【総点検・マレーシア経済】第537回 米マレーシア貿易協定解説(4)

第537回 米マレーシア貿易協定解説(4)

10月26日、ASEAN首脳会議に合わせてマレーシアを訪問したトランプ大統領とアンワル首相の間で「米国・マレーシア相互貿易協定(Agreement between the United States of America and Malaysia on Reciprocal Trade:通称ART)」が締結されました。

 

本連載の534回〜536回で解説したように、この協定でマレーシアは米国側に大幅な譲歩をしています。自動車市場の開放やデジタル税といった通常項目に加え、ART第5.1条に規定された「米国の貿易制裁への追随義務」など、マハティール元首相などマレーシア国内から強い批判を浴びた内容も含まれています。

 

マレーシア側は主に米馬貿易協定の条文において様々な工夫をすることで、米国の拘束力を何とか弱めようと努力しています。しかし、そうした工夫をトランプ政権がどれだけ尊重するかは不明です。それでは、なぜマレーシア側はこれほどまでにも不利に思える貿易協定を結ぶに至ったのでしょうか。

 

マレーシアが大幅に譲歩した最大の理由は、相互関税を24%から19%に引き下げるためではなかったと筆者は推測しています。より大きな脅威となったのは、トランプ大統領が半導体への高率関税を繰り返しほのめかしていることです。同氏は8月6日に米国輸入の半導体ほぼすべてに100%の関税を課すと発言し、8月15日には関税率を200%または300%にすると述べました。米国内に工場建設をコミットした企業には関税を免除するとしており、マレーシアからの半導体輸出の約3分の2は免除対象になると思われますが、影響がなくなるわけではありません。

 

この半導体への関税は、相互関税とは別の枠組みである米国通商拡大法232条に基づくものです。同法は国家安全保障を理由に特定品目へ関税を課す権限を大統領に付与しており、実際に鉄鋼・アルミニウムには50%が課されています。半導体および製造装置、ならびに医薬品については、4月1日に232条発動の可否を判断するための国家安全保障調査が開始されました。商務省は270日以内(12月27日まで)に調査結果を大統領へ報告することが求められていましたが、その結果はまだ公表されていないものとみられます。

 

実は、この232条の発動を防ぐための条項がARTに付随する共同声明に含まれています。「米国は、本協定が国家安全保障に与える影響を好意的に考慮する可能性があり、これには1962年通商拡大法232条に基づく措置を講じる際に本協定を考慮に入れることが含まれる」というものです。

 

もちろん、これは「可能性」をほのめかせたものですので、実際にどこまで考慮されるかは分かりません。ただ、わざわざ共同声明にこうした文言を入れておきながら、マレーシアの米国への主要輸出品である半導体について何の考慮もなく232条を発動したとなると、米国の信用に関わることになります(相互関税を強行した時点でそんなものは既に無い、という言い方もできますが)。

 

このように、マレーシア側が大幅に譲歩しながらも米馬貿易協定を締結した最大の理由は、半導体について通商拡大法232条が発動される確率を低くするためであったと筆者は考えます。

 

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

【従業員の勤労意欲を高めるために】第915回:コロナ禍で職場はどう変わったのか?海外拠点3,600人調査で見えた「同僚支援・疲労・コミットメント」(後編)

第915回:コロナ禍で職場はどう変わったのか?海外拠点3,600人調査で見えた「同僚支援・疲労・コミットメント」(後編)

 

前回は、海外拠点3,600人の調査から、コロナ禍で同僚支援と組織コミットメントが高まり、疲労感が低下していたという結果をご紹介しました。今回は、その結果から、海外拠点マネジャーや人事担当者が実務上、何を学べるのかを考えてみたいと思います。

まず重要なのは、変化の単位が「個人」ではなく「部署」だったという点です。同僚支援が増え、疲労が下がった部署ほど、組織への関与が大きく高まっていました。つまり、危機への適応は「優秀な個人」によって起きたのではなく、部署内の関係性がまとめて変化した結果だったのです。

この結果は、海外拠点マネジメントにおいて、次のような示唆を与えます。

・個人向け施策だけでは不十分
→ ストレスチェックや個別面談だけでなく、部署全体の関係性をどう支えるかが重要になります。

・「上司の支援」よりも「同僚の支援」が効いていた
→ トップダウンの統制やメッセージ以上に、横の助け合いが心理的資源として機能していました。

・疲労対策は、業務量調整だけではない
→ 疲労は単なる忙しさではなく、「孤立感」や「意味の喪失」と強く結びついています。
同僚との支援関係が回復することで、疲労も同時に下がっていました。

では、海外拠点で具体的に何ができるのでしょうか。

一つは、部署単位での対話の場を意識的につくることです。業務改善会議だけでなく、「困っていることを共有する」「助け合いの工夫を話す」といった、非公式なやり取りが重要です。

もう一つは、現地マネジャーを調整役として支援することです。指示を出す管理者ではなく、同僚間の協力を促すファシリテーターとしての役割が、危機下では特に効果を持ちます。

本研究の示唆はきわめて実務的です。危機の時代において、海外拠点の底力を決めるのは制度や制度変更の速さではなく、部署内の関係性をどう育ててきたかなのかもしれません。

コロナ禍は例外的な出来事でしたが、地政学リスク、サプライチェーン混乱、急激な市場変化は今後も続きます。その中で、同僚支援を基盤とした部署マネジメントは、海外ビジネスパーソンにとって、再現性の高い武器になると考えられます。

 

Kokubun, K., Ino, Y., & Ishimura, K. (2026). Changes in Workplace Attitudes Before and During COVID-19: A Multilevel Analysis of Employees in Japanese Manufacturing Subsidiaries in China. Thunderbird International Business Review. Early View.
https://doi.org/10.1002/tie.70074

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

 

【従業員の勤労意欲を高めるために】第914回:コロナ禍で職場はどう変わったのか?海外拠点3,600人調査で見えた「同僚支援・疲労・コミットメント」(前編)

第914回:コロナ禍で職場はどう変わったのか?海外拠点3,600人調査で見えた「同僚支援・疲労・コミットメント」(前編)

 

前回は駐在員の「知性」についてでした。今回は筆者が元日に発表した最新論文の内容をご紹介します。本研究では、海外拠点で働く従業員の職場意識が、コロナ前とコロナ禍でどのように変化したのかを分析しました。

調査対象は、日本の製造業多国籍企業が中国に展開する6つの生産拠点で働く従業員3,600人超です。待遇満足、上司・同僚からの支援、仕事の裁量、研修、役割の明確さ、組織コミットメント、疲労感といった8つの側面について、コロナ前後を比較しました。

分析の結果、次のことが明らかになりました。

・同僚からの支援は、コロナ禍で有意に高まっていた
→ 困難な状況ほど、現場レベルの助け合いや情報共有が強まったと考えられます。

・疲労感は、意外にも低下していた
→ 単純な業務量ではなく、「心理的な余裕」や「意味づけ」が変化した可能性が示唆されます。

・組織コミットメントは、個人レベルでも部署レベルでも上昇していた
→ 特に、同僚支援が増え、疲労が減った部署ほど、組織への帰属意識が大きく高まっていました。

重要なのは、これらの変化が個人の性格や偶然ではなく、「部署」という単位でまとまって起きていた点です。現場で日常的に顔を合わせ、協力し合う関係性が、危機への適応を左右していました。

この結果は、特定の国に限った話というより、海外拠点や現場型組織に共通する示唆を含んでいます。危機の時代において、従業員の勤労意欲や組織への関与を支えるのは、制度やトップのメッセージだけではありません。日々の同僚関係や、部署内の支援のあり方こそが、組織の底力を形づくっていることが、データから確認されました。

次回に続きます。

 

Kokubun, K., Ino, Y., & Ishimura, K. (2026). Changes in Workplace Attitudes Before and During COVID-19: A Multilevel Analysis of Employees in Japanese Manufacturing Subsidiaries in China. Thunderbird International Business Review. Early View.
https://doi.org/10.1002/tie.70074

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

 

【総点検・マレーシア経済】第536回 米マレーシア貿易協定解説(3)

第536回 米マレーシア貿易協定解説(3)

10月26日、ASEAN首脳会議に合わせてマレーシアを訪問したトランプ大統領とアンワル首相の間で「米国・マレーシア相互貿易協定(Agreement between the United States of America and Malaysia on Reciprocal Trade)」が締結されました。

この協定の中で批判の矛先となっている米国の経済安全保障へのマレーシア側の協力義務の中で目を引くのは、第5.3条3項に書かれている内容です。マレーシアが「米国の本質的利益を危うくする」相手国と新たな自由貿易協定または優遇経済協定を締結した場合、米国側は本協定を打ち切り、かつ米国が定めた相互関税を課す権利を持つというものです。

例えば、マレーシアがイランとFTAを締結しようとした場合、米国がイランを「米国の本質的利益を危うくする」相手と判断すれば、米馬貿易協定は打ち切りにできることを意味します。これは、マレーシアが自由貿易協定を結べる相手国を米国が実質的に制限できることを意味します。

ただ、この条文にもマレーシア側が交渉過程で書き込んだと思われる単語があります。「もしマレーシアが、米国の本質的利益を危うくする国と、新たな二国間の自由貿易協定または優遇的経済協定を締結した場合(If Malaysia enters into a new bilateral free trade agreement or preferential economic agreement with a country that jeopardises essential U.S. interests)」とありますが、「自由貿易協定」の前に「新たな二国間の(new and bilateral)」という限定がついているのです。これにより、既存のFTAの更新(newではない)や多国間協定(bilateralではない)は米国の干渉の対象にならないことになります。

実際、この協定が結ばれた直後の10月28日、クアラルンプールで「ASEAN・中国FTA3.0」への署名が行われました。この協定は既存かつ多国間の協定であるため、この条文の対象外となります。

ザフルル大臣は、米馬貿易協定についての様々な批判に対して、当初の草案は「さらに悪かった(worse)」と明かしています。マレーシア側が交渉過程で条文に細かな制約を付けて精一杯抵抗したと筆者は想像します。ただし、こうした条文上の努力が実施に問題となった際にトランプ政権に通用するかは疑問が残ります。

 

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

 

 

【イスラム金融の基礎知識】第582回 バンク・イスラム、サラワク州にザカートを寄付

第582回 バンク・イスラム、サラワク州にザカートを寄付

Q: バンク・イスラムがサラワク州のイスラム団体に寄付したそうですが?

A: マレーシアの現地報道によれば、バンク・イスラム(BIMB)は11月、同社幹部がサラバク州のザカート管理団体であるタブン・バイトゥルマール・サラワクを訪れ、2024年分のザカートとして91.5万リンギを寄付したことを明らかにした。贈呈式には州首相も来場し、小切手型を模した大きなボードが手渡された。

BIMBの2024年の年次報告書によると、2024年の業務によって生じた利益や保有資産などに基づいて算出された同行負担のザカートは1,140万リンギであった。このうち今回サラワク州に寄付された91.5万リンギは、ザカード全体の8.3%に相当する。各州のザカート管理団体にそれぞれいくらずつ寄付したか、詳細は必ずしも毎回詳らかにされていないため、今回の報道は詳細の一端が明らかになったといえる。割合で言えば、BIMBが有する135支店のうち、サラワク州には6支店しか存在せず、全体の4.4%に過ぎない。ここから、ザカートに占めるサラワク州への割合は、支店の同割合よりも高かったことになる。

サラワク州は、人口およそ250万人であるが、ムスリムはほぼ3分の1にとどまっている。他方、最大多数派は人口の半分を占めるのはキリスト教徒で、これはマレーシア全体とは異なる宗教別人口比率となっている。ただ、他の州と同様、宗教委員会などイスラムを管轄する組織・団体は州政府内にあり、ザカート徴収団体であるタブン・バイトゥルマール・サラワクもその一つである。2024年は、企業や個人等から1億4,300万リンギのザカートを徴収、うち1億1,200万リンギを貧困層への分配に用いた。

今回受け付けたBIMBの寄付金について、サラワク州側は同州のムスリム・コミュニティの社会経済的発展を支援するために用いるとしている。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【従業員の勤労意欲を高めるために】第913回:どのEQがどのCQを伸ばす? 日本人駐在員184名で判明した“感情的知性 → 文化的知性”の関係(後編)

第913回:どのEQがどのCQを伸ばす? 日本人駐在員184名で判明した“感情的知性 → 文化的知性”の関係(後編)

前回からの続きです。分析の結果、次のことが明らかになりました。

  1. 他人の感情を読み取る力(他者情動評価)が、異文化に関わろうとする意欲(動機づけCQ) と文化に合わせたふるまい(行動CQ) を高める

→ 他人の気持ちに敏感な人ほど、異文化の人とも積極的に関わり、 柔軟に行動を変えられるということです。

  1. 自分の感情に気づく力(自己情動評価)が、メタ認知CQ(状況を振り返って理解を深める力) を高める

→ 自分の状態に気づける人は、 異文化での経験を振り返りながら改善できるという結果です。

  1. 感情を前向きに使う力(情動活用)と、感情を整える力(情動調整)が、

動機づけCQ(異文化に向き合う意欲) を高める

→ 落ち込んでも気持ちを立て直せたり、感情を整えたりできる人ほど、 異文化への挑戦を続けられることが示されています。

  1. EQの力は、性別や海外経験よりも強い予測力を持つ。性別、年齢、海外経験の長さ、 語学力など13項目を統制したうえでも、 EQの側面はCQの側面を有意に説明していました。

→ つまり「異文化で強くなる人」は、 必ずしも海外経験が長い人ではなく、「感情を理解し扱える人」 である可能性が示唆されます。

これらの結果から、赴任前研修で「他者の感情理解」「自己理解」「 感情の調整方法」などを鍛えることが、赴任後の異文化適応(意欲や行動の柔軟性)を高める可能性が高いことが分かります。どのEQを伸ばせば、 どのCQが伸びるのかが初めて明らかになったため、 人材育成や選抜をより効果的に行えるようになると期待されます。

本研究は、 EQの4つの力がCQの4つの力にどのようにつながるのかを初めて統計的に示した研究です。特に「他者の感情理解」「 感情の活用と調整」が、 異文化への意欲と行動に強く影響することが分かりました。 今後は研修や教育の中でEQを効果的に育てることで、 CQを高める新しいアプローチが可能になると考えられます。

 

Kokubun, K., Nemoto, K., & Yamakawa, Y. (2025).
What kind of emotional intelligence enhances what kind of cultural intelligence: Analysis using emotional and cultural intelligence facets of expatriates. International Journal of Intercultural Relations, Volume 110, 102332.
2026年1月16日まで、 以下のURLで全文をご覧いただけます。https://authors.elsevier.com/a/1mApwXTj0QRRa

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

【従業員の勤労意欲を高めるために】第912回:どのEQがどのCQを伸ばす? 日本人駐在員184名で判明した“感情的知性 → 文化的知性”の関係(前編)

第912回:どのEQがどのCQを伸ばす? 日本人駐在員184名で判明した“感情的知性 → 文化的知性”の関係(前編)

前回までは、中小企業の両利きやグリーンイノベーションについてお話しました。中小企業は、持続可能性のための理想の追求と、自社の能力に合わせた現実の追求との間で、両手利きを活用して慎重にバランスを取る必要があります。

さて、今回からは、筆者が発表する論文の内容を順番に紹介したいと思います。今回は、駐在員の「文化的知性(CQ)」 と「感情的知性(EQ)」についてです。

現代の企業では海外赴任や国際的な仕事が増えており、 異文化の中でも上手く働くために必要なCQ と、人の感情を理解してうまく扱うEQ が注目されています。しかし、「どのようなEQの力が、 どのCQの力を高めるのか」 という具体的な関係はこれまでほとんど分かっていません。そこで、 米国およびカや東アジアで働く日本人駐在員184名を対象に調査を行 い、EQとCQのそれぞれの“側面”に着目して、 両者がどのようにつながっているのかを詳しく分析しました。

EQには、主に次の4つの力があります。

  • 自分の感情に気づく力(自己情動評価)
  • 他人の感情を読み取る力(他者情動評価)
  • 感情を前向きに活かす力(情動活用)
  • 感情をうまくコントロールする力(情動調整)

一方、CQにも4つの力があります。

  • 状況を振り返って気づきを得る力(メタ認知CQ)
  • 異文化に関する知識(認知CQ)
  • 異文化で学びたい・関わりたいという意欲(動機づけCQ)
  • 文化に合わせて行動を変える力(行動CQ)

次回に続きます。

 

☆調査概要

WEBアンケートが2023年10月24日から2024年3月2 5日にかけて行われました。東西8カ国・地域(中国、インドネシア、マレーシア、 シンガポール、台湾、タイ、アメリカ、ベトナム)に駐在する23歳から76歳までの女性12 人、男性172人の計184人が参加し、全員のデータが有効回答とされました。調査にご協力くださった方々にこの場を借りて心より感謝申し上げます。

 

Kokubun, K., Nemoto, K., & Yamakawa, Y. (2025).
What kind of emotional intelligence enhances what kind of cultural intelligence: Analysis using emotional and cultural intelligence facets of expatriates. International Journal of Intercultural Relations, Volume 110, 102332.
2026年1月16日まで、 以下のURLで全文をご覧いただけます。https://authors.elsevier.com/a/1mApwXTj0QRRa

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

【総点検・マレーシア経済】第535回 米マレーシア貿易協定解説(2)

第535回:米マレーシア貿易協定解説(2)

10月26日、ASEAN首脳会議に合わせてマレーシアを訪問したトランプ大統領とアンワル首相の間で「米国・マレーシア相互貿易協定(Agreement between the United States of America and Malaysia on Reciprocal Trade)」が締結されました。

この協定についてマレーシア国内で批判の声が上がっています。最大のポイントは「米国の経済安全保障政策にマレーシアが強制的に組み込まれる」という懸念です。実際に、米馬貿易協定の5.1条には経済安全保障に関連するかなり拘束力が強い項目が含まれています。

まず、第1項では米国が貿易関連の経済安全保障措置を発動し、それをマレーシアに通知した場合、マレーシア側は「米国が採った措置と同等の制限効果をもつ措置を採用・維持するか、または両国にとって受け入れ可能な実施スケジュールに合意するものとする」とされています。

これは、例えば米国が中国に対して特定の半導体の輸出規制を導入し、マレーシアに同様の措置をとるように通知した場合、マレーシア側はほぼ同様の措置をとる義務があることを意味し、これまで米中対立に中立的であったマレーシアの貿易政策の自律性が大きく低下します。

これについて、ザフルル大臣は、マレーシアが米国の安全保障措置に同調する義務を負うのは、「『共有された』経済・国家安全に対する懸念(”shared” economic or national security concern)」に対応する場合に限られると条文に記載されていると反論しています。

確かに条文にはそうした文言があり、マレーシア側は「共有された(shared)」という単語を「経済・国家安全に対する懸念」の前に挿入することを交渉によって認めさせたと筆者は推測します。条文通りに読めば、例えばマレーシアがイランの核開発については米国の懸念を共有していないと主張すれば、米国のイランへの貿易制裁に同調する必要はなくなります。

ただ、これはあくまで条文上の話であり、米国市場への低関税アクセス権を米国側に握られているという力関係を考えれば、実際にこうした議論を展開することは難しいでしょう。実際、この米馬貿易協定には「いずれの当事国も、他方当事国宛に書面による通知をもってこの協定を解除できる。解除は通知の日から180日後に効力を生ずる」とする解除条項が付されています。

マレーシア政府はこの条項を「嫌ならばマレーシア側はいつでも抜けられる」として批判に反論していますが、その場合、条文で約束されたパーム油などへの関税免除の権利が無効になるため、実際にマレーシア側からこの協定を破棄することはコストが高すぎるため考えられません。

マレーシア側は交渉の過程で、条文に「共有された」懸念という限定的な単語を認めさせたものの、実際の力関係、あるいはトランプ政権の外交姿勢を考慮すると、こうした外交文書上の巧妙な工夫が意味を持つ可能性は低いと考えられます。

 

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

【イスラム金融の基礎知識】第581回 バンク・イスラム、大学生の人気就職先に選出

第581回 バンク・イスラム、大学生の人気就職先に選出

Q: バンク・イスラムが大学生の就職先として人気のようですが?

A: マレーシアの大学生の間で、バンク・イスラム(BIMB)が就職先として人気が非常に高いことが明らかとなった。自分が成長できることや良い給料が期待できること、雇用が安定していることなどが、大学生などから評価されたようだ。

GTIメディア・マレーシアが、2025年1~9月に公私大の大学生・卒業生5.1万人余りを対象として、就職希望の企業や就活で重視する事柄に関するアンケートを行った。この結果BIMBは、石油産業のペトロナス社、会計法人のアーンスト・アンド・ヤング、商社のDKSHホールディングス、アライアンス銀行や保険会社、何より9年トップだったメイバンクを抜いての1位となった。

アンケートを行った同社の担当者によれば、マレーシアの大学生・卒業生が就職先を選ぶにあたり重視するポイントは、強力なリーダーシップがあること、給与が良いこと、ワークライフバランスが取れること、自分自身の成長の機会があること、雇用が安定していること、などであった。そのためアンケートの上位を占めた企業は、キャリア展望が開けており、そのことを就活で学生にアピールしたことが功を奏した分析している。

今回のアンケートでは新しい傾向がみられた。キャリアアップのためには海外でも就職活動を行うこと、メンタルヘルスサポートが充実していることを挙げた回答者が半数以上であり、特に82%は倫理的な慣行を重視し、76%は社会的に意義のあるキャリアを求めている。また、66%がAIの導入によって自身への影響があるのでは、との懸念を抱いる。マレーシアの担当者は、AIが普及する今だからこそ、批判的思考能力、共感する力、適応能力、好奇心といった対人関係を中心とするスキルを磨き、AIには真似できないことを身につけるべきだと、学生にアドバイスを送っている。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

ミスターDIYとワトソンズ、世界的なブランディング賞を受賞

【クアラルンプール】 ブランド力に優れた企業を称える「第20回ワールド・ブランディング・アワーズ」の表彰式が17日、大阪市立美術館で開催され、マレーシアからはミスターDIYとワトソンズがリージョナル部門で受賞した。

アワーズの主催はロンドンに本拠を置く非営利組織ワールド・ブランディング・フォーラム(WBF)。ロンドン以外で初の授賞式開催となった今年は、66カ国から1092以上のブランドが「ブランド・オブ・ザ・イヤー」にノミネートされた。

リージョナル部門は、3つ以上の地域市場かつ4カ国以上で影響力があるブランドに贈られるもので、ミスターDIYとワトソンズは、ほかの世界的な18企業とともに選出された。

また、ナショナル部門で、政府系電力会社のテナガ・ナショナル(TNB)、ZUSコーヒー、スナック菓子の「マンチーズ」が受賞。乳製品部門のブランド・オブ・ザ・イヤーでは「ファームフレッシュ」が2022年に続き3度目の受賞となった。
(ザ・スター、11月18日、ベルナマ通信、11月19日、WBF発表資料)