【総点検・マレーシア経済】第555回:ペトロナスが抱えたPRefChemというリスク

第555回:ペトロナスが抱えたPRefChemというリスク

8月28日、国有石油会社ペトロナスは2026年上半期の業績を発表しました。売上は前年同期から15%増加して1524億リンギ、税引き後利益は4%増加して272億リンギとなりました。売上の増加には、原油価格(ブレント)が前年同期の1バレル=71.9ドルから92.3ドルにまで高騰したことが貢献しました。

ホルムズ海峡危機の中で堅調な業績に見えますが、筆者には、ペトロナスは久々に大きなリスクを抱えてしまったように思われます。以下に説明します。

まず、原油価格が高騰し、売上がの見た割に利益が伸びていません。理由は、ジョホール州の 石化コンビナートRAPID内にあるプングラン製油社(PRC)とプングラン石油化学社(PPC、以下、両社総称PRefChem)への追加出資に伴い、これまで持分法会計で未認識だった累積損失RM148億を一括計上したためです。なお、合弁パートナーであったサウジアラムコからの両者の株式を全額買収する契約が2026年5月に締結されたましたが、6月末時点ではまだ完了していません。

RAPIDは巨大な石油コンビナートで、操業後にコロナ禍で需要が低迷したこと、製油施設が何度も停止し、稼働率が低下したことなどが重なり、損失が累積していました。今回は、増資に伴ってその累損が計上され、明らかになりました。一概には言えませんが、RM148億の損失はペトロナスの持ち分50%分で、サウジアラムコ分を合計すると、創業から6年半でRM250億〜300億RM、毎期平均してRM40〜50億程度の損失を計上していたことになります。

現在、ホルムズ海峡危機によって、アジア地域での石油化学製品の市況は好転しています。実際、ペトロナスの2026年上半期の川下事業は、PRefChemの累損を除けば税引き後利益で70億リンギの黒字と報告されています。

しかし、アジア地域では中国を始めとする各国の石油コンビナートの稼働が相次いでおり、供給は構造的に過剰気味です。PRefChemの累損の巨大さからみても、市況が崩れたり、施設が稼働を停止する事故があると、一気に損失は膨らみます。しかも、今後はペトロナス(およびペトロナス化学)の100%子会社となるので、損失は全て本体に計上されることになります。

ここのところ、ペトロナスの税引き前利益は700億リンギ程度有るので、PRefChemの業績が悪化しても吸収できないわけではありません。しかし、PRefChemが市況低迷時にはペトロナスの利益を押し下げる要因になる可能性は否定できません。

ペトロナスは、今回の買収による完全子会社化によって、バリューチェーン全体をコントロールし、マレーシアのエネルギー安全保障に貢献することを挙げています。実際に、そうした面での貢献は大きいですし、日本でも出光が製油所の閉鎖を撤回するなど、経済安全保障を理由に自国の製油能力を維持・拡大する動きが目立ちます。

ただ、商業面から見れば慢性的に過剰供給の業界で、稼働率が安定しない巨大石油コンビナートを100%子会社として持つことは、明らかにリスク要因となります。まずはPRefChemが安定的に創業できるか、そして、危機時には原油を安定的に調達できるか、平時には市況が崩れないか、常にリスクを見なければいけない厄介な存在を抱え込むことになります。

 

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

【イスラム金融の基礎知識】第600回 イスラム銀行強度ランキングを分析

第600回 イスラム銀行強度ランキングを分析

Q: イスラム銀行上位100行にマレーシアは何行ランクインしていますか?

A: ある国のある市場の成熟度を測る際には、市場規模のみならず参入している事業者数も重要な指標となる。例え市場規模が大きくとも、独占や寡占の状態では、市場の健全な発展を阻害する要因となりうる。多くの企業による競争状態から、底堅い発展やイノベーションが生まれると期待できる。この点について、マレーシアのイスラム銀行市場をみてみたい。

シンガポールの金融情報リサーチ会社であるTABインサイツ社は、昨年末に「世界のイスラム銀行の強度トップ100行」を発表した。これは、イスラム銀行の総資産や融資残高、預金残高、売上高、ROAなど14項目について独自の点数化を行い、ランキング形式でまとめたものである。これによると、マレーシアは13位のメイバンク・イスラミックを筆頭に16行がランクインした。ひとつの国で16行がランクインしたのは、マレーシアが最多であり、2位のインドネシアの11行を引き離した。イスラム金融大国で国内に多くのイスラム銀行が存在する国をみてみると、パキスタンとバングラデシュがそれぞれ9行、トルコとUAEがそれぞれ6行、サウジアラビアは4行にとどまった。市場の独占や寡占は、市場の草創期の育成段階では必要な措置とみることもできるが、やはり底堅い健全な発展には企業間の競争が必要だろう。

マレーシアの16行の内訳をみると、いわゆる8大民間金融グループそれぞれのイスラム銀行、専業銀行であるバンク・イスラム、バンク・ムアーマラート、MBSB銀行、外資系のうちサウジ資本のアル・ラジヒ銀行、イギリス資本のHSBCとスタンダード・チャータード銀行、シンガポール資本のOCBC銀行、および政府系の協同組合銀行(バンク・ラクヤット)である。国内資本のイスラム銀行が軒並みランクインする一方、一部の外資系はランク外となった。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。