサイクル原材料が使用されていることを証明するために使用されています。したがって、デジタル化は、資源利用の最適化、循環型経済および持続可能なビジネスモデルの実装を促進することで、環境パフォーマンスを向上させることができます。

しかし、中小企業はデジタルプラットフォームの導入において、必要なリソース、スキル、コミットメントが不足しているなど、特有の課題に直面しています。そのため、人的ネットワークは重要なリソース源となり、中小企業が貴重な機会を発見するのに役立ちます。例えば、使用済み、リサイクル、回収された材料からなる生産投入物を取り扱い、それを顧客価値に変換するプロセスを設計するには、材料の継続的な循環と廃棄物の削減・排除という観点から、材料の利点と限界を理解しているパートナー、専門家、顧客の関与が必要です。

 

Kokubun, K. (2025). Digitalization, Open Innovation, Ambidexterity, and Green Innovation in Small and Medium-Sized Enterprises: A Narrative Review and New Perspectives. Preprints. https://doi.org/10.20944/preprints202504.0009.v1

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)