パナソニック・マネジメント・マレーシアの副社長の井水啓之さん。マレーシアに23社あるパナソニック・グループ会社を束ねる司令塔として、新型コロナウイルス「Covid-19」対策に奮闘した日々について伺った。

目次

ようやく稼動再開も最初は出荷のみ

——新型コロナウイルス感染拡大では、マレーシアに23社あるパナソニック・グループ会社を束ねる司令塔として対応に追われたと思いますが、3月18日に発令された行動制限令(MCO)では厳しく行動・活動が制限され、操業再開が認められたのは必需品・サービスに関してのみでした。

井水:我々の事業は電気電子産業(E&E)に所属しており、突然のMCO発令によって全てのグループ会社が稼動できなくなりました。最初は23社が各社ごとに操業認可を申請することにしましたが、操業再開の許可がでたのは製造会社1社だけで、しかも、製造でなく医療業界向けの出荷業務についてのみの許可でした。

——その後、MCOが延長されると同時に、段階的に規制が緩和されます。

井水:MCOが延長されたために改めてグループとして政府にアプローチし、二週間後のMCO2.0からは製造業者10社について稼動許可をもらいました。稼動といってももちろん限定的なもので、工場設備を維持していくために最低限の設備メンテナンスや出荷業務等の稼働許可を得ただけです。必需品・サービスである医療業界向け事業は、製造事業についても限定的に認めてもらいました。

——扱っているものが会社によって様々なので対応も違ってくる?

井水:会社によって対応がかなり違いました。販売会社などは事業再開が出来たのは一番、最後でした。


感染スクリーニング問題に直面

——現在は100%稼動ではないが23社すべて動いている?

井水:そうですね。ただし、建築事業については稼動のレベルには、至っておりません。グループ2社が建築事業に携わっていますが、人材確保、外国人労働者のスクリーニング、標準的運用基準(SOP)の問題などで苦労しています。

——大勢の外国人労働者のスクリーニングは問題になっていますね。

井水:各社によって状況が違いますが、製造業については先に稼動を優先させ、外国人労働者のスクリーニングは後に回すということになりました。
建築については稼動前にスクリーニングしなければならないということだったので、こちらはスクリーニングを行なって陰性判定を受けた方々からオペレーションに携わって頂きました。


規則の解釈の相違で混乱も

——州によって運用が厳しかったり、中央政府と地方政府の方針・解釈が違っていて困っている企業も多かったと聞きます。

井水:地域によって違いますが、中央政府と地方政府の方針、SOPの解釈が異なることはありました。
パナソニック・グループは規模が大きく影響が大きいだけに、各方面からいろいろ心配していただきましたが、規模の問題については、正々堂々と中央政府にお願いし、地方政府に説明して頂きました。これにはかなりの時間がかかりましたが、最終的に認めてもらいました。

——中央と地方で解釈が異なる事例では、企業規模のほかにどのようなことがありましたか?

井水:最初に14項目のSOPが出たのですが、その2項目に国内需要を優先的に満たすことが条件とありました。
よく読めば国内需要を満たせば輸出も認められると解釈されるのですが、地方政府から「可能なのは国内向けだけで輸出向けはダメ」といわれるケースがありました。

——他には?

井水:3つ目はレッドゾーン(感染者が出ている地域)の取り扱いの問題でした。レッドゾーンはロックアウトである強化行動制限令(EMCO)とは違うのですが、州政府から「レッドゾーンでは稼動再開はダメ」といわれたことがありました。

——事実上の国境封鎖となったためにヒトの移動、駐在員や家族の移動に影響が出ていますね。

井水:日本人出向社員の帰任者の後任として赴任予定だったが来れなくなって日本で待機している日本人や外地間転勤で各国にて待機頂いている方々等、パナソニック・グループで数十人の規模に及んでいます。それと同時に帰任予定の人の日程も遅れました。年齢が高い人など、感染が心配だということで一時帰国したままマレーシアに戻って来れない駐在員や家族もいます。


影響は決算や製品開発にも

——人が動かないことで具体的にどのような影響が出ましたか?

井水:4月からの新組織体制を構築できないことや、新製品の立ち上げなどに大きな影響が出ました。

——操業がストップしたことによる逸失利益はかなりな額だったのでしょうね?

井水:特に、4月は売上が激減し、グループ全体ではかなりの損失が出ています。それから2019年度末決算業務が遅れたことで、パナソニック・グループの連結決算に遅れが生じ、迷惑をかけてしまったことが一番申し訳なかった点ですね。
各部門からデータを収集して経理が整理をし、外部の監査法人の監査を受け、本社に提出した数字をまとめて初めて決算が終わるんですが、その一連の手続きに相当、遅れが生じました。

——R&D活動にも影響ありますね。

井水:R&Dが止まったことによって次年度の製品開発に影響がでました。マレーシアにはR&Dを手掛けるグループ会社が数社あり、次の製品開発のスケジュールが押してしまうことになりました。


状況をチャンスに変える発想を

——現時点でみて、マレーシア政府に対してこうして欲しかったというのはありますか?

井水:あまりにもMCO発令が突然だったので、本当にこれで良かったのか、政府には、政策全体の総括をして欲しいと思います。特に、ASEAN諸国の中では、最も規制が厳しいのがマレーシアで、マレーシア経済、国民全体に相当な負の影響が生じているように感じています。
われわれ現場サイドはやることはやったと思います。食堂のテーブルについたてを立てたり、ビニールシートを間に敷いたりして実に真面目に感染防止対策をやっています。これは日系企業らしいなと思いますね。
感染源が海外にあるため、国境管理を厳しくするのは理解できますが、マレーシア国内の経済や雇用面は深刻な打撃を受けており、同じレベルの統制は回避すべきと政府にも意見を伝えています。

——企業によっては今回の新型コロナ騒ぎを受けて、サプライチェーンや生産拠点などのストラクチャを見直そうという動きも出ているようですね。

井水:マクロ経済としてみた場合には、そういうことは起こると思います。マレーシアにとってはこの状況は逆に、チャンスにしていかなければならないと思います。以前のルックイースト政策の時のような外資誘致、国内合理化投資支援策を中期的な視点でもっと大胆に進めるように政府に期待したいと思います。