【総点検・マレーシア経済】第525回  マレーシアへの相互関税は25%、これからどうなる?

第525回  マレーシアへの相互関税は25%、これからどうなる?

4月9日以降、トランプ政権が導入した「相互関税」の執行は10%のベースライン関税を除いて90日間停止されていましたが、その期限である7月9日前後に様々な動きが見られました。まず、トランプ大統領は相互関税の実施を8月1日からと発表し、実質的に猶予期間が約20日延長されました。

同時に、トランプ政権は各国に対して個別の相互関税率を通知しました。7月9日までに正式に交渉がまとまったのはイギリスとベトナムのみで、イギリスは米国製品の購入などを条件に相互関税率は10%に(他に自動車低関税輸入枠)、ベトナムは米国製品への関税を0%にすることを条件に、相互関税率は当初の46%から20%に引き下げられ、「積替輸出(Transshipment)」については税率40%で決着しました。

マレーシアには7月7日、相互関税率を25%とする旨を通知する書簡が届きました。この書簡は非常に攻撃的で礼節を欠くものでしたが、日本とマレーシアで国名以外は同一の内容が使い回されており、真剣なメッセージとして深読みする必要はありません。また、マレーシアと日本は共に相互関税率が24%から25%に1%上昇していますが、他の国も微妙に関税率が変更されており、これも特別な意味はなく、関税率を切りの良い数字に整理する一環と考えられます。

これに対し、ザフルル通商産業大臣は引き続き8月1日までの交渉を目指すことを表明し、合意に至る確率は50%と述べました。また、ザフルル大臣は国益を犠牲にしてまで合意にこだわることはないと明言しています。交渉の焦点となっているのはハラル食品で、マレーシアは米国産の牛肉や鶏肉の輸入を認めていませんが、「彼らが基準を守るのであれば」それを認めるとザフルル大臣は述べています。

一方で、譲歩しない「レッドライン」として挙げているのは「デジタル税」で、デジタル製品への課税は国家主権に関わるため譲れないとしています。その他のレッドラインには、電子商取引、政府調達、健康や技術に関連する基準に関する法律が含まれると発言しています。

マレーシア側はマレーシア航空がボーイング機30機を購入することに加え、さらに30機の購入を米国との交渉で提示していると報じられました。しかし、同時期に、エアアジアがエアバス機を70機、マレーシア航空が20機購入することが報じられるなど、米国に対して地道な「けん制」も行っています。

アンワル首相は米国との関税交渉を継続すると語り、7月10日には米国のルビオ国務長官と会談しました。一方で、それに先立つ7月9日、ASEAN外相会議の開幕に当たり、かつては成長を生み出すために使われていた関税が、今では圧力をかけ、孤立させ、封じ込めるために使われていると警告しました。

その後も、トランプ大統領は外交的に対立するブラジルに50%の相互関税を課すと発表するなど、現時点で提示されている関税率は実務的なものではなく「ディール」の道具となっています。8月1日に向けてさらなる紆余曲折が予想され、引き続き予断を許さない状況です。

 

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

微細藻類のバイオマスプロジェクトでサバ州政府系企業など提携

【コタキナバル】 サバ州政府系企業SAIPと、CCEパワー・ホールディングスは10日、同州キマニスの農業工業地区における微細藻類を原料とするバイオマスプロジェクトの開発で覚書を締結した。

プロジェクトでは、まず日本企業と協力して、100ヘクタールの土地に微細藻類を栽培。日光を必要としない閉鎖タンク式で培養され、5―7日で収穫できるという。その後1,000ヘクタールへの拡大も予定している。

さらに主に2つの生産ラインを備えた施設を建設。1つは微細藻類から産出される油から、持続可能な航空燃料(SAF)などを生産するためのもので、もう1つは微細藻類を乾燥させてバイオマス燃料として30メガワットを発電する施設になる。バイオマス発電所は3段階に分けて進められる予定で、年内にも始まる第1フェーズではパーム油由来のバイオマスを100%使用。第2フェーズではパームバイオマスと微細藻類を混合し、第3フェーズでは微細藻類を70%、パームバイオマスを30%使用する予定という。

州産業開発・起業家支援相で、SAIP会長も務めるフーン・ジンジャ氏は「サバ州は国内で最も有数の藻類産業拠点の一つとなる可能性を秘めている」と述べた。
(ニュー・ストレーツ・タイムズ、ボルネオポスト、7月10日)

大阪万博は日馬の関係強化の絶好の機会=ジェトロ

【クアラルンプール】 日本貿易振興機構(ジェトロ)は、開催中の大阪・関西万博が日本とマレーシアの経済関係強化に向けた絶好の機会と捉え、脱炭素化、再生可能エネルギー、デジタル技術などにおける投資のさらなる拡大を見込んでいる。ジェトロ・クアラルンプール事務所の高野光一所長が国営「ベルナマ通信」のインタビューで見解を示した。

高野所長は、大阪万博を通じた投資が好調なことに触れながら、既存の信頼関係を強化することが、今後の両国の貿易関係の潜在能力を最大限に引き出すために最も重要なステップであるとした。

さらに、今年10月にマレーシアで開催予定の「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」首脳会議を踏まえ、協力は加速されるだろうと予測。マレーシアにおける日本の環境技術の適用機会拡大に向け、温室効果ガス削減に関する二国間クレジット制度(JCM)交渉の進捗にも期待感を示した。

ジェトロとしても脱炭素化に貢献する企業のカタログを作成するなど、日本企業のマレーシア市場への進出を積極的に支援していることを強調。また労働力問題は両国共通の課題で、人材育成などでも互いの長期的なコミットメント、継続的な対話、政策協調が重要とし、「今後も両国の協力の架け橋としての役割を担っていく」と付け加えた。
(ベルナマ通信、7月10日)

マハティール元首相が100歳、「権力で記憶されたくない」

【プトラジャヤ】 マハティール・モハメド元首相が7月10日で100歳を迎え、これに合わせて配信されたポッドキャスト「Dr. M」で政治家人生における過去の出来事を振り返り、現在の心境などを語った。

マハティール氏は首相になることを夢見たことは一度もなく、首相就任はタイミングと状況によるものだと説明。首相在任中、常に国民に奉仕し権力の濫用を避けることに尽力してきたと強調し、「国民に私の強大な権力で記憶されたくない。ただ国民により良い生活を与えたいとだけ希望している」と述べた。

また1998年のアジア金融危機の際に通貨リンギのペッグ制を敷いたことに触れ、国際的な批判をものともせず大胆な措置を取ったことは国を救うために必要だと判断したからだと説明。「国家危機においては、たとえ国際社会の意見に反することになっても迅速な行動を取らなければならない」とリーダーの心構えを示した。

さらに学生時代を振り返り、常にクラスでトップを目指し他の優秀な生徒と熾烈な競争を繰り広げていたと強調。「勉強で遅れを取っても諦めてはいけない。何度も復習しさらに努力しなさい」と若者にアドバイスした。

最後にマハティール氏は、国民からの祝福や贈り物に感謝の意を表し、生涯を通じて真実を語り続けると述べ、アンワル・イブラヒム首相からも100歳の誕生日を祝う手紙が届いたことを明らかにした。
(ニュー・ストレーツ・タイムズ、7月10日)