【イスラム金融の基礎知識】第603回 ウズベキスタン、初のイスラム銀行ライセンスを発行

第603回 ウズベキスタン、初のイスラム銀行ライセンスを発行

Q: ウズベキスタンで初めてのイスラム銀行が誕生しましたが、詳細は?

A: ウズベキスタンの現地報道によると、ウズベキスタン中央銀行は10月23日に同国のオープン銀行にイスラム銀行業のライセンスを与えた。今夏に施行されたイスラム銀行に関する法律に基づき、ライセンスが発行された初めての事例となった。

ウズベキスタンのイスラム銀行制度をめぐっては、本連載でも触れたように(第591回)今年3月にイスラム銀行に関する法律に大統領が署名、その後6月に施行されたばかりだ。この法律に基づいて初めてライセンスを取得したオープン銀行は、フューチャー・オープン・テクノロジー・グループが株式を保有する民間銀行で、2025年にスマート銀行から名称を変更した。

法律によれば、ウズベキスタンでイスラム銀行を営むためには、全面的にイスラム式であるフルフレッチ型のイスラム銀行と、従来型銀行内に設置された専門の部署であるイスラム窓口(イスラム・ウィンドウ)の二つ方法・ライセンスがあるが、オープン銀行はフルフレッチ型を採用する。同じく、この法律が認める金融商品に使用される契約形態は、ムダーラバ、ワカーラ、ムラーバハ、サラーム、ムシャーラカ、イジャーラなどで、この点はマレーシアと同様である。同銀行のウェブサイトによれば、ライセンスを取得したニュースが第一報として掲載されているものの、具体的にどの契約形態を用いた預金や融資が提供されるかは、まだ明らかにしていない。

中央銀行は、今後5年間でフルフレッジ型のイスラム銀行が2行誕生し、これまで宗教上の理由で銀行の利用を避けていた人びとのタンス預金から、10億ドルの資金がイスラム銀行にもたらされると見込んでいる。今回のオープン銀行が同国のイスラム銀行に先鞭をつける形となり、今後の制度や市場の発展に大きな期待がかかっている。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

【従業員の勤労意欲を高めるために】第930回:良い会社でも、不満はなくならない

第930回:良い会社でも、不満はなくならない

前回は、同じ性格でも、どんな仕事をしているかによって、その意味が変わる可能性について紹介しました。今回は、従業員が会社に抱く「不満」について考えてみます。

従業員の不満が多い会社は、問題のある会社なのでしょうか。

普通はそう考えがちです。給与や待遇への不満が少なく、会社への愛着が強いほど、良い職場だと評価されます。

しかし、働きやすい会社になれば、従業員の不満はなくなるのでしょうか。

この疑問を調べるため、拙稿では中国にある日系製造業の現地法人を対象に、2021年、2023年、2025年の3回にわたって実施した従業員調査を分析しました。回答者は延べ284人です。

この会社では、心理的安全性と組織コミットメントが比較的高い水準にありました。心理的安全性とは、自分の意見を安心して言えること、組織コミットメントとは、会社への愛着や帰属意識のことです。

ところが、従業員の自由記述には、さまざまな不満や要望が書かれていました。

2021年には、給与が物価上昇に追いつかない、昇給が少ない、人手が足りないといった声が目立ちました。

2023年には、待遇面の不満に加え、従業員の提案を経営陣が十分に聞いていない、報奨制度が公平でないといった指摘が見られました。

2025年には、給与や職場環境への要望が続く一方、従業員同士の交流を増やしたい、会社の業績と賞与を連動させたいといった意見も見られました。

つまり、待遇への不満が消えて、別の要望に置き換わったわけではありません。給与や労働条件への不満は残りながら、職場の人間関係、経営への参加、会社の将来など、関心の対象が広がっていたのです。

もちろん、これは一社の事例なので、心理的安全性が高まったから意見が多様化したとは断定できません。

それでも、人材管理について一つの示唆があります。

従業員から不満が出ることは、必ずしも会社が悪くなっていることを意味しません。安心して意見を言えるからこそ、それまで表に出なかった問題が見えてくる可能性もあります。

不満がどれだけあるかだけでなく、何に不満を感じているのか。

従業員の声を評価するときには、その「内容」に目を向けることが大切なのではないでしょうか。

論文情報は以下。末尾のURLから概要をご覧いただけます。

Kokubun, K., Ino, Y., Shibahara, N., & Ishimura, K. (2026). When good organizations still face employee concerns: Psychological safety and the content of employee concerns in a Japanese subsidiary in China. Asia Pacific Business Review.

https://doi.org/10.1080/13602381.2026.2754528

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

【総点検・マレーシア経済】第558回:マレーシアの2026年経済成長率は

第558回:マレーシアの2026年経済成長率は

10月16日、統計局はマレーシアの2026年第3四半期のGDP推計値を前年同期比5.3%増と発表しました。第2四半期の6.0%増からは減速しましたが、2026年は3四半期連続で5%を超える成長率を記録し、第3四半期までの累計のGDP成長率は5.5%となりました。

政府はこれまで2026年のGDP成長率の予測を4.0%〜5.0%としていましたが、これを4.8%〜5.3%に修正しました。通年で4.8%成長になる場合、第4四半期は2.8%成長、5.3%成長になる場合、第4四半期は4.5%成長となります。前年同期が高水準だったとはいえ、やや保守的な見積もりと言えます。第4四半期が3.5%成長を上回れば通年での5%台の成長になりますので、世界経済に大事件が起きない限り、マレーシアの2026年の5%台の成長は確実と言えるでしょう。

図1はマレーシアの四半期ごとのGDP成長率と製造業の成長率を示したものです。2026年第3四半期は引き続き製造業が強く、7.5%増となっています。それでもGDP成長率が減速したのは、サービス業の伸びが5.9%から5.4%増にやや減速したのに加えて、鉱業が9.2%成長から4.9%減へと大幅に減少すると見込まれるためです。これは第3四半期のGDP成長率を約0.2%ポイント押し下げています。もし前期並みの成長をしていればGDP成長率を0.7%ポイント押し上げていたことから、鉱業部門の不調を除けば経済は引き続き6%成長クラスの好調さを保っていると言えます。

10月19日に発表されたマレーシアの9月の貿易統計では輸出は前年同月比54.5%増の2151億リンギ(図2)となり、月間で初めて2000億リンギを突破して過去最高を記録しました。製造業の輸出は58.6%増、電子・電気産業の輸出は59.2%増、米国向けの輸出は89.9%増となっており、さらに上振れしています。

ホルムズ海峡危機などもあり、年前半には先行きが危ぶまれた2026年のマレーシア経済でしたが、蓋を開けてみれば未曾有のAIブームにも支えられて3年連続で5%台の成長となりそうです。

 

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

【イスラム金融の基礎知識】第602回 フィリピン、ハラル食品拡大のため中小零細企業や農家へ積極融資

第602回 フィリピン、ハラル食品拡大のため中小零細企業や農家へ積極融資

Q: フィリピンでのハラル産業拡大におけるイスラム銀行の役割は?

A: さる9月20日と21日、フィリピン・ハラル産業サミットがマカティ市で開催された。同国唯一の政府系イスラム銀行であるアル・アマナ・イスラム投資銀行のアメナ・パンガンダマン会長兼CEOが登壇し、ハラル産業を通じた中小零細企業や農家の振興のため、10億ペソ(約25億円)の融資枠を設立することを明らかにした。7月に就任したばかりの新会長兼CEOが新方針を明らかにしたかっこうだ。

パンガンダマン氏の講演やその後のメディア・インタビュー等によれば、フィリピンの事業所の約99.5%、雇用の約63%は中小零細企業が担っており、これらに融資することは事業や雇用が拡大に繋がるとした。他方、ハラル産業では国内の供給が不足しており、近年は1億米ドルの輸入に頼らざるを得なくなっている。そこで、ハラル食品を製造する中小零細企業に積極的に融資することによって、事業や雇用の拡大を図りつつ、国内需要に対応し、将来的は輸出産業として育てていく狙いもあるとしている。

同銀行の取り組みは、政府が掲げるハラル産業開発戦略計画にそって政府機関と連携して進めていく模様だ。この一例としては、貿易産業省と覚書を結び、ハラル認証取得の費用支援や食肉処理施設の整備などを進めていく。また、同国のハラル認証団体であるフィリピノ・ムスリム国家委員会とは、金融支援に関する覚書を締結する取り組みをすすめることで合意している。

パンガンダマン氏によれば、中小零細企業がハラル市場に参入するためには、認証基準のハードルを下げることではなく、認証プロセスを理解しやすく、また利用しやすいようにすべきであると指摘し、ハラル食品のための設備拡充や物流の充実などに融資が用いてもらいたいとの期待を述べた。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

【総点検・マレーシア経済】第557回:2027年予算案はかなり「堅実」

第557回:2027年予算案はかなり「堅実」

10月9日、マレーシアの2027年予算案が下院に上程されました。歳入は2026年見込みより4.7%増の3808億リンギとなる見通しです。経常支出は3.8%増に抑え、開発支出も830億リンギと前年の810億リンギから若干の積み増し、結果として財政赤字のGDP比は2026年の3.5%から3.3%に縮小する見込みです。

税収の伸びは、SST(9.5%増)、所得税(6.2%増)、法人税(4.8%増)の増収に支えられています。また、ペトロナスによる配当も前年の270億リンギ(改訂後)から320億リンギへと増加が見込まれています。歳入に占める石油・ガス関連の収入は16.1%で、2009年に40%を超えていたことからすると、健全な範囲に収まっています。

経常支出は3768億リンギと前年の3631億リンギから3.8%増に抑えられていますが、2026年実績は当初見込みから大幅に増加し、前年比で9.8%増となっていました。これは、原油価格高騰に伴って燃料補助金が膨らんだためです。2025年の補助金支出は改革によって前年比18%減の553億リンギに抑えていましたが、2026年には34.7%増の745億リンギにまで増加、2027年は2.3%減の727億リンギとなることが見込まれています。

開発支出は2.5%増と微増に留まります。前年比で大きく増えているのは住宅(15.4%増)で、予算演説でもいくつかのプロジェクトに触れられています。続いてエネルギー・水道分野の10.5%増、その他一般管理費が10.4%増で、政府のデジタル化などに使われるとみられます。

低・中所得層への給付金(STR)は、低所得層で用途が限定される電子配布(SARA)へと一部付け替えられましたが、STRとSARAの合計は、ほぼ横ばいです(月収2501〜5000リンギの世帯は変更なし)。ただし、2026年にあった全国民向けの100リンギの1回払いは、2027年はSTR非受給者だけが対象となるため、STR受給者の受取額はやや減額となる一方、STRとSARAを受給していない18歳以上にとっては、100リンギの特別配布が1回から2回になり、100リンギの増加となります。いずれにせよ、総額に大きな変更はありません。

2027年予算案は原油価格高騰で燃料補助金が膨らむ中、総じて堅実な予算であると言えます。2027年には総選挙が行われる可能性が高いことを考えれば、公務員や高齢者向けの給付を除けば「大盤振る舞い」とは言えないでしょう。

一方で、最低賃金は現在の月額1700リンギから2000リンギへと2027年6月より大幅に引き上げられます。準熟練職と大卒者に月2500リンギの「最低初任給」が設定され、GLC/GLICの職員については最低賃金目標が3100リンギから3400リンギに引き上げられます。

財政状況が厳しい中で予算を抑制する一方で、最低賃金を上げるので許して、というのが本音かもしれません。

 

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

 

【イスラム金融の基礎知識】第601回 イスラム銀行と同規模の日本の銀行

第601回 イスラム銀行と同規模の日本の銀行

Q: 東南アジアのイスラム銀行は、日本のどの規模の銀行に相当しますか?

A: 前回は、シンガポールの金融情報リサーチ会社であるTABインサイツ社が昨年発表したランキング「世界のイスラム銀行の強度トップ100行」に基づき、マレーシアのイスラム銀行の動向を探った。今回は、同社が同時期に発表したランキング「世界最大1,000銀行2025年版」を手がかりに、東南アジアのイスラム銀行と日本の銀行の規模を比較してみたい。

このランキングは、世界100か国以上の銀行を対象に総資産のトップ1,000行を順位付けたものである。日本からは74行がランクインしている一方、東南アジア各国ではベトナムの23行をはじめ、インドネシア16行、マレーシア12行、フィリピン11行、タイ10行、シンガポール7行、ブルネイ1行などとなっている。このうちイスラム銀行はマレーシアの3行とブルネイ1行であった。総資産に基づくランキングであるため、日本の同規模の銀行と比較が可能だ。

・第620位:バンク・イスラム、総資産216.50億米ドル。同規模の日本の銀行:千葉興行銀行(本社:千葉県、第618位)同216.82億米ドル。

・第781位:MBSB銀行、総資産128.64億米ドル。同規模の日本の銀行:清水銀行(本社:静岡県、順位796位)同120.69億ドル。

・第855位:バンク・ムアーマラート、総資産97.65億米ドル。同規模の日本の銀行:北日本銀行(本社:岩手県、第839位)同101.93億米ドル。

・第911位:バンク・イスラム・ブルネイ・ダルサラーム、総資産82.39億米ル。同規模の日本の銀行:但馬銀行(本社:兵庫県、第888位)、同87.55億米ドル。

このデータは、マレーシアやブルネイのトップレベルのイスラム銀行は、日本の地銀や第二地銀で各都道府県の中堅銀行と同程度の規模であることを示している。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【総点検・マレーシア経済】第556回:8月の台湾からの輸入が急増。要因は?

第556回:8月の台湾からの輸入が急増。要因は?

9月18日、統計局はマレーシアの8月の貿易統計を発表しました。輸出額は前年同月比45.5%増、特に米国向けの輸出は130.4%増の375億リンギに達し、AIブームは衰え知らずとなっています。

一方で、注目されるのは輸入です。8月のマレーシアの輸入額は41.1%増となり、中国からの輸入が61.3%増、シンガポールからの輸入は59.1%増となりましたが、特筆すべきは台湾からの輸入が68.9%増(図参照)となりシンガポールを抜いて国別で2位になったことです。

台湾からの輸入は、2010年代までは中国、シンガポール、日本、米国に次ぐ5位グループでしたが、2010年代後半から増加し、ここ数年で上位3カ国に入るようになりました。

表は2026年8月のマレーシアの台湾からの輸入をHSコード10桁でみたものです。急増しているのは1位のメモリIC、3位のGPUモジュール等で、いずれも前年同月比5倍以上になっています。AIブームの輸入側への影響がここに現れています。

 

同時に、6位のサーバー等も20倍以上に増加しています。これは、マレーシア国内でのデータセンター建設ブームに対応していると考えられます。

近年、インテルの米国での前工程の微細化が停滞したことで、TSMCへのコンピュートチップ前工程の生産委託が本格化しました。これにより、台湾=前工程、マレーシア=後工程という協業が深まっています。

インテルはペナンの新拠点で、EMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge)と呼ばれる先端パッケージング技術を2026年下半期に導入する予定です。GoogleやAmazonなどがAIチップの前工程をTSMCに、後工程をインテルに委託することが報道されていますが、ペナンも先端後工程の一翼を担うと考えられ、2027年以降はこうした分業によっても、マレーシアの台湾からの半導体の輸入は増加する見込みです。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

【従業員の勤労意欲を高めるために】第929回:仕事が変わると、性格の意味も変わる

第929回:仕事が変わると、性格の意味も変わる

前回は、経済危機になると、従業員が会社を見る物差しが変わる可能性について紹介しました。今回は、従業員自身の「性格」について考えてみます。

職場では、「協調性が高い人」が好まれることが少なくありません。周囲に配慮し、人と協力し、対立を避ける。確かに、多くの仕事で役立ちそうな性格です。

しかし、同じ性格でも、どんな仕事をしているかによって意味が変わるのではないでしょうか。

この疑問を調べるため、拙稿では22~66歳の働く男女175人について、性格とMRIで測定した脳の灰白質量との関係を分析しました。さらに、管理職や専門・技術職を「知識労働者」、それ以外を「その他の労働者」として比較しました。

興味深い結果が見られたのが「協調性」です。知識労働者では、協調性が高い人ほど脳全体の灰白質量の指標が高い傾向がありました。ところが、その他の労働者では、反対に低い傾向が見られました。

なぜでしょうか。

知識労働では、自分の専門性だけで仕事が完結するとは限りません。他者と知識を共有し、異なる専門性を組み合わせて問題を解決する必要があります。そのような環境では、協調性が仕事を進めるうえで強みになる可能性があります。

一方、協調性の高い人には、対立を避け、自分より相手を優先しやすい面もあります。先行研究では、そのために自分の利益を犠牲にしたり、不利益を受けたりする可能性も指摘されています。

もちろん、今回の研究は一時点の調査なので、仕事と性格の組み合わせが脳を変えたとは断定できません。あくまで両者の「関連」を示した結果です。

それでも、人材管理について一つの示唆があります。「協調性が高い人がよい」「積極的な人がよい」と、性格だけを切り離して評価するのは単純すぎるのかもしれません。

どんな人が優秀かではなく、どんな環境なら、その人の特徴が強みになるのか。

人を見るだけでなく、「人と仕事の組み合わせ」を見ることが大切なのではないでしょうか。

論文情報は以下。末尾のURLから全文をご覧いただけます。

Kokubun, K., Nemoto, K., & Yamakawa, Y. (2026). Occupational Context Moderates the Association Between Agreeableness and Brain Structure. Brain Health, 1, e70009.
https://doi.org/10.1002/brh2.70009

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

【総点検・マレーシア経済】第555回:ペトロナスが抱えたPRefChemというリスク

第555回:ペトロナスが抱えたPRefChemというリスク

8月28日、国有石油会社ペトロナスは2026年上半期の業績を発表しました。売上は前年同期から15%増加して1524億リンギ、税引き後利益は4%増加して272億リンギとなりました。売上の増加には、原油価格(ブレント)が前年同期の1バレル=71.9ドルから92.3ドルにまで高騰したことが貢献しました。

ホルムズ海峡危機の中で堅調な業績に見えますが、筆者には、ペトロナスは久々に大きなリスクを抱えてしまったように思われます。以下に説明します。

まず、原油価格が高騰し、売上がの見た割に利益が伸びていません。理由は、ジョホール州の 石化コンビナートRAPID内にあるプングラン製油社(PRC)とプングラン石油化学社(PPC、以下、両社総称PRefChem)への追加出資に伴い、これまで持分法会計で未認識だった累積損失RM148億を一括計上したためです。なお、合弁パートナーであったサウジアラムコからの両者の株式を全額買収する契約が2026年5月に締結されたましたが、6月末時点ではまだ完了していません。

RAPIDは巨大な石油コンビナートで、操業後にコロナ禍で需要が低迷したこと、製油施設が何度も停止し、稼働率が低下したことなどが重なり、損失が累積していました。今回は、増資に伴ってその累損が計上され、明らかになりました。一概には言えませんが、RM148億の損失はペトロナスの持ち分50%分で、サウジアラムコ分を合計すると、創業から6年半でRM250億〜300億RM、毎期平均してRM40〜50億程度の損失を計上していたことになります。

現在、ホルムズ海峡危機によって、アジア地域での石油化学製品の市況は好転しています。実際、ペトロナスの2026年上半期の川下事業は、PRefChemの累損を除けば税引き後利益で70億リンギの黒字と報告されています。

しかし、アジア地域では中国を始めとする各国の石油コンビナートの稼働が相次いでおり、供給は構造的に過剰気味です。PRefChemの累損の巨大さからみても、市況が崩れたり、施設が稼働を停止する事故があると、一気に損失は膨らみます。しかも、今後はペトロナス(およびペトロナス化学)の100%子会社となるので、損失は全て本体に計上されることになります。

ここのところ、ペトロナスの税引き前利益は700億リンギ程度有るので、PRefChemの業績が悪化しても吸収できないわけではありません。しかし、PRefChemが市況低迷時にはペトロナスの利益を押し下げる要因になる可能性は否定できません。

ペトロナスは、今回の買収による完全子会社化によって、バリューチェーン全体をコントロールし、マレーシアのエネルギー安全保障に貢献することを挙げています。実際に、そうした面での貢献は大きいですし、日本でも出光が製油所の閉鎖を撤回するなど、経済安全保障を理由に自国の製油能力を維持・拡大する動きが目立ちます。

ただ、商業面から見れば慢性的に過剰供給の業界で、稼働率が安定しない巨大石油コンビナートを100%子会社として持つことは、明らかにリスク要因となります。まずはPRefChemが安定的に創業できるか、そして、危機時には原油を安定的に調達できるか、平時には市況が崩れないか、常にリスクを見なければいけない厄介な存在を抱え込むことになります。

 

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

【イスラム金融の基礎知識】第600回 イスラム銀行強度ランキングを分析

第600回 イスラム銀行強度ランキングを分析

Q: イスラム銀行上位100行にマレーシアは何行ランクインしていますか?

A: ある国のある市場の成熟度を測る際には、市場規模のみならず参入している事業者数も重要な指標となる。例え市場規模が大きくとも、独占や寡占の状態では、市場の健全な発展を阻害する要因となりうる。多くの企業による競争状態から、底堅い発展やイノベーションが生まれると期待できる。この点について、マレーシアのイスラム銀行市場をみてみたい。

シンガポールの金融情報リサーチ会社であるTABインサイツ社は、昨年末に「世界のイスラム銀行の強度トップ100行」を発表した。これは、イスラム銀行の総資産や融資残高、預金残高、売上高、ROAなど14項目について独自の点数化を行い、ランキング形式でまとめたものである。これによると、マレーシアは13位のメイバンク・イスラミックを筆頭に16行がランクインした。ひとつの国で16行がランクインしたのは、マレーシアが最多であり、2位のインドネシアの11行を引き離した。イスラム金融大国で国内に多くのイスラム銀行が存在する国をみてみると、パキスタンとバングラデシュがそれぞれ9行、トルコとUAEがそれぞれ6行、サウジアラビアは4行にとどまった。市場の独占や寡占は、市場の草創期の育成段階では必要な措置とみることもできるが、やはり底堅い健全な発展には企業間の競争が必要だろう。

マレーシアの16行の内訳をみると、いわゆる8大民間金融グループそれぞれのイスラム銀行、専業銀行であるバンク・イスラム、バンク・ムアーマラート、MBSB銀行、外資系のうちサウジ資本のアル・ラジヒ銀行、イギリス資本のHSBCとスタンダード・チャータード銀行、シンガポール資本のOCBC銀行、および政府系の協同組合銀行(バンク・ラクヤット)である。国内資本のイスラム銀行が軒並みランクインする一方、一部の外資系はランク外となった。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。