【従業員の勤労意欲を高めるために】第923回:インフラは「人」を変える

第923回:インフラは「人」を変える

前回は、イノベーションは単なる「技術導入」ではなく、「仕組み」によって決まる可能性があることを紹介しました。今回は視点をさらに広げ、「インフラ」が人の成長にどのような影響を与えるのかを考えてみたいと思います。

日本企業が多く進出しているマレーシアでは、1990年代以降、電力インフラの整備が急速に進みました。都市部だけでなく、地方にも電気が行き渡ることで、生活環境は大きく変化しています。夜間の照明が当たり前になり、学校教育の機会が広がり、医療サービスも安定して提供されるようになりました。

こうした変化は、単なる「便利さ」の問題ではありません。人々の生活の質そのものを底上げし、社会全体の発展につながっています。

今回紹介する研究では、この点をグローバルデータで検証しています。分析の結果、電気へのアクセスは、人間開発(HDI)を有意に押し上げることが確認されました。HDIとは、健康(寿命)や教育水準を含めて人間の発展を測る指標です。しかも重要なのは、この効果が所得とは独立して存在していた点です。

つまり、経済的に豊かになったから人間が発展するのではなく、電化そのものが人間の発展に直接寄与している可能性が示されたのです。

電気は単なるエネルギーではありません。夜間の学習を可能にし、医療機器を動かし、通信を支えます。言い換えれば、「時間」「健康」「情報」といった、人間の基盤的な能力を広げる役割を持っています。

これは、マレーシアのように発展を遂げてきた国の歩みとも重なります。インフラが整備されることで、初めて教育や医療といった基盤が機能し始め、その後の成長が加速していきます。ここから見えてくるのは、インフラの本質的な役割です。インフラは、単に経済活動を支えるものではなく、人の能力や可能性そのものを引き出す基盤だということです。

企業の現場でも、似たような場面に直面することがあります。設備やシステムが整っていない環境では、人の能力は十分に発揮されません。一方で、基盤が整うことで、同じ人でも成果の出方は大きく変わります。

職場でも国家でも共通しているのは、「人の成長は、環境によって引き出される」という点です。インフラを考えるとき、それを単なるコストや設備としてではなく、「人の可能性を広げる土台」として捉える視点が大事です。


論文情報は以下。末尾のURLから概要をご覧いただけます。

Kokubun, K. (2026). Beyond the Grid: The Independent Impact of Electricity Access on Human Development. Sustainable Development, Early View. https://doi.org/10.1002/sd.71119

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

ICT利用に関する世帯調査、25年のネット普及率は97.1%

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 統計局(DOSM)は23日、「個人および世帯におけるICTの利用とアクセスに関する調査報告書」を発表。マレーシアにおける家庭のインターネットサービスおよびデジタル機器へのアクセスは2025年も引き続き改善し、インターネット普及率は2024年比0.3ポイントアップの97.1%、コンピュータ普及率は同0.4ポイントアップの92.6%に達した。

一方、有料テレビチャンネルの普及率は大幅に低下し、2024年の67.1%から5.1ポイント減の62.0%となった。固定電話の普及率も前年の27.9%から27.6%へとわずかに低下した。携帯電話、ラジオ、テレビなどのその他の通信機器の所有率は、世帯全体で99.5%と2024年と変わらず高い水準を維持した。

統計局は、インターネットへのアクセスが都市部と農村部の両方で引き続き改善していると指摘。都市部の世帯におけるインターネットアクセス率は2025年には99.0%となり、2024年の98.8%からわずかに上昇した。農村部の世帯でも改善が見られ、インターネットアクセス率は90.3%から90.7%に上昇した。

個人レベルでは、携帯電話の利用率はほぼ100%を維持し、2024年の99.5%から2025年には99.6%へとわずかに上昇した。インターネットの利用率も98.0%から98.3%へとわずかな上昇にとどまったが、コンピュータの利用率は昨年の80.7%から0.8ポイント上昇して81.5%となった。

男女比較では、男性のインターネット利用率は女性よりもわずかに高く、2025年は男性が98.7%、女性が97.8%だった。男女間のインターネットアクセス格差は2024年の0.8ポイントから2025年には0.9ポイントへとわずかに拡大した。

【従業員の勤労意欲を高めるために】第922回:イノベーションは「技術」ではなく「仕組み」で決まる

第922回:イノベーションは「技術」ではなく「仕組み」で決まる

前回は、職場の強さは上司ではなく「同僚同士の支え合い」によって生まれる可能性があることを紹介しました。今回は視点を少し広げて、「国レベル」のイノベーションについて考えてみたいと思います。

企業においても国家においても、「デジタル化」が重要だという議論はすでに広く共有されています。しかし、単にITを導入すればイノベーションが生まれるのかというと、実際はそう単純ではありません。

今回紹介する研究では、各国のデジタル化と環境イノベーション(エコ・イノベーション)の関係を分析しました。データとしては、各国のデジタル政府の発展度(E-Government Development Index. EGDI)と、環境関連特許の数を用いています。EGDIとは、行政サービスのオンライン化や通信インフラ、人材水準などをもとに、政府のデジタル化の進み具合を総合的に評価した国連の指標です。

分析の結果、いくつか興味深い点が明らかになりました。

第一に、デジタル化が進んでいる国ほど、エコ・イノベーションも多いという「正の関係」が確認されました。これは直感的にも理解しやすい結果です。情報が共有されやすくなり、調整コストが下がることで、新しい技術が生まれやすくなると考えられます。

しかし重要なのは、ここから先です。

第二に、この関係は「直線的」ではありませんでした。つまり、デジタル化が少し進んだ程度では、大きな効果は見られません。ある程度の水準に達したときに、はじめてイノベーションとの結びつきが強くなるという「非線形」の関係が確認されました。

言い換えれば、デジタル化は単体では機能せず、制度や組織との組み合わせによって初めて効果を発揮するということです。

第三に、この効果はすべての国で同じではありませんでした。特に、中程度のイノベーション水準にある国で、デジタル化の効果が最も強く現れていました。

これは、すでに高度に発展した国では追加効果が限定的であり、逆に発展段階が低い国では制度や人材が不足しているため、デジタル化を活かしきれない可能性を示唆しています。

こうした結果から見えてくるのは、「デジタル化=技術導入」ではないという点です。

むしろ重要なのは、
・情報が共有される仕組み
・組織間の連携を可能にする制度
・標準化されたルール

といった「見えにくい基盤」です。

この点は、前回の職場の話とも重なります。上司の指示よりも、同僚同士の関係性が重要だったように、国家レベルでも単なる技術より「関係性や仕組み」がイノベーションを左右している可能性があります。

現場に当てはめると示唆は明確です。

新しいシステムを導入すること自体が目的化してしまうと、期待した成果は得られません。それよりも、
「そのシステムが人と人をどうつなぐのか」
「組織の中でどのように使われるのか」
を設計することのほうがはるかに重要です。

また、小さな改善を積み重ねるだけでは不十分で、一定の水準まで一気に整備する必要がある可能性も示唆されます。これは投資判断や戦略のあり方にも関わる重要なポイントです。

職場でも国家でも、共通しているのは、
「成果は個別の要素ではなく、組み合わせから生まれる」
という点です。

デジタル化を考えるとき、単なる技術導入ではなく、「仕組みづくり」という視点を持つことが、これからますます重要になっていくのではないでしょうか。


論文情報は以下。2026413日まで、末尾のURLから全文をご覧いただけます。

Kokubun, K. (2026). Digitalisation, Digital Governance, and Eco-Innovation: Evidence from Cross-Country Data in 2022. Information17(3), 306. https://doi.org/10.3390/info17030306

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

国家経済行動評議会、サプライチェーンと国内産業保護策を承認

【クアラルンプール】 国家経済行動評議会(MTEN)は、世界的な供給危機の中、サプライチェーンと国内産業の継続性を確保するため、▽物流円滑化▽リスク軽減▽市場拡大――の3つの提案を承認した。製造業支援と投資促進を図る。

アクマル・ナスルラ―・モハマド・ナシル経済相は21日に行われた世界的な供給危機に関する定例ブリーフィングで、これらはMTEN危機管理タスクフォース、マレーシア投資貿易産業省(MITI)、マレーシア観光芸術文化省(MOTAC)が提示した複数の戦略的緩和策の一部であると述べた。

アクマル氏はまた、政府は影響を受けた産業が利用可能な国内供給源を評価するとともに、国家戦略上のニーズと相互補完的な貿易原則に基づいた二国間交渉を強化していると言明。「製造業においてはバリューチェーンを混乱させている主要原材料不足に関する苦情が寄せられている。主な課題として挙げられているのは短期的に代替供給源を確保することの難しさ、そして輸出国からの制限や制約のリスクだ」と述べた。

その上でアクマル氏は、オーストラリアとの協力は、マレーシアの肥料生産に必要なリン酸塩や、オーストラリアのマレーシア産尿素の需要など、エネルギーと農業資材の安定供給を確保することに重点を置いていると述べ、安定したエネルギー供給フローの維持に向けた共通の取り組みを強調した。

また中国との協力では、重要な医療機器の国内生産を支援するため、樹脂とナフサの供給を増やすための戦略的措置に重点を置いていると述べた。
(ベルナマ通信、エッジ、ザ・スター電子版、4月21日)

KL中心部の賃貸住宅、24年下半期以降は賃料が安定

【クアラルンプール】 クアラルンプール(KL)市中心部の賃貸住宅の賃料は2024年上半期に、パンデミック中の下落から反騰したが、下半期以降および2025年は安定的に推移した。不動産仲介のジュワイIQIは、今年は現在の水準を維持すると予想している。

ジュワイIQIはペトロナス・ツイン・タワーズ、パビリオン・クアラルンプール周辺にある郵便番号地域の取引1,000件余りから平均賃料を算出した。2024年上半期の平均賃料は月6,454リンギと、ジュワイが2018年に統計を取り始めて以来の最高を記録した。しかしそれ以降は市場も落ち着き、同4,500―5,000リンギになった。

賃料が高かったのはバンヤン・ツリー・シグネチャー・パビリオン、セント・メリー・レジデンシズなどで、月1万リンギ超の物件もあった。一方で、同1,200リンギと手ごろな物件もある。2025年下半期に最も取引件数が多かったのは3,000―5,000リンギの住宅。この先、ジュワイは3,500―5,300リンギの物件取引が多数を占めると予想している。
(ビジネス・トゥデー、フリー・マレーシア・トゥデー、4月22日)

補助金なし燃料価格が軒並み値下げ、原油価格の下落受け

【クアラルンプール】 財務省は22日、23―29日までの1週間の燃料小売価格を発表。レギュラーガソリン「RON95」の補助金なし価格は、前週の1リットル当たり4.02リンギから15セン安の3.87リンギになった。

燃料補助金制度「ブディ・マダニ」適用外のハイオクガソリン「RON97」の価格も、前週の5.10リンギから25セン引き下げられ4.85リンギとなった。

半島部のディーゼルの小売価格については、「ユーロ5 B10」および「B20」は5.97リンギから85セン値下げされ5.12リンギとなった。「ユーロ5 B7」ディーゼルは5.32リンギとする。

「RON95」の補助金付き価格は1.99リンギ、サバ州、サラワク州、ラブアンにおけるディーゼル燃料の小売価格は2.15リンギでそれぞれ据え置く。

財務省は、価格引き下げは世界的な原油価格の下落を受けたものだとした上で、ただ依然として高水準にあると指摘。「世界的な原油価格は下落しているものの、エネルギー市場の不確実性は依然として残っており、供給の完全な回復はすぐには実現しないだろう。また、西アジアの生産施設では混乱が生じており、世界的なサプライチェーンの安定化には時間が必要だ」と述べた。
(ポールタン、ニュー・ストレーツ・タイムズ電子版、フリー・マレーシア・トゥデー、マレー・メイル、4月22日)

現行の燃料補助金政策の変更はない=ファディラ副首相

【クアラルンプール】 ファディラ・ユソフ副首相は21日にベルナマ・ラジオの独占インタビューに応じ、中東における地政学的緊張が高まっているものの現行の燃料補助金政策を急に変更するつもりはないと言明。いかなる政策決定も性急な措置ではなく、包括的なデータ分析に基づいて行われると述べた。

ファディラ氏は、西アジアにおける紛争が1―2年間続く可能性があると認識しているが、いかなる措置もマレーシア国民の大多数の安全を守ることを最優先事項とすると強調。「エネルギー供給の安定、国民の安全確保、経済成長の継続、そして産業界が必要とする支援の確保に必要な措置を決定するためには、データに依拠しなければならない」と述べた。

その上でファディラ氏は、月々の補助金支出が60億―70億リンギに達しているものの、政府は経済計画を遅滞させることなく国民への支援を継続していくと言明。レギュラーガソリン「RON95」とサバ州とサラワク州におけるディーゼル燃料への補助金を含む既存の補助金政策は、生活費の急激な上昇が国民の負担とならないよう最新データに基づいて維持される」と述べた。

また中東危機が3年続く場合については、ホルムズ海峡に関連するサプライチェーンの混乱を受けて、政府が最悪のシナリオに備えていると強調。国営石油会社ペトロナスはアジア太平洋、オーストラリア、南米、アフリカからの代替供給源確保に向けた積極的な措置を講じる一方、補助金付き燃料の密輸出を阻止するため、国境での取り締まりを強化していると述べた。
(フリー・マレーシア・トゥデー、マレーシアン・リザーブ、ポールタン、ベルナマ通信、4月21日)

世界的供給危機が国内価格に影響を及ぼし始める=経済相

【クアラルンプール】 アクマル・ナスルラー・モハマド・ナシル経済相は、世界的な供給危機の影響が輸送、物流、商品価格、そして日々の生活費に波及し始めており、マレーシアはコスト調整の段階に突入しつつあると述べた。

アクマル氏は21日に地元テレビで生放送された世界的な供給危機に関する特別ブリーフィングの中で、4月13日から19日までの期間における一部の食品価格のモニタリング結果から、価格変動はまちまちであることが分かったと説明。供給圧力が一律に発生しているのではなく、品目によって異なり、天候、農業投入コスト、輸送コスト、短期的な供給変動といった要因に影響されていることを示していると述べた。

アクマル氏によると、標準鶏肉の平均価格は1キログラムあたり9.09リンギから9.33リンギへと2.8%上昇した一方、牛肉の価格は1キログラムあたり35.65リンギへと5.0%下落し、Cグレードの卵は10個あたり平均3.66リンギで横ばいだった。

魚介類と野菜のカテゴリーでは、サバの価格は1キログラムあたり17.08リンギから16.43リンギへと下落し、カラシナの平均価格は1キログラムあたり5.89リンギから6.21リンギへと上昇、ほうれん草の価格は1キログラムあたり5.26リンギで横ばいだった。
(マレー・メイル、エッジ、ベルナマ通信、4月21日)

中小零細企業支援、融資保証を80%に引き上げ

【クアラルンプール】 アンワル・イブラヒム首相は20日、エネルギー危機の影響を受けた中小零細企業を支援するための複数の措置を発表した。経費上昇に苦しむ事業者からの意見を取り入れたもので、「政府は産業界の要望に直ちに行動し、あらゆる支援がそれを必要とするものに届くようにする」と強調した。

政府は事業融資保証会社に50億リンギを追加注入し、建設、農業、農林水産・食品、物流、観光業などを支援する。保証限度を80%(従来は70%)に引き上げ、保証期間も10年(同7年)にする。保証会社は民間金融機関と協力して融資組み換えもサポートする。

年商100万―500万リンギの企業に対するデジタルインボイス義務化を2027年末まで1年延期し、この間、月次でまとめて内国歳入庁へ提出する一括申請を容認する。

マレーシアから持ち出されたものの、中東紛争のためマレーシアに持ち帰ることになった国産輸出品に対する輸入税と売上税の免除も検討する。
(マレーシアン・リザーブ、ビジネス・トゥデー、エッジ、マレー・メイル、4月20日)

カジノリゾート運営のゲンティン、人型ロボットのAGIBOTと提携

【クアラルンプール】 統合型カジノリゾートなどを運営するゲンティン・マレーシアは、人工知能(AI)に身体性を持たせたエンボディドAIロボットをゲンティンの接客、娯楽に活用するため、世界有数の汎用エンボディドAIロボットの上海智元新創技術(AGIBOT)と覚書を交わした。締結式は上海で開かれたAGIBOTパートナー会議で行われた。

AGIBOTのアベル・デン社長によれば、ゲンティン・マレーシアのテーマパーク、ホテル、パフォーマンスの場に人型ロボットを配し、接客、サービスの「再定義」を目指す。覚書に基づき両社は、接客やコンシェルジェ機能を果たす人型ロボットの開発、ショーや没入型アトラクションと人型ロボットの融合などのソリューション開発を進める。

来年初頭にはリゾーツ・ワールド・ゲンティンでマレーシア初のロボットパフォーマンスを催し、実演とAIロボットを融合させ、没入型体験を観客に提供する。マレーシア初の試みだ。
(ビジネス・トゥデー、4月17日、エッジ、4月20日)