【イスラム金融の基礎知識】第562回 NGOへ資金援助を行うイスラム銀行

第562回 NGOへ資金援助を行うイスラム銀行

Q: NGOへ積極的に支援を行うイスラム銀行はありますか?

A: アメリカでNGO支援を行う団体「ファンド・フォー・NGO」が、「NGOに助成金を提供するイスラム銀行トップ10」というランキングを発表した。このランキングとその選考基準からは、イスラム銀行のCSRのあり方を読み取ることができる。

発表によれば、1位のアル・ラジヒ銀行をはじめトップ10行にはUAEの銀行が3行、カタールとUAEの銀行が2行ずつ、そしてクウェート、ブルネイ、バハレーンから1行ずつ選ばれた。10行中9行がGCC諸国に集中しており、東南アジアは1行にとどまっている。ただ、ランクインしたイスラム銀行は各国に支店網を持つ大手グループが中心であり、イスラム諸国を幅広くカバーしているとみなしている。

同団体によれば、イスラム銀行によるCSR活動の一環としてのNGO支援には複数の傾向が読み取れるとしている。一つは、イスラム銀行は所属する地域コミュニティの発展の貢献を目指しており、国境をまたいだ活動よりも銀行のある国内での取り組みに積極的な支援を行っている。もう一つは、イスラム銀行ごとに力を入れる分野に個性が存在している。例えば、若者のエンパワーメントに力を入れている銀行(ドバイ・イスラム銀行)、特定の疾病に対する健康啓発に取り組む銀行(クウェート・ファイナンス・ハウス)、子供たちの識字率向上への貢献を目指す銀行(バンク・イスラム・ブルネイ)といった具合に、特に積極的な活動分野があるイスラム銀行は、これらに該当する分野で活動を行うNGOへの助成金提供もまた、積極的に行う傾向にある。

NGOの活動支援を謳うこの団体としては、「各団体とも自身の活動内容・地域を踏まえた上で、適切なイスラム銀行が設けるNGO支援プロジェクトに応募すべきであろう」と、NGOにアドバイスを送っている。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

シスメックス、手術支援ロボットによるマレーシア初の手術実施

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 医療機器メーカー、シスメックス(本社・兵庫県神戸市中央区)は12日、マレーシア初となる手術支援ロボットシステム「hinotori(ヒノトリ)」を使った手術が、マラッカ州のマコタ・メディカルセンターで実施されたと発表した。

ヒノトリは、シスメックスと川崎重工業の共同出資による「メディカロイド」が開発。日本国産初の手術支援ロボットシステムとして2020年から日本国内で発売されている。海外ではシスメックスが販売を手がけており、昨年10月にシンガポールで海外初の手術が行われたのに続き、マレーシアが実施2カ国目となった。ジョホール州のリージェンシー・スペシャリスト・ホスピタルにも導入済みという。

手術支援ロボットは、体に小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術に利用され、手術に伴う患者の負担を軽減することができる。米メーカーの「ダビンチ」が世界的に圧倒的な市場シェアを持つ。ヒノトリはダビンチに比べ導入費用が抑えられ、微細な動きも実現できるとして注目されている。シスメックスは今後もアジアなどでの海外展開を加速させていく方針。

エアアジアX、24年第4四半期の旅客輸送数が20%増

【セパン=アジアインフォネット】 中・長距離格安航空エアアジアXは、エアアジアXマレーシアの2024年第4四半期の旅客数が106万8,994人となり、前年同期比20%増になったと発表した。運航座席数も20%増加して130万5,005席となった。

ロードファクター(座席利用率)は82%で横ばいとなり、有効座席キロ(ASK)は前年比21%増の57億9,400万キロ、有償座席キロ(RPK)は23%増加して47億1,100万キロとなった。同期には中国・重慶とケニア・ナイロビに就航し、アフリカ地域への初進出を果たしたほか、ピークシーズンでは豪州、日本、韓国の路線で増便した。

通年の旅客数は41%増の399万2,931人。ロードファクターは前年比3ポイント上昇して83%となり、運航座席数は前年比35%増の480万7,822席、便数は前年比35%増の1万3,262便となり、年間のASKは31%増加して203億6,900万キロとなった。

一方、関連会社のタイ・エアアジアX(TAAX)の旅客数は第4四半期が26%増の46万3,463人、通年は21%増の160万6,341人となった。

平和的集会法を次の会期で改正へ、問題条項の施行を停止

【クアラルンプール】 アンワル・イブラヒム首相は13日の下院審議で、「2012年平和的集会法」を次の会期中に改正すると表明した。改正の眼目は、集会場所の所有者、占有者の許可取得を主催者に義務付けている第11条項の廃止で、改正により主催者は集会開催を5日前に警察に届け出るだけでよい

政府は同条項の施行一時停止も警察に指示した。この結果、政党関係者や大学生ら200人あまりが参加した汚職反対集会への捜査は停止され、参加者は罪に問われない。

同集会ではそごうショッピングモールからムルデカ広場へ行進が行われたが、そごう、クアラルンプール市役所の許可取得で集会主催者と警察が対立したいきさつがある。

「2012年国家安全(特別措置)法(SOSMA)」を見直す、あるいは廃止する意向はあるかとの質問に対し、アンワル氏は「乱用があってはならないが、テロの脅威のない国はない。テロに対処する法律は必要だ」と維持を表明した。
(フリー・マレーシア・トゥデー、ビジネス・トゥデー、マレー・メイル、2月13日)

 

【総点検・マレーシア経済】第515回 2024年のマレーシアの貿易はどう変化したか:輸入編

第515回 2024年のマレーシアの貿易はどう変化したか:輸入編

マレーシアの2024年の輸入は前年比13.2%増の1兆3708億リンギとなり、前年の6.4%減から増加に転じました。今回は、マレーシアの2024年の米中向けの輸入がどのように変化したのかを品目別に分析していきます。

表1,表2はそれぞれ2024年のマレーシアの対米国、対中国の輸入額を上位10品目を前年との比較でみたものです。2024年のマレーシアの対米輸入額は前年比42.1%と大幅増加し、国別では中国、シンガポールに続く3位となりました。

品目別に見ると、2位の「コンピュータ・同部品」が約11倍、3位の「半導体製造装置」が2.7倍になっていることが分かります。コンピュータ・同部品についてより詳しい品目を確認すると、CPU/GPUを含む項目が約2倍に増加しており、さらにサーバー本体が12.5倍、ネットワークやインターフェイス関連のボードが57倍と大幅に増加していることが分かります。これは、マレーシアにおける昨今のデータセンター建設ラッシュが影響しているものと考えられます。

4位の「ターボジェットエンジン」が約4倍になっていますが、これは航空機用のエンジンで、ボーイング社がクダ州に東南アジアで初となる100%子会社である生産拠点を開設したことなどが影響していると考えられます。

一方で、2024年のマレーシアの対中輸入額は前年比14.8%と拡大し、2位のシンガポールの1.8倍という圧倒的な差で国別輸入先の1位となっています。1位の集積回路をはじめ、幅広い電子・電機製品・部品が上位を占め、その多くについて輸入額が増加しています。例外的に減少しているのが9位の「半導体デバイス」ですが、さらに品目を細かく見ていくと興味深いことが分かります。

マレーシアが中国から輸入している「半導体デバイス」の中で、輸入が半減しているのは太陽光発電モジュールと半導体部品です。前者は米国からの制裁で、マレーシアが太陽光パネルの迂回生産拠点として機能しにくくなっていることを反映していると考えられ、後者は米国向けの輸出が多い半導体のサプライチェーンから中国が排除されつつあることを想起させます。一方で、同じカテゴリーでも輸入が急増しているのがLED、センサー、電子部品で、米国からの制裁を受けない品目については中国製の部品が多く調達されていることが分かります。

以上のように2024年のマレーシアの米中両国からの輸入については、やはり米中対立や米国の貿易政策の影響を強く受けていることが分かります。

熊谷 聡(くまがい さとる)
Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。
【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

24年の経済成長率は5.1%、第4四半期は5.0%

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 中央銀行バンク・ネガラ・マレーシア(BNM)は14日、2024年通年の国内総生産(GDP)成長率が前年の3.6%を上回るプラス5.1%だったと発表した。国内需要の継続的な拡大と輸出の回復により各セクター共に前年を上回り、政府が掲げていた成長目標(4.8ー5.3%)に沿ったものとなった。

産業別では、サービス業は卸売・小売業などに支えられて4期とも5%前後の高い成長を維持し、通年では5.4%となり、前年(5.1%)を上回った。前年は0.7%にとどまった製造業は通年では4.2%に回復した。0.5%だった鉱業も0.9%にやや回復した。6.1%だった建設業は17.5%に、農業も0.7%から3.1%にそれぞれ前年を上回った。

通年の国内需要は前年の4.6%から6.5%に回復。民間消費は4.7%から5.1%に、民間投資は4.6%から12.3%にそれぞれアップした。また公共消費は3.3%から4.7%に、公共投資は8.6%から11.1%にそれぞれアップした。前年に8.1%、7.4%マイナス成長だったモノとサービスの輸出と輸入は、それぞれ8.5%、8.9%のプラス成長に復帰した。

第4四半期(10ー12月)のGDP成長率は、国内需要に支えられたサービスや製造、建設業の成長によりプラス5.0%となったものの、前期(プラス5.4%)を下回った。

主要産業5部門のうち鉱業、農業がそれぞれ0.9%、0.5%のマイナス成長となったものの、製造業は4.4%、サービス業は5.5%、建設業は20.7%、それぞれプラス成長となった。

BNMは、今年のGDP成長率について、投資活動の力強い拡大、堅調な家計支出、輸出の継続的な拡大によって2025年も堅調な状態を維持すると予想されるとした。

プロトン、1月の販売台数は23%減の9914台

【クアラルンプール】 国民車メーカー、プロトン・ホールディングスは12日、1月の販売台数が9,914台で前年同期の1万2,882台に比べ23%減少したと発表した。

理由について、昨年12月の好調な販売の反動と、1月の旧正月休暇中の販売の減速と分析。また、市場シェアでも19.7%で、前年同期の18.7%を上回ったとしている。

車種別では、Aセグメント・セダン「サガ」が4,597台。2位以下はBセグメント・スポーツ車(SUV)「X50」が1,436台、Bセグメント・セダン「ペルソナ」が1,221台、Cセグメント・セダン「S70」が1,143台、Cセグメント・SUV「X70」が576台、Bセグメント・ハッチバック「アイリス」が291台、Dセグメント・SUV「X90」が203台で続いた。

また、同社初の電気自動車(EV)の「e.MAS7」が1月のEV販売でトップになったことについて、「販売から約1カ月でのトップは、製品と価格の提案が正しければ、マレーシア人はEVに乗り換えることを証明している」と指摘する。市場シェアは25%で、「現在の予約台数は4,000台を超えている。今後ディーラーのオープンの増加に合わせ、さらに増える見込みだ」と補足。プロトン・エダルのロスラン・アブドラ最高経営責任者(CEO)は「e.MAS7の販売などに支えられ、2025年全体の販売台数は伸びると楽観視している」と付け加えた。
(エッジ、2月12日)

行政サービスのデジタル決済、導入加速を首相が指示

【プトラジャヤ】 アンワル・イブラヒム首相は12日、行政サービス料金のデジタル決済を可能にするアイペイメント(iPayment)システムの導入を、当初予定の4月から3月に前倒しするよう、すべての省庁に指示した。3月中の100%施行を求めている。

アイペイメントは会計検査長官局が開発したシステムで、行政サービスの利用者はデビットカード、クレジットカード、プリペイドカード、インターネットバンキング、QRコード、eウォレットを利用した決済が可能。面倒な役所手続きの削減、能率向上が狙い。アンワル氏は行政窓口の長い待ち列を例にとり、デジタルによる解決の必要性を示していると強調した。

アンワル氏は「われわれが行っている改革の利益を多数の国民が享受することが最も重要だ。アイペイメントの導入で迅速かつ便利な公共サービスを提供する」と述べた。

アイペイメントは2024年3月にオンライン決済手法として導入された。今回は第2期で、窓口での決済、モバイルアプリでの決済が可能になる。
(ニュー・ストレーツ・タイムズ電子版、マレーシアン・リザーブ、ベルナマ通信、2月12日)

1月のEV販売、プロトンの「e.MAS7」が躍進

【クアラルンプール】 道路交通局(JPJ)の最新データによると、マレーシアにおける2025年1月のメーカー別新車登録台数は、ダイハツ系プルサハアン・オトモビル・クドゥア(プロドゥア)が2万3,245台でトップとなり、2位のプロトンの9,688台を140%上回った。

3位はトヨタの7,570台、4位はホンダが3,638台で続いたが、トヨタの半分程度にとどまった。5位は1,227台で三菱が健闘し、6位以下は1,000台に満たなかった。

一方、1月の電気自動車(EV)の販売台数を車種別でみると、プロトン初のEV「e.MAS7」が昨年12月16日の販売後の約1カ月で421台を売り上げ、トップに躍り出た。2ー4位はBYD(比亜迪汽車)で、シーライオン7(151台)、M6(136台)、アット3(104台)となったが、全体のメーカー別登録台数ではBYDは12位で、EVの市場シェアは限定的にとどまっている。
(ポールタン、2月12日)

高速道の新料金徴収システム、4月にも試験運用開始か

【クアラルンプール】 高速道路料金所の混雑緩和に向け、導入が計画されているマルチレーン・フリーフロー(MLFF)料金徴収システムについて、一部の道路運営会社などが4月にも独自に試験運用に踏み切る可能性がある。

経済紙「エッジ」などによると、MLFFシステム開発の有力候補の1つが、高速道路運営サービスの投資持株会社PLUSエキスプレスウェイズの子会社のテラス・テクノロジ。テラス・テクノロジは現在の料金徴収システムを提供しているため、有利とみられている。MLFFシステムは非接触で、ナンバープレートなどの自動認識により料金を徴収するシステムのため、道路交通局のシステムと連携させ、未払いの通行料がある運転者は、道路税の更新を認めないことなど検討しているという。

そのほか、高速道路運営を手掛けるプロジェク・リンタサン・コタ・ホールディングス(プロリンタス)や、高速道路運営の特別目的会社アマナ・レブラヤ・ラクヤット(ALR)、決済サービスのタッチ・アンド・ゴー(TNG)などもシステム提供が取り沙汰されている。

道路運営会社がそれぞれMLFFシステムを構築する方が費用を抑えられるという意見がある一方で、高速道路運営会社32社が加盟するマレーシア高速道路コンセッション協会を通じて、各運営会社の出資で非営利組織を設立し、単一のシステムでの運営をすべきとの意見もある。

こうした混乱の背景には、2023年に公共事業省が入札ではなく特定の企業を指名してMLFFシステムの発注を行い、問題になったことが挙げられる。もともと25年までのシステム導入が目標とされており、今後の動きが注目される。
(エッジ、2月10日、ポールタン、2月12日)