マレーシアで新型コロナウイルス陽性者が急増

10月5日、マレーシアの新型コロナウイルスの陽性者数は432人となり、過去最高を更新しました。7月下旬以降、最大でも20〜30人だった新規陽性者は、9月に入って増加に転じ、10月に入ると過去最高をたてつづけに更新しています。

マレーシアで陽性者数が急増している要因のひとつがサバ州での感染拡大です。大規模なクラスターが最初に発生したのは東部のラハ・ダトゥで、陽性者にはフィリピンやインドネシアからの違法労働者が多く含まれていました。また、サバ州への旅行者を起点とする感染が全ての州で発生していることが確認されています。

これまでマレーシア政府は新型コロナウイルスの感染拡大を効果的に抑制してきましたが、周辺国との人流が多いマレーシアで新型コロナウイルスをコントロールすることは大変難しくなっています。直近の数字では、インドネシアでは1日の新規陽性者数が4,000人を超えており、フィリピンでも2,000人を超えています。

アジアではマレーシア以外にも、最近まで感染者数が非常に少なかったミャンマーやネパールで新規陽性者数が急増しており、1日の新規陽性者数が7万人を超えるインドとの人流が影響している可能性があります。

10月4日、ノル・ヒシャム保健局長はツイッターで「最前線にいる全ての仲間へ。大きな戦いが我々を待ち受けている。我が国の命運は我々にかかっており、これまでの不眠不休の努力と慢性的な疲労はあるけども、涙を拭いて顔を上げ、前を向いて、再び感染者数を押さえ込もう」と呼びかけました。

全世界が準備不足だった2〜3月の状況に比べ、現在は検査体制も整っているため、陽性者数を直接比較することはできません。しかし、世界中で新規感染者数が再び増加に転じる国が増えてきており、予断を許さない状況です。

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2019年のマレーシアの賃金サーベイ

9月17日、マレーシアの2019年の賃金サーベイの結果が発表されました。月額賃金の中央値は前年から5.8%増の2,442リンギ、平均値は前年から4.4%増の3,224リンギとなり、経済成長率に近い順調な伸びとなりました。

図は月額賃金の中位値を教育水準別にみたものです。2018〜2019年で最も賃金が伸びたのは「教育なし」層で伸び率は23.2%に達しました。これは、最低賃金が2018年時点の半島部1,000リンギ/月、サバ・サラワク920リンギ/月から2019年に1,100リンギ/月に引き上げられたことが大きく影響していると考えられます。

その他の教育水準についての賃金の伸びは、初等教育が2.8%、中等教育が5.7%、高等教育が6.9%と教育水準が高まるにしたがって、賃金の上昇幅も大きくなっていることが分かります。

これは、マレーシアでは「画期的」なことです。これまで長く、マレーシアでは高等教育修了者の賃金の伸びが、初等・中等教育修了者を下回る状況が続いていました。高等教育修了者が増える一方で、経済の高度化がそれにおいつかず、人材の需要が抑制される状況が続いていたためです。

高学歴者ほど賃金が伸びることは、所得格差の観点からは注意が必要ですが、高所得国を目指す経済では望ましいことで、今後もこのトレンドが続くか注目されます。

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需要急増で好調なゴム手袋業界、タイの追い上げ始まる

新型コロナウイルス「Covid-19」の感染拡大を受けて世界中で需要が急増している個人用医療防護器具(PPE)。中でもゴム手袋の需要拡大はラテックス手袋の原料である天然ゴムの主要産地である東南アジアに大きな恩恵をもたらしているが、同時にこの恩恵に預かろうとする企業の間で熾烈なゴム手袋製造競争が始まっている。

ゴム手袋生産で世界トップを走るマレーシアは特に需要拡大による恩恵が大きく、世界最大手のトップ・グローブは株価が急上昇して、7月にはブルサ・マレーシア(マレーシア証券取引所)で時価総額2位に浮上した。今年に入ってからの株価上昇率は実に450%だ。ニトリル手袋に強いハルタレガも時価総額で3位に浮上、大手のスーパー・マックスやコッサン・ラバーも軒並み株価を上げている。

マレーシア製ゴム手袋は世界需要の3分の2を賄っている。マレーシア・ゴム手袋製造業者協会(MARGMA)は今年の世界需要が昨年の2,980億枚を大きく上回る3,450億枚に達するとみており、65%に当たる2,250億枚をマレーシアからの輸出品が占めると予想している。こうした需要急増の予測を背景に、ゴム手袋メーカーは増産に次ぐ増産に明け暮れている。

これに触発されて新規参入組も増えている。ペトロナス・ケミカルズ・グループは8月、韓国のLG化学と組んでゴム手袋製造に参入すると発表。世界最大のコンドームメーカーのカレックスもゴム手袋の生産に参入する方針を明らかにした。情報技術(IT)サービスのアイニクス・テクノロジーや不動産開発業者のアスペン・グループ、同ティティジャヤ・ランド、中国・康爾竹業のマレーシア子会社のようにゴムとは直接関係のない業界からも参入計画が次々と発表されている。

ゴム手袋製造競争はまた国境を超えて拡大している。中でも年間約480万トンを生産する天然ゴム世界トップのタイはマレーシアの大手ゴム手袋メーカーの大躍進をみて忸怩たる思いを抱いていたようで、ここに来てゴム手袋生産拡大に全力をあげている。タイ最大のスリ・トラン・グローブズは2026年までに年産能力を現在の2倍の700億枚に増やす計画だ。

これまでタイ産天然ゴムの80%はタイヤメーカーなどに輸出されており、ゴム手袋の国産化が遅れていた。一方、天然ゴム生産で遅れをとったマレーシアはいち早く最終製品であるゴム手袋の国産化を進める一方で、アレルギーを起こす可能性のある天然ゴム製ラテックス手袋から合成ゴムのニトリル・ゴム手袋へのシフトを進めてきた。現時点ではタイはこの分野でマレーシアに水をあけられているが、新型コロナをきっかけにタイがどれだけ追い上げるか注目される。

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マクロ指標、最悪期を脱する兆候

コロナ禍で大打撃を受け、4−6月期の実質GDP成長率(経済成長率)は前年同期比マイナス17.1%となり、アジア通貨危機の1998年10−12月期のマイナス11.2%よりも悪い状況を経験しました。ただ、最近のマクロ経済指標をみていると底打ちして上向きとなる要素がみられるようになりました。
まず、失業率をみると今年5月は5.3%と1989年に次ぐ高い数値となりましたが、6月は4.9%、7月は4.7%と回復する傾向を示しています。
鉱工業生産指数も7月は116.2で前年同月比+1.2%となりました。前年同月比でプラスとなったのは2月以来の5カ月ぶりとなります。特に、鉱工業生産指数の計算で最も比重の高い製造業は、6月と7月は連続してプラスの伸びを示しています。
さらに、流通業売上高は4月の前年同月比マイナス36.6%を底として、5月からは前月比ではプラスに転じて、7月は前年同月比マイナス3.5%まで回復してきました。今後、2〜3カ月でプラスに転じる可能性も十分にあるでしょう。
こうした指標を受けて、マレーシア中銀は9月10日の金融政策決定会合で5会合ぶりに金利を据え置くことを決定しました。金融緩和による景気の浮揚を念頭に入れた連続利下げが一服した格好であり、中銀は経済は最悪期を脱したという認識を持っていることが推測されます。
アジア開発銀行は今年のマレーシアの経済成長率を前年比マイナス5.0%と予想しており、ムヒディン首相は活動制限を年内まで延長し、国境開放も急がないと述べています。決して良い状況とは状況とは言えませんが、マクロ指標をみていると上向きとなりつつあることが読み取れることも確かです。

※本連載の内容は著者の所属組織の見解を代表するものではなく、個人的な見解に基づくものです。

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酒販売規制強化求める声、飲酒運転罰則強化の陰で

飲酒運転による重大交通事故が続発したことを機に高まった罰則強化を求める声を受け、飲酒運転に対する罰則強化を盛り込んだ「2020年道路交通法(改正)」法案が8月26日、下院議会で可決された。

飲酒運転の罰則(初犯)はこれまでの罰金1,000リンギ以下から罰金1,000—5,000リンギに、死亡事故を起こした場合は禁固10年以上15年以下、及び罰金5万リンギ以上10万リンギ以下に、免許取り消し期間は10年にそれぞれ引き上げられた。飲酒運転の定義も強化され、呼気中のアルコール濃度はこれまでの0.35mg/Lから0.22mg/Lに、血中アルコール濃度が同0.8mg/ml(0.08%)から0.5mg/mlにそれぞれ引き上げられた。

これまでユルいと言われていた飲酒運転に対する罰則強化は妥当なところだが、同法案の審議の過程では、飲酒を禁忌としているマレー系議員からアルコール飲料の販売そのものに対する規制強化を求める声が次々と上がった。

イスラム原理主義政党、汎マレーシア・イスラム党(PAS)のアハマド・ファドリ・シャアリ議員(パシルマス選挙区)は、「アルコール飲料がなくなれば、厳格な法律を導入する必要なく、飲酒運転の問題を解決できる」と言明。暫定的な措置としては酒場の周辺での駐車を制限し、利用者が公共交通機関や配車サービスを使うよう仕向けることを提案した。

統一マレー国民組織(UMNO)のノー・オマル議員(タンジョン・カラン選挙区)は、米カリフォルニア州では午前2時から午前6時まで、シンガポールでは午後10時半から午前7時までアルコール飲料の販売を禁止している例を挙げ、アルコール飲料の販売時間を制限して24時間販売を禁止すべきと提言。酒場の前で警察官が店を出る者のアルコール濃度をチェックして車を運転させないようにすることを提案した。

ウィー・カション運輸相は、アルコール飲料の販売制限については住宅地方自治省の管轄だと回答。あくまで法改正は飲酒運転を取り締まるためのものだとし、非ムスリムの飲酒の権利に対する配慮をみせている。しかしアルコール小売の管轄官庁である住宅地方自治省のイスマイル・アブドル・ムタイブ副相は、「全国の食料品店におけるアルコール飲料の販売規則を見直す必要があることに同意する」と言明。「アルコール飲料の販売ライセンスは関税局の管轄下にあるが、アルコール飲料が地域社会にプラスの効果よりもマイナスの効果をもたらしていることを考えると、住宅地方自治省としては食料品店での販売規制を検討する必要があると考えている」と述べた。

すでにクアラルンプール市役所(DBKL)は、販売ライセンスの新規発行を凍結しており、再開するメドはたっていない。非ムスリムからは規制強化に対して批判の声が上がっている。

安定多数の議席をもたないムヒディン・ヤシン政権は、実質的にPASとUMNOという二大マレー政党に支えられている。マレー有権者受けする政策に偏ることは避け難く、アルコール飲料販売規制強化も避け難い情勢にある。

(マレーシアBIZナビ編集部)

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「現代の奴隷制度」ドリアン農家が州政府に反発

新型コロナウイルス「Covid-19」流行でドリアンの国内需要が減っている中、2019年に無加工ドリアンの輸出が始まった中国がドリアンの販売を牽引しており、第1四半期の輸出額は9,400万リンギに達している。金のなる木には人が集まるもので、パハン州ラウブでは州政府と農家が政策を巡って対立を続けている

同地区には高級ドリアン品種「ムサン・キング」を生産する農家が多くあるが、合法化の名目で州政府によって「現代の奴隷制度」の下に置かれそうになっていると主張。「ムサン・キングを守る会(Samka)」を称して政策撤回を求めている。

発端は、パハン州政府と同州スルタン王族の合弁会社、RPDP-PKPPが同州ラウブにマレーシア最大のドリアン処理センターの建設計画を発表したこと。需要が急拡大している中国向けドリアン生産を一手に手掛ける計画だった。

パハン州政府は6月24日にラウブの5,357エーカーの土地30年間のリース及び使用権をRPDP-PKPPに与えたが、これに基づきRPDP-PKPPはリース地のドリアン農家がこれまで違法に土地を使用していたと主張し、立ち退きを拒否する農家に対して、8月9日を回答期限として10年単位でのサブリース契約に応じるよう迫っているという。

Samkaによると、RPDP-PKPPからは今年1エーカー当たり6,000リンギの地代、ドリアン生産量に基づく1エーカーあたり最高2万リンギの支払いを求められている。サブリース契約は毎年一定量のドリアンをRPDP-PKPPへ販売する義務、農民によるドリアンの自由売買・自家用消費の禁止、無許可での農園への出入禁止——などが盛り込まれているという。

Samkaはこれまでパハン州政府に土地所有権の確認とライセンス申請を繰り返し行なっていたが、州政府からはなんら反応がなかったと主張。これまでにドリアン農家がパハン州政府に課されていたのは1エーカーあたり50リンギだけだったとし、RPDP-PKPPの新たな要求は法外且つ不平等なものだと反発している。

Samkaメンバーら200人あまりは24日、抗議活動を行い「荒地の時は誰も耕そうとしないが、一旦開墾されればそれを利用しようと人が争う」と甘い汁だけ吸おうとする州政府を批判。農園拡大にこれまで苦労してきた自分たちの権利を尊重すべきと訴えた。

一方、RPDP-PKPP側は、ドリアン生産の企業化について大口輸出先の中国がドリアンがマレーシア適正農業慣行(MyGAP)認定農場産のものしか輸入を認めていないためだとして正当化している。

同問題に関わっているパハン州議会のチョウ・ユーフイ議員は、ブランド化され急増している「ムサン・キング」の需要に応えるためにドリアン農家が低品質のドリアン栽培を強いられる可能性があると指摘。最終的にマレーシアのドリアンに対する評価を下げる恐れがあるとしている。

なおクアンタン高等裁判所は、ドリアン農家の差し止め請求を受理。10月28日の司法審査のヒアリングが行なわれるまでの期間、農家に対する取り締まりを禁じると命じた。農家はこれで一息ついた格好だが、農家の権利が今後認められるかどうかは不透明だ。

(マレーシアBIZナビ編集部)

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Shopee親会社Seaの急成長

マレーシアでもEコマースを展開しているShopeeがあります。2017年にシンガポールで創業した若い会社ですが、実は親会社は2008年に創業したゲーム開発のSeaという企業です。
コロナ禍での巣ごもり消費を受けて株価が大きく上昇しています。今年の年明けから4月中旬までは、40ドル台と横ばいでしたが、4月下旬、そして5月と新型コロナウィルス対策のための行動制限が世界各地で長引くと、ゲームとEコマースといった「巣ごもり消費」の需要が高まり、株価も上昇して6月には100ドルを突破しました。そして、8月25日の終値は154ドル13セントと、2017年の上場初日の終値は15ドル26セントから3年足らずで10倍という上昇ぶりです。
Seaは中国のテンセントとの関係も深い企業です。上場前は、中国のテンセントが39.7%の株式を保有していましたし、上場後もテンセントはSeaが発行した米国預託証券を購入するという関係が続いています。


ただ、Seaの株価は、さすがに急騰し過ぎでバブルだ、過大評価だという声もあります。Seaにとっては、ゲームに次ぐ収益源としたいShopeeですが、Eコマースは競合も多い分野です。売上が増えていても、市場競争に勝つために様々なキャンペーンを展開したり、大規模な広告を打ったりと消耗戦が繰り広げられています。現状、ShopeeはSeaにとって着実な収益源とまでは育っていません。
今後は、Shopeeを含むSeaの事業がコロナ禍での追い風を活用して、ビジネスの基盤を強化することができるかが重要となるでしょう。

※本連載の内容は著者の所属組織の見解を代表するものではなく、個人的な見解に基づくものです。

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マレーシアの2020年第2四半期のGDP成長率はマイナス17.1%

 8月14日、バンク・ネガラはマレーシアの2020年第2四半期のGDP成長率をマイナス17.1%と発表しました。これは、2009年の世界金融危機時の底(マイナス5.8%)、1998年のアジア通貨危機時の底(マイナス11.2%)を超えて、近年では最も悪い数字です。

図は世界金融危機時とアジア通貨危機時のマレーシアのGDP成長率の推移を現在の時間軸に重ねてプロットしたものです。過去2回の危機と比較して、今回は底が来るのが早い一方で深いことが分かります。月別の経済指標を見ると5月、6月と底を打ったものが多く、第3四半期の成長率はプラスにはならないまでも、マイナス一桁台にまで戻すと考えられます。

2009年の世界金融危機時には外需のショックが国内経済に波及し、1998年のアジア通貨危機時には国内金融システムの機能不全が成長率を引き下げました。これに対し、今回の大幅なGDPのマイナス成長は、活動制限令(MCO)によって直接的に経済活動を止めたことが主因です。マレーシアは大幅なGDPのマイナスと引き替えに、新型コロナウイルスの感染拡大を最小限に食い止めることに成功しました。

5月以降、経済活動は順次再開され、直接的な活動制限によるGDPの減少は速やかに解消すると考えられます。世界経済の減速や失業の増大、消費の減速の影響がどの程度マレーシア経済に影響しているのか判断するには、第3四半期のGDP発表を待つ必要があります。

 

 

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国境封鎖の日に到着、不法入国者扱いされた日本人

行動制限令(MCO)が発効した3月18日朝にマレーシアに航空便で到着した旅行者が、「不法入国者」扱いに近い非人道的で劣悪な環境に長期間置かれていた事が「マレーシアBIZナビ」の取材で分かった。

前日の深夜に関西空港からクアラルンプール国際空港・格安航空ターミナル(KLIA2)行きのエアアジアX機に搭乗した日本人乗客らによると、到着後に入国管理局のゲート前で停められ、入国管理局のオフィスでパスポートや携帯電話などの手荷物を取り上げられてしまった。入管の係官からは「ロックダウンしたので入国できない。あなたたちは日本に帰らなければならない」と告げられたという。

日本に一時帰国していた日本企業の駐在員Sさんは、行動制限令(MCO)が発令されるとの情報を受けて急遽マレーシアに戻ることを決めた。関西空港ではエアアジアXが普通に搭乗手続きを行なったため、KLIA2に到着した際にこのような悲惨な状況に置かれるとは思っていなかった。携帯電話がないので外部に非常事態について連絡することもできず、「Sが行方不明になった」と会社で大騒ぎになったという。

当日朝には他にも到着便があったが、それらに乗っていた乗客が入国管理局職員によってトイレの近くの1カ所に集められていた。みんな床で寝るしかなく「3密状態」だったという。Sさんはこれが原因でクラスタが発生したら大変なことになると感じた。欧米人らが大声で係官に不満をぶちまけていたという。

待遇も悪く、配給される食事はパック入りの弁当で、備え付けの給水機だけが頼りだった。Sさんは食べなかったという。みんな着替えもなく、シャワーなどもないのでトイレで身体を拭くぐらいしか出来なかった。エアコンが効き過ぎて寒かったが改善を求めても聞き入られず、多くの旅客は寒さで震えて過ごした。どこからか段ボールを見つけてきて寝ていた人もいたが、没取されてしまったという。

政令で入国が禁じられたので入管が入国拒否するのはある意味仕方がないともいえるが、入国できないにも関わらず搭乗を認めた責任はエアアジアXにある。にも関わらずエアアジアXの係員の対応も悪く、預け荷物について係員に聞いてもまるで犯罪者に対するような扱いで、「座ったまま話せ」という高飛車な態度だった。

本国に送還されることになっているといっても、MCOのために国際便は次々にキャンセルとなって帰国便もなかなか決まらない。帰国便は基本的に出入国管理局が手配したという。Sさんは幸い19日に帰国できたが、便数が少ない路線であった場合はかなり長期間KLIAに留め置かれた。タイ・クラビから来たあるタイ及びマレーシア在住の日本人は、クラビ線が飛ばないため1週間もKLIA2で暮らす羽目となった。最終的に関空便に切り替えて日本に向かったという。

なお日本で待機していたSさんは、ようやく3週間ほど前にマレーシアに無事戻ることができた。しかしそれもスンナリいったわけでなく、18日の「強制送還」について聞かれたり、高い金を払って出発前に受けたPCR検査について入国の際に無効だといわれて抗原検査を受けさせられたという。

「マレーシアBIZナビ」でも度々報じているように、MCO発表をはじめマレーシア政府の決定は唐突なものが多かった。18日の出来事は氷山の一角とみられるが、政府上層部と現場の間の意思の疎通がとれずにトラブルになるケースはいつでも起こりうる。当分の間は十分に注意が必要だ。

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ナジブ元首相に有罪判決、政局への影響必至

 ナジブ・ラザク元首相が7月28日、国営投資会社ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)巨額資金不正流用事件に関連して高裁で禁固12年、罰金2.1億リンギの有罪判決を受けた。元首相経験者で初の刑事裁判で有罪となるという画期的判決であり、独立性に疑問がもたれていたマレーシア司法制度に対する国際的評判を回復するのに寄与すると賞賛の声が上がっている。

 2月末に希望同盟(PH)政権が崩壊し、国民戦線(BN)の中核である統一マレー国民組織(UMNO)や汎マレーシア・イスラム党(PAS)の支援を受けた国民連盟(PN)のムヒディン・ヤシン内閣が誕生したが、UMNOの復権と共に司法に圧力が加えられ、裁判が歪められるのではないかとの懸念の声が上がっていた。

 げんにナジブ氏の義理の息子で、1MDB資金の一部を流用したリザ・アジズ氏の裁判は今年5月に1億730万米ドルを返還することを条件に起訴が突然取り下げられ、世間では「ドロボーが盗んだ金の一部返したら無罪放免になるのか」と不満の声が上がった。

 シンガポール国際問題研究所のオー・エイサン氏は、「今回の有罪判決は1MDB関連裁判のベースとなるだろう」と指摘。ナジブ氏が抱えている残りの裁判、他のUMNO幹部の裁判にも影響を及ぼすとみている。

 しかしナジブ氏は控訴の意向を示しており刑は確定した訳ではない。実際、アンワル・イブラヒム元副首相(現PHリーダー)の裁判でも、当時の与党連合・国民戦線(BN)政権の圧力にも関わらず最初の同性愛裁判では逆転無罪が確定(職権濫用では有罪)している。

 豪タスマニア大学のアジア研究者、ジェームズ・チン教授は、「今回の有罪判決によって状況が変わる訳ではない。ナジブ氏は依然として国会議員のままであり控訴裁の判断を待つ必要がある」としている。

 確かに今回の有罪判決は一審判決に過ぎないかもしれないが、政局に与える影響は大きいと指摘する声は多い。

 前出のオー氏は、ナジブ氏の影響力がいまだ強いUMNOに支えられているムヒディン政権下で出た有罪判決という点に注目し、PH時代から汚職撲滅を訴えてきたムヒディン首相への支持が高まると予想。 フリージャーナリストのアニル・ネットー氏も同様の意見で、短期的にはムヒディン首相の立場が強化されるだろうとしている。

 PH政権から簒奪した「裏口内閣」といわれながらも新型コロナウイルス「Covid-19」対策で当初は成果を出して評価を高めたムヒディン内閣だが、長引くコロナの影響で失業、倒産などの経済問題に直面。国民から不満の声が再び上がり始めている。そうした中、今回の判決は「いずれ馬脚を現す、BN時代の政治に戻る」と批判的だった向きも見直すきっかけとなると期待する声が上がっている。

 ムヒディン政権支持の回復ということでみれば、BN政権時代の汚職追求に血道をあげてきた野党連合PHにとっては、有罪判決は痛し痒しといえる。PH構成党・民主行動党(DAP)のリム・グアンエン書記長はペナン・トンネル事業計画絡みで疑惑がもたれているが、仮にこれが与党側の差し金であったにしろ司法独立が曲がりなりに機能している以上、有罪判決が出てもこれまで主張してきた政治の司法介入を言い出しにくくなる。「南洋商報」のチン・フックセン氏は「野党側は司法正義への干渉だとして政権を批判してきたが、その武器を失う」と指摘している。

 ムヒディン首相にとっても、一時的に立場が強くなるにしても、今後さらにUMNOからの圧力にさらされ政権地盤自体が揺らぐ恐れがあり、手放しでは喜べない。

 UMNOのアハマド・ザヒド・ハミディ総裁(元副首相)は判決後、PNを友党として今後も支えるが参加はしないと言明した。ザヒド氏自身も訴追される身ということもあり、ムヒディン首相の「司法への不介入」方針に堂々と不満を表明した格好だ。多くの政治アナリストがザヒド氏の発言について「UMNOが抜ければムヒディン内閣は崩壊するとの脅し」と指摘している。

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