【従業員の勤労意欲を高めるために】第902回:中小企業の両利き経営(5)両利きと、長期的・地球的視点

第902回:中小企業の両利き経営(5)両利きと、長期的・地球的視点

前回は、中小企業の多くが深化を好むというお話でした。しかし、特定の技術に依存し、深化に特化することは、イノベーションと研究開発が牽引する産業において、時代の変化への対応を困難にし、競争優位性を低下させる可能性があります。今日、産業構造の転換により、ニーズの細分化、複雑化、予測不可能性が高まる中、中小企業にとって、下請け構造からの脱却や、既存のネットワークにとどまらない幅広い情報源の活用、技術シーズを機動的に新規事業に繋げるイノベーション活動がますます重要になっています。さらに、コロナ禍を契機としたICT化の波や、持続可能な開発目標(SDGs)を契機とした地球環境意識の高まりは、企業経営者に変化を迫り、従来のやり方に固執することのリスクを高めています。さらに、リスク分散、すなわちポートフォリオ投資の観点からは、国内で多くのイノベーション活動が展開されることが必要です。言い換えれば、両利きであることが一企業の短期的な売上に直接つながらないとしても、国全体、あるいは世界規模で取り組むことが合理的な場合があると考えられます。

さらに、両利きであることは中小企業にとって短期的には有益とは考えられないとしても、長期的には有益となる場合があります。深化と探索を組み合わせることで、中小企業は既成概念にとらわれず、短期的ではなく長期的な視点でイノベーションを起こし、最終的にプラスの結果を生み出す可能性があります。これは、両利きであることが、深化と探索という相反する要求を統合する上で重要な役割を果たすためです。両利きの中小企業は、斬新なアイデア、製品、プロセスを開発する能力を失うことなく、深化と探索を管理し、効率性を向上させる能力を持っています。

こうした中小企業は、財務構造に関する重要な意思決定を迅速かつ柔軟に行うことができます。例えば、国際化を通じて新たな市場を開拓したり、新製品や新ブランドを立ち上げたりすることができます。したがって、中小企業が両利きを達成できる方法を見つけることは、中小企業の回復力を高め、マクロ的または長期的な視点から、中小企業、国、そして世界が納得できる解決策に到達するために役立つ可能性があります。そこで、次回からは、中小企業が両利きを達成するための条件について検討します。

 

Kokubun, K. (2025). Digitalization, Open Innovation, Ambidexterity, and Green Innovation in Small and Medium-Sized Enterprises: A Narrative Review and New Perspectives. Preprints. https://doi.org/10.20944/preprints202504.0009.v1

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

JS-SEZは今後の日馬関係に戦略的に重要=アンワル首相

【クアラルンプール】 ジョホール・シンガポール経済特区(JS-SEZ)に日本からの関心が高まっていることに関し、アンワル・イブラヒム首相はマレーシアとシンガポールの強固な基盤に基づく信頼性を強調。日本からの投資を通じ「JS-SEZは今後の日本とマレーシアにとって戦略的にますます重要になる」との見方を示した。

アンワル首相は19日、ジョホール州で開かれたフォーラム「メディニ・ジョホール2025」で発言した。同フォーラムはイスカンダル・インベストメント(IIB)などが主催した。

またフォーラムに登壇した四方敬之 駐マレーシア日本大使は、今後の両国関係においてグリーンテクノロジー、交通インフラ、教育交流の3つの主要分野の重要性を指摘。同州で急増するデータセンターに付随するエネルギー関連での投資や、問題化している交通渋滞解消に向けた協力、共同学術プログラムの創設などの可能性について語った。

州政府傘下の投資誘致機関「インベスト・ジョホール」のナタザ・ハリス最高経営責任者(CEO)は「日本からの投資に必要な枠組みと支援体制は整っている」と述べ、より多くの投資獲得に向け対策を強化していくとした。
(ニュー・ストレーツ・タイムズ、ザ・スター、フリー・マレーシア・トゥデー、6月19日)

輸入果物等へのSST導入計画を見直しへ=副首相

【クアラルンプール】 アハマド・ザヒド副首相は、7月1日施行を予定しているリンゴやミカンなどの果物を含む特定の輸入品に対する売上・サービス税(SST)の導入について、業界関係者や消費者からの不安の声を受けて、一部品目を対象に再検討すると明らかにした。

提案されている5―10%のSST課税が消費者にとって大きな負担となる可能性があるためで、ザヒド氏は「我が国はリンゴやミカンを生産していない。SST課税は地元の果物産業を保護するためのものだが、すべての果物が国内で生産できるわけではないことを理解する必要がある」と言明。SST課税対象となっている特定の品目については見直しが行われるだろうとし、財務省と経済省がこの件について検討を行っていると理解していると述べた。

政府は6月9日、SST税率の見直しを発表。売上税については米、食用油、砂糖、牛乳、医薬品、書籍などの生活必需品を除外し、輸入果物やサーモンなどの非必需品を対象として、5%または10%の税率が課される予定になっている。
(ザ・スター電子版、フリー・マレーシア・トゥデー、マレー・メイル、ベルナマ通信、6月19日)

ペナンのチップデザイン学校、人的資源省が協力申し入れ

【ジョージタウン】 ペナン州が設立を計画しているチップデザインアカデミーに対し、人的資源省が技能訓練プログラム面で協力を申し入れている。半導体、ハイテク分野の人材育成を強力に推進する。スティーブン・シム大臣が19日、全国訓練週間(北部地域)開始式後の会見で明らかにした。

デザインアカデミーは先端技術センターとしてのペナン州の地位強化が狙いで、ICデザインの技術者を育成する。アカデミーは州が計画しているICデザイン・デジタル団地の中核組織になる。

シム氏は「省としてアカデミーに価値を付加したい。州における技能訓練をさらに優れたものにするために提携を希望している」と述べた。

シム氏は、社員の技能引き上げを行う企業に対する助成金計画も発表した。北部回廊実行庁(NCIA)との連携事業で、企業が高技術習得のための課程を採用、開発する場合、人的資源開発公社の助成金だけでなく、NCIAの助成金も利用できる。
(ニュー・ストレーツ・タイムズ電子版、ザ・スター電子版、マレー・メイル、6月19日)

「米国との関税交渉は順調」アンワル首相が強調

【クアラルンプール】 アンワル・イブラヒム首相(財務相兼任)は、米国の一方的関税導入に関するマレーシアと米国の協議は順調に進んでいると述べた。協議のために訪米中のザフルル・アブドル・アジズ投資貿易産業相とアミル・ハムザ・アジザン第2財務相から、19日早朝に前向きな進展について報告を受けたという。

アンワル首相は第38回アジア太平洋ラウンドテーブルの基調講演の中で、「米国商務長官との会談が”素晴らしい”成果を上げたとの連絡を受けた」と言明。国際貿易は一方的な経済政策や強制的な経済措置ではなく、透明性あるルールと法的予測可能性によって統治されるべきだと述べ、「貿易とサプライチェーンの混乱は、企業に悪影響を及ぼし、経済成長を阻害し、国民の社会経済的幸福の確保に向けた取り組みにさらなる悪影響を及ぼすだろう」と述べた。またマレーシアと地域はグローバルサプライチェーンに深く関わっているため、米国による一方的な関税賦課は大きな課題であると指摘した。

ザフルル氏は、7月8日に90日間の暫定関税停止が期限切れとなるのを前に、米国との相互関税に関する協議を開始するため、17日に米国に到着した。米国は今年4月にマレーシアからの特定輸出品については24%の関税を課すと宣言しており、ザフルル氏は交渉団の優先事項を市場アクセスの改善に関する交渉と、サプライチェーン関連の課題に充てて対応にあたっている。
(ザ・スター電子版、エッジ、ブルームバーグ、6月19日)