【従業員の勤労意欲を高めるために】第906回:中小企業の両利き経営(9)デジタル化、 グリーンイノベーションと持続可能性

第906回:中小企業の両利き経営(9)デジタル化、 グリーンイノベーションと持続可能性

前回は、デジタル化が、時間、資金、人材といったリソースが少ない中小企業が外部知識を獲得し、知識基盤を強化するのに役立つというお話でした。経営者と従業員がデジタル化に向けた意思統一をすることが、その後の両利き経営やデジタル能力の向上、さらにはイノベーションのために不可欠といえます。

さらに、デジタル技術の活用は企業の持続可能性を向上させる可能性があります。中小企業は世界の産業汚染の60~70%を占めているにもかかわらず、大企業に比べて環境意識が低く、環境技術や法律に関する知識が不足しているとされています。しかしながら、ステークホルダーからの圧力や、環境意識の向上を求める消費者の需要の高まりに後押しされて、中小企業はグリーンイノベーションに取り組むことが多いようです。この時、企業は、デジタルツールを使用することで、資源の使用状況をリアルタイムで監視し、プロセスを最適化し、廃棄物を削減し、環境効率を向上させることができます。例えば、ブロックチェーンはリサイクル原材料が使用されていることを証明するために使用されています。したがって、デジタル化は、資源利用の最適化、循環型経済および持続可能なビジネスモデルの実装を促進することで、環境パフォーマンスを向上させることができます。

しかし、中小企業はデジタルプラットフォームの導入において、必要なリソース、スキル、コミットメントが不足しているなど、特有の課題に直面しています。そのため、人的ネットワークは重要なリソース源となり、中小企業が貴重な機会を発見するのに役立ちます。例えば、使用済み、リサイクル、回収された材料からなる生産投入物を取り扱い、それを顧客価値に変換するプロセスを設計するには、材料の継続的な循環と廃棄物の削減・排除という観点から、材料の利点と限界を理解しているパートナー、専門家、顧客の関与が必要です。

 

Kokubun, K. (2025). Digitalization, Open Innovation, Ambidexterity, and Green Innovation in Small and Medium-Sized Enterprises: A Narrative Review and New Perspectives. Preprints. https://doi.org/10.20944/preprints202504.0009.v1

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

【従業員の勤労意欲を高めるために】第905回:中小企業の両利き経営(8)両利きとデジタル化

第905回:中小企業の両利き経営(8)両利きとデジタル化

前回は、グリーンイノベーションについてでした。両利きは持続可能性にプラスの影響を与え、それが新製品の成功とグリーンイノベーションにプラスの影響を与える可能性があります。しかし、グリーンイノベーションの導入には、オープンイノベーションと同様にコストがかかります。

コスト削減戦略の最も重要な方法の一つがデジタル化です。デジタル化は、時間、資金、人材といったリソースが少ない中小企業が外部知識を獲得し、知識基盤を強化するのに役立ちます。漸進的イノベーションと比較して、より高度なイノベーション型である急進的イノベーションは、より多くの暗黙知と外部の異種リソースを必要とし、企業の既存の知識基盤をはるかに超える可能性があります。この場合、デジタル化は中小企業に、市場で入手可能な情報を選別し、業界の最先端を見極める貴重な機会を提供します。これにより、中小企業はより積極的に急進的イノベーションを実施できるようになります。さらに、パートナーと動的な情報や知識を共有することで、新たなアイデアやコンテンツが生まれ、企業のイノベーション・パフォーマンスの向上につながります。

さらに、限られたリソースしか持たない中小企業はリスク許容度が低く、漸進的イノベーションに比べて不確実性とリスクが大きい急進的イノベーションを避けるインセンティブが生じます。デジタル化は、企業が不確実性を発見、特定、回避し、リスクの程度を軽減するのに役立ちます。その結果、中小企業が急進的イノベーションを実行することが促進されます。

ドイツの様々な業種の中小企業1,474社を対象とした研究とフィンランドの中小企業204社を対象とした研究の結果は、組織の両利き性がデジタル志向と成長戦略の関係を媒介することを示しました。これらは、両利き性はデジタル化を伴う場合、より高いパフォーマンスにつながる可能性が高いことを示唆しています。しかし、デジタル化と両利き性の順序は逆になることもあります。イスタンブールの中小企業366社を対象とした研究では、デジタル変革が中小企業の両利き性と競争優位性の関係を部分的に媒介していることが示されました。同様に、2019年の世界銀行ビジネスサーベイと、2020年と2021年に21か国の8,928社を対象に実施された追跡調査を使用した研究では、組織の両利き性がデジタル能力を通じて間接的にイノベーションに影響を与えることが示されています。これらの調査結果は、組織の両利き性がデジタル能力を強化することで、企業の競争優位性を高めることができることを示唆しています。以上の一連の研究は、デジタル「志向」(すなわち、デジタル化へのコミットメント)が両利きを予測する可能性があり、両利きがデジタル「変革」とデジタル「能力」を予測する可能性があることが示されています。

これらの研究は、両利きの組織がいつ、どのようにデジタル化を導入すべきかについて重要な示唆を与えてくれます。すなわち、経営者と従業員がデジタル化に向けた意思統一をすることが、その後の両利き経営やデジタル能力の向上、さらにはイノベーションのために不可欠といえます。

 

Kokubun, K. (2025). Digitalization, Open Innovation, Ambidexterity, and Green Innovation in Small and Medium-Sized Enterprises: A Narrative Review and New Perspectives. Preprints. https://doi.org/10.20944/preprints202504.0009.v1

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

【イスラム金融の基礎知識】第574回 バングラデシュのイスラム銀行、合併に向けた動き

第574回 バングラデシュのイスラム銀行、合併に向けた動き

Q: バングラデシュでは、イスラム銀行の再編が行われるそうですが?

A: バングラデシュ中央銀行は6月、5行のイスラム銀行を対象とする合併を提案、8月には各銀行の幹部と中央銀行とで会合が行われた。合併の背景には、昨年8月に崩壊したハシナ前政権と強い関係をもち、その後経営悪化が発覚した銀行の救済があるとみられる。

バングラデシュにはイスラム銀行は10行あり、その総資産は同国の銀行資産の21.45%を占めている(2025年1月現在)。しかしながら、複数のイスラム銀行の経営母体であるSアラム・グループが、ハシナ前政権との結び付きが強いとされてきた。昨年の政変でハシナ政権の崩壊を受けて、今年に入りアジア開発銀行の支援を受けた著名な監査法人が各行の経営実態の調査を行った。その結果、複数のイスラム銀行で、不良債権比率が各行が公表していた20%程度ではなく、実際には90%を超えていたことが判明した。

そこで6月、中央銀行のアフサン・H・マンスール総裁は、国内金融部門の健全化のため経営不振のイスラム銀行の合併を提案した。対象は、ファースト・セキュリティー・イスラミ銀行、ソーシャル・イスラミ銀行、グローバル・イスラミ銀行、ユニオン銀行、バングラデシュ輸出入銀行の5行である。当初はもう1行加える予定であったが、外国人・企業の持株比率が高く交渉の難航が予想されるため、合併案から外れた。

合併案に対しては、各行とも素直に受け入れているわけではなく、ある銀行は「他の4行よりも経営が健全だ」と主張、8月の中銀との会合に頭取は参加しなかった。もしもこの5行が合併した場合、総資産の合計は約2兆1,960億タカ(約2兆6,600億円)、支店数は1,145となり、現在最大のソナリ銀行を超えて同国第1位の規模の銀行となる見通しである。合併作業は、政権や選挙の動向、各行の抵抗などから時間がかかるだろうと見られている。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

米マリオット、サービス付きアパートメントをKLに開業

【クアラルンプール】 米マリオット・インターナショナルは、主に中長期滞在者向けの「マリオット・エグゼクティブ・アパートメント」をクアラルンプール(KL)のKLCCパーク近くにオープンした。

新施設は353室からなるサービス付きアパートメントで、クアラルンプール中心部に位置する。客室は48―139平方メートルのスタジオから3ベッドルームで構成。キッチンや室内ランドリー設備が備わり、短期から長期滞在まで幅広いニーズに対応する。建物内には、24時間利用可能なフィットネスセンターやプール、子供向けプレイルームのほか、朝食から夕食まで提供する「ビストロ・キア・ペン」などがある。

同社はエグゼクティブ・アパートメントを世界17カ国以上の都市部で展開しており、マレーシアではペナン州に続き2軒目で、中国を除いたアジア太平洋地域で最大級の施設になるという。
(エッジ、8月14日)

配車サービスのBolt、ビジネス向け新サービスを首都圏で開始

【クアラルンプール】 配車サービス、Boltマレーシアは13日、新サービス「Boltビジネス」を首都圏クランバレーで開始。利用社員は会社に対して立て替え払いの精算をする必要がなくなり、企業と社員の両方の業務が簡素化されるという。

新サービスの導入は無料で、社員は通常の利用と同様にアプリを通じて配車するが、支払いは会社に請求される形になる。会社側は、自動レポートなどを通じ、財務部門と人事部門の経費管理と事務作業の削減につながる。また乗車人数の制限や、目的地の承認、リアルタイム追跡など必要に応じて設定できる。予約は最大90日先まででき、外部ゲスト向けの割引コードも生成できる。

24時間365日対応のカスタマーサービスに加え、専任のアカウントマネジャーによるサポートも追加料金なしで提供される。アフザン・ルトフィ責任者は「企業と従業員の双方にメリットがあると同時に、地元のドライバーパートナーの収益機会を拡大する」としている。今後全国展開を目指していく。

欧州エストニア発祥のBoltは昨年11月にマレーシアでサービスを開始。約3カ月で、ドライバーパートナーは540%、登録乗客は280%増加したという。
(ポールタン、ローヤット・ドットネット、8月14日)

1MDB資金流用事件、総額297億リンギを回収

【クアラルンプール】 ナジブ・ラザク元首相の主導で設立された国策投資会社、ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)、同子会社SRCインターナショナルによる公金流用事件で、政府は財産回収信託口座を2018年に設けて以降、297億リンギの資金をこれまでに回収した。議員の質問に財務省が書面で回答した。

1MDB債務返済のため、1MDBに移転された資金は今年7月末の時点で約422億リンギうち約154億リンギが財務省と財務大臣法人による株主貸し付けで、約267億リンギが回収資金からのもの。約289億リンギが元本返済、132億リンギが利子支払いに充当された。

1MDBの残存債務はイスラム債の償還義務(約90億リンギ)で、2039年まで返済が続けられる。50億リンギが元本、約40億リンギが利子など。SRCに対し政府は53億5,000万リンギを移転した。元本、利子支払いに充当される。財務省は、資金回収には外国政府機関の協力が欠かせず、裁判手続きもあるため、まだ数年を要する複雑な作業だと説明した。

(マレーシアン・リザーブ、マレー・メイル、8月14日)

ハラル認証プロセスの効率化で新システム導入、18日に説明会

【クアラルンプール】 マレーシア政府は、ハラル(イスラムの戒律に則った)認証プロセスの効率化に向け、新たなデジタルシステム「Myハラル・イングリディエンツ」を15日から導入する。

新システムはイスラム開発局(JAKIM)を通じ、全ての原材料を記録・評価するために開発された。これまでのハラル認証システム「MyeHALAL」と統合される。MyeHALALに比べ、登録の簡素化や原材料審査の迅速化、サプライチェーン管理の改善が期待されている。従来は書類の提出を何度も求められることが多かったため、そうしたやり取りを減らし、認証処理全体の時間を短縮。マレーシアのハラル分野の国際的な競争力の強化を図る。

18日に新システムに関するオンライン説明会が予定されており、政府は関係企業の担当者らに参加を呼びかけている。
(ビジネス・トゥデー、8月14日)