
第922回:イノベーションは「技術」ではなく「仕組み」で決まる
前回は、職場の強さは上司ではなく「同僚同士の支え合い」によって生まれる可能性があることを紹介しました。今回は視点を少し広げて、「国レベル」のイノベーションについて考えてみたいと思います。
企業においても国家においても、「デジタル化」が重要だという議論はすでに広く共有されています。しかし、単にITを導入すればイノベーションが生まれるのかというと、実際はそう単純ではありません。
今回紹介する研究では、各国のデジタル化と環境イノベーション(エコ・イノベーション)の関係を分析しました。データとしては、各国のデジタル政府の発展度(E-Government Development Index. EGDI)と、環境関連特許の数を用いています。EGDIとは、行政サービスのオンライン化や通信インフラ、人材水準などをもとに、政府のデジタル化の進み具合を総合的に評価した国連の指標です。
分析の結果、いくつか興味深い点が明らかになりました。
第一に、デジタル化が進んでいる国ほど、エコ・イノベーションも多いという「正の関係」が確認されました。これは直感的にも理解しやすい結果です。情報が共有されやすくなり、調整コストが下がることで、新しい技術が生まれやすくなると考えられます。
しかし重要なのは、ここから先です。
第二に、この関係は「直線的」ではありませんでした。つまり、デジタル化が少し進んだ程度では、大きな効果は見られません。ある程度の水準に達したときに、はじめてイノベーションとの結びつきが強くなるという「非線形」の関係が確認されました。
言い換えれば、デジタル化は単体では機能せず、制度や組織との組み合わせによって初めて効果を発揮するということです。
第三に、この効果はすべての国で同じではありませんでした。特に、中程度のイノベーション水準にある国で、デジタル化の効果が最も強く現れていました。
これは、すでに高度に発展した国では追加効果が限定的であり、逆に発展段階が低い国では制度や人材が不足しているため、デジタル化を活かしきれない可能性を示唆しています。
こうした結果から見えてくるのは、「デジタル化=技術導入」ではないという点です。
むしろ重要なのは、
・情報が共有される仕組み
・組織間の連携を可能にする制度
・標準化されたルール
といった「見えにくい基盤」です。
この点は、前回の職場の話とも重なります。上司の指示よりも、同僚同士の関係性が重要だったように、国家レベルでも単なる技術より「関係性や仕組み」がイノベーションを左右している可能性があります。
現場に当てはめると示唆は明確です。
新しいシステムを導入すること自体が目的化してしまうと、期待した成果は得られません。それよりも、
「そのシステムが人と人をどうつなぐのか」
「組織の中でどのように使われるのか」
を設計することのほうがはるかに重要です。
また、小さな改善を積み重ねるだけでは不十分で、一定の水準まで一気に整備する必要がある可能性も示唆されます。これは投資判断や戦略のあり方にも関わる重要なポイントです。
職場でも国家でも、共通しているのは、
「成果は個別の要素ではなく、組み合わせから生まれる」
という点です。
デジタル化を考えるとき、単なる技術導入ではなく、「仕組みづくり」という視点を持つことが、これからますます重要になっていくのではないでしょうか。
論文情報は以下。2026年4月13日まで、末尾のURLから全文をご覧いただけます。
Kokubun, K. (2026). Digitalisation, Digital Governance, and Eco-Innovation: Evidence from Cross-Country Data in 2022. Information, 17(3), 306. https://doi.org/10.3390/info17030306
| 國分圭介(こくぶん・けいすけ) 京都大学経営管理大学院特定准教授、 |
