非常事態宣言、コロナのため?政権維持のため?

ムヒディン・ヤシン首相が1月12日、新型コロナウィルス「Covid-19」感染拡大を受けてアブドラ国王の同意を得て国家非常事態宣言を発出した。13日から発令された再ロックダウン「行動制限令(MCO)2.0」に合わせて発出したもので、ムヒディン首相は政府の権限を強化することでMCO発令をスムーズに行うためと説明しているが、野党や人権団体だけでなく与党内からも「やり過ぎ」、「不要」との声が上がっている。

非常事態宣言下でも外出制限はなく、経済活動や司法は通常通り行われることが保証される。基本的には政令である行動制限令(MCO)や条件付き行動制限令(CMCO)、回復期の行動制限令(RMCO)の範疇で行動の範囲が定められる。一方、立法府は活動が停止され、立法・法改正・撤廃は認められない。「安全」であると確認されない限り、国・地方レベルの補欠選挙や総選挙、州議会選挙は行われない。感染者治療のために行う私立病院の施設の接収、違反者に対する罰則、マレーシア国軍への権限付与など緊急に法律が必要になった場合には国王が制定することになっている。

新型コロナ対策のための行動制限については国民からも支持する声が多く、非常事態宣言についても表立っての国民からの反発の声は少ない。しかし野党や人権団体は、議会によるチェックを受けずに政策が実行できることの危険性を指摘。昨年3月のMCO1.0でも現行法だけで問題はなかったのに、今回わざわざ非常事態宣言を出す必要があるのか疑問を呈している。

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与党連合・国民同盟(PN)と共闘する統一マレー国民組織(UMNO)のナジブ・ラザク前総裁(元首相)ですら、非常事態宣言を行った他国の中にも議会を停止した国はないと強調。「もし政府が言う通り議会停止が経済回復につながるというのであれば、他の国はその機会を逃している」と皮肉った。

コロナ対策をスムーズに進めるということのほかに、別の動機があったのではないかという見方も多い。UMNO長老であるナズリ・アジズ元総裁補は、「自分がムヒディン政権不支持を公表したため下院で過半数を維持できなくなったため」と述べている。元々ムヒディン政権は国会で過半数を確保できているのか疑問がもたれてきた。つまり不安定な政権の維持を目的に国会を停止させるためという訳だ。

UMNO内にはこれまで自分たちがムヒディン内閣を支えてきたとの意識が強く、自分たちの言うなりにならないムヒディン首相に対する不満の声が根強い。このため事あるごとに政権離脱をちらつかせて政権に揺さぶりをかけてきた

UMNOが政権を離脱したら直ちに内閣は解散に追い込まれる。ムヒディン首相が率いる統一プリブミ党(PPBM)は弱小で、UMNOなど他党派の支援なしに政権を維持できないからだ。そして総選挙が行われた場合、地方の地盤が脆弱なPPBMが第一党になれる可能性は限りなく低い。 こうした状況を知っているムヒディン首相としては、UMNOの動きを封じて政権を維持するために非常事態宣言を出さざるを得なかったという訳だ。

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脆弱な相対貧困層、コロナ禍でさらなる危機に

カザナナショナル傘下のカザナ研究所は、マレーシアの相対貧困は120万世帯、つまり全世帯の17%にも及び、新型コロナ対策の活動制限でさらなる苦境に陥る可能性があるとみていると、1月18日付けマレーシアンリザーブ電子版が報じました。

マレーシアの世帯収入の中央値は5,873リンギとなっており、相対貧困はその半分と定義されています。さらに同研究所は、新型コロナ対策での経済活動の制限強化は、相対貧困から絶対貧困である2,208リンギ以下に陥ってしまうリスクが高まっていると警告をしています。

この所得層は現業やインフォーマルセクターに従事する人々が少なくありませんから、活動制限は収入減に直結します。雇用する側も長引くコロナ禍で苦境にたたされれば、賃金の未払いといった事態も想像できます。

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6世帯に1世帯が相対貧困であり、1日あたり10リンギ程度の出費という計算になります。食事だけでも楽ではありませんが、さらに家賃や光熱費などの固定費を差し引けば、一世帯で使えるお金は極僅かとなります。そして、一人当たりではなく、世帯ですから、2人、3人という人数での金額となります。食費を相当切り詰めても1日三食は満足に食べられない可能性が高い状態です。1人世帯でもぎりぎりの水準でしょう。

近年、マレーシアのみならず、新興国では経済格差が広がりが大きな問題となっています。しかも、親の所得層がそのまま子供にも引き継がれやすい状況です。同様の傾向は先進国でもみられますが、公的福祉を利用することもできます。新興国では制度が未整備だったり、不十分であったりすることがほとんどですから、事態はより深刻です。

コロナ禍は、こうした脆弱な経済状況にある人を一層苦しい状況にしかねないとは言われて来ましたが、データでみるとその深刻さがはっきりと浮き彫りにされています。

※本連載の内容は著者の所属組織の見解を代表するものではなく、個人的な見解に基づくものです。

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2020年マレーシアの出来事(下半期編)

2020年は、マハティール・モハマド政権の崩壊にはじまる政治的混乱と新型コロナウイルス「Covid-19」感染拡大が2大ビッグニュースだった。3月に導入した行動制限令(MCO)で一度は抑え込んだにみえた新型コロナだが、9月のサバ州議会選をきっかけに再拡大。ついには再び移動規制を強化することになり、経済への影響が深刻化している。ムヒディン・ヤシン新政権は議席数が少ない少数与党ということもあって不安定な政権運営を強いられ、他の与党構成党からの突き上げに右往左往する状況が続いた。激動の一年間を振り返る2回シリーズの今回は下半期の巻。
上半期の記事はこちら 2020年マレーシアの出来事(上半期編)

早目に手を打った行動制限令(MCO)によって新型コロナ感染拡大の抑制に成功、経済への影響も見え始めてきたことから、徐々に正常化に向かうべきとの世論が強まったことで、6月10日から復興のための行動制限令(RMCO)移行したのに続き、7月1日から新たに水上テーマパークや映画館、スパなどの営業再開が認められた。タイやシンガポールとの国境規制についても解除の方向で動き出した。7月1日の新規感染者はわずか帰国者による1人だけとなり、政府も国民も出口戦略の方に関心が集まっていった。

ショッピングモールの客足も50ー70%回復。人の動きが再開されると共に、ホテル業界も徐々に予約が回復した。一方で、建設業界は23%ではまだ工事を再開できないという厳しい状況が続いた、中央銀行バンク・ネガラは景気回復を下支えすべく更なる利下げに踏み切った。

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しかし景気回復のスピードは鈍く、政府は9月いっぱいで終了する予定だった銀行ローンの返済猶予措置を失業者など特定のグループを対象に3カ月延長すると発表。さらに人手不足に悩む建設&農園&農業の3つのセクターにおける外国人雇用解禁を発表した。

同州野党・国民戦線(BN)の工作によってくら替え議員が相次いでいたサバ州では、追いつめられたシャフィー・アプダル首相が議会解散・州議会選挙に打って出た。ムヒディン首相率いる国民同盟(PN)とBNの連合軍が勝利したものの、選挙をきっかけに新型コロナ感染が再び拡大。外国人労働者宿舎のクラスターから広がり、本格的な感染第三波が始まった。


 

10月には首都圏などにに条件付き行動制限令(CMCO)を発令し、ついには全国規模でのCMCOへの逆戻りとなった。12月下旬になってもコロナの勢いは衰えず、1日当たり1千人の感染者がでている。

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コロナ拡大の不安が強まる中、野党だけでなく与党内部からもムヒディン首相に対する不満が増大した。このままでは国会運営が難しいと判断したムヒディン首相が法案成立せずに予算執行などが行なえる緊急事態宣言の発令を国王に提案するも、結局は「政治的対立を棚上げして面前のコロナ対策に協力して当たるべき」との国王の呼びかけもあって無事に予算案をはじめとする重要法案を可決して閉幕した。ただ解散・総選挙圧力には逆らえず、ムヒディン首相はコロナが終息したら速やかに総選挙を行なうと言明した。


 年が押し詰まった12月31日には、クアラルンプール(KL)ーシンガポール間の高速鉄道(HSR)事業についてマレーシア・シンガポール両国が計画を中止することで合意したことが明らかにされた。
(了)
(マレーシアBIZナビ編集部)

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2020年マレーシアの出来事(上半期編)

2020年は、マハティール・モハマド政権の崩壊にはじまる政治的混乱と新型コロナウイルス「Covid-19」感染拡大が2大ビッグニュースだった。2018年の総選挙で勝ったばかりの希望同盟(PH)政権は内部分裂を起こしてあっけなく崩壊、分裂騒ぎの中心となったムヒディン・ヤシン氏が政権を樹立したが、経緯が不透明ということもあって不安定な政権運営を強いられている。新型コロナ対策では、3月に早くもロックダウンに近い行動制限令(MCO)を発令していったんは抑え込んだかに見えたが、その後の規制緩和につれて感染が再拡大。いまだ先行きのメドがたたない状況だ。激動の一年間を振り返る2回シリーズの今回は上半期の巻。
下半期の記事はこちら 2020年マレーシアの出来事(下半期編)

2020年は飲食店での禁煙違反への罰則開始やデジタルサービス税導入、チャイルドシート義務化などで始まった。中央銀行バンク・ネガラは景気に陰りが出ていることから低インフレ率を背景に先手を打って景気底上げを狙って利下げに踏み切った。
 新型コロナは26日に早くも訪マ中国人観光客から感染が確認され、湖北省周辺在住の中国人の入国が禁止された。中国人観光客を制限する動きが加速し、各企業も出張取りやめなどの対策に乗り出した。

2月には湖北省に取り残されているマレーシア人の帰国のためのチャーター便も運行されたが、まだこの頃は対岸の火事をといった感覚が強かった。しかし4日に初のマレーシア人感染者が確認され、続いて人から人への感染も確認されたことから空気が一変、国内での感染拡大への懸念が高まり、イベントの延期・中止などの動きが加速化した。
PH政権内では、アンワル・イブラヒム氏支持派と反アンワル派の対立が激しさを増し、反アンワル派が宿敵の国民戦線(BN)との提携を模索。これに批判的なマハティール首相が抗議のために辞任した。反アンワル氏は頑迷なマハティール氏を担ぐのを断念。ムヒディン氏を担ぐ事を決めた。

こうして誕生したムヒディン政権だが、新型コロナ感染拡大中ということもあって国会承認なしにアブドラ国王の一声によって決定したことから、その正統性を巡って後々まで混乱が尾を引く事になる。

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中国経由に限定的だったコロナ感染者は、2月末からセランゴール州のモスクで開催された大集会をきっかけに全国に拡大。17日には初の死者も確認された。ムヒディン政権は18日付けで全国的な移動制限措置となるMCOを実施すると発表した。
 ムヒディン政権は、2月27日にマハティール政権が発表した経済対策に続き、2,600億リンギ規模の追加景気対策を発表。賃金助成金制度や一時金支給などが盛り込まれた。

新型コロナの脅威はおさまらず、MCOは延長され、4月はまるまる規制が行なわれることになった。ただ経済活動はセクターを絞ったり営業時間などの制限を設けた上で段階的に規制が緩和されることになった。

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5月4日付けで条件付き行動制限令(CMCO)に切り替えられ、ほとんどの経済活動の再開が標準的運用手順(SOP)遵守を条件で認められ、電子電気などがフル操業となった。

 

MCO、CMCOが奏功して新型コロナ感染拡大がひと段落してきたところで、経済回復を進めるために6月10日から復興のための行動制限令(RMCO)に移行され、国内旅行を許可するなど社会活動の一層の規制緩和が図られた。

(次号、下半期編に続く)

(マレーシアBIZナビ編集部)

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マレーシア史における2020年は歴史的な転換点

2020年のマレーシアは本当にいろいろなことがあった年でした。おそらく、あとから歴史を振り返るとき、2020年は特別な意味を持つ、歴史的な転換点だったと言われることになるでしょう。いくつか重要なイベントはありましたが、ここでは2つだけに絞って振り返りたいと思います。
まずは、やはり、新型コロナウィルスの蔓延が挙げられるでしょう。マレーシアも経済的なダメージや死者の発生は避けられませんでしたし、まだ予断が許されない状況が続いていますが、大きな視点から見れば一方的な拡大は食い止めることができたと評価してもよいと思われます。米国や欧州、近隣でもインドネシアやフィリピンの状況と比較すると、制限がかけられながらも一定の経済活動が認められている状況です。経済が大きくスローダウンしながらも、危機的な状況にまでは陥っていない、どうにか持ちこたえられる環境だと言えます。
もう一つ大きいのはマハティール政権が瓦解し、ムヒディン政権が成立したことでしょう。そもそも、マレーシアは長らく、政権交代がそう簡単には起こらない国とみなされていました。しかし、2018年は選挙を通じて、ナジブ政権が退陣し、90歳を超えるマハティールが再登板という展開となり、世界からの注目も集めました。そこから2年ほどで、もう一度政権交代が起こった格好です。しかも、選挙なき政権交代という、マレーシア政治史上で初めての出来事となりました。
そろそろ2021年を迎えますが、新型コロナウィルスは収束していませんし、政局も与野党の攻防が続いています。視界不良のなかで2021年が幕開けする中、様々なシナリオとオプションを想定して臨むことが重要になりそうです。

※本記事の内容は著者の所属組織の見解を代表するものではなく、個人的な見解に基づくものです。

CMCO拡大、マレーシア経済への影響は

マレーシアでの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が続いています。10月中旬にサバ州、スランゴール州、KL、プトラジャヤについて条件付き活動制限令(CMCO)が発令され、11月9日からはプルリス州、パハン州、サラワク州を除く全ての州にCMCOが拡大されました。その後、クダ州、トレンガヌ州、マラッカ州、ジョホール州については一部地域を除いて11月21日にCMCOが解除され、12月7日にはKL、スランゴール州、サバ州を除く他の州のほとんどの地域でCMCOが解除されました。現在CMCO下にある地域では、現在のところ12月20日まで継続されることになっています。

本連載321回では首都圏のCMCOが1カ月続いた場合、四半期GDPを1.5%〜2.5%程度の押し下げると試算しましたが、今回は期間も対象地域拡大したCMCOについて、その影響を概算します。計算方法は以下の通りです。連載321回で示したように、CMCO下の地域では、製造業のGDPは0〜マイナス5%、小売サービス業および建設業のGDPはマイナス15〜マイナス20%と想定します。

2019年の州別・産業別GDPデータをベースに試算すると、マレーシアの四半期GDPは今回のCMCOによって4.6〜6.6%下押しされます。マレーシアの2020年第四半期のGDP成長率は、当初4〜5%のプラスと見込まれていたので、差し引き0〜2%のマイナスとなる予測されます。結果として、2021年のマレーシアの通年でのGDP成長率はマイナス4.7%〜マイナス5.3%程度となり、2021年予算発表時の想定であるマイナス4.5%を1%程度下回るかたちとなります。

今回は、3月〜5月のMCOと比較すると、陽性者の減少速度は遅く感じますが、一方で経済的なダメージは比較的抑えられています。防疫と経済の両立をめざして、苦心しながらも丁寧にバランスをとっていると評価できます。

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コロナ禍で働く意識に変化、企業も変化が必要=調査

新型コロナウイルス「Covid-19」感染拡大にあって、在宅勤務が求められたり外出が制限されたりしたことで人の働き方や働く意識が大きく変わり、企業もそれに応じて改革を迫られている。このほど人材紹介会社のヘイズはアジアの国・地域別の労働者の意識変化に関するリポートを発表。企業が人材を確保するために必要な将来の職場環境を象る4つの要素として▽フレキシビリティ▽テクノロジー▽スキルアップ▽働きがい——を挙げ、マレーシアの雇用主への提言として、▽フレックスタイム制導入▽会社の設備改善(特にフレックスやリモートが導入できない場合)▽プロセスのデジタル化▽思いやりのあるリーダーシップ▽リモートスキル開発——の5点を挙げている。

同調査によると、人口の半数近くが15~35歳と若いマレーシアでは特に大きな変化が起きており、回答者の多くがプロセスのデジタル化(81%) 、変化の積極的受け入れ(77%)、リモートでの柔軟な働き方(68%)に肯定的で、アジアの中でも高い割合となっている。また研修や能力開発の機会の増加(64%)、ハイブリッド型やパートタイムへの移行といった既存の職務の再設計も高い回答率となっている。

フレキシビリティに関してマレーシアでは、回答者の85%がコロナ禍以降にリモートワークの選択肢が重要になったと答え、さらに81%がフレックスタイムが重要になったと述べ、60%が定時勤務の重要性が低くなったと答えた。しかしヘイズの調査によると、リモートワークを実施している雇用主がコロナ発生前の31%から発生後の54%へと大幅に増加している一方で、フレックスタイムを実施している雇用主は47%から51%へと緩やかにしか増加していないという。また回答者の75%が、コロナ後に従業員の幸福がより重要になってきたと答えたが、これを提供している雇用者は31%に留まっており、大きなギャップがあるという。

またテクノロジーに関してマレーシアでは、回答者の85%が自分の職務に関わらず、組織のデジタル化の取り組みが重要であると答えており、大多数の回答者は、転職する際に検討する最も重要なツールとして、ビデオ会議(85%)とリモートワークアクセス(83%)を挙げている。しかしビデオ会議はコロナ禍後で導入率が大きく上昇したがリモートワークアクセスを提供している組織は半数を少し上回る程度(66%)に留まっており、クラウド型ストレージとシステムを提供している組織はさらに少数(49%)にとどまっているという。

スキルアップに関してマレーシアでは、回答者の94%がスキルアップは重要であると回答しており、中国(94%)と並んで最も高い回答率となっている。その一方で、マレーシアの雇用主が実施している率はeラーニングが50%だが、デジタルスキル習得((29%)、リスキリング(24%)、リモートオリエンテーション(28%)、リモートリーダーシップ研修(16%)にとどまっており、従業員と雇用主の考え方にずれがあることを示している。

働きがいに関してマレーシアでは、回答者の94%が働きがいや仕事の意義が従業員のモチベーションを高める上で重要と回答している。「自分の貢献が認められ報われること」(81%)、「自分の仕事が大企業に与える影響を感じたり目にしたりすること」(70%)、「会社の価値観やミッションに共感したり同意したりすること」(67%)の順で多くなっている。

(マレーシアBIZナビ編集部)

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コロナ耐性ランキング、マレーシアはなぜ低評価?

ブルームバーグが先ごろ、新型コロナウイルス「Covid-19」耐性ランキングを発表。マレーシアは経済規模の大きな53カ国・地域中で真ん中より少し下の29位にとどまり、感染者を多く出している英国や米国を下回った。

同調査は、経済規模が2,000億米ドルを超える国・地域を対象に、感染対策やコロナ下での生活に関する合計10の主要指標に基づいて点数化してランク付けした。

マレーシアは、感染対策状況に関する5項目では、ワクチン確保状況が低い評価にとどまったものの、10万人あたりの1カ月当たりの感染者数は93人、1カ月当たりの死亡率は0.4%、100万人当たりの死者数は10人、感染率は6.1%とまずまずの評価だった。

その一方で生活の質に関する5項目では、国内医療体制や人材開発指数はまずまずの評価だったものの、ロックダウンの期間や厳格度が非常に高かったこと、移動の自由が低いこと、今年通年の経済成長予想がマイナス6%となっていることが全体の評価の足を引っ張った。

マレーシアは死亡率や死者数、感染率は日本より良好だったが、ロックダウンの厳格度の評価はシンガポール、ベトナム、中国を下回りほぼ最低レベルの評価だった。移動の自由についても評価が低く、感染者が多く出たスペインやインドも下回った。

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ちなみにランキングトップはニュージーランドで、2位は日本、3位は台湾、4位は韓国の順だった。マレーシアは東南アジアではフィリピンよりは上位だったものの、シンガポールやタイ、インドネシアの後塵を拝した。

感染者数だけでなく死亡率や生活への影響を考慮しているところが同ランキング調査のミソで、中国や韓国より強制を伴わない封じ込め策をとった日本の方がランクが上だったわけだ。

一方マレーシアは、3月というかなり早い段階でロックダウンに近い厳しい行動制限令(MCO)を全国規模で実施。一時は復興に向けた行動制限令(RMCO)まで規制を緩和したものの、サバ州議会選挙による人の移動や外国人労働者用の宿舎でのクラスター発生などが影響して第3波が本格化すると、再び全国的な条件付き行動制限令(CMCO)を発令した。移動の自由度の無さや経済への悪影響などから厳しい評価となった格好だ。

ブルームバーグの評価が妥当かどうかは異論のある所だが、ノール・ヒシャム保健省事務次官が主張するように、第3波発生当初の基本再生産数(R0)は2.2だったが、CMCOによって0.9—1.1に下がっており、確かに数字上はCMCOの効果は出ている。

一方で新規感染者数が4桁を維持し、新たなクラスターが次々と発生する様子をみると、CMCOそのものよりマレーシア政府の行政管理の方に問題があるのではと不安を感じるのも分からないではない。

リー・ブーンチャイ前副保健相は、新たなクラスターが次々と発生している背景として、コンタクトトレーシング、感染検査、隔離の不十分さを挙げた上で、政府にはこれらを実行する能力が乏しいと指摘。人員や予算をもっと増やすことが必要だとしている。

(マレーシアBIZナビ編集部)

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エアアジア、日本国内線への2度目の挑戦も失敗に

エアアジアが日本で2014年に合弁会社として設立し、2017年から日本の国内線を運航していたエアアジア・ジャパンが11月17日に、東京地裁に破産手続き開始を申し立てました。エアアジア本体がマレーシアで2001年に設立され、アジアのLCC(格安航空)市場を席巻してきましたが、日本市場は鬼門中の鬼門だったと言えそうです。
エアアジアは、2011年にも日本国内線への進出を試み、全日本空輸と提携していったんは就航しましたが、2013年には提携解消してバニラ・エアと社名変更、2019年にはピーチ・アビエーションに吸収されました。このエアアジア・ジャパンは、今回、破産手続きを開始したエアアジア・ジャパンとは別の法人格となります。
2度目のチャレンジは航空業界ではなく、楽天、ノエビアホールディングス、アルペンといった異業種の企業からの出資を受ける形で始まりました。筆者が2016年にトニー・フェルナンデス会長にインタビューをした際に、日本の大手航空会社とエアアジアはカルチャーが違いすぎると話していました。中部国際空港をハブとして、2017年に新千歳行きを皮切りに、仙台、福岡へと就航し、国際線として台北にも飛ばしていました。
一方、日本国内ではLCCによる競争が激化していた時期でしたが、エアアジア・ジャパンは2014年の会社設立から今までに、社長が5人目となり、短期間で頻繁に交代していた印象が拭えず、一貫した経営方針で日本の国内線市場に根付くのは難しかったのではないかとも推察されます。
トニー・フェルナンデスは、マレーシアでは起業家として高い評価を受け、若者たちのロールモデルとしても人気がありますが、日本国内市場への2度目の挑戦は、コロナ禍という不測の事態がとどめを刺すという形で残念ながら失敗に終わりました。

※本連載の内容は著者の所属組織の見解を代表するものではなく、個人的な見解に基づくものです。

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マレーシア: 経済2021年予算について(2)

11月6日、マレーシア政府の2021年予算案が上程されました。この予算は「過去最大規模」をうたっており、国民に対して手厚い支援を行うものですが、「なし崩し的に財政を拡張していない」という姿勢をみせるための工夫がいくつか見られます。

表は過去3年分の財政収支を示したものです。財政規律を重視する姿勢を示しているひとつめの点として、マレーシア政府は歳入から給与や債務返済、補助金などの経常的な支出を差し引いた経常支出が赤字にならないように配慮していることが分かります。経常支出が歳入の範囲内に収まるように努力することで、「将来への投資には借入が必要だが、当年の支出に困っているわけではない」ところを見せています。ただし、マレーシア政府は経常支出費目のいくつかを開発支出に付け替えていることをみとめていますので、実態は苦しいところです。

2点目は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延に対応するために、通常の予算と独立した「COVID-19基金」を時限的に立ち上げて、そこから支出を行っている点です。これにより、COVID-19を言い訳として実際には財政全体を拡張しているのではないか、という懸念に対応しています。さらに、この基金への拠出を2020年の補正予算で大きく行い、2021年予算では半額程度に抑えていることもポイントです。結果として、財政赤字のGDP比は2020年の6.0%から2021年は5.4%と改善しています。

8月に財政赤字の累積額の上限をGDP比55%から60%に引き上げたことも含めて、形式的な面が強くても財政規律に配慮する姿勢をみせることは、格付け機関や国際機関の心証を良くするためには重要なことです。