マクロ指標、最悪期を脱する兆候

コロナ禍で大打撃を受け、4−6月期の実質GDP成長率(経済成長率)は前年同期比マイナス17.1%となり、アジア通貨危機の1998年10−12月期のマイナス11.2%よりも悪い状況を経験しました。ただ、最近のマクロ経済指標をみていると底打ちして上向きとなる要素がみられるようになりました。
まず、失業率をみると今年5月は5.3%と1989年に次ぐ高い数値となりましたが、6月は4.9%、7月は4.7%と回復する傾向を示しています。
鉱工業生産指数も7月は116.2で前年同月比+1.2%となりました。前年同月比でプラスとなったのは2月以来の5カ月ぶりとなります。特に、鉱工業生産指数の計算で最も比重の高い製造業は、6月と7月は連続してプラスの伸びを示しています。
さらに、流通業売上高は4月の前年同月比マイナス36.6%を底として、5月からは前月比ではプラスに転じて、7月は前年同月比マイナス3.5%まで回復してきました。今後、2〜3カ月でプラスに転じる可能性も十分にあるでしょう。
こうした指標を受けて、マレーシア中銀は9月10日の金融政策決定会合で5会合ぶりに金利を据え置くことを決定しました。金融緩和による景気の浮揚を念頭に入れた連続利下げが一服した格好であり、中銀は経済は最悪期を脱したという認識を持っていることが推測されます。
アジア開発銀行は今年のマレーシアの経済成長率を前年比マイナス5.0%と予想しており、ムヒディン首相は活動制限を年内まで延長し、国境開放も急がないと述べています。決して良い状況とは状況とは言えませんが、マクロ指標をみていると上向きとなりつつあることが読み取れることも確かです。

※本連載の内容は著者の所属組織の見解を代表するものではなく、個人的な見解に基づくものです。

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酒販売規制強化求める声、飲酒運転罰則強化の陰で

飲酒運転による重大交通事故が続発したことを機に高まった罰則強化を求める声を受け、飲酒運転に対する罰則強化を盛り込んだ「2020年道路交通法(改正)」法案が8月26日、下院議会で可決された。

飲酒運転の罰則(初犯)はこれまでの罰金1,000リンギ以下から罰金1,000—5,000リンギに、死亡事故を起こした場合は禁固10年以上15年以下、及び罰金5万リンギ以上10万リンギ以下に、免許取り消し期間は10年にそれぞれ引き上げられた。飲酒運転の定義も強化され、呼気中のアルコール濃度はこれまでの0.35mg/Lから0.22mg/Lに、血中アルコール濃度が同0.8mg/ml(0.08%)から0.5mg/mlにそれぞれ引き上げられた。

これまでユルいと言われていた飲酒運転に対する罰則強化は妥当なところだが、同法案の審議の過程では、飲酒を禁忌としているマレー系議員からアルコール飲料の販売そのものに対する規制強化を求める声が次々と上がった。

イスラム原理主義政党、汎マレーシア・イスラム党(PAS)のアハマド・ファドリ・シャアリ議員(パシルマス選挙区)は、「アルコール飲料がなくなれば、厳格な法律を導入する必要なく、飲酒運転の問題を解決できる」と言明。暫定的な措置としては酒場の周辺での駐車を制限し、利用者が公共交通機関や配車サービスを使うよう仕向けることを提案した。

統一マレー国民組織(UMNO)のノー・オマル議員(タンジョン・カラン選挙区)は、米カリフォルニア州では午前2時から午前6時まで、シンガポールでは午後10時半から午前7時までアルコール飲料の販売を禁止している例を挙げ、アルコール飲料の販売時間を制限して24時間販売を禁止すべきと提言。酒場の前で警察官が店を出る者のアルコール濃度をチェックして車を運転させないようにすることを提案した。

ウィー・カション運輸相は、アルコール飲料の販売制限については住宅地方自治省の管轄だと回答。あくまで法改正は飲酒運転を取り締まるためのものだとし、非ムスリムの飲酒の権利に対する配慮をみせている。しかしアルコール小売の管轄官庁である住宅地方自治省のイスマイル・アブドル・ムタイブ副相は、「全国の食料品店におけるアルコール飲料の販売規則を見直す必要があることに同意する」と言明。「アルコール飲料の販売ライセンスは関税局の管轄下にあるが、アルコール飲料が地域社会にプラスの効果よりもマイナスの効果をもたらしていることを考えると、住宅地方自治省としては食料品店での販売規制を検討する必要があると考えている」と述べた。

すでにクアラルンプール市役所(DBKL)は、販売ライセンスの新規発行を凍結しており、再開するメドはたっていない。非ムスリムからは規制強化に対して批判の声が上がっている。

安定多数の議席をもたないムヒディン・ヤシン政権は、実質的にPASとUMNOという二大マレー政党に支えられている。マレー有権者受けする政策に偏ることは避け難く、アルコール飲料販売規制強化も避け難い情勢にある。

(マレーシアBIZナビ編集部)

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「現代の奴隷制度」ドリアン農家が州政府に反発

新型コロナウイルス「Covid-19」流行でドリアンの国内需要が減っている中、2019年に無加工ドリアンの輸出が始まった中国がドリアンの販売を牽引しており、第1四半期の輸出額は9,400万リンギに達している。金のなる木には人が集まるもので、パハン州ラウブでは州政府と農家が政策を巡って対立を続けている

同地区には高級ドリアン品種「ムサン・キング」を生産する農家が多くあるが、合法化の名目で州政府によって「現代の奴隷制度」の下に置かれそうになっていると主張。「ムサン・キングを守る会(Samka)」を称して政策撤回を求めている。

発端は、パハン州政府と同州スルタン王族の合弁会社、RPDP-PKPPが同州ラウブにマレーシア最大のドリアン処理センターの建設計画を発表したこと。需要が急拡大している中国向けドリアン生産を一手に手掛ける計画だった。

パハン州政府は6月24日にラウブの5,357エーカーの土地30年間のリース及び使用権をRPDP-PKPPに与えたが、これに基づきRPDP-PKPPはリース地のドリアン農家がこれまで違法に土地を使用していたと主張し、立ち退きを拒否する農家に対して、8月9日を回答期限として10年単位でのサブリース契約に応じるよう迫っているという。

Samkaによると、RPDP-PKPPからは今年1エーカー当たり6,000リンギの地代、ドリアン生産量に基づく1エーカーあたり最高2万リンギの支払いを求められている。サブリース契約は毎年一定量のドリアンをRPDP-PKPPへ販売する義務、農民によるドリアンの自由売買・自家用消費の禁止、無許可での農園への出入禁止——などが盛り込まれているという。

Samkaはこれまでパハン州政府に土地所有権の確認とライセンス申請を繰り返し行なっていたが、州政府からはなんら反応がなかったと主張。これまでにドリアン農家がパハン州政府に課されていたのは1エーカーあたり50リンギだけだったとし、RPDP-PKPPの新たな要求は法外且つ不平等なものだと反発している。

Samkaメンバーら200人あまりは24日、抗議活動を行い「荒地の時は誰も耕そうとしないが、一旦開墾されればそれを利用しようと人が争う」と甘い汁だけ吸おうとする州政府を批判。農園拡大にこれまで苦労してきた自分たちの権利を尊重すべきと訴えた。

一方、RPDP-PKPP側は、ドリアン生産の企業化について大口輸出先の中国がドリアンがマレーシア適正農業慣行(MyGAP)認定農場産のものしか輸入を認めていないためだとして正当化している。

同問題に関わっているパハン州議会のチョウ・ユーフイ議員は、ブランド化され急増している「ムサン・キング」の需要に応えるためにドリアン農家が低品質のドリアン栽培を強いられる可能性があると指摘。最終的にマレーシアのドリアンに対する評価を下げる恐れがあるとしている。

なおクアンタン高等裁判所は、ドリアン農家の差し止め請求を受理。10月28日の司法審査のヒアリングが行なわれるまでの期間、農家に対する取り締まりを禁じると命じた。農家はこれで一息ついた格好だが、農家の権利が今後認められるかどうかは不透明だ。

(マレーシアBIZナビ編集部)

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Shopee親会社Seaの急成長

マレーシアでもEコマースを展開しているShopeeがあります。2017年にシンガポールで創業した若い会社ですが、実は親会社は2008年に創業したゲーム開発のSeaという企業です。
コロナ禍での巣ごもり消費を受けて株価が大きく上昇しています。今年の年明けから4月中旬までは、40ドル台と横ばいでしたが、4月下旬、そして5月と新型コロナウィルス対策のための行動制限が世界各地で長引くと、ゲームとEコマースといった「巣ごもり消費」の需要が高まり、株価も上昇して6月には100ドルを突破しました。そして、8月25日の終値は154ドル13セントと、2017年の上場初日の終値は15ドル26セントから3年足らずで10倍という上昇ぶりです。
Seaは中国のテンセントとの関係も深い企業です。上場前は、中国のテンセントが39.7%の株式を保有していましたし、上場後もテンセントはSeaが発行した米国預託証券を購入するという関係が続いています。


ただ、Seaの株価は、さすがに急騰し過ぎでバブルだ、過大評価だという声もあります。Seaにとっては、ゲームに次ぐ収益源としたいShopeeですが、Eコマースは競合も多い分野です。売上が増えていても、市場競争に勝つために様々なキャンペーンを展開したり、大規模な広告を打ったりと消耗戦が繰り広げられています。現状、ShopeeはSeaにとって着実な収益源とまでは育っていません。
今後は、Shopeeを含むSeaの事業がコロナ禍での追い風を活用して、ビジネスの基盤を強化することができるかが重要となるでしょう。

※本連載の内容は著者の所属組織の見解を代表するものではなく、個人的な見解に基づくものです。

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マレーシアの2020年第2四半期のGDP成長率はマイナス17.1%

 8月14日、バンク・ネガラはマレーシアの2020年第2四半期のGDP成長率をマイナス17.1%と発表しました。これは、2009年の世界金融危機時の底(マイナス5.8%)、1998年のアジア通貨危機時の底(マイナス11.2%)を超えて、近年では最も悪い数字です。

図は世界金融危機時とアジア通貨危機時のマレーシアのGDP成長率の推移を現在の時間軸に重ねてプロットしたものです。過去2回の危機と比較して、今回は底が来るのが早い一方で深いことが分かります。月別の経済指標を見ると5月、6月と底を打ったものが多く、第3四半期の成長率はプラスにはならないまでも、マイナス一桁台にまで戻すと考えられます。

2009年の世界金融危機時には外需のショックが国内経済に波及し、1998年のアジア通貨危機時には国内金融システムの機能不全が成長率を引き下げました。これに対し、今回の大幅なGDPのマイナス成長は、活動制限令(MCO)によって直接的に経済活動を止めたことが主因です。マレーシアは大幅なGDPのマイナスと引き替えに、新型コロナウイルスの感染拡大を最小限に食い止めることに成功しました。

5月以降、経済活動は順次再開され、直接的な活動制限によるGDPの減少は速やかに解消すると考えられます。世界経済の減速や失業の増大、消費の減速の影響がどの程度マレーシア経済に影響しているのか判断するには、第3四半期のGDP発表を待つ必要があります。

 

 

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国境封鎖の日に到着、不法入国者扱いされた日本人

行動制限令(MCO)が発効した3月18日朝にマレーシアに航空便で到着した旅行者が、「不法入国者」扱いに近い非人道的で劣悪な環境に長期間置かれていた事が「マレーシアBIZナビ」の取材で分かった。

前日の深夜に関西空港からクアラルンプール国際空港・格安航空ターミナル(KLIA2)行きのエアアジアX機に搭乗した日本人乗客らによると、到着後に入国管理局のゲート前で停められ、入国管理局のオフィスでパスポートや携帯電話などの手荷物を取り上げられてしまった。入管の係官からは「ロックダウンしたので入国できない。あなたたちは日本に帰らなければならない」と告げられたという。

日本に一時帰国していた日本企業の駐在員Sさんは、行動制限令(MCO)が発令されるとの情報を受けて急遽マレーシアに戻ることを決めた。関西空港ではエアアジアXが普通に搭乗手続きを行なったため、KLIA2に到着した際にこのような悲惨な状況に置かれるとは思っていなかった。携帯電話がないので外部に非常事態について連絡することもできず、「Sが行方不明になった」と会社で大騒ぎになったという。

当日朝には他にも到着便があったが、それらに乗っていた乗客が入国管理局職員によってトイレの近くの1カ所に集められていた。みんな床で寝るしかなく「3密状態」だったという。Sさんはこれが原因でクラスタが発生したら大変なことになると感じた。欧米人らが大声で係官に不満をぶちまけていたという。

待遇も悪く、配給される食事はパック入りの弁当で、備え付けの給水機だけが頼りだった。Sさんは食べなかったという。みんな着替えもなく、シャワーなどもないのでトイレで身体を拭くぐらいしか出来なかった。エアコンが効き過ぎて寒かったが改善を求めても聞き入られず、多くの旅客は寒さで震えて過ごした。どこからか段ボールを見つけてきて寝ていた人もいたが、没取されてしまったという。

政令で入国が禁じられたので入管が入国拒否するのはある意味仕方がないともいえるが、入国できないにも関わらず搭乗を認めた責任はエアアジアXにある。にも関わらずエアアジアXの係員の対応も悪く、預け荷物について係員に聞いてもまるで犯罪者に対するような扱いで、「座ったまま話せ」という高飛車な態度だった。

本国に送還されることになっているといっても、MCOのために国際便は次々にキャンセルとなって帰国便もなかなか決まらない。帰国便は基本的に出入国管理局が手配したという。Sさんは幸い19日に帰国できたが、便数が少ない路線であった場合はかなり長期間KLIAに留め置かれた。タイ・クラビから来たあるタイ及びマレーシア在住の日本人は、クラビ線が飛ばないため1週間もKLIA2で暮らす羽目となった。最終的に関空便に切り替えて日本に向かったという。

なお日本で待機していたSさんは、ようやく3週間ほど前にマレーシアに無事戻ることができた。しかしそれもスンナリいったわけでなく、18日の「強制送還」について聞かれたり、高い金を払って出発前に受けたPCR検査について入国の際に無効だといわれて抗原検査を受けさせられたという。

「マレーシアBIZナビ」でも度々報じているように、MCO発表をはじめマレーシア政府の決定は唐突なものが多かった。18日の出来事は氷山の一角とみられるが、政府上層部と現場の間の意思の疎通がとれずにトラブルになるケースはいつでも起こりうる。当分の間は十分に注意が必要だ。

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ナジブ元首相に有罪判決、政局への影響必至

 ナジブ・ラザク元首相が7月28日、国営投資会社ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)巨額資金不正流用事件に関連して高裁で禁固12年、罰金2.1億リンギの有罪判決を受けた。元首相経験者で初の刑事裁判で有罪となるという画期的判決であり、独立性に疑問がもたれていたマレーシア司法制度に対する国際的評判を回復するのに寄与すると賞賛の声が上がっている。

 2月末に希望同盟(PH)政権が崩壊し、国民戦線(BN)の中核である統一マレー国民組織(UMNO)や汎マレーシア・イスラム党(PAS)の支援を受けた国民連盟(PN)のムヒディン・ヤシン内閣が誕生したが、UMNOの復権と共に司法に圧力が加えられ、裁判が歪められるのではないかとの懸念の声が上がっていた。

 げんにナジブ氏の義理の息子で、1MDB資金の一部を流用したリザ・アジズ氏の裁判は今年5月に1億730万米ドルを返還することを条件に起訴が突然取り下げられ、世間では「ドロボーが盗んだ金の一部返したら無罪放免になるのか」と不満の声が上がった。

 シンガポール国際問題研究所のオー・エイサン氏は、「今回の有罪判決は1MDB関連裁判のベースとなるだろう」と指摘。ナジブ氏が抱えている残りの裁判、他のUMNO幹部の裁判にも影響を及ぼすとみている。

 しかしナジブ氏は控訴の意向を示しており刑は確定した訳ではない。実際、アンワル・イブラヒム元副首相(現PHリーダー)の裁判でも、当時の与党連合・国民戦線(BN)政権の圧力にも関わらず最初の同性愛裁判では逆転無罪が確定(職権濫用では有罪)している。

 豪タスマニア大学のアジア研究者、ジェームズ・チン教授は、「今回の有罪判決によって状況が変わる訳ではない。ナジブ氏は依然として国会議員のままであり控訴裁の判断を待つ必要がある」としている。

 確かに今回の有罪判決は一審判決に過ぎないかもしれないが、政局に与える影響は大きいと指摘する声は多い。

 前出のオー氏は、ナジブ氏の影響力がいまだ強いUMNOに支えられているムヒディン政権下で出た有罪判決という点に注目し、PH時代から汚職撲滅を訴えてきたムヒディン首相への支持が高まると予想。 フリージャーナリストのアニル・ネットー氏も同様の意見で、短期的にはムヒディン首相の立場が強化されるだろうとしている。

 PH政権から簒奪した「裏口内閣」といわれながらも新型コロナウイルス「Covid-19」対策で当初は成果を出して評価を高めたムヒディン内閣だが、長引くコロナの影響で失業、倒産などの経済問題に直面。国民から不満の声が再び上がり始めている。そうした中、今回の判決は「いずれ馬脚を現す、BN時代の政治に戻る」と批判的だった向きも見直すきっかけとなると期待する声が上がっている。

 ムヒディン政権支持の回復ということでみれば、BN政権時代の汚職追求に血道をあげてきた野党連合PHにとっては、有罪判決は痛し痒しといえる。PH構成党・民主行動党(DAP)のリム・グアンエン書記長はペナン・トンネル事業計画絡みで疑惑がもたれているが、仮にこれが与党側の差し金であったにしろ司法独立が曲がりなりに機能している以上、有罪判決が出てもこれまで主張してきた政治の司法介入を言い出しにくくなる。「南洋商報」のチン・フックセン氏は「野党側は司法正義への干渉だとして政権を批判してきたが、その武器を失う」と指摘している。

 ムヒディン首相にとっても、一時的に立場が強くなるにしても、今後さらにUMNOからの圧力にさらされ政権地盤自体が揺らぐ恐れがあり、手放しでは喜べない。

 UMNOのアハマド・ザヒド・ハミディ総裁(元副首相)は判決後、PNを友党として今後も支えるが参加はしないと言明した。ザヒド氏自身も訴追される身ということもあり、ムヒディン首相の「司法への不介入」方針に堂々と不満を表明した格好だ。多くの政治アナリストがザヒド氏の発言について「UMNOが抜ければムヒディン内閣は崩壊するとの脅し」と指摘している。

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中国公船の侵犯絶えず、与党内部からも対中強硬意見

 先ごろマレーシア会計検査院が、2016年から2019年にかけて中国公船によるマレーシアの領海侵犯が89回に及んでいることを明らかにした。中国に抗議したのはわずか5回のみだったという。

 南シナ海での中国船の侵犯行為に対しては、多くのケースでマレーシアで発表されず報道もされてこなかった。マレーシアに多額の投資を行い、多数の観光客を送り込んでくる中国への配慮があったと考えられるが、このショッキングな報告を受けて与党内からも政府の対応に批判の声が上がっている。

 会計検査院の発表を受けたヒシャムディン・フセインディン外相は15日、最近ではマレーシア領海への中国公船の侵犯は起きていないと主張。3月の外相就任以来、中国やその他の国との関係改善に取り組んできたと強調し、南シナ海問題については我が国の主権に対して妥協はしないと述べた。その上で「海洋での突発事態は最も懸念されることであり、最終的には戦争につながる可能性がある。軍事は問題解決に役立たないことをすべての東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国が同意する必要がある」とした。

 これに対し身内であるアニファ・アマン元外相は、中国公船の侵犯がその後も続いているとし、ヒシャムディン外相に対し「現実を意図的に無視しているか、もしくは無知であり、失望している」と痛烈に批判。海洋及び戦略的利益を政治的に弄んでいると指摘し、継続的な中国の領海侵犯に対してマレーシアの主権をより積極的に擁護しなければならないと述べた。

 アニファ氏によると、4月には中国の調査船が国営石油会社、ペトロリアム・ナショナル(ペトロナス)の探査船を追尾する事件が発生したが、政府は何ら声明を発表することはなかった。中国海警局の船舶は5、6、7月にも目撃されている。

 アニファ氏は、「マレーシアが南シナ海の海域に対する中国の主張を認めたことは一度もなく、マレーシア政府はマレーシアの海事と戦略的利益が危険に晒されないよう断固とした立場を維持する必要があると述べた。

 リベラル系の「サラワク・リポート」は、ヒシャムディン外相の発言や対応について、従兄弟であるナジブ・ラザク元首相の中国との深い関係が影響していると指摘している。1MDBによる巨額損失を隠蔽するために中国国営企業から多額のバックマージンがナジブ氏にわたっており、中国にもの申せない立場になってしまったというわけだ。

 シンクタンク、エミル・リサーチのジェイスン・ロー氏は、南シナ海問題に関する限り、中国とは「友」であると同時に「敵」でもあるという現実を受け入れて実在的な緊張(フレネミー)を維持する必要があると指摘。具体的には▽中国軍艦の寄港拒否▽EEZ内にある中国民間船への中国公船同行の中止を要求▽調査・研究目的で派遣された中国民間船の監視▽EEZ内での漁業禁止——などを実施すべきだとし、一方で国防体制を強化し、ASEAN各国と安全保障協力を強化すべきだとした。

 ロー氏は、「これまでの中立策と緩和策の慣行から脱却するしかない」と、過去のマレーシア政府がとり続けていた対中国政策が機能していないと批判。外交的な対立や武力衝突のリスクを恐れず、国益に則って主張・抗議を地道に続けていかなければならないとしている。

 先ごろマレーシア会計検査院が、2016年から2019年にかけて中国公船によるマレーシアの領海侵犯が89回に及んでいることを明らかにした。中国に抗議したのはわずか5回のみだったという。

 南シナ海での中国船の侵犯行為に対しては、多くのケースでマレーシアで発表されず報道もされてこなかった。マレーシアに多額の投資を行い、多数の観光客を送り込んでくる中国への配慮があったと考えられるが、このショッキングな報告を受けて与党内からも政府の対応に批判の声が上がっている。

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 会計検査院の発表を受けたヒシャムディン・フセインディン外相は15日、最近ではマレーシア領海への中国公船の侵犯は起きていないと主張。3月の外相就任以来、中国やその他の国との関係改善に取り組んできたと強調し、南シナ海問題については我が国の主権に対して妥協はしないと述べた。その上で「海洋での突発事態は最も懸念されることであり、最終的には戦争につながる可能性がある。軍事は問題解決に役立たないことをすべての東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国が同意する必要がある」とした。

 これに対し身内であるアニファ・アマン元外相は、中国公船の侵犯がその後も続いているとし、ヒシャムディン外相に対し「現実を意図的に無視しているか、もしくは無知であり、失望している」と痛烈に批判。海洋及び戦略的利益を政治的に弄んでいると指摘し、継続的な中国の領海侵犯に対してマレーシアの主権をより積極的に擁護しなければならないと述べた。

 アニファ氏によると、4月には中国の調査船が国営石油会社、ペトロリアム・ナショナル(ペトロナス)の探査船を追尾する事件が発生したが、政府は何ら声明を発表することはなかった。中国海警局の船舶は5、6、7月にも目撃されている。

 アニファ氏は、「マレーシアが南シナ海の海域に対する中国の主張を認めたことは一度もなく、マレーシア政府はマレーシアの海事と戦略的利益が危険に晒されないよう断固とした立場を維持する必要があると述べた。

 リベラル系の「サラワク・リポート」は、ヒシャムディン外相の発言や対応について、従兄弟であるナジブ•ラザク元首相の中国との深い関係が影響していると指摘している。1MDBによる巨額損失を隠蔽するために中国国営企業から多額のバックマージンがナジブ氏にわたっており、中国にもの申せない立場になってしまったというわけだ。

 シンクタンク、エミル・リサーチのジェイスン・ロー氏は、南シナ海問題に関する限り、中国とは「友」であると同時に「敵」でもあるという現実を受け入れて実在的な緊張(フレネミー)を維持する必要があると指摘。具体的には▽中国軍艦の寄港拒否▽EEZ内にある中国民間船への中国公船同行の中止を要求▽調査・研究目的で派遣された中国民間船の監視▽EEZ内での漁業禁止——などを実施すべきだとし、一方で国防体制を強化し、ASEAN各国と安全保障協力を強化すべきだとした。

 ロー氏は、「これまでの中立策と緩和策の慣行から脱却するしかない」と、過去のマレーシア政府がとり続けていた対中国政策が機能していないと批判。外交的な対立や武力衝突のリスクを恐れず、国益に則って主張・抗議を地道に続けていかなければならないとしている。

 先ごろマレーシア会計検査院が、2016年から2019年にかけて中国公船によるマレーシアの領海侵犯が89回に及んでいることを明らかにした。中国に抗議したのはわずか5回のみだったという。

 南シナ海での中国船の侵犯行為に対しては、多くのケースでマレーシアで発表されず報道もされてこなかった。マレーシアに多額の投資を行い、多数の観光客を送り込んでくる中国への配慮があったと考えられるが、このショッキングな報告を受けて与党内からも政府の対応に批判の声が上がっている。

 会計検査院の発表を受けたヒシャムディン・フセインディン外相は15日、最近ではマレーシア領海への中国公船の侵犯は起きていないと主張。3月の外相就任以来、中国やその他の国との関係改善に取り組んできたと強調し、南シナ海問題については我が国の主権に対して妥協はしないと述べた。その上で「海洋での突発事態は最も懸念されることであり、最終的には戦争につながる可能性がある。軍事は問題解決に役立たないことをすべての東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国が同意する必要がある」とした。

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 これに対し身内であるアニファ・アマン元外相は、中国公船の侵犯がその後も続いているとし、ヒシャムディン外相に対し「現実を意図的に無視しているか、もしくは無知であり、失望している」と痛烈に批判。海洋及び戦略的利益を政治的に弄んでいると指摘し、継続的な中国の領海侵犯に対してマレーシアの主権をより積極的に擁護しなければならないと述べた。

 アニファ氏によると、4月には中国の調査船が国営石油会社、ペトロリアム・ナショナル(ペトロナス)の探査船を追尾する事件が発生したが、政府は何ら声明を発表することはなかった。中国海警局の船舶は5、6、7月にも目撃されている。

 アニファ氏は、「マレーシアが南シナ海の海域に対する中国の主張を認めたことは一度もなく、マレーシア政府はマレーシアの海事と戦略的利益が危険に晒されないよう断固とした立場を維持する必要があると述べた。

 リベラル系の「サラワク・リポート」は、ヒシャムディン外相の発言や対応について、従兄弟であるナジブ•ラザク元首相の中国との深い関係が影響していると指摘している。1MDBによる巨額損失を隠蔽するために中国国営企業から多額のバックマージンがナジブ氏にわたっており、中国にもの申せない立場になってしまったというわけだ。

 シンクタンク、エミル・リサーチのジェイスン・ロー氏は、南シナ海問題に関する限り、中国とは「友」であると同時に「敵」でもあるという現実を受け入れて実在的な緊張(フレネミー)を維持する必要があると指摘。具体的には▽中国軍艦の寄港拒否▽EEZ内にある中国民間船への中国公船同行の中止を要求▽調査・研究目的で派遣された中国民間船の監視▽EEZ内での漁業禁止——などを実施すべきだとし、一方で国防体制を強化し、ASEAN各国と安全保障協力を強化すべきだとした。

 ロー氏は、「これまでの中立策と緩和策の慣行から脱却するしかない」と、過去のマレーシア政府がとり続けていた対中国政策が機能していないと批判。外交的な対立や武力衝突のリスクを恐れず、国益に則って主張・抗議を地道に続けていかなければならないとしている。

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野党首相候補に浮上、シャフィー氏とは何者か?

 先日マハティール・モハマド前首相が突然、サバ州の地方政党であるサバ遺産党(ワリサン)のシャフィー・アプダル党首を野党側の統一首相候補に推す考えを示し、首相候補の人選で揉めていた野党側は大混乱に陥った。

 自身が首相候補となる案がアンワル・イブラヒム氏率いる人民正義党(PKR)に拒否されたことから代替案として持ち出したものだが、これによるとアンワル氏を副首相に推すという内容になっている。

 首相になりたいアンワル氏に「次」を用意した上で、自身が潔く身を引くことで「痛み分け」を提案したようにみえるが、シャフィー氏は熱烈なマハティール信奉者であり、シャフィー氏が首相になればマハティール氏はこれをリモートコントロールできる。アンワル氏は2018年の総選挙前に密約を交わしたにも関わらず、ついにマハティール氏から後継者指名を受けることができなかった。今回も約束が反故にされないという保証はない。

 前回に懲りたアンワル氏が率いる希望同盟(PH)はアンワル氏を首相に推すという当初の案を押し通しシャフィー擁立案を却下したが、PH側がマハティール案を受け入れていればシャフィー首相が誕生した可能性があった。ボルネオ出身者の首相となれば歴史上初めてとなる。シャフィー氏とはどのような人物なのだろう。

 シャフィー氏はバジャウ族の出身で、第6代州首相の甥という名門。官僚を経て政界入りし、統一マレー国民組織(UMNO)移籍後に頭角を現し、サバ州出身者を代表して連邦閣僚を歴任した。2000年にはUMNO党最高評議員に選出され、2013年には党総裁補に登り詰めた。しかし1MDB疑惑に晒されたナジブ・ラザク首相を批判してUMNOを除名され、今度はサバ州内で新党ワリサンを結成し勢力を拡大。2018年の総選挙で勝利して州首相に就任した。

 一方、シャフィー氏にはUMNO式のバラマキ&縁故主義的傾向をもった人物との噂は絶えない。証拠不十分で起訴は取り下げられたものの、地方地域開発相時代には農村開発プロジェクト向けの15億リンギの公費を乱用した疑惑が浮上した。

 サラワク州も含めボルネオでは元は別の国だったものが戦後に半島部と合併したという歴史的背景もあって、半島部と距離をとって独自路線を歩む傾向が強く、実際半島諸州にはない多くの権限が認められている。一方で石油権益など、資源を半島側に奪われているとの不満の声も少なくない。シャフィー首相誕生となればボルネオの地位向上につながると期待する声も多いが、その一方で連邦に深入りすべきでないと慎重な意見も根強い。前述のようなシャフィー氏個人への不信感も根強くある。

 PHとの交渉が物別れに終わったことを受け、マハティール氏はPHへの再合流の可能性を否定。PHとは別の独立ブロックで活動していくと言明した。しかしこのまま総選挙に突入した場合、与党連合・国民連盟(PN)とPHとマハティール派の三つ巴になりかねず、PNを利することは明白。これを阻止するために再びPHとマハティール氏の間で何らかの妥協が図られる可能性はある。再びシャフィー氏の名前が浮上する可能性もある。

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飲料運転死亡事故の増加うけ罰則強化の動き強まる

 飲酒運転による重大交通事故が続発したことを機に、マレーシア政府の間で飲酒運転の罰則を強化しようという動きが強まっている。

 2015年以降、飲酒運転による事故は1,035件、死亡者数は618人に上っている。今年は年初5カ月で8人が飲酒運転が関連する事故で死亡したという。最近では5月3日未明にセランゴール州カジャンで、高速道路の料金所で検問をしていた警察官に44歳の男性が運転するピックアップ車が突っ込み、警察官が死亡する事故が発生。5月25日にはパハン州クアンタンで飲酒運転の車が逆走し1人がはねられて死亡した。5月29日には、クアラルンプール(KL)市内でハンドル操作を誤った乗用車が二人乗りのバイクに衝突、1人が死亡1人が重傷を負った。6月1日未明には同じKL市内でデリバリーサービスの二輪車に衝突。二輪車に乗っていた男性が死亡した。

 ここ数カ月の飲酒運転増加については新型コロナウイルス「Covid-19」拡大抑制のために導入された行動制限令(MCO)が影響しているとの見方もあるが、それはともかくマレーシアでは「1987年道路交通法」で飲酒運転の定義や罰則が規定されているものの、これが緩すぎるという批判の声は以前からあった。

 日本は呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15ミリグラム(mg)、血中アルコール濃度は0.3mg/ml(0.03%)だが、マレーシアは呼気が0.35mg、血中が0.8mg/ml(0.08%)と二倍以上となっており、世界保健機関(WHO)が推奨する血中濃度0.5mg/ml(0.05%)を上回っている。

 現行のマレーシアの飲酒運転の罰則は1,000リンギ以上6,000リンギ以下の罰金、もしくは12カ月以下の禁固刑。死亡事故を起こした場合でも8,000リンギ以上2万リンギ以下の罰金、及び3年以上10年以下の禁固刑となっている。

 これに対し、カナダでは飲酒運転は刑事罰の対象であり、死亡事故を起こせば終身刑になる。英国でも死亡事故を起こした場合には14年の禁固刑に処される。台湾では、飲酒運転で死亡事故をおこした場合に殺人罪を適用できるよう法改正をめざしているという。

 前・希望同盟(PH)政権では政権発足当時から厳罰化に着手し、10万リンギ以下の罰金、20年以下の禁固刑に厳格化する方向で法改正目指していたが、今年2月の政変でPH政権が崩壊してしまい法改正プロセスが止まってしまった。

 3月に樹立された現・国民連盟(PN)政権のウィー・カション運輸相(マレーシア華人協会=MCA党首)も、PH政権と同様に飲酒運転によって重大事故を起こした場合の罰則を強化する方針を明らかにしており、6月半ばに改正法案の策定を終わらせ、7月13日に再開された今国会に提出する方針だとしている。

 

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