
第571回 湾岸諸国の観光産業をイスラム金融が下支えする
Q: コロナ後の湾岸諸国の観光産業とイスラム金融の関係は?
A: コロナ禍で減少した観光客が世界的に回復している現在、観光産業をイスラム金融が下支えしようとしている。この状況を湾岸諸国のメディアが伝えている。
ドバイでは、2024年の観光客がコロナ前の2019年と比べて69%増加した。これはG20諸国の中で最も高かった。今日の観光客は、若い世代ほど旅先で両替したりトラベラーズチェックを使用したりはせずスマートフォンでの決済を好んでおり、変化の著しい分野でもある。
観光産業の拡大を下支えするのは金融である。観光施設建設のための大型融資、航空会社が航空機を建造する際の債券発行、リース形式によるホテルの運営など、金融への様々なニーズが生まれている。例えば、湾岸諸国の主要航空会社は今後5年間でボーイングとエアバスに780機の航空機を発注することになっているが、過去にはスクークで資金調達した例もある。また、ドバイで建設される5つ星ホテルは、アブダビ・イスラム銀行などの融資団から3億米ドルの融資を受けた。ホテルの建設ラッシュがサウジアラビアで起きており、複数のホテルグループが合計170軒ほどのホテル建設を計画している。
飛行機のファーストクラスやプライベートジェット、最高級ホテル等を利用する富裕層のラグジュアリーな観光も増加すると、プライベート・バンキングのニーズが高まっている。観光を兼ねて投資物件を物色したり、中には移住をする者も増えれば、富裕層の資産を管理するプライベート・バンキングの存在が重要となる。
もっとも、観光の拡大がイスラム銀行へのニーズを高めるものの、すでに湾岸諸国では金融機関が飽和状態となっており、今後は銀行間の生き残りのため合併あるいは市場の統一などが視野に入ってくるだろうと、メディアは同時に指摘している。
福島 康博(ふくしま やすひろ) 立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。 |