【総点検・マレーシア経済】第526回  マレーシアの2025年第2四半期GDP成長率の事前推計値は4.5%と底堅いが…

第526回  マレーシアの2025年第2四半期GDP成長率の事前推計値は4.5%と底堅いが…

7月18日、マレーシア統計局は2025年第2四半期GDP成長率の事前推計値を4.5%と発表しました。これは、第1四半期の4.4%成長を上回っており、予想外の底堅さを見せたと言えます。マレーシアの四半期GDP成長率は2024年第2四半期の前年同期比5.9%をピークに、以降、5.4%、4.9%、4.4%ときれいに0.5ポイントずつ減速してきました。その低下トレンドが止まったことになります。

部門別に見ると、前四半期より減速しているのは製造業(4.1%→3.8%)、鉱業(-2.7%→-7.4%)、建設業(14.2%→11.0%)、加速しているのはサービス業(5.0%→5.3%)、農業(0.6%→2.0%)となります。全体としては減速気味なのは間違いなく、経済に占めるシェアが大きいサービス業が底堅いために踏みとどまっている状況に見えます。

 

同日に公表されたマレーシアの6月の輸出は前年同月比3.5%減で、5月の1.3%減に続いて2カ月連続で減少しました(図1)。このところ大幅に増加していた米国向け輸出についても、2025年3月の50.8%増をピークに6月には4.7%増にまで減速しています(図2)。

これらの状況を総合すると、2025年第2四半期のGDP成長率の意外な底堅さは、トランプ関税への対応による輸出前倒し効果が4月にはまだ残っていたことによるもので、実際には経済は減速トレンドにあるように見えます。

 

傍証としては、7月9日、バンクネガラは政策金利(OPR)を3.0%から2.75%に引き下げました。バンクネガラの金利変更は、2023年5月に2.75%から3.0%に利上げを行って以来2年2カ月ぶりで、利下げの理由については不確実性の中での「予防的(pre-emptive)」なものと述べられています。RON95の改革についても具体的な発表は9月末で多くの国民にとって価格は「下がる」と報じられ、アンワル首相は7月23日に成人への100リンギの給付を発表しています。

 

7月末には第13次マレーシア計画が上程され、8月1日までにマレーシアと米国の関税率の交渉がまとまるかもマレーシアの経済成長率に影響を及ぼす可能性があります。ここ1週間の動きは要注目です。

 

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

新規国際路線、6月に5路線を開設=MAHB

【クアラルンプール】 空港運営会社マレーシア・エアポーツ・ホールディングス(MAHB)は、今年6月にクアラルンプール国際空港(KLIA)とペナン国際空港(PEN)に5つの新たな国際航空路線が開設されたと明らかにした。

MAHBの声明によると、新規路線のうち2つは新たな航空会社の乗り入れによるもので、カンボジア航空(KR)はプノンペンとペナンを結ぶ週2便の運航を開始、吉祥航空(HO)は上海とKLIAを結ぶ週4便の運航を開始した。

残り3路線は既存の航空会社による新規路線で、バティック・エア・マレーシアはKLIAと東ティモールのディリを結ぶ週2便の運航を開始。エアアジア・カンボジアはKLIAとシアヌークビルを結ぶ週3便の運航を開始した。またエアアジアはKLIAとオーストラリアのダーウィンを結ぶ週4便の運航を開始した。

6月のマレーシア国内空港の旅客数は850万人で、国際線は420万人、国内線は430万人。スバン空港(スルタン・アブドル・アジズ・シャー空港=SZB)の伸びが最も目覚ましく、前月の13万8,000人から9%増の15万1,000人となった。国際線旅客数は10%増の4万人、国内線は9%増の11万1,000人となった。路線別ではファイアフライ航空(セレター線)、スクート航空(チャンギ線)、トランスヌサ航空(ジャカルタ線)の平均搭乗率が70%を超えた。
(ニュー・ストレーツ・タイムズ電子版、マレーシアン・リザーブ、ベルナマ通信、7月24日)

アジア開銀がGDP予想を下方修正、貿易・投資見通しの悪化で

【クアラルンプール】 アジア開発銀行(ADB)は貿易、投資の見通しが悪化しているとしてマレーシアの今年の国内総生産(GDP)成長予想を4.9%から4.3%へ下方修正した。来年の成長予想も4.8%から4.2%へ修正した。

ADBは23日公表の報告で「第1四半期のGDP成長は堅調だったが、米国による関税措置が輸出と投資の見通しを悪化させた。同期の外国からの投資(認可ベース)は前年同期と比べ増加したが、国内投資は293億リンギと27.4%減少した」と指摘した。

一方で家計支出は堅調を維持し、5月の失業率は1月の3.1%から3.0%へ低下しており、労働市場は強靭さを維持していると述べた。

ADBは東南アジア全体の今年と来年のGDPについても、増大する貿易上の不透明を理由に、成長予想を下方修正した。
(新華社、フィナンシャル・エキスプレス、7月23日)

米国との関税交渉、「20%以下を目標」投資貿易産業相

【クアラルンプール】 米国との関税交渉の先頭に立っているザフルル・アブドル・アジズ投資貿易産業相は、関税率を20%未満に抑えることを目指しており、譲歩の末で考えられ得る下限を10%と想定していることを明らかにした。

ザフルル氏は8月1日の期限までに可能な限り低い関税率で合意できる見込みだと述べ、交渉が引き続き順調に進んでいると強調。米国との会合は毎日行われていると明らかにした。

その上でザフルル氏は、マレーシアが20%の関税率で妥協するのではないかとの一部の憶測を否定。目標はより低い税率、理想的には最近15%で同意した日本や19%のインドネシアのような国々と同水準の税率を確保することだと述べ、「ある程度の譲歩をすれば20%か19%になるかもしれない。またマレーシア側がすべてを譲歩すれば10%になるかもしれない」と強調した。

米国は7月7日、貿易相手国に新たな課税措置の通知を開始。マレーシアからの輸入品については8月1日から25%の関税を課すとし、4月に発表した24%の相互関税率から1ポイント引き上げられていた。

マレーシアと同じ25%の関税を通告されていた日本については、米国は22日、関税率を15%に引き下げると発表。同様に32%と通告していたインドネシア、20%と通告していたフィリピンに対してもそれぞれ19%に引き下げると発表していた。
(ビジネス・トゥデー、エッジ、7月24日)

興和、緑内障・高眼圧症治療剤がマレーシアで承認取得

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 興和(本社・愛知県名古屋市)は24日、日本で販売している緑内障・高眼圧症治療剤の配合点眼剤が7月3日付で、世界に先駆けてマレーシアにおいて開放隅角緑内障・高眼圧症を適応症として承認を取得したと発表した。

承認を取得したのは「グラアルファ配合点眼液」(一般名:リパスジル塩酸塩水和物・ブリモニジン酒石酸塩)で、有効成分リパスジル塩酸塩水和物と、ブリモニジン酒石酸塩を含有する、世界で初めてのRhoキナーゼ阻害薬とアドレナリンα2受容体作動薬の配合点眼剤。既存の配合点眼剤とは薬理学的な作用点が異なるため、様々な緑内障・高眼圧症治療剤との併用が可能となるという。