贅沢税の導入を断念、財務省が正式発表

【クアラルンプール】 2023年度予算案演説で発表されたものの2年以上も実施されないままとなっている一部の高額商品を対象とした高額物品税(HVGT、いわゆる贅沢税)について、財務省(MOF)は導入を断念したことを正式に発表した。

下院議会におけるシャムシュルカハル・モハメド・デリ議員(ジェンポル選挙区)からの質問に書面で回答したもので、財務省は「HVGT導入は断念したものの対象となるはずだった品目は売上税制の適用範囲拡大に組み込まれており、贅沢品および裁量的商品には5%または10%の税率が適用される」と指摘した。

HVGTは、税収増の一環として2023年2月に就任直後のアンワル・イブラヒム首相が提出した2023年度修正予算の中で初めて発表されたもので、税率は5%から10%と見込まれ、年間7億リンギの歳入をもたらすと予測されていた。政府は当初、2024年5月1日の実施を目標としていたが、業界関係者、特に宝飾品業界からの強い反対に直面していた。

財務省はHVGT導入を棚上げする一方で、一連の新たな税制改革を通じて政府歳入の大幅な増加を見込んでいる。2024年3月1日に施行されたキャピタルゲイン税(CGT)は、非上場株式の取引量と取引額の現状に基づき年間約8億リンギの歳入を生み出すと予測されている。また2025年7月1日に施行された売上・サービス税(SST)の対象範囲拡大により、2025年には50億リンギ、2026年までに100億リンギの追加歳入が見込まれている。
(エッジ、7月29日)

SSTの建設サービスへの拡大、年内は違反者を罰せず

【クアラルンプール】 アハマド・マスラン副公共事業相は、7月に施行された売上・サービス税(SST)対象の建設資材やサービスへの拡大措置について、年内は新規則を遵守しない業者に対し罰金などの法的措置は取らないと言明した。

マスラン氏は28日の下院議会の質疑の中で、建設業界が改正税制に適応し円滑な移行を図るための十分な時間を確保するためだと説明。また住宅プロジェクトや礼拝所、公衆トイレ、レクリエーション公園といった公共施設に関わる建設サービスに対するSSTの免除など、SSTが建設業界に与える影響を緩和するための措置がいくつか講じられていると強調した。

マスラン氏によると、契約条件により価格改定が認められていない進行中のプロジェクトについては、政府は経過措置として1年間のSST免除を認める。また建設コストの急激な上昇を防ぐため、セメント、砂利、砂といった基本的な建設資材は売上税の課税対象から除外される。

特定の企業間取引(B2B)に関しては、特定のコンプライアンス規則が適用され、元請業者はSSTの対象となるが150万リンギ未満のプロジェクトに関わる下請業者は課税が免除されるという。マスラン氏は150万リンギ未満というSST課税の基準値について、建設業界が300万リンギに引き上げることを求めている件に言及。現時点で引き上げる計画はないと言明した。
(マレーシアン・リザーブ、ニュー・ストレーツ・タイムズ電子版、ザ・スター電子版、マレー・メイル、エッジ、ベルナマ通信、7月28日)

大阪万博で日馬の大学などが31件の覚書を締結=高等教育省

【プトラジャヤ】 マレーシア高等教育省は、大阪・関西万博で21―26日に開催された「高等教育週間」を通じ、31件の覚書(MoU/MoA)が締結されたと発表した。マレーシアの11の高等教育機関が、医学、経済学、イスラム銀行、海洋科学、農学、工学など13の分野で提携したという。

マレーシア北部大学(UUM)は、筑波大学、岡山大学、関西国際大学、京都産業大学、芝浦工業大学の5大学のほか、イスラム文化を発信する「ジャパンダアウセンター」とMoUを締結。学生・職員の交流プログラムや、共同研究などで協力を促進していく。

さらに、マレーシア・プトラ大学(UPM) と立命館大学▽マレーシア科学大学(USM) と大阪大学▽マレーシア工科大学(UTM) と茨城大学▽マレーシア・ペルリス大学(UniMAP)と豊橋技術科学大学▽マレーシア・サラワク大学(UNIMAS)と日本の複数大学などで交わされた。

そのほか、マレーシアの11大学と20の国際企業によるビジネスマッチングや、「マレーシアで学ぶ」をテーマに留学生誘致に向けた取り組みが行われ、期間中10万人以上がマレーシアンパビリオンを訪れたという。
(ニュー・ストレーツ・タイムズ、7月25日、ベルナマ通信、ビジネス・トゥデー、7月27日、マレーシアパビリオン公式インスタグラム)

LRTケラナジャヤ線、システム改修で8月から土日朝の運行変更

【クアラルンプール】 首都圏軽便鉄道(LRT)ケラナ・ジャヤ線は信号システム改修工事のため、8―11月の間を2期に分け、一部の駅で土日(一部祝日含む)の運行が午前9時からとなる。

まず8月9日から9月14日までが、東側のKLCC駅とゴンバック駅の間の10駅で、7,000人への影響が予想される。この間は午前6時から、10駅に加えカンポン・バル駅と、ダン・ワンギ駅までの12駅間でシャトルバスが運行される。シャトルバスも各駅に停車するものと、ワンサ・マジュ駅とダン・ワンギ駅の間の主要6駅だけにとまるものの2ルートが用意される。フィーダーバス13台、バス5台で対応する。また、市内中心部のカンポン・バル駅とKLCC間では5台のバンが運行される。

その後、10月11日から11月22日までは、西側のルンバ・スバン駅とアンパン・パーク駅の間の17駅が対象となる。2万人が影響を受けるとみられる。バス60台を使い、アラ・ダマンサラ駅とダマイ駅を加えた19駅間でシャトルバスが運行されるほか、最初の期間と同様、市内中心部のカンポン・バル駅とKLCC間では5台のバンが運行される。

公共輸送機関を管轄するプラサラナ・マレーシアによると、1998年から使用されている自動列車制御装置(ATC)などを全面的に取り替えるもので、改修の総工費は1億5,000万リンギ。期間中は案内のボランティアが配備される。事前に全駅でチラシが配布されるほか、ラピッドKLの公式ウェブサイト(www.myrapid.com.my)やアプリ、ソーシャルメディアで最新情報を確認するよう呼びかけている。
(ニュー・ストレーツ・タイムズ、ベルナマ通信、7月28日、ポールタン、7月29日)

行政サービス代行のMyEG、外国人就労許可更新権を喪失

【クアラルンプール】 道路税納付、免許更新など行政サービスのオンライン提供を代行しているMyEGサービシズ(現社名ゼトリックスAI)は外国人労働者の就労許可更新権を失った。

ベスティネットが所有する「外国人労働者集中管理システム(FWCMS)」の使用権がなくなったためだ。公会計委員会が28日公表の報告で明らかにした。

内務省高官によれば、MyEGと政府との契約は2023年5月が期限だったが、財務省が契約延長に同意しMyEGのサービスが継続された。しかし延長は2年契約ではなく、1年プラス1年のオプションで、政府にはオプションを行使しない権限があるという。

同省のマフザン・マフユディン事務次官代理によれば、今年2月からデジタル査証の申請はFWCMSに一本化することも決定された。入管のシステムを利用した申請はできなくなる。
(エッジ、7月28日)

中銀、今年の経済成長予想を4.0―4.8%に下方修正

【クアラルンプール】 中央銀行バンク・ネガラは28日、世界情勢の変化を受けてマレーシアの今年通年の国内総生産(GDP)成長予想を従来の4.5―5.5%から4.0―4.8%に下方修正した。

中銀は3月の経済通貨政策レビューの発表以降、世界経済の状況は大きく変化したと指摘。世界の経済成長見通しは、貿易政策の変化、関税動向をめぐる不確実性、そして地政学的緊張の影響を受けているとした。

その上で、小規模な開放経済であるマレーシアの成長見通しはこれらの動向に左右されるが、第2四半期のGDP成長率の速報値を含む最新の指標は、マレーシアの経済活動の持続的な力強さを示しており、国内需要が好調を維持し続けていることもあってマレーシア経済は依然として堅調を続けるだろうと分析した。

中銀によると、マレーシアでは特に国内関連セクターにおける良好な労働市場環境と政策措置が引き続き民間消費を下支えする見込み。一方、複数年にわたるインフラプロジェクトの進捗、承認済み投資の継続的な高い実現率、国家開発計画に基づく触媒的取り組みによって投資活動の拡大が持続するとみられるという。
(ベルナマ通信、7月28日、中銀発表資料)

野党の反政府集会に1.8万人が参加、アンワル首相退陣求める

【クアラルンプール】 野党連合・国民同盟(PN)構成党、汎マレーシア・イスラム党(PAS)青年部が主催したアンワル・イブラヒム首相退陣を求める大規模集会が26日、クアラルンプール(KL)市内のムルデカ広場で開催された。

主催者側は30万人を目指していたが警察発表によると参加者は1万8,000人だった。警察は3,000人を配して警戒したが大きな混乱はなく、集会は午後5時過ぎに終了した。

午前11時頃からマスジット・ネガラなど5カ所に野党支持者が集まり始め、ムルデカ広場に向けて行進を開始。政府が制定を目指している都市再開発法(URA)や売上・サービス税(SST)の対象拡大、改革の未実施など、政府に対するさまざまな不満を列挙した黒いTシャツを着て、口々に「アンワル辞めろ」と叫んで気勢を上げた。

会場には統一プリブミ党(PPBM、ベルサトゥ)のムヒディン・ヤシン党首(元首相)やハムザ・ザイヌディン副党首ら野党の重鎮が参加。午後5時にはマハティール・モハマド元首相も顔をみせ、皮肉たっぷりにアンワル首相を批判した。
(ニュー・ストレーツ・タイムズ電子版、フリー・マレーシア・トゥデー、マレー・メイル、7月26日)

三重大学、トレンガヌ大学との大学間協定を更新

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 三重大学は25日、マレーシア・トレンガヌ大学(UMT)との大学間協定を更新したと発表した。

UMTは水産・海洋分野に強みを持つ国立大学で、生物資源学研究科のある三重大学とは2017年度からサマースクールへの学生派遣や教職員の研修受入れなど、継続的かつ活発な交流を行っており、三重大学にとってアジアにおける重要なパートナー校の一つとなっているという。

大阪・関西万博で開催されていた「高等教育週間」に合わせ、23日に協定更新セレモニーが行われた。今後の更なる連携強化や、学生および教職員の相互交流の発展に向け前向きな議論が交わされたという。

また、2024年6月から大学間協定を締結しているマレーシア・パハン大学(UMPSA)とも、学生の短期・長期派遣の可能性や、共同研究の拡大などについて話し合った。

衣料ブランド「アース ミュージック」のマレーシア1号店が開業

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 カジュアル衣料ブランドの「earth music&ecology(アース ミュージック&エコロジー)」は26日、マレーシア初店舗をクアラルンプール(KL)の三井ショッピングパークららぽーとブキッ・ビンタンシティセンター(ららぽーとBBCC)に開業した。

ブランドを手掛けるストライプホールディングス(本社・岡山市)によると、売り場面積は約35坪。アースは同社の主力ブランドで、ナチュラル感のあるファッションで20―30代の女性を中心に支持されている。マレーシアは日本のファッションスタイルとの親和性が高いとして、進出を決めたという。台湾や香港など、国内外あわせ162店舗(2025年6月末時点)が展開されており、“日本の可愛い”の発信を強化していく。

同社は、ベトナムで「NEM(ネム)」と「HIME(ハイミー)」という2つの独自ブランドを展開するなど、ASEAN(東南アジア諸国連合)地域での事業拡大を最重要戦略の一つとして掲げている。これまでに台湾やベトナムで培ってきたノウハウを生かし、今後もASEAN地域での成長戦略を推進していくとしている。

【総点検・マレーシア経済】第526回  マレーシアの2025年第2四半期GDP成長率の事前推計値は4.5%と底堅いが…

第526回  マレーシアの2025年第2四半期GDP成長率の事前推計値は4.5%と底堅いが…

7月18日、マレーシア統計局は2025年第2四半期GDP成長率の事前推計値を4.5%と発表しました。これは、第1四半期の4.4%成長を上回っており、予想外の底堅さを見せたと言えます。マレーシアの四半期GDP成長率は2024年第2四半期の前年同期比5.9%をピークに、以降、5.4%、4.9%、4.4%ときれいに0.5ポイントずつ減速してきました。その低下トレンドが止まったことになります。

部門別に見ると、前四半期より減速しているのは製造業(4.1%→3.8%)、鉱業(-2.7%→-7.4%)、建設業(14.2%→11.0%)、加速しているのはサービス業(5.0%→5.3%)、農業(0.6%→2.0%)となります。全体としては減速気味なのは間違いなく、経済に占めるシェアが大きいサービス業が底堅いために踏みとどまっている状況に見えます。

 

同日に公表されたマレーシアの6月の輸出は前年同月比3.5%減で、5月の1.3%減に続いて2カ月連続で減少しました(図1)。このところ大幅に増加していた米国向け輸出についても、2025年3月の50.8%増をピークに6月には4.7%増にまで減速しています(図2)。

これらの状況を総合すると、2025年第2四半期のGDP成長率の意外な底堅さは、トランプ関税への対応による輸出前倒し効果が4月にはまだ残っていたことによるもので、実際には経済は減速トレンドにあるように見えます。

 

傍証としては、7月9日、バンクネガラは政策金利(OPR)を3.0%から2.75%に引き下げました。バンクネガラの金利変更は、2023年5月に2.75%から3.0%に利上げを行って以来2年2カ月ぶりで、利下げの理由については不確実性の中での「予防的(pre-emptive)」なものと述べられています。RON95の改革についても具体的な発表は9月末で多くの国民にとって価格は「下がる」と報じられ、アンワル首相は7月23日に成人への100リンギの給付を発表しています。

 

7月末には第13次マレーシア計画が上程され、8月1日までにマレーシアと米国の関税率の交渉がまとまるかもマレーシアの経済成長率に影響を及ぼす可能性があります。ここ1週間の動きは要注目です。

 

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp