第920回:環境対応は企業を強くするのか ―短期利益と地球の未来を両立する「両利き経営」―

前回はボランティア体験の話から、日本企業が抱える経営の問題に話を膨らませました。今回は、企業の環境対応についてです。

「環境対応は大事だとは思う。でも、それで本当に会社は儲かるのだろうか。」

ある中小企業の経営者が、そんな疑問を口にしたことがあります。脱炭素やSDGsが叫ばれる時代、企業にとって環境対応は避けて通れない課題になりました。しかし現場の経営者の本音は、もっと現実的です。環境対策はコストではないのか、利益に結びつくのか――。そうした疑問は決して珍しいものではありません。

近年、「エコ・イノベーション」という言葉が注目されています。これは、省エネルギー技術の導入や資源の再利用、環境負荷の少ない製品設計など、環境に配慮した技術や経営の革新を指します。環境と経済の両立を目指す取り組みとして、世界中で関心が高まっています。

そこで、日本の製造業の中小企業123社を対象とした調査を行ったところ、興味深い結果が見えてきました。エコ・イノベーションに取り組む企業ほど、新しい技術や市場に挑戦する「探索型」のイノベーションを進めていることが分かったのです。つまり、環境対応は企業に新しい挑戦を促す契機になっている可能性があります。

ところが一方で、企業の現在の業績と強く関係していたのは「探索」ではなく、既存技術を改善する「深化」でした。

この結果は、日本の中小企業の構造を考えると理解できます。多くの企業は大企業のサプライチェーンの中で、既存技術を改良しながら品質やコスト競争力を高めることで成長してきました。そのため、短期的な利益は既存技術の改善から生まれやすいのです。

しかし、ここで重要なのは視点の違いです。企業の短期的な利益という視点では、既存技術の改良が合理的かもしれません。けれども長期的に見れば、そして地球全体の視点から見れば、環境問題への対応は避けて通れません。

エコ・イノベーションは、必ずしもすぐに利益を生むとは限りません。しかしそれは、企業の新しい技術やビジネス機会を広げ、持続可能な社会に向けた変化を生み出す可能性を持っています。

では、企業は短期的な利益と長期的な環境対応を、どのように両立させればよいのでしょうか。

既存の強みを磨いて成果を出す「深化」と、新しい可能性を切り開く「探索」。
そして、その探索を支えるエコ・イノベーションを、短期の利益ではなく長期的・地球的視点で考えること。

そうした、いわば現実(深化)と理想(探索)の両利きこそが、これからの時代の経営を読み解く一つの鍵になるのかもしれません。

調査にご協力くださった方々に、この場を借りて心より感謝申し上げます。
論文情報は以下。末尾のURLから概要をご覧いただけます。

Kokubun, K. (2026). Eco‐Innovation as a Predictor of Ambidexterity and Performance in Small‐and Medium‐Sized Enterprises: An Empirical Study and a New Global Perspective. Business Strategy and the Environment, 35(1), 1112–1127.
https://doi.org/10.1002/bse.70227

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)