第504回 ブミプトラ経済変革計画2035(PuTERA2035)とは何か(1)

マレーシア政府は2024年8月19日に、ブミプトラの経済的地位向上を目指す包括的な計画として「ブミプトラ経済変革計画2035(PuTERA2035: Pelan Transformasi Ekonomi Bumiputera 2035)」を発表しました。この計画は2035年までの約10年間で実施され、ブミプトラの経済参加・所有・支配を拡大し、他の民族との経済格差を縮小することを目的としています。

2023年9月、アンワル首相は第12次計画の中間レビューに際して24年初にブミプトラ経済会議を開催し、ブミプトラ政策の新しい方向性を決めると予告していました。実際には2024年2月29日~3月2日にかけてブミプトラ経済会議が開かれ、今回のPuTERA2035の発表に至りました。

マレー系などの先住民を優遇するいわゆる「ブミプトラ政策」は、新経済政策(NEP: 1971〜1990年)によって開始されました。その後も、国家開発計画(NDP: 1991〜2000年)、国家ビジョン計画(NVP: 2001〜2010年)と、後継の政策が定められました。

ナジブ政権下で定められた新経済メカニズム(NEM: 2011〜2020年)では、ついに本文中でブミプトラ政策を批判する文言が登場しました。しかし、2013年5月の第13回総選挙でナジブ政権が華人の支持を失ったことで政策は大きく転換され、9月にはブミプトラ経済エンパワーメント・アジェンダが発表され、ブミプトラ政策は強化されました。

その後、2019年にマハティール政権下で繁栄の共有ビジョン(Shared Prosparity Vision: 2021〜2030)が発表されましたが、政権交代が続いたことで位置づけが曖昧になりました。そうした中で、今回、ブミプトラの経済政策に特化した計画として、PuTERA2035が発表されたことになります。

アンワル首相は前文で同計画は「ブミプトラ社会のための排他的な経済計画ではない。むしろ、この計画は、疎外された大多数の人々の経済を推進するのに役立つ」と述べています。また、「ブミプトラ関連の政策は…決してインド人、華人、ましてやオラン・アスリやサバ、サラワクのブミプトラの利益を軽視するものではありません」とコメントしています。

PuTERA2035の中にはブミプトラの経済的プレゼンスについての数値目標が多く上げられていますが、その多くは他の民族にかかわらずブミプトラの水準を引き上げることを目指すものです。ただし、いくつか他の民族との分配の問題に関係するものがあり、具体的には以下の3つです:

・ブミプトラの高度技能職従事率を2022年の61%から2035年に70%に引き上げる

・ブミプトラ個人および機関による株式所有比率を2020年の18.4%から2035年に30%に引き上げる

・政府系企業(GLC)および政府系投資会社(GLIC)を通じたブミプトラの参加と支配を20%に引き上げる

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp