【総点検・マレーシア経済】第521回  3月の対米輸出の激増、何が増えた?

第521回:3月の対米輸出の激増、何が増えた?

 

マレーシアの3月の対米輸出は、前年同期比で50.8%と急増しました。これは、輸出先の上位3ヵ国である中国が1.3%減、シンガポールが9.7%増であるのと比べて突出しており、トランプ関税前の駆け込み輸出が起こったとみるのが妥当でしょう。

表1はマレーシアの3月の対米輸出額上位10品目を見たものです。輸出額がもっとも多いのはCPUなどが含まれる「電子集積回路」で前年同月比85.4%増となっています。輸出額の2位はコンピュータ全般が含まれる「自動データ処理機械」で、前年同期比約12倍と大幅な伸びを示しています。その他の上位品目も軒並み2桁〜3桁の増加を示しており、例外的にローテクの半導体デバイスとプリンターなどが大幅に減少しています。

対米輸出が前年同月比12倍増になっているHSコード8471「自動データ処理機械」の内訳をより詳しく見ると、HSコード8471.50の輸出が前年同期比21倍増になっています。品目名は「自動データ処理機械及びこれを構成するユニット並びに磁気式又は光学式の読取機、符号化したデータを記録媒体に転記する機械及びこのようなデータを処理する機械…」と続く長いものですが、要するにノートPCでもデスクトップPCでもないコンピュータ、という理解が出来ます。サーバーなどはこのカテゴリに入りますが、マレーシアから米国へのサーバーの輸出が激増している、というのは少し違和感があります。

そこで、表2は2025年3月の米国側のデータから、マレーシアからの輸入額上位10品目をみたものです。輸入額の1位はHTSコード(HSコードの米国版)8542「電子集積回路」でマレーシアの1位と同じ、金額もマレーシア側の輸出額に対して1.1倍と整合性があります。ところが、マレーシアから輸出が急増しているHSコード8471については、米国側の輸入では15位で、金額もマレーシア側の輸出額の1/10程度しか計上されていません。輸出入のタイムラグがあるといっても、これでは差が大きすぎます。

考えられるのは輸出入でHSコードが変わっているケースです。疑わしいのは米国側の輸入額3位のHTSコード8473「コンピュータ部品・付属品」で、マレーシア側の輸出額の3.2倍が計上されています。さらに内訳を見ると、HTS8473.30が多くを占め、これはコンピュータ等に利用されるプリント基板(PCB)、ということになります。CPU などが載ったPCBが、マレーシア側ではキーボードや画面のないPCとして分類され、米国側ではPCの部品として分類されてもおかしくはありません。

これで、概ね謎が解けた気がします。2025年3月にマレーシアから米国に輸出が急増したのは、コンピュータ等に利用されるPCBである可能性が高いと考えられます。マレーシアは世界でも有数のPCBの生産・輸出国であり、トランプ関税を目前に、PCをはじめとする様々な電子機器の中核的な部品として利用されるPCBが駆け込みで大量に輸出された、と解釈するのが自然であると考えられます。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

製造業向けメタルテック&オートメックス、KLで開催

【クアラルンプール】 東南アジアの製造業、オートメーション、エンジニアリング業界が一堂に会する「メタルテック&オートメックス2025」が17日まで、クアラルンプール(KL)のマレーシア国際貿易展示センター(MITEC)で開催されている。29回目の今年は、機械・エンジニアリング産業連盟(MEIF)が主催する「先進機械・エンジニアリングサミット」(AMES)も同時開催となった。

今年のテーマは、「持続可能な製造業:スマートソリューションからAIイノベーションまで」。ドイツ、韓国、台湾、中国、シンガポールなど40カ国から1,500社以上が参加し、5,000点を超える先端技術が展示され、14日からの4日間で2万人超の来場が見込まれる。両イベントが初共催になったことで、技術革新と政策対話の連携を強化し、産業変革のさらなる加速を目指すという。

またオートメックスについて、主催企業インフォーマ・マーケッツは今年は11月4―6日の日程でペナン州での単独開催も予定。マレーシア北部の製造業で、スマートオートメーション、ロボティクス、人工知能(AI)などの技術への需要の高まりを反映しているという。
(ザ・スター、5月15日、デイリー・エクスプレス、5月14日)

NY発の鉄板焼きレストラン「ベニハナ」、スリアKLCCに開業

【クアラルンプール】 米ニューヨーク(NY)発祥の有名鉄板焼きレストラン「Benihana(ベニハナ)」がこのほど、マレーシア1号店となる店をクアラルンプールのスリアKLCC内にオープンした。

同店はカウンター席が10―12席、メインダイニングエリア68席で構成、近く個室も備える予定。鉄板焼きメニューをはじめ、3種類の懐石コース、ランチ用の定食など、さまざまなメニューを用意している。営業時間は午前10時―午後10時。

KLなどでレストランを展開する地元のコンティニュイティ・ホスピタリティー・グループが、タイを拠点にホテルなどを運営するマイナー・インターナショナル(MINT)とのマスターフランチャイズ契約で開店した。ベニハナは1964年に故ロッキー青木氏がNYで開業し、現在、世界で79店舗が展開されているという。
(フリー・マレーシア・トゥデー、5月13日、ベルナマ通信、5月8日)

アンワル首相、プーチン大統領とMH17便問題で協議

【モスクワ】 ロシアを訪問したアンワル・イブラヒム首相は、14日にモスクワで行われたウラジーミル・プーチン大統領との会談の際に2014年にウクライナ上空で撃墜されたマレーシア航空MH17便に関して協議したことを明らかにした。

これに先立つ12日、国際民間航空機関(ICAO)理事会は撃墜の責任はロシアにあると認定。これについてアンワル氏は、マレーシア国民、特に犠牲者の遺族の代表として、二国間協議の際にプーチン氏にMH17便の責任問題を提起したという。

プーチン氏は犠牲者の遺族に同情と哀悼の意を伝えた上で、徹底的かつ包括的、政治的に偏らない調査を求める姿勢を改めて強調。「当初から独立した詳細な調査を求めており、報告書の信頼性を確保するためにロシアは全面的に協力する用意がある」と強調した。これに対しアンワル氏は、プーチン氏の見解を犠牲者の遺族に伝えると述べたという。

アンワル氏は、「プーチン氏が協力する意思がないと言ったのは事実ではない。しかし彼は独立性がないと考えるいかなる機関とも協力することはない」と述べた。

アムステルダム発クアラルンプール行きのMH17便は2014年7月14日、親ロシア派分離主義者とウクライナ軍の戦闘の中、ロシア製の対空ミサイルで撃墜され、乗員乗客298人が死亡。それぞれ196人、38人の国民が犠牲となったオランダとオーストラリアの両国が2022年、ロシアを相手取ってICAOに提訴していた。
(ザ・スター電子版、エッジ、ベルナマ通信、5月15日)

第1四半期のGDP成長率はプラス4.4%、貿易は鈍化

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 中央銀行バンク・ネガラ・マレーシア(BNM)は16日、2025年第1四半期(1ー3月)の国内総生産(GDP)成長率が前年同期比プラス4.4%だったと発表した。4月に統計局が発表した事前予測値から変化はなかった。

堅調な消費者需要と設備投資に支えられて、14四半期連続でプラス成長を維持したが、鉱業輸出の減少が主な要因となって輸出の伸びが鈍化したことで前期の4.9%を下回った。サービス業が引き続き経済成長を牽引し、鉱業・採石業を除くすべてのセクターがプラス成長を記録した。需要面では、民間最終消費支出と総固定資本形成が成長を牽引した。

サービス業は卸売・小売業、運輸・倉庫、ビジネス・サービスの業績向上により、前期の5.5%には及ばなかったものの5.0%のプラス成長となった。セクター別の成長率が最も高かったのは建設業で、すべてのサブセクターの堅調な伸びに支えられ、前期のプラス20.7%は下回ったものの14.2%と大幅成長となった。

製造業は電気・電子・光学製品(7.8%増)、植物性・動物性油脂・食品加工(9.2%増)、石油・化学品・ゴム・プラスチック製品(2.6%増)が下支えし、前期(プラス4.2%)とほぼ同水準の4.1%のプラス成長となった。農業は前期のマイナス0.7%からプラス0.6%に改善したが、鉱業は原油・コンデンセートと天然ガスが減少したことから、前期のマイナス0.7%からマイナス2.7%に減速した。

国内需要は前期のプラス6.4%からプラス6.0%に下がり、民間消費と民間投資はそれぞれ5.0%、9.2%成長となった(前期はプラス5.3%、プラス12.7%)。公共支出は前期のプラス4.0%からプラス4.3%に加速。公共投資もプラス10.0%からプラス11.6%に加速した。前期はプラス8.7%だったモノとサービスの輸出はプラス4.1%に、輸入もプラス5.9%からプラス3.1%にそれぞれ減速した。

中銀は声明の中で、2025年の成長については、世界的な政策不確実性の高まりが世界需要を圧迫する中で、貿易摩擦の激化が国内の成長見通しに影響を与えるだろうと指摘。当初の予測である4.5―5.5%よりも若干低い成長率となる可能性が高いとした。その上で、米国の「相互関税」実施に先立ち、電気・電子などの輸出活動の前倒しや観光客の増加によってある程度緩和される可能性があるとし、底堅い国内需要も引き続き成長を支えるだろうとした。