【総点検・マレーシア経済】第528回 マレーシアの2025年第2四半期の経済成長率は4.4%。意外に粘っている?

第528回 マレーシアの2025年第2四半期の経済成長率は4.4%。意外に粘っている?

8月15日、バンクネガラはマレーシアの2025年第2四半期の実質経済成長率を前年同期比4.4%と発表しました。これは先月発表された事前推計値の4.5%とほぼ一致しています。第1四半期の4.4%からは横ばいで、予想外の底堅さを見せたと言えます。マレーシアの四半期GDP成長率は2024年第2四半期の前年同期比5.9%をピークに、以降、5.4%、4.9%、4.4%ときれいに0.5ポイントずつ減速してきましたが、その低下トレンドに一旦歯止めが掛かったことになります。

バンクネガラが発表している月次の経済成長率(前年同月比)の推移を見ると、4月が4.4%、5月が3.3%と低下していたのが、6月には5.5%と大きく上昇しています(図1)。同様に、第1四半期も3月に6.6%と大きく上昇しましたが、これは、トランプ関税の駆け込み需要によって3月の対米輸出が前年同月比で50.8%と大幅に上昇したことに対応しています。一方で、6月の対米輸出は4.7%増となっており、6月にGDPが急伸した理由は米国向けの駆け込み輸出ではないことが分かります。

 

第2四半期の部門別GDP成長率を見ると、サービス業が5.1%増(第1四半期:5.0%増)、製造業が3.7%増(同4.1%増)と大きく伸びてはいません。好調なのは建設部門で12.1%増(同14.2% 増)です。需要項目別に見ると、民間消費が5.3%増(同5.0%増)なのに対し、民間投資が11.8%増(同9.2%増)、公共投資が13.6%増(同11.6%増)と投資が経済を主導していることが分かります。

 

バンクネガラは第2四半期の経済状況の説明の中で「投資の成長は継続的な構造物投資と機械・設備への投資増加によって牽引された。これは主にデータセンターおよびIT関連設備向けの投資と、公営企業による設備投資の拡大によるものである」と述べています。これは、マイクロソフトがマレーシアで2025年第2四半期に3つの大規模データセンターを稼働させる、と報じられていたこととも一致します。マレーシアのデータセンターブームはGDPを左右する規模になっているということになります。

 

これに先立つ7月28日、バンクネガラは2025年の経済成長率の予想を従来の4.5%〜5.5%から4.0%〜4.8%に下方修正しました。筆者は1月の時点(本連載512回)で「2025年のマレーシアの経済成長率は政府予測の下限(4.5%)か、それを少し下回るのではないか」と書きました。トランプ関税の状況などを考えると、下半期は良くても上半期と同じ4.4%、下振れする可能性もあると考えています。なんとかデータセンター需要で踏みとどまっていますが、マレーシア経済は基本的には徐々に減速を続けている、と見ています。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

マレーシア標準QRコードが海外でも、ペイネットとアントが提携

【クアラルンプール】 決済システムのペイメント・ネットワーク・マレーシア(ペイネット)は、中国アント・グループのアント・インターナショナルとの提携を拡大。マレーシアの標準QRコード「ドゥイットナウ」がマレーシア以外でも利用できるようにする。

両社はマレーシアフィンテック週間の行事で覚書を締結した。外国を旅行するマレーシア国民は、アリペイプラスに加入する世界1億の商店で、マレーシアで使用しているのと同じアプリで決済が可能になる。

アリペイプラスはアント・グループが提供する越境モバイル決済サービス。世界各国の様々な決済サービスと提携し、ユーザーが自国で慣れ親しんだアプリを使い、外国で支払いができるシステムを運用している。

アント・インターナショナルのダグラス・ピギン社長は声明で「マレーシアにおける投資、提携を強化し、東南アジアの重要なフィンテックハブとしてのマレーシアの地位強化を後押しする」と述べた。
(ザ・スター電子版、ビジネス・トゥデー、テックインアジア、8月21日)

F1マレーシアGP復活の計画はなし=青年スポーツ相

【クアラルンプール】 ハンナ・ヨー青年スポーツ相は21日の下院議会質疑の中で、高額なスポンサー費用とレース日程の過密を理由に、マレーシアにおけるF1レースの復活計画はないと述べた。マレーシアは1999年から2017年にかけて、セパン・インターナショナル・サーキット(SIC)でF1レースを開催していた。

ヨー氏は、F1レースを開催するには開催権料だけでも年間約3億リンギが必要で、これは政府が20の国家スポーツプログラムに投入する開発支出の2倍以上の額に相当すると指摘。F1レースの契約は通常3年から5年間にわたって締結する必要があるため、期間中の開催権料だけで約15億リンギに上ると述べた。また開催権料に加え、国際自動車連盟(FIA)グレード1のトラック認証と安全基準を維持するために、年間約1,000万リンギが必要となるとした。

その上でヨー氏は、マレーシアが開催権を確保するためには隣国シンガポールやタイなど東南アジアの他の開催国とも競争しなければならないと指摘。タイ政府が6月、2028年にバンコクでF1レースを開催するため、12億ドル規模の予算を承認したことを挙げ、「現時点ではマレーシアにとって”あれば良い”程度であり、必須ではない」と述べた。ただヨー氏は、費用を負担する民間企業があれば開催を再開する可能性があると言明。「もし資金が許せばマレーシアで開催できれば良いと思っている」と金銭面の課題を強調した。
(ザ・サン、ロイター、エッジ、8月21日)

ハイケム、サラワク州における燃料電池バス導入で覚書締結

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 化学品商社兼メーカーのハイケム(本社・東京都港区)は22日、サラワク州の大手バス運行会社、ビアラマス・エクスプレスと同州における燃料電池バス(FCバス)の導入・推進に関する覚書(MOU)を締結したと発表した。

ビアラマスが持つ地域バス運行に関する知見と広範な車両ネットワークと、ハイケムが提供する水素輸送技術、高効率アルカリ水電解槽/膜技術、中国FCスタックサプライヤーとのパートナーシップなど、様々なソリューションを融合させることで信頼性が高い環境に優しい交通手段を提供していく。

ハイケムは2025年5月にサラワク・ペトケムとMOUを締結しており、サラワク州ビントゥルの石油化学工業団地で両社が協力してハイケムのSEG技術(合成ガスからエチレングリコールを製造する技術)を活用したプラントの開発・建設を計画している。

サラワク州では、豊富な水力資源を活用し、合計約3.5ギガワットの水力発電所が稼働しており、グリーン水素製造において大きな潜在性を有している。同州は独自の水素ロードマップを策定して水素経済の確立を目指しており、2030年までに年間10万トンの水素製造を目標としている。直近では、水素燃料供給施設の試験運用の開始や水素を燃料とする公共交通機関の導入などが積極的に進められている。

三井金属、マレーシアなどでキャパシタ材料生産能力を拡大へ

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 三井金属(本社・東京都品川区)は21日、薄型基板内蔵キャパシタ材料「FaradFlex」の生産体制をさらに増強するため、マレーシア工場(マレーシア・カッパー・フォイル・マレーシア)と上尾事業所の2拠点で生産能力を拡大すると発表した。

現在、マレーシア工場と上尾事業所の2拠点体制における合算生産能力は、2022年から約2.2倍に増強が完了しているが、引き続き生産設備の増設や現有設備でのさらなる生産性改善を進める事で、2026年3月までに約1.6倍(2022年比較で約3.5倍)の生産体制へ増強する。生産増強後もさらなる需要拡大に応じた増強も視野に入れて対応していく。

「FaradFlex」は、各種情報通信機器の高速化・大容量化に向けて大きな課題である通信ノイズを低減する材料として、高性能のルーター・サーバー機器やスーパーコンピュータ向けの高多層基板、スマートフォンに内蔵されるMEMSマイクロフォンなどに使用されており、極薄銅箔「MicroThin」や高周波基板用電解銅箔「VSPTM」に続く成長事業と位置づけている。