【イスラム金融の基礎知識】第561回 アフガニスタンとトルコ、イスラム銀行の連携強化

第561回 アフガニスタンとトルコ、イスラム銀行の連携強化

Q: アフガニスタンのイスラム銀行はトルコと連携を強める目的は?

A: 2021年にタリバンが政権を獲得して以来、いまだ混乱が続くアフガニスタンであるが、12月29日にアフガニスタン中央銀行が発表した声明によれば、トルコのイスラム銀行関係者による3日間のトレーニングが実施され、アフガニスタンのイスラム銀行の従業員が受講した。

アフガニスタン中央銀行の副総裁などが列席して華々しく開催された3日間のプログラムにおいては、イスラム銀行の原則や、ハナフィー法学派にもとづくイスラム法に準拠した金融商品のあり方について、集中的なトレーニングが行われた。プログラムは、トルコ参加銀行協会(トルコではイスラム銀行のことを参加銀行と呼ぶ)で指導経験があるインストラクターによって実施された。

アフガニスタン中央銀行幹部によれば、国内において利子の伴う取引はすでに全て停止されている一方で、イスラム金融商品・サービスの能力の強化も必要であることから、職員の能力強化のために今回のプログラムが実施されたという。この点に関して、従来からイスラム金融の強化を目指して各国や国際機関に支援を求めていた。IMFや世界銀行といった国際通貨機関と関係が悪化している現状では、イスラム諸国との連携を模索している。すでにカタールやイスラム開発銀行との関係は確固たるものであるが、今回の従業員の能力開発については、トルコのイスラム銀行の団体に協力を求めた。

昨年6月にアフガニスタン中央銀行が発表したところによれば、アフガニスタン通貨の対米ドルレートが安定してきていることから、イスラム式の預金残高は対前年比で4%拡大するなど順調に発展している。金融資産、とりわけ民間の預金は治安が回復し経済が安定して初めて拡大することが可能になる。今回のプログラムが、安定拡大に技術的に貢献することに期待がかかる。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

近日開業のKLGCCモール、タイの屋内遊戯施設など出店

【クアラルンプール】 今年第3四半期に開業予定のショッピングモール「クアラルンプール・ゴルフ&カントリークラブ(KLGCC)モール」には、高級スーパーのジャヤ・グローサーや、タイで人気の屋内遊戯施設「ハーバーランド・キッズプレイランド」のマレーシア1号店などの出店が予定されている。

開発を手がける不動産開発大手のサイム・ダービー・プロパティはこのほど、アンカーテナント5社との間で調印式を行った。ジャヤ・グローサーやハーバーランド以外のアンカーテナントはセカイグループ、ACEハードウェア、アジア・バレエ・アカデミー。

KLGCCモールは、クアラルンプール市西側に位置し、延床面積は60万平方フィートで、80以上のテナントが入居する。小売りや国内外の料理を楽しめる飲食店など、すでに7割近くのテナントが決まっているという。サイム・ダービーにとって、KLイーストモール、エルミナ・レイクサイド・モールに次ぐ3番目のモールとなる。既存のゴルフ場やホテル、中高層の高級住宅とともに一体的な開発を行っている。
(ザ・スター、1月24日、エッジ、1月23日)

EC運営代行のサイバーレコード、KLに拠点設立

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 EC運営代行のサイバーレコード(本社・熊本県熊本市)は1月29日、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域での事業拡大を目指し、クアラルンプール(KL)に海外初拠点を設立したと発表した。

マレーシア新会社の名称はサイバーレコード・マレーシアで、市場調査・情報収集・マーケティングを行う。ASEANにおいて幅広いサプライチェーンとテクノロジーを有する事業パートナーとともに、B2B、B2Cでの効率的なオムニチャネル販売ソリューションを日本の事業者に提供していく。また、同地域での事業を起点として、順次、他地域への事業展開を推進していく。越境事業拡大においてカギとなる海外パートナーアライアンスの拡充とマーケティング活動を推進する体制を整える。

サイバーレコードは、Eコマース及びオフライン小売市場進出で重要戦略の一つと位置づけているASEAN域内で戦略的パートナー連携を構築しつつ、同社の越境ECと商社事業を迅速に展開していくための第一歩となると指摘。日本の多様なカテゴリーの事業者とのネットワークを活かし、日本の魅力ある商材をASEAN市場に浸透するビジネスモデルを確立するとしている。

大阪万博マレーシア館、進捗率86.7%=副首相

【クアラルンプール】 4月に開幕する大阪・関西万博について、ファディラ・ユソフ副首相は1月28日、マレーシア館の建設の進捗率は現在、86.7%と明らかにした。一方で、130億リンギを目標に掲げる貿易・投資誘致額に向け取り組みを強化する必要性を強調した。

ファディラ副首相はこの日、テンク・ザフルル投資貿易産業相やファーミ・ファジル通信相らとともに大阪・関西万博の国内組織委員会の会議に出席後、進捗状況について予定通り最終段階を迎えており「今後は運営準備を中心に移行する」とソーシャルメディアに投稿した。

また、貿易・投資誘致額について、前回ドバイ万博の83億リンギを上回る、130億リンギを掲げているが、そのためには「投資貿易産業省、マレーシア投資開発庁(MIDA)、マレーシア外国貿易開発公社(MATRADE)が協力して、戦略策定の取り組みを強化する必要がある」と述べた。さらにマレーシア館への来場者として、ビジネス、非ビジネスに関わらず計約150万人の目標達成に向け、館内プログラムなどを充実させていくとしている。

万博は4月13日―10月13日までの6カ月間開催される。
(ベルナマ通信、1月28日)

ディープシークAIの影響、マレーシア政府が調査

【シャアラム/ニューヨーク】 政府は中国の人工知能(AI)開発スタートアップ、ディープシークの言語モデルがマレーシアに与える影響の調査を開始した。「政府はディープシークとそのプラットフォームに重大な注意を払っている」(ゴビンド・シン・デオ デジタル相)という。

ディープシークはオープンソースの大規模言語モデル(LLM)開発を行っており、最新の言語モデルR1は1月20日にリリースされた後、アップルのアップストア無料アプリでダウンロード数トップになり、チャットGPTのライバルとして存在感を高めている。ディープシークの強みはコストの低さ。昨年12月に発表した「V3」モデルの開発費用は推定560万ドル。一方、チャットGPTなどは開発に数億ドルを要したとされる。

米国政府はバイデン政権末期に、安全保障上の脅威を理由に、先端半導体とAI技術の対中輸出を制限した。マレーシアへの先端技術輸出も制限した。米商務省は中国への輸出が禁止された半導体をディープシークが利用していないかの調査を開始しており、消息筋によると、中国への密輸拠点としてマレーシア、シンガポールなどが取り沙汰されているという。
(エッジ、2月2日、ザ・スター、1月30日、ストレーツ・タイムズ電子版、1月27日)

【総点検・マレーシア経済】第514回 2024年のマレーシアの貿易はどう変化したか:輸出編

第514回 2024年のマレーシアの貿易はどう変化したか:輸出編

マレーシアの2024年の輸出は前年比5.7%増の1兆5077億リンギとなり、前年の8.0%減からやや持ち直しました。ただ、これには「トランプ関税」に備えた第4四半期の駆け込み輸出が含まれており、今後どうなるかは予断を許しません。連載の今回と次回では、マレーシアの2024年の米中向けの貿易がどのように変化したのかを品目別に分析していきます。

表1,表2はそれぞれ2024年のマレーシアの対米国、対中国の輸出額を上位10品目を前年との比較でみたものです。2024年のマレーシアの対米輸出は前年比23.2%増加し、国別ではシンガポールに次いで2位となり、3位の中国を上回りました。アメリカ向け輸出が通年で中国を上回ったのは2008年以来16年ぶりとなります。

品目別にみると、全般的に大きく増加していますが、記憶装置・記憶媒体の輸出が2.8倍に増えているのが目立ちます。一方で、上位10品目で唯一減少しているのが半導体デバイスで22%減となっています。内訳を詳しく見ると、太陽光パネルモジュールが33.1%と大幅減、一方で未組み立ての太陽光発電セルが58.4%増となっています。ここからは、米国の太陽光パネルに対する制裁を回避するため、マレーシアから完成品ではなく部品を米国に送っていることが読み取れます。

一方、中国向けの輸出は前年比2.2%減となりました。対中輸出は大幅に落ち込んでいるわけではありませんが、減少が目立つのは輸出額1位の集積回路で、前年比15.6%減となっています。内訳を詳しく見ると、集積回路の完成品の輸出額は前年並みなのに対し、半導体の部品は前年比57.2%減と大幅に減少しています。これは、米中対立で中国産の半導体を米国に輸出することが困難になっていることで、その生産に用いる部材のマレーシアからの輸出が大幅に落ち込んでいると推測できます。

このようにみてくると、2024年のマレーシアの米中向け輸出の変化は、米中対立と米国の通商政策に敏感に反応してたものといえます。2025年はトランプ政権下でどのような通商政策が打ち出されるか不透明で、マレーシアの米中向けの輸出もそれに対応して大きく変化する可能性があります。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

今年の新規株式公開、証取は60社を目標

【クアラルンプール】 ブルサ・マレーシア(マレーシア証券取引所)のムハマド・ウマル最高経営責任者(CEO)は27日、決算発表の席上、今年は60社による新規株式公開(IPO)を見込んでいると語った。同60社の上場時の時価合計は402億リンギを予想している。

昨年のIPOは55社で、資金調達額は計74億リンギ、時価合計は314億リンギだった。55社の上場は過去19年で最多。今年は健康、エネルギー、建設、貿易など多様な分野から上場が期待できるという。注目は国内最大の港湾運営会社MMCポーツの再上場だ。

アブドル・ワヒド会長によると、1部メイン市場には既に2社が上場許可を得ており、2部ACE市場には15社の上場が決まっているという。ウマル氏は3月をもって退任する。
(ザ・スター、1月28日、ベルナマ通信、ビジネス・トゥデー、1月27日)

防衛・資源での協力を深化、インドネシア大統領来馬

【クアラルンプール】 インドネシアのプラボウォ・スビアント大統領が国賓として来馬し、27日にアンワル・イブラヒム首相と会談を持った。

会談後の共同記者会見でアンワル首相は、両国は防衛、石油・ガスなど多様な分野で互いの強みを活用することで合意したと明らかにした。一例として両国の国営石油会社ペトロナスとプルタミナとの協力関係を強化し、新たなビジネス機会を探る。アンワル氏は、協力強化は両国のリーダー間の相互理解に加え、親密さ、互いへの信頼が不可欠だと述べた。

プラボウォ氏は、多様な分野における協力をアンワル氏と話し合ったとした上で、国境、労働問題など2国間の問題を両国は解決できると確信していると述べた。プラボウォ氏はさらに、世界が緊張に満ち、地政学上の課題に直面する中、東南アジア諸国連合(ASEAN)の意見が、ASEANより巨大な勢力に耳を傾けてもらうためには、マレーシア、インドネシア、およびほかのASEAN加盟国間の一致団結が重要だと述べた。
(ザ・スター、ザ・サン、ニュー・ストレーツ・タイムズ、1月28日、ベルナマ通信、1月27日)

ブリッジ、日本企業のマレーシア進出支援で現地IT企業と提携

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 営業活動代行などを手がけるブリッジインターナショナル(本社・東京都世田谷区)は27日、マレーシアのITソリューションプロバイダー、EDXマレーシアとの業務提携を発表した。マレーシア子会社ブリッジインターナショナルアジアを通じ、マレーシアでITサービス事業を展開したい日本企業をサポートしていく。

業務提携第1弾として扱うのは、エナジー・ソリューションズ(本社・東京都千代田区)の「ドローンアイ」。太陽光発電所に設置されているソーラーモジュール全数の赤外線検査をドローンで行うサービスで、EDXを通じ、販売だけでなく、技術の導入から運用、保守まで提供していくという。

EDXは2024年7月創業で、セランゴール州ペタリンジャヤに拠点を置く。

第一生命経済研究所レポート「政策運営は外部環境次第」

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 中央銀行バンク・ネガラ(BNM)による政策金利の3%据え置きに関し、第一生命経済研究所は22日、経済分析レポートを発表。主席エコノミスト、西濵徹氏は「ほかのアジア新興国では利下げの動きが広がるが、マレーシアは先行き不透明感を踏まえ慎重姿勢を堅持したとみられる」とした。

ほかのアジア新興国の利下げについて、インフレが鈍化していることに加え、昨年後半の米連邦準備理事会(FRB)による利下げで自国通貨安圧力が後退したことも重なり、景気下支えに舵を切る流れが広がったと分析した。

一方でマレーシアの場合、インフレは落ち着きを見せたものの、もともと外需依存度が極めて高い構造で、米のトランプ大統領の就任で、外需を巡る環境が厳しさを増していることや、内政では財政健全化が急務となっていることから、インフレにつながる材料が山積していると指摘。このため、現時点では物価動向を警戒して慎重姿勢を維持したと説明した。

さらに、プラス4.5―5.5%という政府と中銀の2025年成長率見通しについて、西濵氏は「内・外需双方に不透明要因が山積するなかで、ハードルは高いと見込まれる。しかし、今後も政策運営は外部環境に手足を縛られる展開が続くことは避けられない」と締めくくった。