【人生の知恵・仕事の知恵】San Gen Shugi

San Gen Shugi

★駅での出来事

日本国内のことですが、先日こんな事がありました。

電車を待ってプラットフォームに立っていると、手前で人身事故が起きたらしく、機械的なアナウンスが電車の遅延を伝えました。

何分遅れているのかわからないため、改札の駅員に尋ねようとしました。しかし最近は駅員がおられない駅も多く、当該駅も例外でないのか、改札付近に設置してあるインターホンで、電車がいつごろ到着するのか問い合わせました。

すると、どこかの駅のコールセンターにつながり、しばらく待って欲しいと言われ、その場所にいると、改札口付近の事務所から男性の駅員が現れました。

「なぜ、あなたは列車が遅延しているのに、外に出てきて乗客に状況を伝えないのか?」

驚いたというか呆れた筆者は現れた駅員にそう尋ねました。

 

★現実感を無くす職場

当該駅員の方は、筆者の問いかけが、あまりよくわかっておられない様子でした。通常のダイヤが乱れても、全て、手元にもった携帯端末の情報に依拠する姿は、災害などの緊急時の対応を危惧させるものでした。

海外の職場でも同じようなことが起きています。

現場の不良発生や不具合の発生は、全てSNSでやりとりし、実際に現場に行って確認をすることもありません。現場感覚が著しく衰えているのが現状だと思います。

 

★三現主義の復活

筆者は、常日頃から、現場・現実・現物という三現主義の大切さを強調していますが、現実的には、上記のように実際に現場に向かうとか、物をみるとか、人に話を聞くとか、といった行為は影を潜めがちになっています。

誰かが声高に「三現主義を大切に」と言わなければいけない時代です。

湯浅 忠雄(ゆあさ ただお) アジアで10年以上に亘って、日系企業で働く現地社員向けのトレーニングを行う。「報連相」「マネジメント」(特に部下の指導方法)、5S、営業というテーマを得意として、各企業の現地社員育成に貢献。シンガポールPHP研究所の支配人を10年つとめた後、人財育成カンパニー、HOWZ INTERNATIONALを立ち上げる。 【この記事の問い合わせは】yuasatadao★gmail.com(★を@に変更ください)

 

南北高速道路に初のEVトラック対応の充電ハブ開設

【クアラルンプール】 高速道路で初となる電気トラック(EVトラック)対応の充電ハブが、ジョホール州北部の南北高速道路タンカック料金所近くのピットストップに開設された。

運営するのは、石油・ガス(O&G)のインソン傘下のチャージEV。北行きと南行きの両方からアクセスでき、乗用EVも含め8台分のスペースが確保されている。DC急速充電で最大出力は400キロワット。EVトラックでクアラルンプールとシンガポール間を安心して走行できるようになるという。周辺にはフードコートなども整備されている。利用料金は1キロワット時(kWh)あたり1.6リンギ。蓄電容量400メガワット時(MWh)のバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)も備えられている。
(ポールタン、2月27日)

高度医療の病院、KL中心部に隣国企業が開設へ

【ペタリンジャヤ】 シンガポールを拠点とする投資コンサルティング会社、ブラック・グループ・インベストメント・ホールディングはクアラルンプール中心部に最先端の医療施設を整備する。投資額は1億シンガポールドル(約3億3,145万リンギ)。9月の開業を目指している。

アラン・リー最高投資責任者によると、医療観光に軸足を置いた病院で、アンチエイジング医療  再生医療、細胞治療(欠損した細胞や病気の細胞を補うために健康な細胞を体内に移植する治療)などの高度医療サービスと、もてなしを組み合わせる。従来型病院とは異なるという。

高級サービスアパート用に建設された商業施設を買収し、医療ホテルに改装する。マレーシア参入に備えブラック・グループは1月、クアラルンプールを中心に商業不動産の売買、管理を手掛けるマレーシア企業ブラック・ダイヤモンド・アセット・マネジメントを買収していた。

リー氏は「このプロジェクトは医療業界の新たな基準になり、医療観光の目的地としてのマレーシアの地位強化になる」とした。
(フリー・マレーシア・トゥデー、2月27日)

軽便鉄道シャアラム線が99%完成、9月30日に開業へ

【クアラルンプール】 首都圏軽便鉄道シャアラム線(LRT3)の工事進捗率が98.63%に達し、7月31日にターンキー請負業者によって公共輸送機関を管轄するプラサラナ・マレーシアに引き渡される予定だ。以前の発表通り9月30日に開業する見通し。

アンソニー・ローク運輸相によると、安全性を確保するため無乗客での試運転を2段階で実施する。

第1段階の試運転(TR)と無故障運転(FFR)は、主契約者であるセティア・ウタマLRT3によって、2025年4月中旬から6月下旬まで75日間にわたって実施される。試験期間中、公共陸運局(APAD)が安全性、コンプライアンス、システムの信頼性を評価する。

第2段階の試運転は第1段階のTRとFFRテストが完了しAPADによる承認が出た後に行われるもので、セティア・ウタマLRT3の技術サポートを受けて、LRT3運営会社のラピッド・レールによって2025年7月から8月までの60日間にわたって実施される。

LRT3はセランゴール州ペタリンジャヤのバンダル・ウタマとクラン地区のジョハン・セティアを結ぶ全長37.8キロメートルの路線で、途中のシャアラムやクランを含む26駅が設置される。
(ビジネス・トゥデー、マレー・メイル、エッジ、2月27日)

【総点検・マレーシア経済】第516回 ペトロナスは大丈夫か

第516回:ペトロナスは大丈夫か

2月25日、国有石油会社ペトロナスは2024年の決算を発表しました。売上高は3200億リンギ(前年比7%減)、税引き後利益は551億リンギ(同31.7%減)となりました。2月7日にはムハンマド・タウフィクCEOが今年後半に人員整理を行うと発表、「これはペトロナスの今後数十年の生存を確保するためのもので、今やらなければ、10年後にはペトロナスは存在しなくなる」と強い危機感を表明しました。

ペトロナスの減益については原油・天然ガス価格の下落が一因とも報じられていますが、前年の2023年は繰延税金資産があったために納税額が低く抑えられていたことも影響しています。もし、今年の納税額が昨年並みであれば税引き後利益は650億リンギ程度で約20%の減益にとどまります。

筆者は現在の業績が、直ちにペトロナスの経営に影響を与えるような悪いものであるとは思いません。一方で、より長期的な懸念材料としては、ペトロナスのサラワク州での権益が揺らいでいる点です。直近では、アンワル首相がサラワク州の全額出資子会社である石油会社ペトロス(Petros)がペトロナスに代わり、同州内でのガスアグリゲーター、つまり生産者からガスを購入し、消費者に販売する役割を与えることを認めました。

サラワク州が自州内の資源について主張を一段と強めたのはナジブ政権下の2017年で、2018年の総選挙での劣勢が予想されていたナジブ首相は、連立与党内で重要なシェアを占めるサラワク州の政党からの支持を固めるため、同州が主張していた州内での資源権益について容認する立場を取りました。これと連動して、サラワク州政府はPetrosを設立、現在まで続くペトロナスとサラワク州の権益を巡る確執が生まれます。

2020年5月には、ペトロナスとサラワク州政府は2019年分の石油製品についての販売税20億リンギを支払うことで合意しました。しかし、この直後、販売税の支払いに抵抗していたペトロナスのワン・ズルキフリCEO(当時)は任期満了を待たずに辞任しました。

1974年石油開発法(PDA1974)は、ペトロナスにマレーシアの領土・領海内の従来型及び非従来型の石油及び炭化水素資源に関する全所有権及び開発・商業化等に関する排他的権利を与えています。加えて、PDA1974は、ペトロナスを石油探索・開発・生産の契約を付与できる唯一の主体と指定しています。

PDA1974による石油・ガス資源に対する独占的かつ強い権限は、ペトロナスのこれまでの商業的成功の大きな要因であり、存立基盤であったと言えます。しかし、マレー半島での政治状況が流動化することで、サバ・サラワク両州の議席の価値が高まり、ナジブ政権末期から現在まで、特にサラワク州に対して石油・ガス資源に関連する独自の権限を認める方向で事態は推移してきました。マレーシアの天然ガスの約60%を埋蔵し、LNG輸出の9割を担うサラワク州の側からすれば、そもそも州の石油・ガスに関する権限は憲法をはじめいくつかの法律で認められているということになりますが、これはマレーシアという国にとって非常にセンシティブな問題です。

連邦と州の間の石油・ガス収入の分配を巡る問題は、これまで何度も繰り返されてきましたが、連邦政府の力が州政府に対して相対的に強い間は、ペトロナスの権限は守られてきました。しかし、昨今の政治状況では、石油・ガス権益が政治的な「飴」としてなし崩し的に州政府に分配される恐れがあります。

筆者は各州の政府が自州の資源開発から正当な配当を得る権利は否定しません。しかし、資源の根源的な所有権・開発権を各州政府に認めることは、これまで国の資源を非常に良くマネージし、世界的な大企業へと成長したペトロナスの存立基盤を揺るがすことになります。ペトロナスの国際的な信用を守る上でも、ステークホルダー全員が合意するかたちで、長期的に安定した石油・ガス収入分配の仕組みを再構築する時期に来ていると思われます。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp